[思想]の記事一覧 | 栃木の仙人　古本と温泉の日記

関曠野さんの大震災への考察

あいづライナーです。必要があって三ヶ月に一度、会津若松へと行く機会があります。東山温泉の千代滝が常宿です。新撰組の土方歳三が傷を癒したといわれる良質の温泉宿。郷土料理もおいしい。ここへも時代状況を反映して福島原発の被災者の方たちが大勢避難されていました。本日の歌サイボーグ009 戦い終わってサイボーグ009 ｢戦い終わって｣ ED Full今聴いても格調の高い感動的なアニメソングの名曲であります。ちなみに最初のオープニングはこんな感じだった。これもすばらしい。サイボーグ009オープニングさて本日のテーマ大震災を経過して、大方の論者は、日本回帰とも称すべき動きの渦中にあるようです。バブル期の、異様に自己肥大した日本でなく、国家と民族が黄昏れるかのようにして様々な宿痾が集約しつつあった時期、最後の止めを刺すかのようにして、千年に一度あるかないかといわれる未曾有の大震災が襲いかかってきた。日本の産業社会システムに関し、過去、批判的であった人たちも、念頭に想定していたのは、「ジヤパンアズナンバーワン」などに記述されたエコノミックアニマルとしての日本、第二次世界大戦で完敗したにもかかわらず、短期間で荒廃から立ち上がり叩いても踏んでも決して死なない、怪物めいた世界第二位の経済大国日本の姿であった。典型的な事例では、カレル・ウオルフレン氏のような論客でありまして基本は日本が好きであるが故、日本を批判する、批判することで、「人間を幸福にしない日本というシステム」の問題点・改善点を指摘し、日本型イエ社会の組織の重圧に呻吟するリーマン階級たちに闘いとリハビリの論拠を提出し社会を再生させようとしていた。同時に、社会の主流をなすシステムから弾き飛ばされた不運なアウトロー、満身創痍の異端者たちに、緊急避難場所として手作りからなる独自のアジールを提供していた。ダグラス・ラミス氏や関曠野氏などもその表層的言説ーーその辛辣な日本社会の産業組織システム・イエ社会批判とは裏腹に(注意深くじっくり読み込むと良く解るのですが) この流れであって、元々は日本が大好きな人たちでありました。しかし、最も手厳しい目の角度からなされ、徹底した批判的検証の濾過装置をくぐり抜け最後に生き残った「愛国心」「郷土愛」「自民族への郷愁的愛着」といった視線があったとしたならば、それこそが、最も信頼するに値する日本型ナショナリズムの創発的ヒントと言えるのかもしれません。とりわけ自衛隊に関しては、第二次世界大戦の悲惨な敗北という旧帝国陸海軍の歴史的教訓遺産から謙虚に学び取り、災害派遣をメインとした、国民と世界から尊敬される平和時の軍隊として「どうあるべきか」と共に「どうあってはならないか」を明晰に語りうる、権力に媚びない真の語り部が必要とされてくるのであります。その意味で関曠野氏の最近の言説は大震災以降の日本ーー日本人・日本国ーーの進路を考える上で多くの蓄積深い示唆に富んでおります。関曠野著「フクシマ以降ーーエネルギー・通貨・主権ーー」 (青土社) ちなみに反原発の神様とまで言われた故高木仁三郎氏と関曠野氏との対談「科学の世紀末」が近々復刻されるそうです。今回の福島原発の事件のみならず高度に機械化された現代文明全般にわたる反省的考察に興味ある向きには必読。

いいだもも試論ーー三島由紀夫との対比において

本日の曲 Interationale(French) ーーいいだもも氏に捧ぐここに一冊の本がある。いいだもも著「三島由紀夫」私の名前宛てにいいだ氏の直筆サインが入っている。そのいいだももさんが逝去された。3月の末のことだった。マルクス擁護の思想家、評論家、作家、歴史家、社会運動家・・・いろんな肩書を持っている多才な人だった。新聞に追悼記事を書いたある批評的論者は、才能の人・天才と評していた。いいだもも氏は、東大の法学部で、三島由紀夫と同学年、二人は熾烈なトップ争いをて、いいだ氏が一番、三島由紀夫が二番で卒業、その結果、いいだ氏は日銀へ、三島由紀夫は大蔵省へ。この話はいいだ氏本人が好んで繰り返し語った有名なエピソードである。ただの自慢話ではない。あの世界的な天才作家でノーベル賞候補の三島由紀夫及び日本中から集まった選り抜きの超エリートたちと、若いころ東大で競り合ってその全部に打ち勝ち、完全封殺したという話なのである。そのあまりのイヤミさが鼻につき、いいだ氏と一時期親しく、その後、離反した某SF作家ーーディープなインテリ・オタクたちに一時期カリスマ的な人気があったーーがいいだ氏とおぼしきこっけいな人物を自分の作品中に登場させ風刺漫画風にしてチクリ・チクリやっている。これは、一見、いいだ氏の隠された上昇志向と権威主義を証する話みたいだが、人から嫌われるのが明白な自慢話を何度も何度もーーあたかも自分自身に言いきかせるみたいにしてーー繰り返さねばならないほど、いいだ氏は、三島由紀夫に潜在的コンプレックスを持っていたのではなかったか。「三島由紀夫は僕の大親友でした。ぜひノーベル文学賞を貰って欲しかった」これもいいだ氏が生前、何回も語った言葉である。イデオロギー面のみならず、文学的審美的側面においても極めて辛辣ないいだ氏の三島に対する文芸批評を読んだことのあるものは、一体、どちらが彼の本音なのかと思ってしまう。一方において、三島の名作「鏡子の家」の影響を受けたとおぼしき、いいだ氏の小説が書かれていたりする。肯定面と否定面ーー強烈に意識しつつーーおそらくそのどちらもが彼の本音だった。しかし、一方における三島側の反応はというとそれが始終冷淡なのである。いいだ氏との直接対談では、「東大で君のことあんまり見かけなかったね」と三島は言っているし、石原慎太郎と三島由紀夫の対談では、「いいだの野郎、今度会ったら、日本刀でぶった斬ってやろうかと思った」と語る血気盛んな若き日の石原に対し「イヤー、あんなの斬ったら刀の穢れになる」と三島由紀夫が応えている。私が、いいだ氏を直接見たのは、二回きり。三島由紀夫の追悼集会とフランス革命に関するシンポジウムの参加者としてだった。著書から想像されるとうりの博覧強記で雄弁な語り部との印象だった。二三会話した以外交流する機会はごく乏しかったが、本は何冊か読んでいる。とりわけ興味深かったのが「現代社会主義再考」「エコロジーとしてマルクス主義」「主体の世界遍歴」といったあたり。私のあくまでも私見であるが、いいだ氏は、「マルクス主義的世界認識における天動説論者」ということになる。つまり、こういうことであります。ガリレオ・ガリレイとコペルニクス以降、「地球が太陽の周りを回転しているのであって地球の周りを太陽が回転しているのではない。」というのが、「あたりまえのあたりまえ」今や誰でも小学生すら知っている既成事実であります。しかし、仮に「いや、違う。絶対に違う。やっぱり、地球の周りを、太陽や、月、土星、木星が回っているのであって、地球こそが宇宙の中心である。」という仮説を強硬に主張したとする。その説明は不可能ではないが、ものすごく複雑な数式や曲芸めいた論理の展開や辻褄合わせめんどくさい補強作業等が必要とされてくるのであります。マルクス没後、通俗的マルクス主義者たちによる硬直した解釈ーーグローバリズムなど世界経済の流通規模及び生産手段の巨大な変動に伴う時代状況の目覚ましい進展や革命的な技術革新、地域の違い・地域独自の発展段階における特殊性の深化など、マルクス存命中とまるで違う客観条件が日常的にあるわけで、それを無視した、マルクス哲学の、教条的かつ即時的な、現状への当てはめーーかなり無理があるーーがむしろマルクスをダメにしてしまっている、マルクスを真に再生させるためには、俗流マルクス主義者たちの構築した「認識論的障害物」からマルクス自身を解放して、「マルクスのマルクス哲学」まで起源を遡る必要がある、としたジョルジョ・ソレリの見解(「マルクス学説の崩壊」)に私は賛成でありますが、いいだもも氏は、そこまで肉迫し得ていたのかどうか。つまり、マルクスが生きていたら、マルクス主義者たちがやったごとき仕事ではなく、今の時代状況に合致した形での、パイオニアとしての苦闘にみちた独創的仕事を成したであろう、その部分での精神がまるで継承されていない。むしろ、ソルジェニーツインの「収容所群島」やソ連邦の崩壊、文革やポルポト、国内では連赤以降、これだけの負の遺産がありながら「今こそマルクスが必要だ。真の革命はむしろこれからはじまる。」とそれでも強硬に主張するいいだ氏は「マルクス主義的世界認識における天動説論者」として、様々な矛盾や時代状況の変遷を無視した、確信犯的革命理論の再構築作業、無反省な牽強付会、色褪せた理論の訓詁学に始終していたのではなかったか。私個人に関し、いいだ氏の著作に多大な興味を寄せつつ、その隊列(人脈)に参入するのを妨げたのは、以上のごとき思想的理由でありました。(いいだ氏同様、すざましい博覧強記と摩訶不思議な発想の曲芸、火花を散らすが如き白熱の話術で、観客を集団催眠状態に陥れる・・・話すのも書くのも天才的だった竹中労には、マルクスを相対化する目の視線がみられた。太田竜にもマルクス批判の観点が見られたが、華麗なアジテーション風の文体とは対照的に生来の口下手で話すのは大の苦手のようだった。いいだ氏とは、思想領域や人脈が重複、「資本論」は高く評価しつつも左翼批判の文脈からやはり、マルクスを相対化する目の視線が、フーリエやプルードンの掘り下げ・再評価にまで到達していた異色の思想史家・関曠野氏もいいだ氏よりはるかに柔軟で時代の現実をきちんと分析していた)とはいえ、それでも私を強く惹きつけてやまないいいだ氏の思想的磁場は、まごうことなきマルクスの魅力、マルクスという太陽をめぐる巨大な惑星ーー木星や土星クラスに匹敵するーーの魅力であります。しかし、そこに限界も存したのであります。マルクスの巨大惑星以上でも以下でもないという限界が・・・。「いいだももをめぐる四人の女たち」とか、パチンコ中毒でパチプロ級の腕前とか、いいだ氏を取り巻く空気が、プロレタリアートの前衛党というより意外に「貴族的で華やかな雰囲気」であった矛盾点など、人物についても思想についても書き始めるときりがないので最後にいいだ氏の武勇談というか、とっておきのエピソードをひとつ。もう20年近く大昔になります。右翼が呼びかけた三島由紀夫の追悼記念討論集がありました。主だった右翼の指導的活動家たちの他、生前、三島と交流のあったいいだ氏が主賓として呼ばれた。会場には500人ぐらいはいたと思う。いつまでも記憶に鮮明に焼きつくような白熱した討論集会だった。いいだ氏を知る人たちには、くどくど説明の必要はないでしょうが、念のため書いておくと、右翼の思想といいだ氏の思想は、敵と味方、水と油、不倶戴天の仇敵といった関係にある。招待されたとはいえ敵がわざわざ時間を割いて、討論のため敵の中の敵陣に乗り込んできた形。表面上の言説はどうあれ、右翼はそのような勇気ある人物にーーもちろんーー最大限の敬意をはらう。こんなおもしろい場面はめったにない。討論集会に入る前、司会者の説明と紹介が入った。主賓の番になり、いいだ氏が話しはじめた。「右翼のみなさんのどなたか、当然、やってくださると思ったのですが、死者の魂を表敬することがまず重要だと思うのです。誰もやらないから、じゃあ、私がやりましょう。みなさん少しの間起立してください」そしてものすごく大きな声で「三島由紀夫のあらみたまに対し黙祷！」・・・とやったのである。いならぶ右翼の活動家諸氏が度肝を抜かれたことは言うまでもない・・・・

霊感占い師iPadを語るーー移動図書館、書斎としての驚異的機能

本日の曲Michel Delpech - L'amour en wagonli-lit別バージョンMichel Delpech - L'amour en wagonli-lit Michel Delpechは、私が10代の真ん中あたりでよく聞いた歌手でありまして、今でも好きでたまに聴いたりします。さて本題iPadを買い、使いはじめてそろそろ四ケ月がたちます。モルガンやエンゲルスが賛美するごときそれがユートピア的原始共同体社会であったのか、生存競争の過酷な、生き残るためには何でもありの野蛮かつ迷妄的闇夜の社会であったのか、その議論は、別としまして原始共同体的時代・土器、石器時代から狩猟、農耕文明へ。その社会形態の変遷において道具の進歩こそが、良くも悪しきも人類の文明に根底的革命をもたらした原動力であることは、戦史を紐解くまでもなく、また、アメリカの偉大なる技術史家・ルイス・マンフォードを持ちだすまでもなく、歴史に照らして明らかな現実ではあります。iPadにかんしては、やはり想像以上の社会総体の変革と技術革命を可能たらしむる特殊な道具、おとぎ話に出てくる魔法使いの杖そっくりに万能かつ変幻自在なピカピカ光るデジタルハブなのでありましてそれを使う人の使い方次第ではやはり、馬を主体とする騎兵師団が、戦車がメインの機甲師団に転換したような、大艦巨砲主義が航空爆撃に一挙粉砕されたごとき歴史上の一大革命をもたらす、そんな印象を持ちます。仕事との関係で大容量の書籍や、書類、資料の山と、常に格闘しなければならない・・・・・みたいな人の場合、特に、iPadはものすごく便利、との印象です。ただし、これを可能とするには、いくつかの技術的な連携が必要となる。おそらく基本中の基本なのでしょう、私の場合のやり方ですが、iPadと、iMac24インチ富士通のスキヤナ＝sucansnaps1500mあとクラウドコンピューティングサービスであるところのエバーノート(ever note)との組み合わせで驚異的な情報管理が可能となります。この富士通のスキャナー＝sucansnaps1500m、私がごく最近まで使っていた8年前購買による旧来型のスキャナーとはその性能が段違いで、読み取りスピードの速さ裏表を瞬間的に識別して、その両方を連続してスキャンしてしまう素晴らしく賢い秘書のごとき能力とか、殆んど「神機」と呼ぶに相応しいシロモノであります。S1500M（Macモデル）エバーノート(ever note)は、インターネット上にある資料倉庫のごときものでありまして本だろうが、資料だろうが、メモだろうが、無尽蔵に必要なデータを蓄積し、検索一発で瞬時にいつでも参照可能な記憶とすることができる。さらにそれに加えて、日経新聞の電子板あとはiPadの競合ライバルとして極めて優秀なこれまた「神機」のGALAXYTabが電子書籍との相性抜群でありましてーーまた別の機会に書くことにしますーー強度の持続的かつ慢性的な活字中毒患者でもある私は、(世間全体からみたならば、少数派かもしれませんが日露戦争関係の資料集収に500万円かかったとか極私的でマニアックな読書傾向のある人たちの間では、あまり珍しくもないタイプだと思うのです。)これら新兵器のおかげでーーーーそれでも大量の書籍の持ち歩きという能率の悪い癖からなかなか抜け出せませんがーーーだいぶ便利になったのだけは確かです。最近の読書以前、読んで名訳だと思われた宮川実氏の学習版「資本論」が再版されたとのこと。さっそく注文する。高畠素之著「マルクス十二講」時間がかかったけれどもとうとう読み終わりました。後半の地代論は、やや難解だった。高畠素之の「地代思想史」まで目を通さないと多分、理解できない感じ。明らかに予備知識が必要。ネットで取り寄せよう。不破哲三著「エンゲルスと資本論 (上)」読み終わる。別にコミニストでも共産党のシンパでも何でもないのですが、資本論を色んな角度から読んでみたい、ただそれだけ。マルクスは、資本主義を科学的に研究したのである以上、資本主義が無くならない限り、マルクスの視線、目の角度は不滅でありましょう。EHカーの「カール・マルクス」をよみはじめる。小林秀雄が名著「ドストエフスキーの生活」をまとめるにあたり、カーの「ドストエフスキー」を参考にしたというのは有名な話。カーの本職は外交官でありましてロシア革命の研究なども有名であります。カーその人の評伝も最近、翻訳されて出ていたようです。イスラム関係では、大川周明の「回教概論」を何年かぶりに再読後、臼杵陽氏著「大川周明ーーイスラムと天皇のはざまでーー」これは、大川周明のイスラム観を克明に掘り下げた労作にてすごくおもしろくまた勉強になった。イスラム政治史の専門家宮田律氏の著作に関し数冊、目を通す。最近のネット上における情報流出事件を見ても解るように日本社会にはまだ、イスラム世界への根も歯もない偏見があるようであります。同盟国だからと言って何もかもアメリカの、しかも悪癖の真似をすることはない。イランを含めイスラム諸国に対し独自の外交戦略を日本はなぜとれないのか。イスラムへの再傾斜という最近の私の傾向は、ある知的触媒に猛烈に刺激されたものですが、古典を読み返す上でも良きっかけとなりましたこと感謝であります。

活動家たちのその後

本日の曲堀江美都子特集かぐや姫先生のうた月光の子守唄アクビ娘ランのうた堀江美都子さんは、あくまで私見ではありますがアニメソングの歌い手としてのみならず歌手としても抜群の歌唱力を有し一種の天才クラスであります。本日のテーマ仕事の影響でひどく精神状態の悪いときのほうがむしろ普通であります。鬱っぽくなっている時は、なるべく人と会わないようにする、山の中に現実逃避するとか、神社めぐりをするとか、自分自身で「お祓い」をするとかいろいろやって必死でバランスを保つ工夫をするわけです。この生活に慣れたということはありません。責任は重たくのしかかり、意識は果てしなく病んで行く。これも運命でありまして、自分など問題にならぬくらい劣悪な労働条件で必死にがんばっている人たちも大勢いることであり、彼らへの連帯とともに歯をくいしばって自分もがんばるしかないのは当然であります。東郷いせ著「色無花火」を読みはじめる。著者は、終戦時に外相を務めた東郷茂徳氏の娘であり、以前このブログでも取り上げたことのある東郷和彦先生のお母さんにあたる人物。ドラマチックで華やかな、しかし苦労の絶えない人生の展開の中で、著者は何を目撃し何を考え続けたのか。東郷茂徳という人物は、終戦へと至る昭和天皇の政治思想を理解する上で最重要なキーパーソンであります。宗教学者・佐々木幹宏さんの「憑霊とシャーマン」「シャーマニズム」などを何年かぶりに読み返す。現場に携わる当事者である以上、この種の世界については私個人が体験者となる訳ですが、価値観及び日常的に住む世界の違う人たちにも客観的に解かりやすく説明する必要が生じる、その基礎的な資料を提出してくれるという側面からこの種の研究は参考となります。吉田禎吾著「日本の憑き物」なども併読。大城立裕著「内なる沖縄ーーその心と文化ーー」を読みはじめた。沖縄問題を理解する上でも必読文献。沖縄のシャーマニズムなどにも言及がある。インドの神秘思想とイスラム教の接点ということで保坂俊司著「シク教の教えと文化」を再読。シーク教はあくまでもヒンドゥー教の一派なのですがイスラム教の影響をかなり受けている、ヒンドゥーの改革派にあたる。宮崎学編「松崎明秘録」松崎明・鈴木邦男著「鬼の闘論」を読む。革マル派、中核派を産み出した革命的共産主義者同盟、略して「革共同」の流れに関し、私個人はあまり縁はなかったのですが、梯明秀の哲学に興味がありまして、それからの濃密な影響を受けておりますところの、ごく初期の黒田寛一の哲学に関心があり、集中的にいろんな資料を読んでいた時期がありまして、黒田氏の影響圏下にあった松崎明氏の著書も労働運動を理解する一助として大昔に読んだ記憶がある。どちらも興味深い展開ですが、特に宮崎学さんのアプローチは鋭い。世間巷には賛否両論ある伝説的人物にこれまた賛否両論ある伝説的人物が斬り込む。人物が人物だけに、書かれ語られた言葉どうりでなく多元的かつ重層的に深読みする必要があります。(異論は存在するでしょうが私の見るところ松崎氏は、某組織の実質的な最高指導者であります。ただし、そのことを批判しようとは思わない。)政治思想を離れ、個人としての松崎氏は、大型バイクを乗り回し、登山が好きで自然の草花をカメラで撮影する趣味がある。マルクス主義以外でも古代中国思想の古典に精通。(「松っあんネット」とかいう氏が個人で主宰するホーム・ページが昔存在していた)きわめて活動的で行動派の人物であるようです。

大川周明閣下の偉大なる日本主義

時々勉強部屋代わりに使わせていただいている那須高原のおしゃれな喫茶店ドミヤン。コーヒー、ケーキ類もとびぬけておいしく、インテリアも美的センスにあふれています。店員さんたちの対応も親切。快適な空間であります。美しい絵画と共に、店内には、落ち着いた、格調高い雰囲気が漂う。とおからず那須高原のスポットとなることでしょう。本日の曲刀根麻理子　「マリオネットの夜」昔この方のファンでありましてこの番組の収録ビデオを私も持っております。他の曲も含めもっと鮮明にとれていますので、いづれアップしましょう。歌唱力があり、なをかつ名曲ぞろいだった。実力派シンガーといえます。刀根麻理子 MARIKO TONE - マリオネットの夜(1987) 刀根麻理子 MARIKO TONE - 都会のゆううつ(1985)この曲も大好きでした。さて本日のテーマ大川周明が、若いころ社会主義者であった事実は、大塚健洋氏や松本健一氏による評伝の流布も手伝い今では歴史上の暗黙知といいますか万人周知の事実となっております日本における近代経済学研究史上の大天才で森嶋通夫の師匠にしてシュンぺーターと並ぶ世界的な経済学者の高田保馬が五高時代、大川と同窓でありまして学友として深い関係にあった。その高田保馬が当時大川と高田自身共々「平民新聞」を定期購読する熱心な社会主義者であった事実を回想記に書き記しております。おかしなことに左翼よりも右翼のほうが社会主義をよく勉強しており、左翼は右翼に関し不勉強である上もってきて、左翼自身のイデオロギー的生成のプロセスに関しても無知なことが多い。その点は、右翼の思想家たちの左翼思想史研究は徹底しております。権藤成卿がアナーキズムと親和的であり、橘孝三郎が農本主義において左翼のエコロジストたちの先駆であり、内田良平や満川亀太郎がレーニンを熟読しており、高畠素之が現在においても最高水準のマルクス評伝（「マルクス十二講」という名著がある。マルクスの国家論に関する構造分析において今日にいたるも斬新であります）と「資本論」の翻訳を残し、北一輝が、どんな左翼イデオロギーよりも卓越せる独創的皇国史観を構築していた・・・・等々。赤尾敏がチェ・ゲバラを崇拝し、児玉誉士夫がプロレタリア文学にでも出てきそうな現場たたきあげの労働者あがりで獄中仲間としての共産主義者を敬愛していた・・・・等々。敵対し、対立する両イデオロギーの弁証法的相互浸透の奇妙な事例は数え上げたらきりがないのであります。彼ら良質な右翼思想のパイオニアたちは、若きころにキリスト教や白樺派のヒューマニズム、マルクス主義やアナーキズムの洗礼を受けておりますので、深き教養として「思想がどうあるべきか」の基礎知識と共に「思想がどうあってはならないか」の思考訓練もできていた、と思えるふしがあるのであります。このことは視野の狭い偏った「思想の検察官」たちへの免疫を考える上で重要な論点となります。さてわが大川周明であります。何よりも大川で私が関心するのはその愛国心の深さが排他的で偏屈なナショナリズムに堕することなく、すべての民族に通用する普遍主義を宿しつつ、なをかつ偉大な愛国主義である・・・という点であります。とりわけ大川は、古代の日本民族が隣接する強大なライバルとしてアイヌ民族を所有していたことを幸運ととらえ、アイヌ民族の勇敢なことを絶賛するのと同時に日本民族生成の起源にアイヌの影響が強大であることを指摘している。古代における鹿島神宮の起源とこの問題がリンクするのですが別のテーマとなりますので詳細は別に譲ります。敵対する諸族を「神」をもって呼び、別種の信仰を有する別種族と規定し、「まつろわぬ」民が日本民族と同様の神々を「まつろう」場合には同胞として受け入れた事実、その多神教的世界観に基づくところの民族的寛大さの美徳を誉めたたえているのでああります。五族協和を理想として掲げた満州において日本の国家神道がいかに流布され、そこにどんな反省点が含まれるか検証されねばならないことは理の当然だとしても、易姓革命の哲理を道義的見地から否定する大川の天皇観、それとともに神道の解読の仕方がやはり独自であることには着目しておかねばなりません。評伝作家としての大川は、新撰組の創設者で郷里の英雄であるところの清河八郎伝を書いておりますが評伝を単なる「墓造りの営為」とはせず「評伝を通じて過去の偉人たちに燃ゆるがごとき生命を吹き込む」「死せる魂を活性化させる」のが大川の著作に見られる特徴なのであります。「回教概論」においてはマホメットを、「亜細亜建設者」においてはアラビアの建国者イブン・サウードを格調高き華麗な美文体にて感動的に描き切るなど異文化、とりわけイスラム文化に関する優れた理解者でもありました。今日、イスラムに関するすぐれた研究書、注釈書の類はいちいち枚挙にいとまあらぬほど出回っておりますが、死せる知識の機械的な羅列や客観的すぎる素描ではなく、生命力溢れる評伝、天才の輝ける著作と呼ぶにふさわしいものは、第一に大川の「回教概論」次にあげるとしたならば大川と深い交流のあった井筒俊彦の「マホメット」を挙げるべきでありましょう。この二冊イスラムに深い興味をよせる人にはぜひともおすすめであります。（いいだ・もも氏の最近の大著「主体の世界遍歴」に井筒俊彦と大川の交流について触れた箇所があります。興味ある向きは一読されたし）いちいち名前は挙げませぬが偏狭な愛国主義、偏ったナショナリズム頑迷な保守主義(とそうでない保守主義を私は厳密に峻別しております)の跳梁跋扈する今日、キリスト教を経過し若き日の社会主義者としての大川周明が、インド哲学の奥深き研鑽とラーヒ・ビハリ・ボースをはじめとするインド独立運動の志士たちとの交流をへて視野の広い、独自の深淵さを兼ね備えた日本主義者へと生成変貌していくインターナショナルで真摯な姿に今日なを我々は多くのことを学ぶ必要があるのであります。映像参考資料東京裁判 - 東条英機の頭をはたく大川周明わが大川周明閣下が世界にその名を轟かした世紀のパフォーマンス。どななたかが「英機最高」と書いておられる。これを見る限り私の見解においてもたしかに英機最高なのであります。では何が、どこが、一体どういう訳で最高なのか。奥深き道理がありまして、これを論じはじめると何十ページにもなりますのでまた別の機会に。

獄中記

その佐藤優さんが、国策捜査の過程でムショ暮しをすることになり、そこで読破した本の感想や、監獄での体験をまとめた本がこの獄中記です。宗教学や哲学、歴史等社会科学一般にわたり氏の読書傾向は、(趣味の次元の話)意図せずして私個人の興味範囲とかなり重複する箇所が多いのですが、読書案内としてもきわめて秀逸です。

ドストエフスキーの転向と現代

或る著名な論者の解説するところでは、ドストエフスキーの転向はなかった・・・・ということらしいです。処女作「貧しき人々」から晩年の名作「カラマーゾフの兄弟」へと至るまで一切、文体の変化が見られない。従って、思想が一貫しており、ドストエフスキーは若き日の革命家の魂を最後まで持ち続けたのである・・・とこの博識な論者は指摘しました。若きドストエフスキーが身を投じた流れが初期社会主義の開祖のひとりであるシャルル・フーリエの思想とその信奉者の群れであり、カール・マルクスのそれではなかったという細部は保留するとして、たしかにドストエフスキーの目の角度には、同時代のトルストイやツルゲーネフのごときロシア貴族の伝統文化というよりもプロレタリア文学に近いものがあり、「革命家の魂」という認定は、決して飛躍ではないと私も同感する次第です。マルクスの資本論が再評価され、若い人たちに小林多喜二が、ドストエフスキーが読まれ、私のような仕事がとんでもなく繁盛する時代、それは一口にして言ってしまうと苦悩する民の時代ということでしょう。十分恵まれて幸せな人は私のところへは来ない。インテリ・非インテリを問わず、出口が見えない迷路にはまり込んだかなり深刻な人たちが大挙して押し寄せてくる傾向があるのです。「当たる」「当たらない」といった側面で勝負が決まる西洋占星術や四柱推命術、姓名判断と違い私のような霊感系の仕事は、もっと深いところでお客さんと関わらねばなりません。あるときは「霊感占い師」であり、あるときには「心理カウンセラー」であり、あるときには「経営アドバイサー」であり「祈祷師」「教祖」みたいな仕事の依頼もけっして少なくはないのです。歴史をひもとくと私のようなタイプの霊能者兼スビリチュアルカウンセラー兼祈祷師みたいな職能が、一転して新興宗教の開祖になった事例も少なくありません。ペダンチックな論理実証主義の名のもとこの種の現象を批判する人たち(あれは迷信の類いだみたいな・・・・)も一部には存在しています。しかし、もっともらしいこの種の批判は、一歩間違うと「差別」と紙一重であることを知らねばなりません。なぜならば、私のような職能を活用・依存・支持する人たちの大部分が先ほど述べた「苦悩する民」の同類異種だからであります。このような社会階層のある部分が私のところへやって来て、ある部分が霊友会や立正佼成会、創価学会などへと流れ込む。差別や抑圧から任侠の世界へ流れ込む人たちが大勢いて、差別論の視点から見た場合、彼らを一方的に断罪することが誤りであるとしたならば、祈祷師やシャーマン、霊感占い師や原初的民衆宗教へと流れ込む悩める底辺とその救済者との関係ではなをさらそのことが言えるのであります。(もしこの分野に興味のある探求心旺盛な読者がいたならば、尊敬すべき先達で宗教学者の佐々木宏幹先生の著作に触れてみることをぜひお薦めします。)宗教家、心理カウンセラーと霊能師、医者、法律家といった職種は、お互いが商売敵といってもよい競合関係にあるので、その価値観や思想の一致に関しては永久に見いだすことはできないのは事実であります。ただでさえ多忙な私は、彼らと永久に噛み合わない不毛な議論に延々と時間を空費することはできかねます。どのような議論になり、どのような意見が交わされ、結局お互いが一歩も譲らない高度に難解でどちらもが解決不可能な神学上かつ哲学上の論点のみ残り続けることが私には一瞬のうちにシュミレーションできてしまうのです。苦悩する人たちをどれだけ救えるかという実績及び成果において勝負するしかないでしょう。もちろん私のような職業を悪用する同類異種の存在もまた警戒すべき事柄ではあります。私が常に関心を持つのは思想や倫理宗教の原点・原初期、その発生時点において、それらが持っていたパワフルな力という側面であります。ゾロアスター、孔子、老子、墨子、キリスト、マホメット、日蓮、親鸞、出口王仁三郎も中山みきも、その教団が派生した原始形成地点において一体何を語りかけていたのか、どのような民衆救済的発想を持ち、それを実行に移していたのかという側面にこそ非常な興味を感じる次第であります。

ファシズムの魅力

　ファシズムについては、いたるところで良識的進歩的知識人の激しい糾弾の対象となり、侵略戦争と民族差別に結びつく史上最低の政治思想、人類史の暗黒、恥部の中の恥部だと考えることが常識と化している。極端に激しい批判にさらされ、白熱した議論の焦点に据えられる。その危険性が、角度を変え、繰り返し、繰り返し熱く議論される。議論の対象とされ、特別に強度な問題とされていることそれ自体が、今だファシズムの持つ独特の「磁力」「魅力」「思想的吸引力」「しぶとい生命力」を物語ってはいないだろうか。マルクスの「共産党宣言」をもじって言えば「いたるところにファシズムという名の妖怪が徘徊している。それは敵からも一つの力として社会的に認知されたことを意味する」ということにでもなるのだろう。しかし、しばしばファシズムを批判する論者の中には、本当は自分も魅力を感じているのに、進歩的言説をちりばめ、「いつでも逃げられる」安全保障を担保しながらファシズムを語る人たちもいる。その魅力を正直に語る論者はいくらかましであり、その上で、自分が袋たたきに合わない安全弁を事後的に担保するという方向性なら、とりわけアカデミズムの世界に生きる人であれば仕方がないのだとも言える。悲劇なのは、純学者というよりも生まれながらの良心からして「世の中を変えるべく」革命家的資質を持った学者のようなタイプの人たちであって、情念に流されようとすると彼の学者的知性が行動の邪魔をするし、知性に生きようとすると今度は擬似革命家的情念がそれを裏切るべく悪魔のささやきをする。その二律背反の矛盾の中で、ときには彼の「ファシズム的要素」が言説を支配し、別の機会には「理性的要素」が顔を出す。このようなちぐはぐな鵺的状態を私は、訳知り顔で糾弾したいのではない。感受性の強い、誠実で、良心的な者たちほどそうなりやすい。それにさらに高度な知性が加わるとやや陰謀家的な側面が加味されてくるのだけれど、現実変革の至情に燃える革命家たちは昔から多かれ少なかれ扇動家や陰謀家の類だった。この種、高潔な理想主義が基盤にあり、本当は誠実で献身的、かつ勤勉でまじめであるというタイプの陰謀的革命家は、外見はぬらりくらりした阿呆であるが本当は抜け目なくものすごく腹黒いという真の悪党的陰謀家に利用され、最後は出し抜かれ、ひっくり返され、一番損なババをつかまされる宿命にあるようだ。この種、「裏切られた革命家」としてババをつかまされた善意の理想主義者が、もちろん私は昔から好きである。ファシズムに魅力を感じる知識人の感性をひとえに権力欲の変形だとする見方に私は反対である。放任された極端な自由主義の中で、明日の保障もなく、物質的恩恵にもあずかれず、カオスの中に投げ込まれ、絶対的孤独地獄のアトム的個体として生存を余技なくされているタイプの人間が、一体何のために自分は存在しているのかと自問自答を繰り返し、その怒りの矛先を標的として確定させるべく、或る日突如として「敵を見出し」過激な方向へと爆走する現象。その行き着く先が、極左であったり、極右であったり、任侠の世界であったりいろいろあるのだろう。根底的な現状変革という革命性を潜在させつつ、運動の渦中に飛び込んだ人たちは、偉大な指導者や運動体という組織の中に、卑小で孤独な自己を合体させ、そこで精神的な父や師匠や同志を見出し、それらに絶対価値や生き甲斐を感じ、もはや世間的栄達なんぞはどうでもよくなる。場合によっては、自分の全生涯、命すらも捨て去ることがある。これらのものをカルトだと非難する人たちは、それに変わりうる代案としての魅力的な帰属社会として、弱肉強食の現代の自由主義競争社会そのものを大手をふるって提示できるだろうか。もしできないと仮定した場合、ではその他の代案とはほかに一体何なのか。具体的に何なのか。何の社会保障もともなわない孤独地獄としてのアトムをしか、その結果としてのスラムでの野垂れ死にをしか提示しえないとしたならば、同志的結束の堅い、その中で相互扶助が行われているカルトと比べて一体どちらがましだろう。思いっきり単純化してみよう。誤解を恐れずに言えば、そしてそれは私の体験からも裏づけられるが、エリック・ホッファーやヘルマン・ラウシュニングが明敏に洞察したように、極左も極右も、新興宗教の系譜やら、そしておそらくは任侠の世界ですら、その「自由からの逃走」といった初発の心理的動機はあまり大きくは異ならない。これらの運動に参加する人たち、エリート・非エリートを問わず、世の中から本質的にはぐれた人たちの社会的暴走形態に無理やりふたをするべく「破壊活動防止法」や「暴力団対策法」といった法的抑圧装置を網の目のごとく仕掛けることに私は反対である。言論の自由を侵害する、昔の特高警察の二のまえになる危険性、というのも理由の一つだが、法による弾圧は、法の網の目をかいくぐる地下組織の跳梁跋扈を招くのみであり、結局は、強力な指導者や組織があることで保たれていた秩序を破壊し、統率の利かない末端の危険な暴走へと道を開き、過激な無政府状態を招きやすい。最後に残された手段として、最低限、ここのトップ=「党」や「組織」の最高統帥司令部と話をすれば末端の過激な暴走をくいとめることができるという緊急停止システム=政治的に強度なブレーキ装置を残しておくことが重要である。そしてそのような方向に人々を追い込まないためには、敗者復活戦の可能な魅力的な社会の建設が必要であり、一度道を踏み外した犯罪者・前科のある人たちなどを、差別し迫害し、さらにもう一度犯罪へと追い込むのではなく、更生や社会学習の機会と共に受け入れることの可能な倫理的社会システムないしは組織が求められるのであるが、今の日本にそのような受け皿は皆無であり、そこにファシズムや任侠世界存続の土壌がある。極限にまで追い詰められた人間のアジール空間は一体どこにあるのだろうか。「俺んところに来れば飯を食わせてやるぞ。ぜいたくはできんかも知れんが、組織の原則さえ守れば、最低限の面倒は見てやるぞ。」という、社会的弱者の味方をする義理人情に熱い大親分が統率する任侠的ファシズム組織があればそこに烙印を押されたアウトローな人々は流れ込むことだろう。その場合「世間はあれこれ言っているが、少なくとも俺と俺の家族の面倒は見てくれた。一番困っているときに助けてくれた者こそが神である」というのが彼らの本音であるのに違いない。よりましな代案を何ひとつ提示できずに、一体誰がそのことを訳知り顔で批判することができるのだろうか。ここに現代日本社会の持つ最大の弱点が存在している。参考文献)大衆運動全般を原理的に理解する上で、エリック・ホッファーの緒著作とりわけ「大衆運動」は、重要文献である。社会哲学的視点ではなく、ファシズムの方法論(戦略・戦術)に関するものとしては、ヒトラーの「わが闘争」及びその続編たる「第二の書」は必読文献。きちんと精読すべき。最近では、「テーブル・トーク」なども出版されている。ヒトラーその人と何度か接点を持った後、亡命したヘルマン・ラウシュニング「ニヒリズム革命」「永遠なるヒトラー」も方法論を理解する上で参考になる。ファシズムを肯定的に評価した先駆としては、長沼博明氏がいて、「ファシズム革命」をはじめとする独自の実践的研究的書数冊を出しており、おおいに勉強させられる。ファシズムの文化に関わる宣伝手法の研究としては、故草森紳一氏の「ナチス・プロパガンダ絶対の宣伝4部作」が、名著の中の名著、必読の中の必読文献として、きわめて重要である。くり返し3回は読むべきだ。

ドストエフスキー的世界観と日本主義への回帰

ある種のキリスト教徒から学べることは多く敬意も感じるけれども、私個人は、キリスト教という宗教思想が体質に合わない。信者としての個別人間にではなくあくまでもその思想と組織の歴史に何かしら排他的で独善的なドグマを感じるのだ。寛容な多神教の世界に私は生きている。そこには祈祷もあれば占いもある。悪魔祓いもある。柳田國男風に言えば常民の世界の迷信の数々も十分役にたって生きている。聖書の福音書の中に現れた民衆を救済するイエス・キリストの姿病者の病気を治し祈祷して悪霊を追い出し、民衆に解り易い言葉で話し、既成概念の転換を準備した偉大な革命家兼民衆運動家・シャーマン的原始宗教家イエスの姿は神学論争の中で極限にまで歪められ、その教徒たちによる果てしのない虚構の構築・イエスの無限に近い神格化・概念神学化の中でいつしか最も重要な原点は忘れさられた。多少なりとも共鳴を感じるとしたら、カトリックやプロテスタントなどよりむしろロシア正教の流れだろう。私の場合、ドストエフスキーとニーチェが思想体験の出発点であったが、椎名燐三のようにクリスチャンになったりはせず、小林秀雄を経由して本居宣長的な日本古来の伝来思想へと回帰していった。その過程においてベルジャーエフやシェストフ、バフチンやグロスマン、ＥＨカーや埴谷雄高等を読んだ。その点、大川周明の思想的変遷と私のそれとはやや似ているかも知れない。キリスト教から社会主義へ。社会主義から日本主義への流れ。一方におけるイスラム教への深い関心。大川周明のイスラム研究にあたるものが私の場合ゾロアスター教(拝火教)に該当する今現在私が一番思想的な波長が合うと感じるのは葦津珍彦と井筒俊彦であるドストエフスキーの「作家の日記」に見られるロシア民族主義への礼讃は私の中に潜在する日本的イデオロギーを触媒のように刺激した。大川周明はその残存する日記の中での記述を読むかぎりドストエフスキー的人物でもなければドストエフスキーをあまり深く理解しているようにも思えない。(北一輝は中里介山を評価していたそうだから、ここでも私は大川よりも北に近い。大菩薩峠の主人公、机竜之助のニヒリズムと北一輝の寒々とした醒めたニヒリズムにはどこか深い共通項があるのだ)クロパトキンのような人もドストエフスキーよりもトルストイやツルゲーネフを評価している。リアリズムに貫かれた獄中体験記「死人の家の記録」のみは例外的に高い評価だが。トルストイは私も好きで誰しもが知る有名な大作のみならず「コサック」や「セバストーポリ物語」「幼年時代」「少年時代」「青年時代」などは感銘深く読んだ。だがやはりドストエフスキーのほうが影響が大きかった。しかし、これは10代の真ん中から20代の終わりごろにかけて読んだということで青年期の思想なのかもしれない。ロシア文学では、ほかにガルシンという短編小説作家を高く評価する。チェーホフやツルゲーネフも読んだが、深い影響というまでにはいたらなかった。ドストエフスキーもガルシンもどちらかというと精神病質というか、悲劇的な暗い翳りのつきまとう「魂の狂った」病的な作家である。