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2003年、日本ファンタジーノベル大賞優秀賞受賞『象の棲む街』の著者による新作長編。
渡辺 球(著)べろなし

■内 容
 原爆が投下されなかった太平洋戦争は休戦状態が60年以上続いている。
実質的に鎖国状態の日本で、反体制的情報を広めたとして舌を焼かれ言葉を失った老人「べろなし」は、とあるお堂に幽閉されている。
 「べろなし」が紙に木炭のカケラで書いた物語を「べろなし」の孫たちが密かに町へと伝播を計画するのだが・・・・。

■感想など
 日本ファンタジーノベル大賞優秀賞の『象の棲む街』はお気に入りの一冊。
 だから図書館に「べろなし」が並んでいるのを見つけて早速お借りしてきた。
 本作も、なかなかいい。
 太平洋戦争で原爆が投下されなかった「IF」の世界が舞台で、戦前・戦中の社会ががそのまま60年続いている日本を描いています。
 原爆を「しょうがなかった」と発言した久間防衛大臣の辞任からまだあまり日を経ていないので、「原爆が投下されなかった」というくだりは妙に生々しい。
 「べろなし=言葉を奪われた者」は言論統制や言論封殺の象徴的存在なのでしょうが、口をきけなくても思いは伝わるというシンプルな訴えが心に響きます。
 物語中にも出てきますが「ペンは剣より強し」ということや、言論の自由の大切さが素直に綴られています。
 「IF」の世界もよく描かれていて、作中の軍需工場でのエピソードなども面白く読めました。
 時代の香りを嗅ぐことが出来るような文章が、静かな感動を呼ぶなラストへと導きます。
 地味だけどいい味をした佳作です。


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Last updated  2007.08.17 17:54:31



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