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カテゴリ:金曜日のラララ
前回までの話はこちらです。
「卓也もその内、恵美に飽きるさ。」 「別れるのを待つなんて趣味じゃないわ」 「だったら本気で考えてみなよ、浩二のこと。中学からの付き合いだから言うけど、根は真面目なヤツなんだ」 「浩二君は私を気に入ってる。でも好きってわけじゃない」 「始めはそれで良いじゃないか」 「私はイヤ」 「少女マンガみたいな女だなぁ」 彼は肩をすくめ、窓の外を見る。 それっきり口をきかなかった。 決してバカにしてるわけじゃない、でもオレは興味ないね、そんな女。 彼の姿はそう語っている。 何で私は傷ついたような気持ちになるのだろう。 窓の外から県道を走る車の音や、帰路に着く生徒達の声が聞こえる。 なのに静かだった。 それらの雑音さえ、私には静けさに溶け込む一要素でしかなかった。 「ねぇ、歌ってよ」 夕陽が遠くに見える住宅地の向こうに落ちるには、まだ間がある。 「さっきの歌、私、好きなの」 「良いよ、大サービス。だけど言っとくけど、あんたが浩二のお気に入りだから、だよ」 “お気に入り”の所だけ声を大きくして言う。 まったく憎たらしいヤツだ。 彼が歌い出す。 音楽室を包む静けさに、そっと寄り添うように。 話している時は聞き取れないが、歌うとかすかにハスキーなのが分る。 なのに良く伸びる声。 何て素敵な声だろう。 私はピアノの蓋を、音をたてないように細心の注意を払って開ける。 そして彼の声に、右手でメロディーをなぞらせる。 ピアノは幼稚園から十年習った。 モノにはならなかったけど、楽しむ程度のテクニックはついた。 彼のリズムに合わせられるようになったら、更に左手で伴奏をつけてみた。 けれど何だか物足りない気分。 私も歌ってみたい。 思い切って、声を出してみる。 彼がちょっと驚いたような表情を向けた。 それが見る見る変わっていく。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2009年01月24日 22時38分20秒
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