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2007年06月の記事

全13件 (13件中 1-13件目)

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二つめの

Air：空気に乗るBlog：仲間とつながるCorrespondence：はがき通信Drain：レッグバッグの尿を捨てるEndless：これで終わりではない Foot：FESでつま先を上げるGutenberg：インターネットで名作を読むHermit：社会から逃れるIgnore：異常知覚を無視するJunction：笑顔が見たいKing：介護されていて王様気取りなんてLemonpie："今死ねたら幸せだろうな" Morning：わたしの今日が始まるNervous：いらいらする昼下がりObjective：目的と手段Project：折り合いをつけるQuovis：車いすのまま車を運転するRate：掛け算と割り算 Send：インターネットで大きなファイルを送るTomorrow：明日にどうか間に合う様にUnderstand：わかっているのといないのとでは Value：価値観に縛られるWheelchair：見た目は気になるが Xanadu：幸せな滞在でした Yesterday：思い出に救われるZigzag：進めども進めども

2007.06.27
”今死ねたら幸せだろうな”

映画「ミリオンダラー・ベイビー」で、クリント・イーストウッド扮する老トレーナーが、好物のレモンパイを食べて、「今死ねたら幸せだろうな」とつぶやきます。大げさな、まさに文学的表現です。"幸せはいつまでも続かない"という事実を連想させます。言葉の綾ですから、彼には死ぬ気はありません。レモンパイは、また、いつでも、食べることができます。幸せはまた来ます。それが普通の人生です。次のレモンパイを思い浮かべることができるから、次に来る幸せを信じることができるから、人はつらい浮き世を渡っていけます。主人公の女性は、頸髄を損傷した後、死ぬことを選択します。彼女には、次のレモンパイを思い浮かべることも、次に来る幸せを信じることもできませんでした。彼女が選んだ道は私には選択肢となり得ません。彼女の轍を踏まないために、私には"レモンパイ"のようなものが必要です。私のレモンパイの仕込みを始めました。リハビリでもなく、インターネットでもなく、ましてや、仕事などではなく。 6月12日から動き出しています。

2007.06.24
思い出に救われる

ケーブルテレビを録画して1年以上寝かしていましたが、映画「海を飛ぶ夢」を観ました。映画には、主人公の善き理解者として、女性弁護士が登場します。彼女の歩行リハビリのシーンには、何気なく、Lokomatが使われています。主人公の男性は28年経ってからなぜ死ぬのか、という疑問もあるでしょう。しかし、死にたいとの思いが28年経っても消えなかったという事実が、私には重く感じられます。しっかり生きたという実感もないまま生きながらえてきたことが、これからも同じように生き続けねばならないことが、彼には苦痛でしかありませんでした。彼が選んだ道は私には選択肢となり得ません。彼の轍を踏まないために、私には"しっかり生きたという実感"のようなものが必要です。"思い出作り"とか"自分が生きた証を残す"ということではありません。大事なのは、昨日の記憶です。昨日のことが思い出せて、その中に、笑顔の自分がいて、前向きの自分がいれば、今日は大丈夫です。

2007.06.23
わたしの今日が始まる

"あなたが死にたいと思っている今日という日は、昨日無念のうちになくなった人たちが生きていたいと切実に願った明日という日だ"見事な文句です。数年前、初めて目にしたときに心が震えました。どこかの宗教団体の広告にあったと聞いています。もちろん、原典はもっと古い可能性もあります。先日、ある掲示板に"昨日自分の意志で命を絶った人たちが死んでも回避したいと願った明日という日、でもある"という書き込みがありました。なるほど、と感心しました。どちらの文句にも主体の混乱（混在）が見受けられます。誰かの今日という日は別の誰のものでもありません。昨日無念のうちになくなった人たちの中にも、昨日自分の意志で命を絶った人たちの中にも、今日死にたいと思う人はいません。昨日死んだ人の今日は始まりません。大昔のアクション映画に自殺願望の強い刑事が登場していました。最愛の妻を亡くした彼は、毎朝拳銃を口にくわえ、本気で自殺を図ります。そんな彼をこの世に引き留めているのは仕事です。仕事のことを思い出した彼は引き金を引くことができません。毎朝目覚めます。会議や面談の予定を思い出して胃が痛くなることはありません。今日の仕事の段取りを思い返すことはありません。感じの良いあの娘との会話を心待ちにしている自分はいません。リハビリの進捗とブログの更新は気になります。これらが中途半端の状態だったら、死ぬ間際にそれを思い出してきっと心残りでしょう。リハビリは計画よりも早めに目標をクリアしたいと思います。ブログは26のマス目を早く埋めたいと考えます。計画や予定は自分を縛ります。できるだけ、先のことは決めません。絶対に、約束はしません。毎朝目覚めます。ベッドの自動体位交換機能により、ベッドは斜めに傾いています。手も足もしびれています。左膝がだらしなく外側を向いています。脚4の字を自力で正すことができません。水を飲むにもエアコンを操作するにも、ベッドがフラットになるのを最長30分待たねばなりません。近くに寝ている妻は介護やら何やらで疲れています。できれば起こしたくありません。ベッドが動くか、目覚ましが鳴るか、私が弱音を吐くか。最長30分です。ケーソンとしてのわたしの一日が、今日も始まります。

2007.06.22
見た目は気になるが

Care Cure Communityの「Quads pushing manual chairs 」を拝見していて、"車いすの人間は車いすの人間に対して見方が厳しい"という意見と"電動車いすに乗ると重度障害に見られるから手動車いすに乗る"という意見が目にとまりました。考え方はわかります。昼間は電動車いすを使っています。リハビリ病院でされていた両脚をフレームにPTベルトで縛り付けるようなまねはしたことがありません。胸のベルトも使いません。ふくらはぎ裏のクッションパッドは薄いベルトに交換しました。ごっついアームレストは標準の細巻きに戻しました。ヘッドレストも外しました。数年かかりましたが、まるで別物です。でも、気づいてくれる人はほとんどいません。受傷理由、受傷部位、残存機能、そんなものを気にしているのは当事者だけです。それらの違いを理解できるのは当事者と関係者のような専門家だけです。多くの人からすれば、ただの"車いすの人"です。

2007.06.18
価値観に縛られる

「QOL(Quality of life)とADL（Activity of daily living) をどうバランスよく優先するかということですよね。ADLのみを常に優先させて自尊心を下げてしまったりチャンスを逸して、やる気をなくしたりしていては何にもなりません」姉のこの言葉には考えさせられました。確かに私は、自力でできなければ意味がない、と思い込んでいるところがあります。少なくとも、自分でできるということに絶大なる価値を認めています。他人に背負われてアルプスに登りたいとは思いません。自分の足で近くの公園を散歩したいと思います。他人に背負われて近くの公園を散歩したいとも思いません。あるブランド帝国を崩壊に追いやった悪女が、獄中で、「私は、自転車に乗って笑っているよりも、リムジンの中で泣いていたい」と語ったそうです。理解できません。自転車だろうがリムジンだろうが、笑っている者の勝ちです。健常だろうがセキソンだろうが、笑っている者の勝ち、という理屈になります。これは間違っていません。でも、頸髄を損傷する前の肉体を覚えている限り、四肢麻痺の身体では笑えません。他人に背負われていては笑えません。ケーソンで入院した数ヶ月、病室の天井の幾何学模様を眺めながら、同じことばかり考えていました。「四肢麻痺でも10年は死なないだろう。寿命は1年でいいから、脊髄を損傷する前の肉体に戻れないかな」5年経った今、同じことを考えています。

2007.06.17
わかっているのといないのとでは

医療や福祉など社会制度を知らなくても障害者として生きていけます。でも、年金も割引も補助も助成も、申請しない限りもらえません。知らないと損をすることもあります。私が社会人になってから納め続けてきた税金や掛け金がその時々の障害者を助けてきました。時間を超えて助け合う仕組みなのです。今は私が助けてもらいます。誰に恥じる必要もありません。脊髄損傷による後遺症はそれぞれですし、細かいことを知らなくても、セキソンと数時間を過ごすことは可能です。でも、ケイセイも鬱熱も体幹麻痺も知らないそぶりを見せられると、相手が脊髄損傷について無知であることは明らかです。インターネットには情報があふれています。脊髄損傷について無知なのはセキソンに興味がないからです。5年前の私の受傷を知っていてケーソンに無知な相手を見ると、私の身の上に興味を持っていないということがわかります。立位台を使ってでも、自分の足で立つことは大事なことです。骨密度、循環機能、精神的なものなどたくさんのメリットがあります。でも、立位台のような、膝を前から尻を後から胸を前からの、3点支持では眠っている人間でも立たせることができます。

2007.06.16
進めども進めども

大昔の日本映画の一場面です。大八車を牽いて坂を上ろうと難儀している少年に青年が声をかけます；「斜めに上ってごらん」力の弱い者でも知恵があれば何とかなることを知りました。後年、"道具を使うと小さな力で仕事をすることはできるが、仕事の総量は不変であるという力学上の基本原理"を学びました。小さな力で仕事をするにはより長い距離を移動する必要があります。結果として、長い時間を要することもあります。エレベーターでの昇降のように、100％機械頼みの時には、セキソンであっても健常者との違いは感じません。また、高いところから落とされたときのように、重力による自由落下の場合、健常者も車椅子も変わりはないはずです。自力で上を目指す者だけが健常者との違いを痛感します。数段の階段を健常者は一瞬で上ります。車いすでは何年経っても階段は上れません。併設された数ｍのスロープを数十秒かけて上ります。健常者の階段越えが一瞬であるのに対し、距離で十倍、時間で数十倍です。プロジェクト・グーテンベルクを始めたマイケル・ハートの言葉です；「昨日の自分がやったことを見て、今日もまだすごいって思えたら、それはまだまだ明日への目標が小さい、ってことだね」　すてきな文句です。でも、階段を駆け上がる健常者には下階は目に入りませんが、スロープを行く車いすでは横目に見えてしまいます。スロープが緩ければ緩いほどいつまで経っても下階を視界に捉えたままです。上った気がしません。頸髄を損傷した者が自力で何かを成し遂げようとしたとき、それが日常生活の行為であれ身体能力の向上であれ、健常の頃の努力の感覚や時間の感覚を持ち続けることはできません。何気ない坂でも斜めにしか上れません。真横に近いほどの斜めかもしれません。真横にどれだけ進んでも上には行けません。少しでも上向きであればいつかは坂の上にたどり着きます。いつかは。

2007.06.15
笑顔が見たい

頸髄損傷の身で生きることは、無駄に高速道路を利用しているようなものです。立派な一般道路が横を走っています。以前はそちらを利用していました。望んだわけでもなく、気づいたら高速道路に乗っていた感じです。この高速道路とはインチキで、速くもなく快適でもありません。景色も一般道路と変わりません。払いたくもない高い金を払わされていることだけは確かですが。この高速道路の利用者は様々です。共通しているのは、新車も二十年ものもどこかに構造上の不備があることと、どこまで走っても一般道路に戻れないことです。走り方もいろいろです。それなりに走りを楽しんでいる人もいれば、走るのに精一杯の人もいます。馬力もなく油温は上がりっぱなしで、燃料も不足気味となれば、泣きたくなります。そこで景色を楽しむ気になれるかどうかです。どこに行き着くのか誰も知りません。ただ分岐点は随所にあり、右に行くか左に進むかは利用者が選択します。いったん分岐しても、すぐに合流するかもしれません。将来一緒になるかもしれないし、二度と交わらないこともあるでしょう。後々合流するならどちらを行っても同じ、とはなりません。そこに至るまでの景色は全く別物のはずです。少しでも美しい景色を見たいから、遠回りの道やアップダウンの厳しい道を選びます。妻の笑顔を見たいから、元気に振る舞うという選択をします。あの人達の顔が和むのを見たいから、明るい未来を語るという選択をします。

2007.06.14
いらいらする昼下がり

頸髄損傷がもたらした不幸、不利、不便は多種多様です。その内のいくつかについては、諦めも付いて、共に歩む覚悟もできています。四肢の異常知覚もその一つです。私が鈍いのか、痺れが他人より軽いのかはわかりませんが、私の手足の痺れは、私にとって、耐えられるレベルです。「無視する」などと気楽なことが言えます。私が我慢できないものの一つに昼下がりのいらいらがあります。夏の午後1時から3時に感じる極めて攻撃的な倦怠感です。居ても立ってもいられません。横になっても不快感は収まりません。眠れれば楽でしょうが、気持ち悪くて眠れません。エアコンの効いた部屋でも同じことです。アイスノンや冷たい飲み物は不快感に勝る刺激を与えてくれ、一時的な逃げ道にはなりますが、本質的な解決にはなりません。若干の息苦しさはありますが、頭痛もめまいもなく、頭はクリアです。善からぬことばかり思いついてしまいます。医療関係者にも相談しました。体温調節ができないから、慣れるしかない、と、心配はしてくれても解決はしてくれません。いろいろ試しました。昼食をとらないことが有効のようです。今も実験中ですが結果は良好です。

2007.06.11
異常知覚を無視する

大昔のアメリカのスペース・オペラに脳だけで生きている教授が登場していました。悪者どもに拷問された教授は「苦痛は神経による情報伝達に過ぎない」といいながら気絶しました。痛みに耐えるのではなく、痛みを認識しながらも無用のものとして無視するという考え方です。子供ながらにしびれました。本来、痛みは有用な情報です。痛みを感じれば、ダメージが大きくなる前に、必要な対応がとれます。ところが、頸髄損傷に伴う痛みは異常知覚です。私の場合は肘から先の痺れと膝から下の痺れですが、原因がわからないので解決できません。ただし、ダメージを与える危機的状況もないので放置してもかまいません。四肢の異常知覚は無視しています。痛み止めも飲むのをやめました。慣れただけかもしれません。実際、慣れるしか逃げ道はありません。

2007.06.09
幸せな滞在でした

脊髄を損傷して初めて、5年ぶりに、実家を訪ねました。私が幸せを感じるのは、妻がいて、酒が飲めて、甘いものを口にできて、技の上達を確認できる場所です。実家には、その上に、暖かい人たちがいました。ほんの数日ですが、幸せな滞在でした。最後の夜、寝苦しくて目覚めて、恐怖を感じました。明日は帰らねばならない、暖かい人たちと離れてしまう、この桃源郷にはもう二度とくることができない、そう思いました。おかしな話です。最初で最後の訪問のつもりでしたから。以下、実家に送ったお礼メールです；Tさん、受け入れの準備、滞在中の運転、力仕事等々ありがとうございました。N君、J君にも「いろいろアシストありがとうございました」とお伝えください。Y姉さん、おいしいお食事、Wの郷への付き添い等々ありがとうございました。年休を取らせる羽目になって申し訳ありません。T君、楽しい時間をありがとうございました。・4日は15:30に帰宅しました。二人ともそのまま倒れるように休みました。19:00に宅配の食事を済ませ、お礼の電話を2本して、本格的に休みました。翌日は休暇の予定ですから浴室も使いません。翌5日も食事と浴室以外は眠りこけました。今日6日は出勤して、日常モードです。筋肉痛のピークです。・最寄り駅から自宅まで車椅子を押してくれるSちゃんと、天候に恵まれて良かったね、と。雨にも遭わず、暑くもなく。・空港から最寄り駅までの鉄道3路線の揺れが、結果的に、道中最大の難敵でした。各駅での無分別無遠慮な乗客は無視できますが、物理的な揺れには身が固まります。固まった私の傍ではSちゃんもリラックスできません。・NタクシーのM運転手は申し分ありませんでした。新宅では、私の歩行器を使った移乗を見守ってくれました。空港では、私に歩行器を使わせる間もなく、力ずくで助手席から車椅子に私を移乗させました。これが仕事ですと言ってくれました。両空港でもJALの男性職員達が力ずくで移乗させてくれました。あの場では、行為に要する時間を最短にすることが最優先、というのが全員の共通認識です。私の現時点での身体能力を考慮して、その場の人数で最も有効な手段を執るべきです。彼らは正しいことをしました。私の回復の程度とか回復過程でどれだけの時間と努力を投入したかはあの場では関係ありません。・回復の程度とか回復過程でどれだけの時間と努力を投入したかは本人にしかわかりません。見せても語っても他人には通じません。ただ、どん底の状態から知っていて回復を無条件に喜んでくれる人たちがいてくれることはありがたいことです。ありがとうございました。2007.06.06 以下、姉からの返信です；2人ともお疲れ様でした。いろいろと至らない点もあったとおもいます。シャワーチェアーは結局買わせる羽目になってしまってすみません。QOL(Quality of life)とADL（Activity of daily living) をどうバランスよく優先するかということですよね。ADLのみを常に優先させて自尊心を下げてしまったりチャンスを逸して、やる気をなくしたりしていては何にもなりません。また来てください。クリスマスとかお正月の方がこちらの方は余裕あるかも。Y"ADLのみを常に優先させて"見抜かれていますね。さすが姉さんですね。

2007.06.08
介護されていて王様気取りなんて

障害者になるなんて夢想だにしませんでした。人並み以上の肉体に感謝していました。私生活でも仕事でも、障害者を意識する機会は多くありませんでした。私の姉は養護学校の先生です。いろいろなことで私とは異なる考え方の持ち主であることは知っていました。私に読むようにと貸して下さった本が「モリー先生との火曜日」です。読後の感想を求められていたようです。感想文をメールしました。キーワードは「教師と生徒（コーチと選手）」「かねと愛（得るものと与えるもの）」「介護する者と介護される者」です。健常だった私の介護と死に関する考えです。彼女がなぜこの本を私に読ませたのか、聞いたこともありません。以下は発見された感想文の部分です。これを書いて一年もしないうちに頸髄を損傷しました。（略）モリーの言葉を借りるまでもなく、我々はテレビや文化に洗脳されているのかもしれません。テレビや文化に対する批判の目を持つことは重要です。それはモリーの言葉「離れる」ことかもしれません。そしてそれはすべてのものに向けられるべきです。ミッチの言葉、モリーの言葉、もちろん自身の生き方にも。（略）モリーは教師でした。しかも高名な、成功した人物といってよいでしょう。古今東西の名言にも詳しく。だからこそ彼の警句を公表しようとした友人が出たのかもしれません。生活の苦労もなく、残された家族の心配もなく。だからこそ死を前にして自分のことだけ考えられたのかもしれません。（略）介護されることを（例えば尻を拭いてもらうことを）楽しもうとしていること、あるいは楽しむこと。これが自分の恥ずかしさを紛らわせるために考えついた抜け道だとしたらモリーは不幸です。本心だとしたら私には理解できません。介護しているひとは本心から楽しんでいるのでしょうか。あるいはこの考え方を一般化しようとしているのでしょうか、あるいは一般に認められると思っているのでしょうか。猫をみてかわいいと感じるひとと恐怖を覚えるひとがいるようにひとの感受性は様々です。介護のどちらの側になろうとも、すべてのひとが楽しめるはずもありません。私の義父の最終段階はモリーと同じような状態でした。彼が恥ずかしさを忘れるためには何かを捨てる必要があったはずです。彼はそれで不幸を忘れることが出来たかもしれませんが。介護する側は最後まで不幸だったかもしれません。自身の尊厳を守るためには、そのような時期を避けるべきかもしれません。「ぴんぴんころり」という言葉があります。いつもぴんぴんしていて、死ぬときにはころりと死ぬという意味です。下の世話をしてもらうことはとても恥ずかしいことですが、そう言い切っているひとも１週間で慣れるといいます。早く死ねばいいといっているのではありません。いつ死んでもいいように常に身きれいに生きていきたいと考えます。極めて難しいことですが。（略）モリーの物語は成功した人物がかれの恵まれた晩年において死を前にしたという極めて狭い世界でその中身を受け取るべきだと思います。当然その教訓を有益に広げていくことは意味がありますが、無条件に拡大することは不可能です。その限られた条件設定の中では極めて感動的な示唆に富む物語でした。余談ですが、私はミッチに好印象を抱けませんでした。この物語がフィクションである方が納得できます。訳者のあとがき、その中で引用されていた曾野女子の言葉、これらにはグッときました。2001.08.15

2007.06.06

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