カテゴリ:古今憧憬
紀貫之(きのつらゆき) 桜花散りぬる風のなごりには 水なき空に波ぞ立ちける 古今和歌集 89 桜の花が散ってしまう風の余波には 水のない空に波が立っているなあ。 註 紀貫之の、主知的、意識的、造形的な持ち味が発揮された名歌。 また、「なごり」の中核的原義である「余波」(「名残」と書くのは、後世の当て字)のニュアンスが生かされている。 こういった机上の技巧や言葉の遊戯性を嫌った明治時代の巨人・正岡子規は、「歌詠みに与ふる書」の中で、「紀貫之は下手な歌詠みにて、古今集は下らぬ歌集にて候(そうろう)」と、口を極めて罵倒するとともに、写実・写生と雄渾な“ますらおぶり”の万葉集への「ルネサンス(復古運動)」を起こし、その大きな流れは現代の歌壇主流派にも及んでいる。 ただ、これはいわば古今・新古今に呪縛された明治初年までの「月並和歌」の打倒・爆砕を狙った文壇政治的アジテーションであって、それ自体は大成功だったと思うが、現代の視座から虚心坦懐に見直してみれば、古今集の論理的に分かりやすくて楽しい技巧性は、むしろ現代の詩的抒情性にもフィットするものと感じられる。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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