裏切りのディスタンス/佐々木偵子
裏切りのディスタンス総会屋の麻生俊介に追い込まれ自殺した父―その仇を取るため、すべてをなげうつ覚悟を決めた大学生の瑛。およそ一般人とはほど遠い職業に就いている麻生を叩くには彼と同じ舞台に上がるしかないと、瑛は叔父のツテを使い、裏社会に顔の利く荒屋の部下・大谷のもとに押しかける。しかし実践的な株式の知識も資金も皆無に等しい瑛は、授業料代わりに彼らの客である資産家たちに差し出され、恥辱にまみれた一夜を過ごすことに。しかも、その席にはなぜか麻生の姿が。乱交に加わることなく、金で瑛を救い出したその意図は―。潔く冷酷で孤独な男・麻生と、向こう見ずで愚かで、しかし燃えるような復讐心を持つ瑛。刹那的な二人の行き着く先は…。会社を乗っ取られ全てを失った父親が自殺し、その復讐のため同じ総会屋となろうとしたがあれこれするうちに敵に惚れちゃったというよくある筋書きなわりには、楽しめました。イラストの石原さんの絵が好きってこともありますが、対する敵の麻生が仕事を離れると人情的であったり、娘を大事にしてたりと冷徹一貫じゃないところがよかったのかも、です。会社を始め屋敷も全て抵当に入ってしまっていた瑛は、総会屋のノウハウを会得するため、叔父の紹介で同じく総会屋の大谷を紹介される。大谷から渡された支度金で叔父の立替分を支払い、授業料としては自分の身を差し出そうとしていた瑛だったが、現れた麻生に考えの甘さを指摘され連れ戻される。しかし、父の敵であった麻生への反発心が再度大谷の元へと向かわせ、知識と引き換えに大谷の開く資産家達のパーティーの慰み者として出されることに。嬲られた後、麻生に買い取られた瑛は麻生の元で株の知識を深めることを命じられ、浅生の部下桐谷に仕事を教わっていたが、再び大谷と接触。麻生をはめる仕手戦のため戻って来いと唆された瑛は、その夜麻生と別れの夜を過ごし去ろうとするが、そこへ刃物を手にした瑛の母親が現れ、敵と親密な瑛を裏切り者と叫び、瑛に襲い掛かる。。。という流れです。読んでるときにはそれほど感じなかったんですが、瑛は大谷と麻生の間で漂う浮き草のようです。父親を失うまではただのお坊ちゃんだったので、藁にも縋る思いだったのと、義務感のような復讐心がそうさせたんでしょうねぇ。麻生のほうも、総会屋としてそれはどうかと思うほど、瑛のために散財しています。冷酷という意味では主人公瑛が最初に頼った大谷のほうが上手をいってたし、出番は少なかったんですが、大谷が守ろうとしていた荒屋なんて腹の中が真っ黒に違いないでしょう。過去に荒屋に救われた恩のため、荒屋の足手まといになろうものなら死も躊躇わないという大谷の傾倒ぶりは、壊れた心が見え隠れして怖かったけれど、彼が主人公になったお話ができたとしたならダークな面白みを感じそうで読んでみたいなと思ったりしました。