『大聖堂 果てしなき世界』 著:ケン・フォレット
『大聖堂 果てしなき世界(上)』『大聖堂 果てしなき世界(中)』『大聖堂 果てしなき世界(下)』 著:ケン・フォレットいつか、イングランドでいちばん高い建物を建てる―。大きな夢を抱く建築職人のマーティンは、その才能に嫉妬した、元親方の策略によって破門され、細々と生計を立てていた。彼の恋人で富裕な羊毛商人の娘カリスは衰退する羊毛市を救うため、老朽化した橋の修復計画に奔走する。そんなおり、町の橋が崩壊して多数の死者が。マーティンは橋の修復を依頼されるが、元親方は修道院長と手を組み、彼から仕事を奪いとった。折りしも、カリスはキングズブリッジを自由都市にする運動に携わるが、税金の徴収ができなくなることを恐れた修道院長の陰謀により、魔女裁判にかけられてしまう。生きのびるためにカリスは修道女の道を選ぶが、失意のマーティンは町を去り、建築の修行に、フィレンツェに移ることを決意する。マーティンは、フィレンツェで建築職人として成功を収めるが、数年後、疫病によって家族も仕事も失った彼は、再びキングズブリッジに戻ってきた。が、ここでも疫病は猛威をふるい、町は壊滅状態となっていた。やがてマーティンは、女子修道院長となったカリスに依頼され、町の復興を賭けて大聖堂の塔の建設に着手する。『大聖堂』の発刊から18年、物語は200年も進んでいた。前作でイングランド随一の大聖堂が建ったキングスブリッジの町も、さらに発展し、多くの人が集まり巨大な都市になっていた。しかし時代は進んでも、相変わらず貧しい人々は貧しく、迷信深く、領主の不当な要求や取立てに苦しむ生活。その上、今回の更なる手ごわい敵は、ペスト。原因も治療法も分からず、修道院の人々は昔ながらの瀉血や、糞で作られた軟膏、祈りや聖書の言葉によって治癒させようとするも、全く手が着けられず、民衆はバタバタと死んでいく。それは、キングスブリッジの町の盛衰にも関わることであり、わずかに生き残った人たちも、生きる気力も術も失っていた。治療に画期的な方法を取り入れたのは、少女の頃から神や迷信など、これっぽっちも信じてないにもかかわらず、魔女裁判によって、修道女となり、今は女子修道院長となったカリス。しかしまぁこのカリス。当時としてもかなり異端な女性だったんだろうけど、今からしても、なんと強情で我が強いというか。結婚=従属、と思う彼女は、何十年も想ってくれている人の想いを、なかなか受け入れない。愛する人の子を宿すも、自分の意思でそれを堕すほど。そんな彼女を何十年も思い続けているマーティンも、すごいけど。前作と同じく、カリスやマーティンを始めとする登場人物たちは、これでもか!というくらいの、困難と絶望を何度も何度も味わう。そして、とても立ち直れないだろう…という仕打ちを受けても、あらゆる可能性を信じて、必ず立ち上がる。立ち上がるしか、なかったのかもしれないけれど。明日の食べ物を手に入れるためには。そして悪いヤツには、なかなか神の鉄槌は下されない。あれだけペストが猛威を振るってるのに、悪いヤツは罹らない。懲りずに何度も悪行を働き、何度も罪に問われるも、危機一髪のところで何度も免れる。真面目に働き生きてきた民衆はあっけなく死んでしまうのに、これだけの悪者は何のお咎めもなしで、のうのうと生き延び。本当に神はいるのか?と思う人がもっと多くいてもいいのでは?と思うけれども、この時代の人々にとっては、教会、神と言うのは、絶対の存在で。そして神に仕える者たちが、そういう無知ゆえの信仰心につけ込み、民衆たちを扇動し、都合の悪い者は排し、私腹を肥やす。それでも、民衆たちは諦めない。なんとまぁ、人間の強いことよ。今回は単なる大聖堂の建設ではなく、巨大な石造りの橋の建設と、崩壊してしまった大聖堂を、イングランド一高い尖塔を持つ大聖堂に、生まれ変わらせるまでの、長い長い物語。いきいきとした人物描写、そして息もつかせぬドラマチックな展開に、分厚い上中下の本だったけれども、あっという間に読んでしまったほど、面白い小説でした。ランキング励みになります♪【参考】◆ケン・フォレットの著書は→ 読了書棚 ★そのほか話題の記事はコチラ→