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三角猫の巣窟

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2018.03.31
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カテゴリ:小説

生徒の母親と不倫している小学校教師が片思いしている小説家志望の女友達が年上の韓国人女にレズしようとして失敗して失踪したので探す話。

●あらすじ

Ⅰ:都内の私立大学の文芸科のすみれは小説を書くのに専念するために大学を辞めて、週末にぼくのアパートに原稿を見せに来る。すみれはいとこの結婚式でアラフォーの既婚の韓国人のミュウに会って恋をして、ミュウがビートニクをスプートニクと間違えたので「スプートニクの恋人」と呼んでいることをぼくに話す。
ぼくは一般の会社の競争を避けて小学校の教師になってうまくやっているものの、人生に何を求めているのかわからず、すみれと話していると自分という人間の存在を感じて結婚したいけれどすみれはまったくぼくに男性として関心を持っていないのでぼくは生徒の母親と肉体関係を持つ。すみれはミュウの会社で働き始めて小説を書くのをやめて、ミュウの秘書として一緒にヨーロッパ旅行していると手紙が届いて、ミュウからぼくに電話がきてすぐギリシャに来いと言われたので一週間仕事を休んでギリシャに行くと、ミュウはすみれが行方不明になったと言って経緯を話す。夜中にすみれは精神に異常をきたして放心してミュウとレズしようとしたら、ミュウは14年前の出来事のせいでこの世界の誰とも身体を交わらせることができなくなっていて頭ではすみれを受け入れるものの体は拒否して、翌朝すみれはいなくなる。ぼくはすみれが書いていた文章から手掛かりを探す。

Ⅱ:すみれの文章。わたしは身軽になってミュウに寄り添うために小説を書くのをやめて思考をやめた。わたしは死んだ母親の夢を見る。わたしはミュウの14年前の出来事を尋ると、ミュウは25歳の時に遊園地の観覧車に取り残されて、双眼鏡で自分の部屋を見ると、自分とフェルディナンドがエッチしていて、翌日ミュウは傷だらけで観覧車にいるのを救助されて白髪になっていた。わたしはこちら側のミュウとあちら側のミュウを両方愛していて、自分が分割されるように感じる。
ぼくはすみれがあちら側に行ったと仮説を立てて、あちら側に行く方法を考えて、音楽が聞こえる山の上に行って月を見る。すみれの両親がギリシャに来たのでぼくは東京に帰り、すみれが大事な存在でぼくの中のいろいろなものが消えたとわかる。
にんじんというあだ名の生徒が万引きして捕まってぼくはスーパーに呼び出されて警備員と話をして、にんじんにギリシャに行った話をして、にんじんの母親との不倫をやめることにする。すみれがいなくなって半年以上すぎてからミュウを見かけたらぬけがらのようになっていた。あるとき電話が鳴ってすみれがわたしにはあなたが必要だから迎えに来いという。

●戯れに焼いたピザみたいな感想

語り手の「ぼく」の一人称で、ぼくがすみれについて語る形式。ぼくはすみれのたった二つ年上なのに上から目線ですみれの小説の才能をほめるというピザばかり食ってるアメリカのデブみたいな尊大な態度で、そのうえ平然と生徒の母親と不倫するサイコパス教師で、冷凍食品のピザ風の食パンみたいに全く魅力がなくていけ好かない。一人称の小説で語り手が嫌われるとその小説はもう失敗していて、ピザ窯の温度を間違えてピザにどんな具を乗せようが全部焦がすようなもんである。ぼくは小学校の教師としてのリアリティがない量産型ワタナベで、冒頭からノルウェイの森の自己模倣の既視感があって、食べ残しの歯形がついたピザを焼き直したようでもう読む気がしない。
ぼくとすみれとミュウがどういう人物でどうやって知り合ったのかという平凡な内容をピザって10回言ってみて肘を指さすような過剰な比喩を使ってうだうだと書いて、本の半分にさしかかってようやくすみれが消えて物語が動き始めるけれど台風の日のピザの配達みたいに展開が遅い。書きたいことを書いているというより、原価の安いピザを大量生産しているみたいにページ数を増やして原稿料を稼いでいる冗長な文章で、切り分けたピザみたいに一行空きが多くて場面が途切れ途切れになっていて、冷めたピザのチーズのように個々のエピソードに張りがない。主要登場人物はぼくとすみれとミュウの3人しかいなくてマルゲリータの具のように展開パターンが限られていて、外国を舞台にするのも苦し紛れのネタ切れのダメ押しでチーズ入りのお好み焼きを和風ピザと言い張るみたいな安っぽさ。ミュウはすみれにEメールをわざわざ印刷させていてテクノロジーに順応できていない時代遅れなおばさんなのに有能を気取っていて、ヘルシーなシカゴピザみたいに滑稽。

さてあらゆるピザにチーズがのっているみたいに、この小説にも村上春樹の小説の典型的な特徴がみられる。

・女性に好かれてほいほいエッチするけど世間ずれしていて孤独なやりちん。
・社会になじめない病的なヒロイン。
・性的不能。
・音楽と猫。
・言葉のオウム返し。
・過剰な比喩。

この小説の登場人物たちは現実の男性と女性としてのリアリティはなく、村上春樹の小説におけるヒロインはどういう存在なのかというと、ぼくへの供物である。ぼくはいろいろな女をとっかえひっかえしてきたやりちんだけれどほいほい股を開くような女が相手ではぼくの存在理由としては不十分なので、ぼくとのセックスを拒む特別なヒロインの精神的存在を吸収してようやくアイデンティティがあやふやなぼくの存在理由が正当化される。これは男女の存在が融合するメタファーとしてのセックスで、普通の妊娠とは逆で男の存在に女の存在を受肉することでぼくの生存理由が生まれるので、ぼくの存在理由を裏付ける相手は男ではなく女でなければならない。だからぼくは女友達やセックス相手はいるけれど、男友達はいないし、父親も兄弟もいない。精神的な存在が融合して肉体的な存在が必要なくなるとヒロインは消失して、性的不能で不完全な肉体をこちら側の世界に残さない。ぼくは自分が直接挫折することなしに社会になじめないヒロインの挫折を踏み台にして、特別なヒロインを喪失することでどれだけヒロインが必要だったのかを自覚して、かわいそうなぼくを乗り越えて成長するわけである。まるでいろいろな味を取り込んでようやく一人前になるクワトロピザのようなもんで、ぼくはおしゃれで特別なクワトロピザを気取ってシーフードピザやテリヤキチキンピザとほいほい合体してきたけどそれでは物足りなくて、マヨコーンピザとも合体しようとしたけどマヨコーンピザは単品メニューから消えてしまって、やっぱりクワトロピザにはマヨコーンピザが必要だったのだと自覚することで何味なのかあやふやだったクワトロピザのアイデンティティが確立するのである。
こうして出来上がったクワトロピザに万人受けする音楽と猫をサイドディッシュに添えて、具が乏しくても豪華に見えるように過剰な比喩でラッピングして、オウム返しでオーダーを確認すればハルキストご用達のピザセットの完成で、新鮮みがないことが成功の証である。クワトロピザの味の組み合わせを少し変えて新商品として量産すれば商売としては儲かるし、ファストフードの割にはうまいしインスタ映えすると満足する人もいる。でもこんなものでは私の飢えは満たされない。

★★☆☆☆


スプートニクの恋人 (講談社文庫) [ 村上春樹 ]






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最終更新日  2018.03.31 06:47:54
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