枕草子第百二十八段から。
頭の弁(行成)から、絵か何かを白い色紙に包んで、梅の花が見事に咲いた枝につけた物を贈ってきました。餅餤(へいだん)というものを二つ並べて包んだものでした。添えられた立て文には
進上
餅餤一包(ひとつつみ)
例に依て進上如件(くだんのごとし)
別当少納言殿
とあって、「みまなのなりゆき」と署名があります。「自分で参上したいとは思っておりますが、顔がみっともないので…」とみごとな筆跡で書いてらっしゃるのでした。
少納言の地位にある男性宛ての正式な進物に見立てて、物を贈るという趣向です。二月の「定考(じょうこう)」という公事の日のことです。
餅餤は、餅の中に煮合わせた鵝鳥・鴨などの子や雑菜を包んで四角く切ったものだそうです。唐菓子の一種ですが、餅は神仏に供えたり、祝賀の折に用いられる特別な食物でした。
面白い仕掛けと美しい筆跡に、中宮定子も感心します。清少納言は、真っ赤な薄様(紙)に「自分で持ってこない様な下僕は、面白くない人と思われますわよ」と書いて、紅梅の枝に結いつけて贈ります。
白い色紙と紅い薄様、白梅と紅梅の対比を意識した返しです。行成は「教養を鼻にかけた歌などで返さず、全くりっぱなお答えでした。」と、天皇や大勢の人々の前でもこの話を披露されたと伝えます。行成は「すぐ歌を返すようなありきたりの女の人でなくてよかった。あなたみたいな付き合いやすい人がよい。」とも言ってきました。