「どうした?」
「先輩、あれ・・」
姫沢が震える手で指し示す方向には、シシィ=ローゼンフェルトの姿があった。
「あら、あなたあの時の・・お久しぶりね。」
シシィはそう言って口端を吊りあげて笑った。
「貴様か、騰蛇を操り火災を起こしたのは?」
「ええ、確かにわたくしですわ。でも、カラオケボックスの火災を起こしたのはあの子よ。わたくしはあの子の手助けをしただけですわ。」
シシィはまるで歌うかのようにそう言うと、直輝を見た。
「貴様は一体何が狙いだ?」
「いいえ、何も。」
直輝はつかつかとシシィに近寄ると、彼女の手を掴んだ。
「何をなさるの、放して!」
「反魂した身体を動かすには、生きている人間の血が必要か。それで騰蛇を使って火災を引き起こした。パリの猟奇連続殺人もお前の仕業だな!?」
「まぁ・・ご彗眼でいらっしゃること。」
シシィの長い金髪が風もないのに大きく波打った。
「せ、先輩・・」
「姫沢、応援を頼む。ここはわたしに任せろ。」
「解りました!」
「逃がしませんわ!」
シシィの蒼い瞳が姫沢を睨み付け、彼を逃がすまいと炎を放ったが、それは彼に届く前に水によって掻き消された。
「おっと、お前の相手はこのわたしだ。余所見しないで貰おうか!」
「青龍ね・・炎の相手は水ということなのね。戦い甲斐がありますわ!」
シシィがそう叫ぶと、彼女を取り巻いていた炎が一段と激しさを増した。
「この程度の炎で、わたしが倒せると思っているのか!」
炎の矢が自分を襲ってくる前に、直輝は寸でのところで印を結び、水の壁を作った。
「ふふ、なかなかやる方ね。殺すのが惜しいわ。」
シシィはそう言うと、地面を蹴って宙に浮いた。
「これでどうかしら?」
彼女はにぃっと笑うと、呪を唱えて両手を掲げた。
すると赤黒い球体が徐々に大きさを増していった。
(あれは・・)
「死になさい!」
直輝は避けようとしたが、床に穴が開き、彼は奈落の底へと叩き落とされた。
「馬鹿な男・・殺し甲斐があったから、いいわ。」
シシィがそう言った時、ビルが轟音を立てて軋んだ。
「さようなら、おばかな刑事さん。」
彼女は甲高い笑い声を上げながら、ビルから立ち去った。
「先輩!」
ビルが轟音を立てて崩落する様を目の当たりにした姫沢がビルの中へと入ろうとした時、警察官に止められた。
『危険です、下がってください!』
「先輩、先輩~!」
崩落し、瓦礫の下敷きとなった直輝が頬にざらついた舌の感触がして目を開けると、そこには白虎が自分の身体を温めようと懸命に顔を舐めていた。
「済まないな・・」
『主を守るのが式神の役目。』
「そうか・・」
手足の感覚はまだあるから、瓦礫の下敷きとなった時に神経は傷ついてはいないようだ。
この場所では携帯の電波が届かない。
「朱雀・・少し頼めるか?」
直輝は朱雀を召喚すると、ある事を朱雀に頼んだ。
「何だ、あれ?」
「鳳凰か?」
ビルの頭上を旋回している朱雀の姿を見た姫沢は、直輝が無事であることを知り胸を撫で下ろした。
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