カプチーノ
巷ではコーヒーといったら、エスプレッソをベースにしたカプチーノや、カフェラッテが主流になりつつある。タリーズにしろスターバックスにしろ、エスプレッソ・マシーンを駆使してバリエーション・コーヒーを提供しているのだ。エスプレッソの職人であるバリスタのいる店もあるようだ。 日本のコーヒーの主流がドリップやサイフォンであった80年台終わりの話である。当時若かった私は、フランス料理店をやるにあたりエスプレッソ・マシーンの導入をしたのである。その頃庶民にとってイタリア料理は、今のような人気はなくピザやスパゲッティのような軽食の感覚が強かった。したがってエスプレッソ・マシーンを導入した理由として、平均的な味、安定的な提供を目指したためであった。スイスの某有名メーカーの一台500万もするフルオートマシーンである。彼らメーカーの人間ですら、今のようなカプチーノやカフェラッテなど全く知らなかったのだ。唯一イタリアつながりで、ティラミスの作り方を紹介してくれた。それもラム酒に浸したビスケットにアプリコットジャムを塗り更にマスカルポーネチーズを塗る、そしてエスプレッソの粉末をまぶすのである。はっきり言ってもそもそして美味しく感じられなかった。スチームはミルクを温めたりするものとして理解していた。わざわざエスプレッソ・マシーンを導入したのにも関わらず、エスプレッソを薄く抽出して出していた。カプチーノはウィンナ・コーヒーにシナモンパウダーをかけて、シナモンスティックを付けて出していた。 今考えると恥ずかしい限りである。しかし当時はいたって真剣にやっていたのだ。ゲストの方もエスプレッソについては全くと言っていいほど知識を持ち合わせていなかった。 あれから20年が経ち、今やドリップコーヒーより市民権を得たのがカプチーノである。 私が思うに、好きな本を読みながらハンドドリップで淹れたコーヒーを飲み、または、美術館をひとしきり見て回ったあとのどこかのオープンカフェでカプチーノを飲むという贅沢な時間を過ごしたいものである。