時間の陥穽59
宇宙誕生の秘密は従来の「ビッグバン仮説」を超え、虚時間から実時間へ量子がジャンプすることで宇宙が始まった説に近づいたのか。其れを説明するのに持ち込まれたのが「無境界仮説」に援用された「トンネル効果」論です。これは極めて大きな壁面の粒子の壁に粒子のボールを投げつけると、極く稀れには壁をすり抜けることがある。虚時間から実時間へ量子が跳躍することで宇宙が始まったとするのですが、此れが真実実相を語るのであれば、人間は過去の思想史、神を持ち出すことなく宇宙誕生を解明できるということになります。ところが、ドイツのマックス・プランク研究所のジャン・リュック・レナーズ博士等々が、ハイゼンベルグの不確定原理(Uncertainty Principle)を用いて、「トンネル効果」を取り入れた量子「無境界仮説」を数学的に厳密に精査します。結果は、トンネル効果が起こりやすい宇宙は、不規則で混沌とした様そのものな結果に至ることが多く、発生してもすぐに崩壊してしまうような極めて脆弱なものだったのです。つまりこれでは我々の知っている規則的な宇宙は発生しないし、持続的に存在することが成し得ないことになります。車椅子の天才ホーキング博士らの思弁が否定されたのです。それでは「無境界仮説」よりも、古史からある思想、端的な核(コア)からの創造や物理法則が成り立たない「特異点」を想定する従来の「ビッグバン仮説」が、現在のところ我々が知る最良の仮説ということに解釈が戻ります。神が宇宙を創造し、時間は神の永遠の瞬間に起因するのか、将又、時間の流れは人間の世界にあり、其の流れは人間が認識する独自のものなのか、今だに宇宙誕生の秘密の迷走は止(や)まりません。
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