チキンハンバーグの詩 / 第2章 ~32~
冬休みの家族連れで賑わう動物園の食事ができる休憩所で1人の子供が大泣きしながら弁当を食べている。その子を大泣きさせたのは私だ。その私はあまりの驚愕からくる落胆ぶりに、周りへの迷惑へ配慮できる精神力は無かった。どう思われてもいい。どんなに迷惑がかかってももう成す術が、、、いや、抗う気力が無かった。しかし、そんな私たちに世間というのは温かかった。見知らぬおばさんが近づいてきて、まーちゃんに声をかけてくれる。「お~、どないしたんや。美味しそうなお弁当を食べながら泣かんでもええがな。」と言いながら彼の涙と鼻水をテッシュで拭ってくれた。彼が泣きながらも「お母ちゃんが作ってくれてん。」と言う。言葉にそのおばさんは「お~そらよかったやんか。お~美味しそうなお弁当なや。よう噛んでゆっくり食べや。な~んも心配せんでもええからな。」とまた涙を拭いてくれる。そのおばさんの登場に、まーちゃんの泣き声は少しずつ収まっていく。「ほなな!」と言ってまーちゃんの肩を優しくポンポンと叩いたおばさんは、立ち去り際に私の肩もポンポンと軽く叩いてくれた。私はそのおばさんにお礼を言うこともできなかった。しかしなんとか立ち去るおばさんの背中に向けて、椅子に座ったままではあるが一礼だけはした。そして顔を上げたとき周りを様子が目に入った。子供を連れたお母さんたちは、そんな私にニコっと微笑んでくれたり、「大丈夫。分かってるから気にせんでええよ」と言わんばかりにうなずいてくれたりした。母親というものは、見知らぬこんな私にさえも、何と優しく慈悲深いものかとこのとき改めて思い知らされた。