血のついたエッグ・コージイ:ジェームズ・アンダースン
以前、ジェームズ・アンダースンの「証拠が問題」を読みました。ミステリ好きとしては真相を見破りたいという思いもありますが、それよりも、だまされたときの方がなぜか嬉しいんです。終盤の驚きとだまされる喜びを与えてくれた作品でした。あれだけ面白かったのに、この方の作品はこれまでほとんど見かけませんでした。緋沙子02さんのところで「殺意の団欒」のことを見かけて読みたくなり、今回図書館で検索して見つけたのは、「血のついたエッグ・コージイ」と「殺意の団欒」。しかも中央図書館の書庫の中にしまわれていました。あとはテレビドラマ「ジェシカおばさんの事件簿」の小説化が三篇あるだけでした。さてこの作品の裏表紙に書かれたあらすじは時は1930年、伯爵家の田舎屋敷の週末パーティーに集った11人の客はガン・マニアのテキサスの富豪、某大国の特使、英海軍少佐らのきらびやかな顔ぶれ。雷雨の夜、そこで殺人が起きる。互いに素性の知れぬ客たちにはアリバイがなく、全員が犯人くさい……トリックの冴え、道具立ての妙、推理小説黄金期作品の興趣満点の傑作。そうです。この作品にはミステリ黄金時代の面白さがありました。とことん論理的推理によって謎をといていき、真相がわかったかと思えば二転三転します。その展開はどこか懐かしく、わくわくしました。舞台はイギリスの伯爵が所有する人里離れた郊外の大邸宅ちゃんと図面つき。これは欠かせません。久し振りにワンフロア20室以上あるような大きなお屋敷です。そこで外交交渉をする者たち、招かれた人々、急な事情でやってきた人、お客の宝石を狙ってはいりこんだ盗賊。嵐の真夜中に起こった事件は様々な人たちが、、それぞれの思惑をもって怪しい動きをしたり歩き回ったりしているんですから、かなり複雑な様相を呈しています。それが次第にときほぐされていく過程になると、もう眼が離せない思いでした。ただ、翻訳にちょっと??と感じる箇所がありました。伯爵が朝食をとる場面で、臓物(もつ)を食べていると書いてありましたが、これは想像できません。せめてレバーなんかではないんでしょうか。そして題名にもあるエッグ・コージイとは、ゆで卵がさめないようにかぶせるものです。それが最後までスパイスのような一つの謎でもあるのですが、手編みのエッグ・コージイについて伯爵令嬢が説明する時に「村の老婆たちが編んだもの」だと言うのです。会話の中で「老婆」という言い方は変だと思うのですが……。最初の方では登場人物を把握することができず、ソーンダーズとソーントンを混同したりしましたが、後半は本を置きたくないくらい夢中になれる面白さでした。ただ、これは楽天でも品切れで、フリマでしか手に入らないようです。2007年1月31日追記『血染めのエッグ・コージイ事件』として復刊されました 血染めのエッグ・コージイ事件:ジェームズ・アンダースン