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テーマ:試写会で観た映画の感想(678)
カテゴリ:洋画(は行)
原題: THE HURT LOCKER 監督 : キャスリン・ビグロー 出演 : ジェレミー・レナー 、 アンソニー・マッキー 、 ブライアン・ジェラティ 、 レイフ・ファインズ 、 ガイ・ピアース 、 デヴィッド・モース 試写会場 : 科学技術館サイエンスホール 公式サイトはこちら。 <Story> 2004年夏。イラク、バグダッド郊外。 アメリカ軍の爆発物処理班は、死と隣り合わせの前線の中でも最も死を身近に感じながら爆弾の処理を行うスペシャリストたち。 ある日も爆弾の処理を行い、退避しようとした瞬間に突如、爆弾が爆破。 一人が殉職してしまう。 新しい中隊のリーダーに就任したウィリアム・ジェームズ二等軍曹(ジェレミー・レナー)は、基本的な安全対策も行なわず、まるで死に対する恐れが全くないかのように振舞う。 補佐に付くJ.T.サンボーン軍曹(アンソニー・マッキー)とオーウェン・エルドリッジ技術兵(ブライアン・ジェラティ)は、いつ死ぬかもしれない緊張感、特に一瞬の判断のミスが死に直結する爆発物処理の任務のなかで、徐々にジェームズへの不安を募らせていく。 彼は、虚勢を張る只の命知らずなのか、それとも勇敢なプロフェッショナルなのか…。 そんな男たちの想いとは無関係に、激しい戦闘行為が繰り返される日常は続き、爆弾処理の毎日が過ぎていく…。 ブラボー中隊、任務明けまで、あと38日。 [ 2010年3月6日公開 ] ハート・ロッカー - goo 映画 <感想> キャサリン・ビグロー作品は初めての鑑賞。 今年のアカデミー賞の目玉ということでこれはぜひ観たかった。 早々に当たってラッキーです。 自分的には、本命?の『アバター』よりもこちらの方がたぶん好きなジャンルなんだろうなと事前に予想。 この戦争の是非を問うような議論がどうしても前面に出がちだけど、 本作はそれにはあまり言及せず、 あくまでも「爆発物処理班の兵士たちの日常」を描くことを選択した。 「そこに爆弾がある、だから俺たちは任務としてそれを処理する」という信条の下、兵士たちは淡々と爆弾処理をする。 だが、そこに横たわる様々なものを映画は写し出す。 まず、爆発物処理に当たって味わう恐怖。 これは、爆弾処理の時に爆発するかもしれないという恐怖と、処理の瞬間を狙って新たに自分が攻撃されるかもしれないという、2つの恐怖である。 もちろん周囲で援護しているが、警戒していたとしても、一般市民に紛れてしまったら一体周囲の誰が敵なのかを見分けることは容易ではない。 遠隔操作が簡単になってからは、ちょっとした相手の動きを見逃すだけでも死に繋がる。 それを瞬時に判断しないといけない極限状態に常に晒されている彼らの心情。 これは言葉で表すことは難しい。 その恐怖、緊張感を増幅させているのは、背景の音楽(というか、この場合は効果音になるのだろうか)。 不協和音を中心に、否応なしに観客もその極限へと連れて行かれてしまう。 このあたりは実にうまい。 その証拠に、極限状態のシーンから普段基地にいる場面に移ると、こちらまで体中が脱力するくらいである。 普段基地で過ごす彼ら。 しかし、ただ単に開放的に過ごしているわけではなく、その過ごし方にもどこか暴力的、刹那的な部分があるのは、 恐らく任務によって荒んだ心の状態が大きく影響している。 自分が置かれている現状と、自分の普段の生活を引き比べるとき。 そして究極の状態から生還した時。 生きているという実感がありありと見えてくるのだろう。 1つの任務に向かう時、その向かい方も人それぞれであり、 その統率方法を理解するのにも途方もない道程が必要ということがわかる。 従来のやり方に従わないジェームズ二等軍曹。 彼のやり方に周囲は苛立つ。 瞬間の判断が生死を分ける戦場では、いい加減という概念はあってはいけないはずなのに、自分がくぐってきた修羅場の経験を頼りに切り抜けていくジェームズ。 一見破滅的に見える彼の言動の裏にも、実は滲み出てくるものがあり、それが戦場で交流した人たちへの鎮魂となってくる場面にはやられてしまった。 非人道的なことを目の当たりにした時、助けてやりたいと思う本能がある。 しかしながら助けてやれない非情な現実の前に残るのは、虚しさと怒りだけである。 最初はサンボーンが主役と思わせるが、実はそうではない作りになっている。 ジェームズの視点と、サンボーン、エルドリッジの視点の食い違いは、個々の兵士の戦争への対峙の仕方が全く異なる事実を表している。 ドライで刹那的に見えても、自分を待っているもののためには、生還したいという欲求が先立つ。 何故ここにいる? という問いに対しては、様々な理由があるのだろうけど、それを支えているのは紛れもなく、「自分が守るべきもの」である。 そしてここに描かれていることは、現実に世界で起こっていることであるというスタンスも、忘れてはいけないのだろう。 おまけですが、ガイ・ピアースとレイフ・ファインズは、今回は脇役に徹しています。 でもこの使い方は結構思い切っていますね。 贅沢です。 思わぬ場面で登場なので、お見逃しなく。 *********************************** 今日の評価 : ★★★★☆ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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そう、本作は有名俳優が思わぬ場所で登場していて後からビックリでした。
自分が好きなガイ・ピアースとデビッド・モースは気づきませんでした。 皆、軍服を着ているので判別し辛いです。 (2010.02.27 23:08:55)
緊張感の表現がすごく上手いですよね。roseさんの言うとおり、否応なく観てるほうも緊張するんですよ。だってあまりにもジェームズが死ぬ要因となる可能性が多いから。
いやまあ、冷静に見たらいきなり主人公死なないだろってのはあるんですけど、見てるとそんなん忘れます。あのスーパースローの高精細映像とか実にいい効果ですよ。ストーリーに込められた想いは、戦争映画である以上割とスタンダードではあるけれど、この映像の作り方に痺れました。 (2010.02.28 03:13:58)
こんにちは~
あんまり戦い物は本当は好きじゃないんで、これ、結構心臓に悪かったです(涙 あのじりじり感はうまかったですね。 声高に何かを主張するのではなくて、あくまで兵士の目線で"a day in the life"みたいなスタンスだったところがよかったです。 (2010.02.28 09:21:51)
ご無沙汰してました。
生きてますよ(笑 なかなか映画見に行く暇なしですが DVDは週に5本は見るようにしてます この映画ドンピシャですわ。 チョコさんの★もまずまずのようなんで 観に行こうっと。 (2010.03.01 23:35:05)
おこんば~ん♪
おっ! 週にDVD5本!? それはそれはすごいです。 この映画、ぜひ劇場で観てほしいなあ。 迫力ありますよ。 心臓にはあまりよくはないけどねw (2010.03.04 19:52:27)
戦争映画というより戦場映画?面白そうですね。rose_chocolatさんの評価も高くて、ますます楽しみです。ところで『フローズン・リバー』はまだ見られないのでしょうか??
(2010.03.04 20:00:20)
はじめまして こんばんは。
コメントありがとうございます^^ >戦争映画というより戦場映画? はい、まさに戦場をリアルに描いていますね。 心臓にはあまりよくないかもしれませんが・・・ >rose_chocolatさんの評価も高くて、ますます楽しみです。ところで『フローズン・リバー』はまだ見られないのでしょうか?? ----- 拙文をお読みくださいまして、どうもありがとうございます。 アカデミー賞有力と言われるだけの力量は十分にある作品です。 どうぞまた感想などお聞かせくださいませ。 『フローズン・リバー』も観たいのですが、なかなか時間が取れませず。。。 どうにか観たいものですけど、こうして観送っちゃう作品も少なからずありますので・・・ もっと時間がほしいですね。 またどうぞお越しくださいませ。 (2010.03.04 20:06:33)
rose_chocolatさん、こんばんは!
さすがアカデミー賞にノミネートされていることはありますよね。 恐怖が日常にあるということに対して、3人が3人の対応をしているのが興味深かったです。 ジェームズは非日常である爆弾処理を日常と受け入れてしまったために、逆に妻子との日常生活が非日常に感じられてしまうようになってしまったのでしょうね。 (2010.03.06 18:06:05)
こんばんは~
>さすがアカデミー賞にノミネートされていることはありますよね。 ちょっと戦いものが苦手なんで、そのあたりは結構困ったんですが(苦笑)、それでも見応え充分です。 >恐怖が日常にあるということに対して、3人が3人の対応をしているのが興味深かったです。 >ジェームズは非日常である爆弾処理を日常と受け入れてしまったために、逆に妻子との日常生活が非日常に感じられてしまうようになってしまったのでしょうね。 ----- 戦場に行く理由も志願する理由も人それぞれ、ということを言いたかったんだと思います。 戦場が頭から離れないというのも、帰還兵士のPTSDという形で社会問題になっていますよね。 日常と非日常が入れ替わるのはあり得ないと一般の人は思いますが、そうなってしまうことがあると苦しいと思いました。 (2010.03.06 18:28:09)
ガイ・ピアース、レイフ・ファインズ、デビット・モースという実力派俳優をピンポイントで起用していながら、彼らの出演シーンは凄く印象的でした。
本当にキャスティングの巧さを感じましたよ。 それにしてもとにかく凄い映画でした。 その一言に尽きましたよ。 (2010.03.06 21:10:37)
戦場で任務に就く兵士たちは戦争の是非という概念など意識せずに戦っているはずで、兵士目線の作風がそれをうまく表していたように思います。
彼らにとって重要なのは戦争の是非ではなく生きるか死ぬかなんですよね。 見ている側にとって“爆発”には視覚的な恐怖と心的恐怖がありますが、日々爆弾と向かい合う彼らの精神的なストレスとそれが彼らに与える影響もまた空恐ろしく感じました。 (2010.03.07 12:56:10)
こんばんは~
>ガイ・ピアース、レイフ・ファインズ、デビット・モースという実力派俳優をピンポイントで起用していながら、彼らの出演シーンは凄く印象的でした。 >本当にキャスティングの巧さを感じましたよ。 何でも、主役級に有名俳優を使うと、その印象が観客についてしまうということだそうで、メインはマイナーな方たちなんだそうです。 それでもあれだけのインパクトを与えてるんですから、ベテランたちもキッチリ仕事してるんですよね。 おっしゃる通り、いろんな意味ですごかったですね。 (2010.03.07 17:41:55)
こんばんは~
>戦場で任務に就く兵士たちは戦争の是非という概念など意識せずに戦っているはずで、兵士目線の作風がそれをうまく表していたように思います。 >彼らにとって重要なのは戦争の是非ではなく生きるか死ぬかなんですよね。 彼らが戦場に来た理由があまり詳しく描かれてないのがこの映画のいいところで、それぞれ訳があって志願しているはず。 大義名分じゃなく、生きて帰ることが目的・・・ という本音が、わざわざ言わなくても垣間見えてくるところがよかったです。 >日々爆弾と向かい合う彼らの精神的なストレスとそれが彼らに与える影響 ----- それをわかっていて彼らは志願しているのでしょうけど、想像を絶するものがあるんでしょうね。 (2010.03.07 17:48:38)
悪い意味ではなく死が隣り合わせにあることが日常化してしまったこの状態はまさに”中毒”でした。
でもそうなってしまったのは国であり戦争のせいなのですよね。 彼の悲しみがすごくわかる、女流監督さんならではの作品でした。 あ・そうそう。あんな有名俳優さんが・・私もびっくり。 TBさせてくださいね。 (2010.03.09 17:59:11)
こんばんは~
>悪い意味ではなく死が隣り合わせにあることが日常化してしまったこの状態はまさに”中毒”でした。 >でもそうなってしまったのは国であり戦争のせいなのですよね。 どうしてそこに行くのかということがあまり明らかにはなっていないのですが、それでも淡々と戦場で生き残りたいという彼らの想い、そして壮絶さが伝わりました。 >あ・そうそう。あんな有名俳優さんが・・私もびっくり。 ----- そう、有名どころさんは脇役でしたね。 敢えてそうしたそうです。 (2010.03.10 22:58:58)
ずっと緊張してて、スッカリ息をするのも瞬きをするのも忘れて見ていました。
現場に居合わせた臨場感がひしひしでした。 こういう作品がアカデミー賞を取ってくれて、本当にうれしいです。 (2010.03.22 08:16:26)
こんばんは。
わが県では、やっと上映が始まりました。 小さなハコながら、スクリーンで観ることができてよかったです。 これまで、こんなに緊迫感と臨場感のある空気を感じたことがない中、 どうしても、兵士たちの母親の目線で観るものだから、 「どうぞ、無事に家族の許へ帰って」と祈るばかりでした。 強く何かを叫ばなくても、大きな何かを掲げなくても、 淡々とした描き方だからこそ伝わるものがある… そんな作品にはいくつも出会ったけれど、この作品はこれまでで最大級に圧倒されました。 最初は配給会社もつかなかったという作品が、 オスカーを受賞できたことが、何より嬉しいことです。 だけど、まだまだ若い男たちが、あの戦場にいるのですものね。。。 (2010.03.22 22:35:35)
こんにちは~
いつもありがとうございます。 どうぞお気になさらないでくださいね。 時々ありますもん。 間違いTBを探して、消す方が大変なんで、こういうときは記念に残しちゃってもよい? 笑 (2010.03.27 16:48:57)
こんにちは~
>小さなハコながら、スクリーンで観ることができてよかったです。 まさに。 これはスクリーンで臨場感を味わっていただきたいですね。 >「どうぞ、無事に家族の許へ帰って」と祈るばかり 本人たちも、どうしてここに来ているのかは明かさないけど、 生きて帰りたい、それだけだったと思います。 一瞬の判断、動きが生死を分けましたね。 >強く何かを叫ばなくても、大きな何かを掲げなくても、 >淡々とした描き方だからこそ伝わるものがある… >そんな作品にはいくつも出会ったけれど、この作品はこれまでで最大級に圧倒されました。 >最初は配給会社もつかなかったという作品が、 >オスカーを受賞できたことが、何より嬉しいことです。 >だけど、まだまだ若い男たちが、あの戦場にいるのですものね。。。 ----- 私もこれがオスカー取ってくれてうれしいです。 これだけ淡々と描いているのに、いくつものメッセージを投げかけている。 こういうタイプの力量がある作品は、滅多に出ないなと思いました。 (2010.03.27 16:55:19) |