図書館で『アンナの工場観光』という本を手にしたが・・・・
歩くダジャレのような荻野アンナの工場ルポがええでぇ♪
世の中すべてが面白く見える偏向メガネでもかけているのでしょうか。
【アンナの工場観光】
![アンナ](https://image.space.rakuten.co.jp/d/strg/ctrl/9/1591c6658de67a8b83f22079ea0476dcd7f0756d.26.2.9.2.jpeg)
(画像は1999年刊文庫本)
荻野アンナ著、共同通信社、1995年刊
<「BOOK」データベース>より
アンナ様ご一行、爆笑のアヤしい工場ルポ道中。
【目次】
一万円鳴く、大蔵省印刷局/古都マネキン夢巡行/魔女の大釜を訪ねて/改造車に金の竜/雷様のおせんべい/山形シャンパンは、和魂洋酒/「わー、プロ」のワープロ/セ・シ・サンプル/愛とバイオの松阪豚/夢を乗せて飛ぶ魔法瓶/セーラー服にフグにカキ/海の向こうのゴミ砂漠
<読む前の大使寸評>
歩くダジャレのようなアンナの工場ルポがええでぇ♪
世の中すべてが面白く見える偏向メガネでもかけているのでしょうか。
rakutenアンナの工場観光
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どの工場も共同通信の小山氏が厳選しているので、面白いのだが・・・
そのなかで食品サンプル工場を見てみましょう。
p223~226
<サンプル・イズ・ベスト>
日本に旅行したことのあるフランス人が、目を輝かせて東京の話を始めた。最初に口をついて出た固有名詞は、何だと思いますか。上野?浅草?明治神宮?
彼女はひとこと、こう叫んだのである。
カッパバシ! トレビアン!!
「ロウ細工のいろんな食品がずらりと並んでいて、壮観だった」そうな。観光のついでに、合羽橋の問屋さんで食品サンプルを土産に買っていく外国人は、結構多いらしい。
その心境、わからないでもない。日本はラジカセにウォークマンだけではない。食品サンプル技術でも、世界一を誇る。他にそんなもの作る国がほとんどない、という孤独な世界一ではある。
「そんなもの」とはあんまりな、と食品サンプル業界はおっしゃるかもしれない。しかし私の「そんなもの」には共犯者的な好意と共感がめいっぱいこめられているのである。
なくても全然困らないけど、あると楽しい。心が潤う。文学も食品サンプルも、その意味では同じ範疇に属すると、いえなくもない。現実をきわめてリアルに摸倣すればするほど、そこはかとない幻想味が漂い、食欲をそそるのに、煮ても焼いても食べられない。ある種の小説やノンフィクションに、通じるものがある。
魅力的なニセモノは、それなりに市民権を得たようである。ここ数年は、ミニチュアのすしやパフェや目玉焼きが、イヤリングやキーホルダーに化けて、ファンシーショップに並ぶようになった。そそられる。けれども、手が伸びない。ミニチュアよりは本物のほうが、といっても本物自体ニセモノなわけだが、やはり迫力において勝っているからだ。
サンプルは欲しいが、カッパバシは遠い。半分あきらめていたところに、今度の取材である。渡りに船と、業界の老舗「イワサキ・ビーアイ」の、池上工場に参上した。
<島津の末裔>
食品サンプルは、なぜ他の国になくて日本にあるのか。他の国に岩崎さんがいなかったからである。三代目の岩崎毅専務に、サンプル誕生にまつわる社内の「伝説」をうかがった。
時は昭和の初め。先々代が街歩きの途中で、ふと歩みを止めた。店先に、奇妙なものが置かれてある。食品の模型である。おそらくは木製だっただろう、と言われている。
江戸時代から、木製の人体模型を作る技術は存在していた。これを見て島津製作所が作った模型が、問題のモノであったらしい。しかしレストランに模型を並べる習慣のなかった当時、何のために作られたのだろうか。謎は残るが、とにかく目にした先々代は叫んだ。
「よし、これでいこう!」
聞いていた小山さんが「おおっ」と声を上げた。以前に訪問したマネキンの七彩は、島津の流れをくむ。つまりマネキンと食品サンプルは、そうと知らずに別々に世を渡っていた異母兄弟、ということになる。
「マネキンの後で食品サンプルの取材、というのは、出来すぎた偶然ですね」
「取材の円環が閉じられてきましたね。われわれの意図を越えて奥が深い。この企画は成功ですよ」
勝手な解釈に自己陶酔のわれわれを尻目に、伝説は続く。
偶然の出会いから、食品模型を一生の仕事と決めた先々代であるが、製作の技術や素材に関して、悩む日々を送っていた。
停電の夜のことである。部屋の暗闇に灯したロウソクのロウが、時間の経過とともに、たらーり、たらーりと垂れて、畳に溜まった。
明くる日の朝、白濁したロウの固まりが畳にへばりついているのに気づいた先々代は、これを一気にひっぺがした。と、あらあら不思議。はがしたロウの裏側は、鮮やかに畳の目をひろっているではないか。先々代二度目の「これでいこう!」で、食品サンプルの材料はロウと決まった。
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ちなみに、食品サンプルの現状をメーカーさんのHPで見てみましょう。
日本サンプルHPより
食品サンプルは、日持ちのしない食べ物を日持ちする素材を使って、リアルに再現する食べ物のニセモノです。
以前は、食品サンプルの素材に着色しやすいロウ(パラフィン)を使用していましたが、退色や変形の問題が多く、現在ではプラスチックや、シリコン、ウレタン系素材等、あらゆる耐久素材を使用し製作されています。
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次はロケット工場です。比較的ダジャレが少なくて、真面目なレポートになっています。
<宇宙の遠足をめざして>p293~297
![H2A](https://image.space.rakuten.co.jp/d/strg/ctrl/9/7aa9bdbe70e423feea37c4f02eda4a7cd05bacc9.26.2.9.2.jpeg)
直径5メートルの油圧隔壁は、工場の床から天井まで届く。カメラの絞りが異常増殖した感じ。見ていて大きさの感覚が麻痺してきた。それでもH2の部品が目の前に並ぶと、とたんに蟻になった自分を感じた。
映画でいうならフェリーニの世界。巨大なハリボテに埋め尽くされた幻想空間である。 ギリシャ神殿の円柱を黄土色に塗り込めたようなものが2本、横並びで寝そべっている。間には、スカートを広げたかたちの金属の円錐がはさまっている。
円柱が液体タンクで、円錐がエンジン。エンジン→タンク→エンジン→タンク、と並べてある。順番通りにカバーでつなげていけば、二段ロケット一丁上がり、となる。
ちなみにH2の全長は、約50メートル。部品の端から端まで駆けると、50メートル走になる。直径4メートルと、厚さもハンパではない。円柱に架設した作業台は、二階建てになっている。
木造モルタル二階建て、という表現が脳裏に浮かんだ。たしかに二階建て。タンクの表面の、ざらついた黄土色はモルタルのイメージだ。もちろん木造ではない。アルミの地肌に、断熱材が吹きつけてある。
黄土色のざらざらは、沸点がマイナス253度の液体水素のための断熱材だった。
「魔法瓶が空飛んでるようなものですよ」
そんな、身も蓋もない。「衛星の運び屋」の後は、「魔法瓶」ときた。アポロ世代がロケットに抱く夢を、現場は見事に粉砕してくれる。
ところで、このタンクは完成品なのだろうか。完成品だという。ざらざらの上に、何か塗ったりかぶせたりしないのだろうか。しないそうだ。
納得できない。ロケットといえば白くてツルツルの、背筋の伸びた鶴のようなものではなかったか。
「白いのはジョイントのカバーです。後はこのまま剥き出しですよ」
「これが、このままで宇宙に行くんですってよ」
「と、いうことは・・・」
千絵ちゃんと、顔を見合わせる。次の瞬間には、二人揃ってロケットの腹をぺたぺたと触りまくっていた。これで、間違いなくわれわれの指紋が宇宙に届く。
なんて奴らだ、という顔で眺めていた小山さんも、最後に遠慮がちに、ちょんと指の先を押しつけた。やはり宇宙進出の誘惑には勝てなかったらしい。
(中略)
見学の後の外気はすがすがしい。冬枯れの芝生で伸びをしているところに、つつ、と寄ってきたのは、エンジニアの三宅薫さんだ。背広にアタッシュケースのいでたちは、作業着姿の工場勢にあって、ひとり際立っていた。にもかかわらず、いちばん寡黙な人でもあった。解説の要所要所で、専門知識が必要になった時だけ、重い口を開いていた。
「いかがでしたか、ロケットは」
この人の「いかが」には、それこそいかが答えたらよいのだろう。理系向きに選びかけた言葉を飲み込んで、思ったままをぶつけてみた。
「きれいですね」
「そうですか」
会心の微笑みが、三宅さんの顔にさざ波のように広がっていった。
この時、私の脳裏にあったのは坂口安吾の「日本文化私観」である。安吾は法隆寺や平等院などの文化遺産を、歴史を踏まえた上で納得しなければならないような美しさであると説く。その一方で、美を意識せずに、機能本位に作られたものの中に、意外な美を露呈しているものがある、として、小菅の刑務所やドライアイスの工場を例に挙げている。
たしかに現実のロケットは、アニメで見るそれとはまるで異なっていた。優美というよりは無骨。谷崎先生や川端先生はとても褒めてくれそうにない。おまけに想像を絶する図体のデカさは、ちまちました日常の中では、ほとんど意味をなさないように見える。きっと無限の宇宙空間に昇った時、初めて真の姿が立ち現われるのだろう。
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