カテゴリ:エセ軍事マニアの呟き
世界初の原子力航空母艦として知られるアメリカ海軍の空母『エンタープライズ』(CVN-65)が、今年12月1日を以て退役することになりました。
英語で冒険心、企業、事業といった意味を持つエンタープライズ(enterprise)は、英米で伝統的に艦船の名前として使われており、アメリカ海軍においては1775年就役のスループ(帆走砲艦)『エンタープライズ』を初代として現在までに8隻の艦船がこの名を冠しており、特に太平洋戦争で活躍した7代目のヨークタウン級航空母艦『エンタープライズ』(CV-6)と現『エンタープライズ』は"ビッグE"の愛称で親しまれています。また、スペースシャトルオービターの滑空実験機となったOV-101やテレビシリーズ『スタートレック』に登場する宇宙船の名称としても広く知られています。 現在の空母『エンタープライズ』は1961年にCVAN-65として就役、8基の加圧水型原子炉を搭載し蒸気タービンで推進する世界初の原子力推進空母で、就役当時は世界最大の軍艦でした。当初は6隻が建造される予定でしたが予算の都合により1隻のみで終了、予定されていたCV-66とCV-67は後にそれぞれ通常動力型のキティホーク級空母『アメリカ』『ジョン・F・ケネディ』として建造されています。 1962年10月14〜28日のキューバ危機においては海上封鎖部隊の一員としてカリブ海に展開、1964年には原子力ミサイル巡洋艦『ロングビーチ』(CGN-9)および原子力嚮導ミサイルフリゲート『ベインブリッジ』(DLGN-25 後に原子力ミサイル巡洋艦CGN-25)と共に原子力推進艦のみで構成される第1原子力任務部隊を編制し、65日間かけて燃料無補給での世界一周航海"シーオービット作戦"を行っています。翌65年には第7艦隊隷下となりベトナム戦争の支援で原子力艦初の実戦に従事、1968年1月17〜19日に原子力嚮導ミサイルフリゲート『トラクスタン』(DLGN-35 後に原子力ミサイル巡洋艦CGN-35)および嚮導ミサイルフリゲート『ハルゼー』(DLG-23 後にミサイル巡洋艦CG-23)と共に長崎県佐世保市に寄港した際には寄港に反対する左翼学生と警察機動隊が市内で衝突を繰り返し70人以上の逮捕者を出す事件となりました。 『エンタープライズ』が端緒となった原子力空母は、後続としてその発展型であるニミッツ級10隻が建造されるに至り、今や米海軍の強大なシーパワーを象徴する存在となりました。そして、帆走フリゲート『コンスティチューション』を除く米海軍の現役艦艇では最古参艦(ファーストネイビージャック)となった『エンタープライズ』は、現在も米バージニア州ノーフォークを母港としてミサイル巡洋艦『ヴィックスバーグ』(CG-69)、第2駆逐戦隊、第1空母航空団と共に第12空母打撃群を編制しています。当初はニミッツ級の発展型であるジェラルド・R・フォード級が就役を予定している2015年頃まで現役に留まる予定でしたが、方針変更により今年中の退役が決定されたようです。 なお、米海軍では退役した原子力艦船は原子力艦再利用プログラムによって処分が進められており、原子力空母がこのプログラムによって処分されるのはこれが最初となります。まず、米原子力艦の故郷である米バージニア州のニューポートニューズ造船所に入って核燃料と再利用可能な一部設備を撤去、その後はワシントン州のピュージェットサウンド海軍造船所に移されて船体を解体し、撤去された使用済核燃料はアイダホ州の海軍原子炉施設に格納、原子炉区画はかつてマンハッタン計画用のプルトニウムが精製されたことで知られるワシントン州のハンフォード・サイトにて埋め立て処理されます。世界初の原子力空母ということで博物艦船としての保存を期待する向きもあるようですが、流石に原子炉をそのままにして保存艦化するわけにもいかず、かといって原子炉の撤去は船体の破壊とイコールになるため難しいのでしょう。ちなみに、日本では原子力船『むつ』が1995年にディーゼル電気推進に換装して海洋地球研究船『みらい』に改装された際、撤去された旧『むつ』の原子炉区画を青森県むつ市のむつ科学技術館にて展示している例があります。 日本にとっても色々縁のある"エンタープライズ"の名を冠する艦船がひとまず米海軍から姿を消すことになるわけですが、米海軍の由緒ある艦名だけに、次はどの艦船がこの名を冠することになるかちょっと気になります。ちなみに、後継となるジェラルド・R・フォード級の2番艦の艦名を『エンタープライズ』とするよう求める請願署名の動きがあったそうですが、米海軍では同艦を『ジョン・F・ケネディ』と命名する予定だそうで、現在の米空母の艦名基準(歴代大統領または海軍功労者)を考えると今後空母にエンタープライズの名が冠されるのは難しい気もします。 なお余談ですが、米海軍において自国を象徴する艦名として"アメリカ"と"ユナイテッドステーツ"がありますが、現在『アメリカ』は新型強襲揚陸艦の1番艦LHA-6に冠され、一方の"ユナイテッドステーツ"は過去何度か巡洋戦艦や空母の艦名に冠される予定だったものの悉く水子になってたりします(笑) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2012.11.10 15:34:45
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