火も自ずと涼し
東京に在住していたころ、奥秩父の山を登る時に、甲府盆地の北東部のエリアを車で訪ねることが良くありました。このエリアは、桃の季節には桃源郷のようになり、桜の季節には乙ヶ妻の枝垂れ桜などが目を楽しませてくれたり、四季折々の雰囲気が素晴らしい所です。 そんな思い出深いスポットのひとつに、乾徳山恵林寺があります。 暑い真夏の時期の登山を終えて、この恵林寺に立ち寄ったことがあります。武田信玄、勝頼の加護の元、隆盛を極めたお寺ではありましたが、それ故に、織田信長の焼き討ちにあったことで有名なお寺です。燃えしきる炎の中に、快川国師ら大勢の法師が包まれましたが、その時、快川国師が「心頭滅却すれば、火も自ずと涼し」と述べたことも有名な話として伝えられています。 実際にそのような歴史のある境内にたたずみ、あらためて、その言葉を驚きをもって思い起こしたのでした。と言うのは、その日、太陽の照り付ける暑い暑い急登を、それこそ、反吐(へど)を吐きたくなるほど辛い思いで登って、真夏の登山に嫌気を差しての帰り道だったのです。まだまだ登山に、心頭滅却するほど打ち込んではいないのかな、と、ちょっと冗談気味に思ったことを覚えています。 しかし、この恵林寺への訪問は、その後の私にとっては重要なものとなりました。登山中に、暑さで参りそうになった時、ふとこの言葉が頭をよぎるようになりました。決して、楽になるわけではありませんが、登るのに嫌気がさすことは無くなりました。逆に、だんだん、暑さの中の登りが好きになってきたのです。もちろん、長続きするようなペース配分が必要ですが、顎から滴り落ちる汗をぬぐいながら、ひたすら登ると、自ずと快感を覚えるのです。 とまあ、かっこよく書き過ぎたきらいがありますが、最近では、例えば坂歩こう会の山行にも、暑いから止めておこうなどと思ったことはありません。暑い最中であるからこそ、登っているときの充実感と、登った後の達成感が半端でないほど大きいのです。登った後の、炭酸飲料の美味しさも、半端ではありません。 NETから拝借しました。