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2008.05.03
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カテゴリ:カテゴリ未分類
静岡県で胎盤早期剥離を起こした妊婦が母児ともに亡くなられた。↓
http://mainichi.jp/area/shizuoka/news/20080503ddlk22040149000c.html

おかしなことに警察署に届けられ、刑事事件として司法解剖が行われているようである。これがどれほどおかしなことかみんなわかっているのだろうか?

胎盤早期剥離は予測が不可能な疾患で、なおかつ母児とも命を失う可能性のある実にやっかいな疾患だ。
個人的には幸い母体の死亡には遭遇していないが、児が胎内ですでに死亡している例は年に1~2回あり、その都度「医療ミスでは無いか?」「なぜもっと早くにわからなかったんだ?」と最初からミスありきの前提で家族から責められる。これが正に若い医師が産婦人科を目指さなくなる理由だと実感する。

この記事を読む限り、来院時すでに胎児は死亡していて、母体を救うべく帝王切開を行っている。不幸にして母体は急激な血圧低下と痙攣を起こして亡くなられたということだ。
妊娠・出産はこういった危険がつきまとうものであり、我々はベストを尽くして患者さんを救いたいと思うが、常に100%いい結果が出せるとは限らないのは事実である。
しかし福島県立大野病院の事件もそうだが、明らかに犯罪性のない病死を刑事事件の対象とするのは相当におかしなことなのである。

残された家族にしてみれば、医療側に不満をぶつけたくなるのも理解できる。
しかし警察署に届けるという昨今の風潮は明らかに間違っている。こういうときによく「真実を知りたい」という言葉が出てくる。しかし実際は刑事事件にしてしまうことで真実がわからなくなる可能性の方が高い。

医学的に考えれば、この患者さんの死亡原因は胎盤早期剥離からDIC(播種性血管内凝固症候群 血液の凝固能力が無くなる状態)を起こしたためか、羊水塞栓を起こしたのか、肺血栓を起こしたのか、あるいは偶発的に脳血管障害を起こしたのか、等々が考えられる。

常識的に、このような場合死因の解明を行うのであれば病理解剖を行うべきである。司法解剖を行うのはスジちがいもいいところだ。
「患者の診療継続中の病気による死亡の場合、死因を救命するためには病理解剖を行う」ことを医学関係者なら誰もが知っている。

どっちにしたって解剖じゃないかと思われるかもしれないが、病理解剖と司法解剖では全く目的が異なる。解剖を実施する医師の資質も全く別のものである。

疾患に伴う病的プロセスがどのような経過を持って患者を死に至らしめたのかを追求するのが病理解剖で、これは専門の病理医が行う。病理医は疾患の広い知識と、実際に疾患によって体に残る足跡を追求することを専門としている。

一方司法解剖は、病死と断定できず死因に犯罪がからんでいる可能性がある場合に検察が法医学者に依頼して行われる。法医学者が得意とするのは、例えば死亡推定時刻の割り出し、自殺か他殺かの判断、多くの刺傷があった場合にどれが致命傷になったかとか、火事場から発見された遺体が焼け死んだのか火事の前にすでに死んでいたのか等々についてである。

従って同じ解剖といっても、選択を間違えればわかる死因もわからなくなりかねない。おそらく呼び出された法医学者も困るはずだ。

病死患者の遺族が応報感情から警察へ届け出るというパターンができあがってしまった感があるが、この流れはもう止めるべきだと思う。





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Last updated  2008.05.03 14:39:56
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