将棋とクラシック・ギター、白チャート数学と、ときどき愛国者。

流し台で水道の蛇口を開けたのでございます。

流し台を素早く動く気配なのでございます。

一匹のゴキブリが、わたしに見つかってしまったのであります。

逃げ遅れたのであります。

水をかけたのであります。

ゴキブリにとっては、アクシデントなのであります。

仰向けになってしまったのであります。

一生懸命脚をジタバタしているのであります。

ジタバタしても、起きあがることができないのであります。

ときどき、休んでいるのであります。

ゴキブリにも疲労というものがあるのであります。

また、ジタバタし始めたのであります。

ときどき、体を丸めているのであります。

きっと、力をためているのでありましょう、かな？

しばらく、流し台から離れたのであります。

様子を見に戻ったのであります。

まだ、ジタバタもがいているのであります。

いつもは泡の洗剤を吹きかけて、始末するのであります。

どういうわけか、あまりの懸命さに、情が移ってしまったのであります。

ゴキブリではありますが、「やれ打つな蝿が手をすり足をする」の有名な句が浮かんだのであります。

名称を忘れてしまったのであります。

ぼけてきたのでありましょうか？

あ、そうでした。

割り箸なのであります。

窓を開けて、ゴキブリを放り出そうと思ったのであります。

割り箸でゴキブリをつかむのであります。

ゴキブリの反抗心が割り箸を伝わってくるのであります。

気持ち悪いのであります。

ティッシュペーパーを緩衝材にしたのであります。

ゴキブリを包み込んでつまみ上げたのでございます。

台所の出口のドアを開け、ゴキブリを放り投げたのでございます。

ヨタヨタと、土の上を歩き始めたのでございます。

「もう、来るなよ。」、なのであります。

泡の洗剤をふきかけて始末してしまう、からなのであります。

ところで、ゴキブリは、数億年にもわたって生きながらえているのだそうでございます。

新参者の人間などにホイホイ駆逐され、さぞや無念の思いでしょう、ね？