満を持して安部信三首相が来週、米国を訪問してオバマ大統領と会談する。「日米同盟の強化を」と意気込む首相だが、経済、安全保障、それぞれの壁は越えられるのか。そもそもこの時代、同盟強化が最優先の道なのか。
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榊原英資さんが朝日オピニオンで「どっちにもつく立場を生かせ」と説いているので、紹介します。
(デジタル朝日ではこの記事が見えないので、2/16朝日から転記しました・・・そのうち朝日からお咎めがあるかも)
安部政権の経済政策、いわゆるアベノミクスは危うい側面も持っています。対外関係を崩しかねない面があります。景気対策としての金融緩和などは間違いではないですし、その結果若干円安になることはあってもいいでしょう。しかし「円安にする」といった発言が複数の政治家からありました。通貨切り下げ競争につながる円安誘導策を諸外国は認めませんよ。
1995年、僕は旧大蔵省の国際金融局長時代に米国と協調して為替介入に動き、5ヶ月ほどで20円近く円安に持っていきました。ドル安を嫌った米国と円高を是正したい日本の利害が一致して成功しました。いま、輸出倍増戦略を掲げるオバマ政権はドル安を望んでいます。為替相場を操作するような姿勢を日本がみせたら、米国も反発します。アベノミクスの一部は見直すべきだと思います。
<TPPは急ぐな>
日米の同盟関係はもちろん維持すべきです。ただ、米国の国益ともぶつかる政策を繰り出しながら「同盟を強化する」というのは矛盾しています。そもそも、いま、なぜ同盟強化が必要なんですか?
中国との関係悪化が大きな理由なら、それはおかしい。尖閣諸島を巡る問題の発端は石原慎太郎さんや野田政権の購入、国有化の動きにあった。波風を立てた日本自身が外交的解決に向けて、あらゆる努力をすべきでしょう。
政治や軍事では米国と近く、最大の貿易相手国となった中国と経済的には近い。軸足を2方向に伸ばしているのが今の日本の姿です。どっちつかずなのではなく、どっちにもつくことで、両方からの利益を享受できます。
日米同盟の存在を示しながら中国と向き合い、実質的な経済統合が進む東アジアの主役として米国と交渉する。そんな行動から次の発展の機会が広がるはずで、対米関係だけに傾くなら、こんなユニークな立場をみすみす失ってしまうことになります。
米国が交渉参加を求める環太平洋経済連携協定(TPP)にも、急いで乗る必要はありません。経済分野で影響力が低下しつつある米国が活力のあるアジア太平洋地域に加わりたい。それがTPPの狙いです。既にアジア経済圏の中心にある日本はどんと構え、静観しておけばいい。加盟に向け、交渉上手の米国と20分野以上も渡り合おうとすれば大変です。
逆に、中国が入らないTPPには意味がないと広く問題提起すればいい。米国中心のTPPに、たとえば日本と中国との自由貿易協定(FTA)を媒介として中国も組み入れることができるなら、中国と米国との貿易自由化の橋渡しを日本が務める形になる。その役割は、世界3位の経済大国である日本以外には果たせません。
<見直し議論必要>
世界は数百年に一度の大転換期に差しかかっています。先進国が成熟段階に入り、世界経済の重心は中国やインドなどの新興国に移りつつあります。産業革命以来といえる潮流の変化です。日本の国益に大きくかかわる日米同盟のあり方は、そうしたダイナミックな変化も視野に入れて論じるべきですが、軍事面に重点を置いた「同盟強化」の主張は、まだ冷戦期の日米関係の考え方から抜け切れていないような気がします。
超大国としての力が徐々に落ちている米国から中国などアジアへパワーシフトがもっと進むだろうこれから、「同盟強化」よりもむしろ「同盟見直し」の議論が必要なのかもしれません。対米依存の同盟関係を脱して、日本の領土や近海の防衛は日本が責任を持つ、日米の合意の下に米軍には日本から撤退してもらう――。憲法や日米安全保障条約の見直しも含め、国の防衛を国民全体で考える時ではないでしょうか。
そこまで根本的に考え直すことなく、安全保障で米国に依存したまま同盟強化を唱えても、多くの日本人にとって「国の守り」は遠い話のままです。この考えを「軍国主義化への道」と批判する人たちは、米軍基地が集中的に置かれた沖縄の「不公平だ」という怒りを、どう見ているのでしょう。自分の国は自分で守るふつうの独立国になることは、沖縄の問題の解決にもつながります。どうでしょう、考えてみませんか。
(聞き手:永持裕紀)
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経済のお話かと思ったら、国防にまで踏み込んだ榊原さんでした。
対米交渉で「ミスター円」と呼ばれただけに、対米追従とは一味違う硬骨ぶりが見えましたね。
とかく経済絡みの論説は百家争鳴の言った者勝ちの世界であり、何を指南とするか迷うことになるが・・・・
榊原さんの「
フレンチ・パラドックス」を読んで以来、榊原さんの論説をわりと信頼しているのです。