1453170 ランダム
 ホーム | 日記 | プロフィール 【フォローする】 【ログイン】

やっぱり読書  おいのこぶみ

やっぱり読書 おいのこぶみ

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
2023年08月19日
XML
カテゴリ:読書メモ
『夏の砦』辻邦生

著者初の長編という、ういういしい作品。

物語性があり、文章も精緻を究め、なおかつ淡麗。芸術の芸術たるところを高めて語っている。

構成がちょっとややこしい…(夏目漱石の『こころ』を思いだします)

まず、語り手のあるエンジニアが登場。支倉冬子という若き女性と知り合い、つかのまの交流ののち、突然冬子が北の海でヨットに乗ったまま行方不明になってしまった、ところから始まります。彼がエンジニア魂を発揮し、冬子の軌跡を辿って彼女の日記や手記、最後に届いた手紙を見ていく構成です。

北の海と言ってもそれは日本ではなく、スカンジナビア半島に近いバルト海らしい。語り手としりあった場所もその周辺と思われる仏独に近い北の国なのです。「デンマーク?」と思うのだが...ま、それは重要ではありません、北欧のある国でいいのでしょう。

そういえば物語も「人魚姫のものがたり」を彷彿させるかも。かなわない恋に向かってひたむきなのだけれども、泡となってしまったという。

そう、冬子はかなわない恋(芸術性)を求めて、北の国に織物工芸の学生となって、留学していたのでした。語り手と知り合ったころには、彼女の憂愁な様子を見受けます。でも、語り手とは悩みの真実を語らず穏やかに交流。その後行方不明、生死不明になり、語り手の後悔と探求心を刺激したのでした。

そして、日記と手記を辿って彼女の生きた物語が明かされていきます。戦前の裕福で文化的な生活が描かれますが、思うに、一時期、それでもいい時代があったのですね、佐藤愛子『血脈』や北杜夫『楡家の人々』の世界ですね。現実わたしなども姑や夫からその生活ぶりをどれだけ聴かされたか。(なんにもない戦後に物心ついたわたしはちょっとうらやましかったのが本音)

この冬子の物語も大木クスノキ(樟)の葉のざわめく大きな屋敷を中心に展開します。その物語が流麗に語られて、冬子の人となりを醸し出します。言うなれば贅沢な話ばかりです。それも芸術性に富んで美しく語られるのですから。しかし、喪失の痛みが潜んでいたとは...。

さきに読んだ中編『回廊にて』を発展させたものと、作者も言ってます。このわたしが読んだ『辻邦生作品集 2』には大部(2段組100ページ)な作者の「創作ノート」が採録されていて、試行錯誤、小説を紡いだようすがわかり、作者の意気込みが伝わります。

ここから「辻邦生」がはじまったのですね。文学の芸術性を求めて。






お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2023年08月19日 12時52分43秒
コメント(2) | コメントを書く
[読書メモ] カテゴリの最新記事


PR

プロフィール

ばあチャル

ばあチャル

カテゴリ

コメント新着

ばあチャル@ Re[1]:『時の扉』(06/23) todo23さんへ 邦生→邦生 ありがとうござ…
todo23@ Re:『時の扉』(06/23) 懐かしい名前を見かけ、私も久しぶりに読…
alex99@ Re:2024年1月の読書まとめ(05/26) おひさしぶりです ご無沙汰しております …
七詩@ Re:あれから(05/09) おかえりなさい ばあちゃるさんの読書日記…
イサムちゃん@ Re:『鬼怒川』有吉佐和子(03/28) お久し振りです❣ ずっとお待ちしておりま…

お気に入りブログ

みみずのたわごと:… New! 天地 はるなさん

キム・ドクミン「DOG… New! シマクマ君さん

英語やろうぜ! … New! alex99さん

103万円の壁とはtcky… New! tckyn3707さん

同性婚を認めないの… 七詩さん

後出しじゃんけん ひよこ7444さん

サイド自由欄

フリーページ

耽溺作家の作品群


山本周五郎の世界


清張ワールド


クリスティの手のひら


時代物の神様正太郎


宝石箱


子供の頃の読書


作家別読了記録【あ】行


【あ】 日本文学


【ア】 外国文学


【い】 日本文学


【イ】 外国文学


【う】 日本文学


【ウ】 外国文学


【え】 日本文学


【エ】 外国文学


【お】 日本文学


【オ】 外国文学


作家別読了記録【か】行


【か】 日本文学


【カ】 外国文学


【き】 日本文学


【キ】 外国文学


【く】 日本文学


【ク】 外国文学


【け】 日本文学


【ケ】 外国文学


【こ】 日本文学


【コ】 外国文学


作家別読了記録【さ】行


【さ】 日本文学


【サ】 外国文学


【し】 日本文学


【シ】 外国文学


【す】 日本文学


【ス】 外国文学


【せ】 日本文学


【セ】 外国文学


【そ】 日本文学


【ソ】 外国文学


【た】行


【た】 日本文学


【タ】 外国文学


【ち】 日本文学


【チ】 外国文学


【つ】 日本文学


【ツ】 外国文学


【て】 日本文学


【テ】 外国文学


【と】 日本文学


【ト】 外国文学


【な】行


【な】 日本文学


【に】 日本文学


【ぬ】 日本文学


【の】 日本文学


【ノ】 外国文学


【は】行


【は】 日本文学


【ハ】 外国文学


【ひ】 日本文学


【ヒ】 外国文学


【ふ】 日本文学


【フ】 外国文学


【へ】 外国文学


【ほ】 日本文学


【ホ】 外国文学


【ま】行


【ま】 日本文学


【マ】 外国文学


【み】 日本文学


【ミ】 外国文学


【む】 日本文学


【メ】 外国文学


【も】 日本文学


【モ】 外国文学


【や】行


【や】 日本文学


【ゆ】 日本文学


【ユ】 外国文学


【よ】 日本文学


【ら】行 【わ】行


【ラ】 外国文学


【り】 日本文学


【リ】 外国文学


【ル】【レ】【ロ】 外国文学


【わ】 日本文学


【ワ】 外国文学


【共著】【マンガ・コミック】


「読みたい本・注目の本」記事録


『世界の「今」に迫る10冊』


吉屋信子『私の見た人』の昭和の作家


ウェヴスター『あしながおじさん』に出てくる本


日本の作家(ちくま日本の文学全集収録)


昭和の作家(1962年 朝日新聞記事より)


映画鑑賞会


2024年


カレンダー

キーワードサーチ

▼キーワード検索


© Rakuten Group, Inc.
X