図書館に予約していた『スメルジャコフ対織田信長家臣団』という本を、待つこと1週間でゲットしたのです。
ぱらぱらとめくると「村上ラジオ」に連載された記事を集めて編集されているが・・・
村上さんの翻訳家時代の活発な姿が見られます。
【スメルジャコフ対織田信長家臣団】
村上春樹著、朝日新聞出版、2001年刊
<「BOOK」データベース>より
不倫相談・ドーナツ情報・村上作品・音楽・映画の話から、なぜか『カラマーゾフの兄弟』まで、「何でも相談室」の村上さんがお答えします。CD-ROMに約4千通のメールを収録!3年半にわたる作家と読者のメール交換の総決算。
<読む前の大使寸評>
ぱらぱらとめくると「村上ラジオ」に連載された記事を集めて編集されているが・・・
村上さんの翻訳家時代の活発な姿が見られます。
<図書館予約:(2/12予約、2/19受取)>
rakutenスメルジャコフ対織田信長家臣団
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「今月の読書」3篇で村上さんの読書傾向を、見てみましょう。
p30~32
<思わず笑ってしまう高橋秀実『素晴らしきラジオ体操』>
高橋秀実『素晴らしきラジオ体操』(小学館)を読みました。高橋さんは僕が『アンダーグラウンド』を書いたときにリサーチャーとして働いてくれた人で、とても有能なノンフィクションのライターです。知り合いだから推薦するわけじゃないけど、これはほんとにおかしい本です。どうして日本人はこんなにもラジオ体操が好きなのかというのを、正面から調査し考察した労作で、読んでいて思わず笑ってしまいます。
僕は知らなかったのだけれど、広島に原爆が落とされたとき、広島にいた兵隊のほとんどはちょうどラジオ体操をしていたのですね。空にB29爆撃機が見えたいえれど、「体操の途中だったので、そのまま続けました」っていうことだけど、すごいですねえ。ラジオ体操って、空襲があっても、途中でなかなかやめられないんですね。
<49歳の永井荷風の日記を集中的に読んでみる>
『断腸亭日乗』(岩波文庫)は37歳から79歳までの永井荷風の日記ですが、荷風が僕の年のころ何をしていたのかなと興味があったので、49歳のところを集中的に読んでみました。昭和2年のことです。
なんかほとんど毎日銀座で酒を飲んで、女給と遊んでいるんですね。いいなあ。でもときどきいろんなことにひどく腹を立てていて、おかしいです。そのままでは漢字がとても変換できそうもないので、あらすじを現代語訳しますと、
「1月6日。銀座に出ようと思って夕方箪笥町の崖下の道を歩いていたら、一群の児童が私の通り過ぎるのを見て、背後から私の名前を連呼した。なんだろうと思って振り返ると、みんなで一斉に拍手哄笑して逃げ去った。まるで狂人か乞食を相手にするような振る舞いである。
しかし近隣の児童がどうして私の名前や顔を知っておるのか。これというのも私がものなんか書いているからである。虚名の災いもここまでくれば、まったく忍びがたい。雑誌や新聞の毒筆なんかは、こっちが見ないでおればそれですむことだが、子供の面罵までは避けようもない。嘆かわしいことである。それにしてもいまどきのガキたちの凶悪暴慢さは憎んでもあまりある」
気持ちはまあよくわかるんだけど、子供相手に「凶悪暴慢」ってのはちょっとないんじゃないかなと思います。いくらなんでも大人げないじゃないですか。でも荷風ってなんかすごく変なおっさんだということが、これを読んでいるとよくわかりますね。
<ポール・セロー『地中海旅行記』も怒りっぽい>
腹を立てるといえば、ポール・セロー『地中海旅行記』(NTT出版)も、なんかしょっちゅう腹を立てている本で、この人は年をとるにつれて確実に怒りっぽくなっていますね。『鉄道大バザール』のころもたしかに皮肉っぽくて、ことあるたびに腹は立てていたんだけれど、そこにはそれ以上に新鮮な好奇心があり、ユーモアがあった。
でも最近の彼の本は絶望感みたいなものがだんだん色濃くなっているように思います。この前読んだ『オセアニアの幸福な島々』(これは未訳)は、最初から最後まで日本人に対する悪口で埋まっていた。とても面白いエピソードに満ちた本だし、ぜんぜん手抜きしてないし、言っていることはたしかにごもっともなんだけど、読んでいてだんだん疲れてきます。それに比べたら、荷風の腹の立て方は、それこそご本人が子供みたいであっけらかんとしていて、なかなか可愛いですよね。
人間って年をとると、だんだん怒りっぽくなるんだろうか。僕もなるべくいろんなことに腹を立てないで、少なくとも文章を書くレベルでは、のんびりとマイペースで生きる「O2Sじじい」になりたいです。
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O2S・・・なんじゃそれ? 調べてみたら、オープン2シーターでした。村上さんはけっこう車好きのようです。