図書館で「貧困パンデミック」という本を手にしたのです。
「寝ている『公助』を叩き起こす」ってか・・・
表紙に書かれたコピーに惹かれて、チョイスしたのです。
【貧困パンデミック】
稲葉剛著、明石書店、2021年刊
<「BOOK」データベース>より
2020年春以降、生活困難な層が急速に拡大し、貧困の現場でも緊急事態が到来した。「誰も路頭に迷わせない」と立ち上がった著者たちの支援活動記録と政策への提言。
<読む前の大使寸評>
「寝ている『公助』を叩き起こす」ってか・・・
表紙に書かれたコピーに惹かれて、チョイスしたのです。
rakuten貧困パンデミック |
扶養照会が生活保護の申請を妨げる「水際作戦」に使われているようだが・・・
「第4章 2020~21年冬」で21年当時の扶養照会が語られているので、見てみましょう。
p176~180
<権利と尊厳が守られる生活保護に>
例年のことだが、年末年始の取材ラッシュが終わると、生活困窮者支援の現場には静けさが戻ってくる。
毎年、この時期になると、「マスメディアにとって貧困問題は季節の風物詩扱いなのか」という思いと、「年末年始だけでも注目してくれるのであれば、それで良しとすべきなのか」という思いが交錯をしてしまう。
■民間の努力は限界に近い。公助を叩き起こす必要
しかし、社会的な注目が薄らぐ中で、支援の現場に集まる人の数は増え続けている。
東京都内各地でホームレス支援団体が定期的に実施している食糧支援の現場では、年が明けてからも集まる人が増加し続けている。
NPO法人TENOHASIによると、2月13日に東池袋中央公園で実施された弁当配布・相談会には、336人もの人が列をつくったという。近年では最も多い人数で、コロナ以前と比べると、2倍まで増えたことになる。
ホームレス支援の場で、従来から来ている中高年の男性に加え、若い世代の顔を見かけるのは、もう珍しい出来事ではなくなっている。
集まる人の増加と感染症対策により、支援団体の負担も重くなっている。感染リスクを下げるため、TENOHASIでは通常の炊き出しに替えてパック詰めの弁当を支給しているため、コストは以前の15倍以上かかっているという。
私が代表を務めている一般社団法人つくろい東京ファンドでは、住まいを失う人が増加していることを踏まえて個室シェルターの増設に取り組んでいる。シェルターとして確保している個室はコロナ以前の25室から現在59室まで増加した。シェルター事業を支える人的な体制の整備も進めているが、なかなか追い付かないのが実情だ。
民間で生活困窮者支援に関わるどの団体、どの個人も、急激な貧困拡大に対応すべく、懸命な努力を続けている。だが、その努力も限界に近づきつつあるのではないか、と私は危機感を感じている。
「自助も共助も限界に来ている。今こそ、公助の出番だ」と、私たちは言い続けてきたが、「公助」の存在感は薄いままだ。
「公助」がどこかで昼寝をしているのであれば、人々が声をあげて叩き起こすしかない。最近、私はその思いを強くしている。
■菅首相の「最終的には生活保護」発言
そんな「公助」の現状を象徴するようなやりとりが国会であった。
「政府には最終的には生活保護という仕組みがある」
1月27日の参議院予算委員会。菅義偉首相はコロナの影響で生活困窮者が増加していることへの対策を問われた際、このような答弁を行い、批判を浴びた。
生活保護制度は「最後のセイフティーネット」であると言われており、菅首相の答弁は教科書的には間違っていない。しかし、現在の社会的・経済的状況のもとで政府の責任者が発する言葉として、この答弁で十分だと考える人はほとんどいないであろう。私たちが政治のリーダーから聞きたいのは、「OK Google」と聞けばわかるような社会保障の基礎知識ではないからだ。菅首相には、生活苦にあえぐ人々に支援の手が届かない実情をどう変えていくのかを具体的に答えてもらいたかった。
私は、現下の貧困拡大に対応するためには「生活保護の手前の支援策の実施、拡充」と「生活保護そのものを利用しやすくするための改革」の両方が必要だと考えている。
手前の支援策としては、再度の特別定額給付金の支給が必要だと考える。
一律の給付金支給には批判も多いが、「一定の所得以下」や「コロナの影響で減収したこと」等の支給要件を設けると、窓口での審査に時間がかかる、結果的に制度からこぼれ落ちる人が出る、といった問題が生じやすくなる。
即応性を重視し、困っている人を取りこぼさないようにするのであれば、一律の給付が最も現実的である。高額所得者や資産家には後で税金の形で返してもらうのが酔いであろう。
また、生活の基礎である住まいを維持・確保できるようにするため、現在の住居確保給付金を見直して、普遍的な家賃補助制度へと改編すること、民間の空き家・空き室を借り上げる形での現物給付型の住宅供給を実施することも求めていきたい。
■制度の利用を阻む「扶養照会」
他方、生活保護制度には、資産要件の緩和や現場を担う職員の質的量的な拡充、名称変更によるイメージアップ等、改善すべき点はたくさんある。その中で、最も急がれるのは前回の記事でも取り上げた扶養照会の見直しだ。
私たちが年末年始の相談会に来られた生活困窮者を対象に実施したアンケート調査では、生活保護を現在、利用していない人の3人に1人(34.4%)が、利用していない理由として「家族に知られるのが嫌だから」という選択肢を選んでいた。
扶養紹介が生活保護の利用を阻害する最大の要因であることがアンケート結果により明らかになったため、私たちは厚生労働大臣に対して、本人の承諾なしで家族に連絡しないよう、扶養照会の運用見直しを求めるネット署名に取り組んでいる。
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「貧困パンデミック」1:ボブという名の猫