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カテゴリ:韓国関連
健一郎は河鐘文を連れて蚕室(チャムシル)に向かった。
この時代の蚕室は文字通り、一面の桑畑が広がり蚕を飼う小屋があちらこちらに点在していた。 「鐘文、ちょっと先に行って趙本起を探してきてくれないか?」 「いいよ、じゃあ三田渡の河原で待っていて」 三田渡の河原とは、漢江に合流する支流の小さい川の河原のことだが、朝鮮にとっては屈辱的な場所でもある。遠い昔の1600年代の半ば、この地で当時の朝鮮の王・仁祖が清に敗北し清への隷属を約束させられた場所なのである。 しかも清の皇帝はこの地に石碑を建てることを要求した。この石碑も2年前大院君が政権を握った時、漢江の支流の川に投げ捨てられていたが・・・ 健一郎がその石碑の近くの河原に腰を下ろし鐘文を待っていると、鐘文と一緒に3人が駆け足で健一郎のもとにやってきた。 「お前が君子のゴンか?」 「そうだけど」 「まだ子供じゃないか?」 「もう14歳だよ、日本じゃ立派な大人だ」 「お前、日本人なのか?じゃあ大将には会わせられないな」 「俺は2歳の時朝鮮に来てもう12年になる、朝鮮のことが好きなんだ、何とかしたいんだよ!大将に会わせてくれ!」 「何言ってんだ?生意気な奴だな、朝鮮のことに日本人がクビを突っ込むな!痛い目にあいたいのか?」 「大切な話なんだ、趙本起に会わせてくれよ」 「わからん奴だな」 健一郎と話をしていた青年がいきなり健一郎に殴りかかってきた。健一郎は身軽に身をかわすと河原に落ちていた木の枝を握り正眼に構えた。 「おっ、お前剣術をやるのか?おもしれ~そんなガキの遊びで俺様がやられるもんかよ」 そう言うなり再び健一郎に向かってきた。 健一郎は相手の動きを見極め、一発で戦意を無くすようにする為、相手の眉間を狙って木の枝を振り下ろした。 「あっ痛い~、血が出てるじゃないか?まいった、なかなかやるじゃないか」 「俺はケンカしに来たんじゃないんだ、李完用を陥れた大臣を懲らしめようと思って相談に来たんだ」 「えっ?うちの大将と同じ事言ってら~・・・本当に変わった奴だな、何も朝鮮の事にクビを突っ込まなくてもいいのに、よしわかった。大将の所に連れて行ってやろう、でも覚悟しておけ、俺よりもっとキツイぞ、うちの大将は」 河原から10分ほど西に入った集落の竹やぶの近くに朽ち果てそうなあばら家があった、ここが趙本起の拠点の住処であった。 趙本起は白丁(ペクチョン)の出自で、言わずと知れた身分制度の最下級である。主に屠殺や革のなめし、処刑された罪人の処分などを生業とする身分だ。 最下級とは言いながら白丁のすぐ上の階級の賎民で、両班の私奴婢や官奴婢の立場より考えようによってはマシな立場であった。 この時代になると売官行為が横行し、両班の身分をお金で買えるようになっていたが、それも白丁の身分ではかなわぬ夢だった。 「大将!」 健一郎と一戦交えた青年が、部屋の奥にいる若者に声をかけた。 「どうした三秀(サムス)?・・・君子から来た奴は帰ったのか?それともやっちまったのか?」 「いや、大将。連れてきた」 趙本起は振り向くと金三秀を見るなり言った。 「派手にやられたなぁ~、お前が血を流すなんて久しぶりじゃないのか?」 「いや面目ない、この小僧剣術をやるんですよ」 「ほ~、まあうちの3本指に入る三秀を負かせたんだ、話だけは聞いてやろう、言ってみろ」 健一郎は一歩歩み出ると、真正面に趙本起を見て話し始めた。 「初めてお目にかかります、私は君子の北・中谷の向井健一郎と申す者」 「なに?日本人かお前。日本人が何の用だ?」 「はい、今私の父は朴鉄圭さんと一緒に朝鮮人の教育をやっています、文字を読めない人たちにハングルを教えているのです」 「朴鉄圭だと?・・・良才の朴鉄圭か?」 「はい、そうです」 「父親のことはわかった、それでお前は何をやっているんだ?」 「私も近所の子供を集めてハングルを教え、今のロシアに征服された世の中がいかに間違っているのか、皆に話をしています」 「お前が先生か?笑わせるな・・・・それで?」 「今回の李完用の件で、君子の皆が怒っています。大院君の手下の朴大寿(パクテス)を懲らしめようという話になりました」 「お前達が?それはいい心がけだ、ワハハ!なぁ~三秀よ」 金三秀は頭をかきながら健一郎を見て言った。 「大将、こいつならやるかもしれません、剣の腕は大人顔負けですぜ」 「三秀、お前負けたから言い訳しているんじゃなかろうな?」 「いやいや、こいつは本物です、一振りでわかりました」 「・・・しかし、相手は鉄砲を持っているぞ、どうやって対抗する?」 「本起さん、それを手助けしていただきたくてここまで来たのです」 「手助け?何をどうしろと?」 「我々は15名しかいません、この人数ではどうしようもありません、景福宮から朴大寿が私宅に戻る道は大きな道です、我々だけでは取り逃がしてしまいます」 「どうするつもりだ?殺すのか?・・・殺すのだったら簡単だ、ほらよ!」 趙本起は言うなり鉄砲を健一郎に渡した。 「いいえ、私は殺すつもりはありません」 「何馬鹿なこと言ってるんだ?殺さなきゃ殺されるよ・・・三秀、やっぱり甘いや、まだ子供の考えだね」 「殺さずに拉致します」 「拉致?」 「はい、我々の拠点で監禁します」 「それでどうするんだ?すぐ相手は動くぞ」 「李完用の釈放を要求して、要求が通れば釈放します」 「通らなかったら?」 「釜山の金承宣さんの所に送ります」 「金承宣も参加しているのかお前達に?」 「はい」 「う~ん・・・これは協力しないわけにはいかんな」 趙本起は、以前朴鉄圭や金承宣の書院に通っていたのだ。そこでいろいろな事を教えてもらっていた。 朴鉄圭と金承宣は趙本起にとって恩人だったのである。 つづく お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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