「なんなのよ、全く!」
フロイデナウ競馬場で憧れの人・ルドルフ皇太子と運命の出逢いを果たしたものの、当の皇太子は自分を無視して、司祭の手を取った。
「お可哀想なお嬢様。」
ロマンチックなルドルフとの出逢いをイメージしていたが、それが叶わずに憤っていたマリーに、ハンナは声を掛けた。
「ハンナ、どうしたら皇太子様の気をひくことができるの?」
「それは・・」
ハンナは口端を歪めると、マリーの耳元に何かを囁いた。
それから間もなくして、ルドルフとマリーが仲睦まじく並んで歩く姿を女官達が目撃し、“皇太子は若い娘に手をつけた”という良からぬ噂が広がり始めた。
(ルドルフ様、あなた様は一体何をお考えなのですか?)
ユリウスは悶々としながらも、ルドルフにマリーとの関係を聞けずにいた。
その日の夜、ルドルフの寝室へと呼びだされたユリウスは、思い切ってマリーとの関係を彼に聞いた。
「あの小娘の事なら、お前が思っているような疚しい関係ではない。あの馬鹿な小娘は、恐らくドイツの手先だろう。」
「ドイツの?」
「ああ。わたしに近づいてくる女は何かしら裏がある。野暮な田舎男じゃない限り、そのような見え透いた手には乗らない。」
「そうですか・・」
マリーとの関係はあくまでもドイツの手を探る為なのだと知り、ユリウスは安堵した。
「ユリウス、嫉妬しているお前の顔も可愛いな。」
「もう、ルドルフ様・・」
ただ話すだけだったのに、今宵もユリウスはルドルフによって甘く啼いた。
「ねぇ、皇太子様はまだあのミッツィとかいう女と付き合っているの?」
「そうらしいですね、お嬢様。」
ハンナはそう言って、マリーを見た。
「どうしてあんな娼婦に皇太子様は夢中なのかしら? わたしなら皇太子様を癒してさしあげられるのに・・」
1889年1月27日。
マリーとこのまま偽りの関係を続けるのにも嫌気がさしたルドルフは、思い切ってシュティファニーとの離婚を許して貰えるよう、ローマの教皇に手紙を出した。
当然答えは、ノーだった。
その事でフランツと激しく口論したルドルフだったが、ドイツ大使館のパーティーにて、正妻であるシュティファニーを差し置いて、ルドルフはマリーとワルツを踊り続けた。
「皇太子様、本当にいいのかしら?」
「ああ、君とずっと一緒に居たいんだ。」
「嬉しいわ・・」
ルドルフをハニー・トラップに仕掛けるつもりが、逆に彼が仕掛けたハニー・トラップにはまってしまった愚かな小娘を、ルドルフは心の中で笑った。
1889年1月29日未明、マイヤーリンク。
「ここでわたし達は永遠の愛を誓うのね。心中のふりだなんて、ロマンチックだわ。」
「そうだね、マリー。もうここで君の役目は終わりだよ。君のお蔭でドイツが何を企んでいるのか解ったよ。さぁ、もう行きなさい。」
「わたしはあなたを愛しているわ、あなたもそうでしょう!?」
「おや、知らなかったのかい? わたしはちっとも君の事なんか愛していなかったよ。」
マリーはルドルフの言葉に打ちのめされ、自ら銃で頭を撃ち抜いた。
「ルドルフ様・・」
「もう行こうか、ユリウス。」
ルドルフはユリウスを連れて部屋から出ようとすると、ドアが開いてハンナがルドルフに銃口を向けた。
「ルドルフ様!」
ユリウスが己を盾にしてルドルフを守ろうとしたが、ハンナは壁に向かって撃った。
「後はわたくし達にお任せ下さい。」
「済まない・・」
ルドルフはマイヤーリンクにて謎の死を遂げたことになっているが、真相は未だ闇の中である。
あっという間にマイヤーリンク事件まで書いてしまいましたが、あっさり風味で終わってしまいました。
マイヤーリンク事件終了とともに、19世紀末ウィーン編も95話で終わりです。
次回から、時代ががらりと変わって第二次世界大戦下の欧州と日本を舞台にする予定です。
にほんブログ村