幸田文著「流れる」
幸田文の著作は、どれも凛と一本筋が通っていて好きなのです。どれを読んでも、昔の女の、気骨というか、「覚悟」みたいなものを感じさせてくれます。「流れる」は、天涯ひとりになった中年にさしかかった主人公「梨花」が、芸者の置屋に住み込みの女中として、働きはじめるところから始まります。梨花自身、昔は女中を使う方の身分だったこと、たったひとりの子供も亡くしたことなどが、ちらちらと出てきて、梨花という女性の人生の経験の深さが察せられます。幸田文は、一生着物しか着なかったひとで、着物にも自身のこだわり・好みがあって、それは「きもの」を読めばわかるのですが、良い物を良いと充分わかり認め、その上で、「身の丈にあった着物」というものにこだわっています。例えば、「付下げなんて中途半端なものは大嫌い。贅を尽くした訪問着を誂えるような家でなし、とすればちょいと改まったものが必要な場合は、無地紋付きのほうがずっといい。」って言う具合に、やっぱり考え方が、男前で江戸っ子なんです(かっこい~)私は、芸者さんの仕事や暮らしに興味があるので、その意味でも面白かった。お座敷に出ているときの、営業用仕事用の顔ではなくて、置屋での内側中身をかいま見ることができて・・女の世界、稼いでなんぼの世界ですから、気性は皆きついし、お金にも厳しい。そして、着物は芸者の仕事着であるとともに、ステイタスですから、普段借金まみれで、食べるものも節約し、あちこちに義理を欠いている芸者さんでも、正月の春着を新調しないことには、どうにもこうにも年が明けないところなど、さもありなんと思わされます。こういった類の小説は、文学が好きでも着物の知識がある程度ないと、着物の描写のところなんかはちんぷんかんだと思うんです。だから、着物好きさんにはお勧めですよ。