熱心なマンチェスターユナイテッドのファンではないものの、時折ユナイテッドの試合を見ると、以前ほどルーニーが輝いていないように思う。個人的にはCLなどで優勝出来ればバロンドールを受賞するにふさわしい逸材だと思っているのだが、ここ数年の活躍は今ひとつ。だからというわけでもなかろうが、今期はファンペルシー、香川真司と相次いでFW・MFを獲得した。あまり休んでばかりいると、ルーニーといえども決してその地位が保証されるわけでもないのはこの世界の常。
さてその香川真司だが、ユナイテッドに移籍してからの試合を見ると、徐々に溶け込んできているように思う。顔つきも他の日本人プレイヤーとは一線を画しており、世界を代表するクラブの一つであるマンチェスターユナイテッドのMFとしてその地歩を固めつつあるように思うのだ。基本、サッカー選手を国籍で色分けすることなく、あくまでも実力で評価しているので、例え日本人選手であろうとインテルの長友佑都のような過大評価はしていないつもりだが、それでも初めて登場したビッククラブの日本人選手の活躍は素直に嬉しいものがある。
環境が変わると、本来持っている実力を発揮出来ずに成績を落としていくサッカー選手は枚挙にいとまがないが、香川真司の場合も日本と英国の往復、そしてCLのための欧州各国転戦と環境の変化に伴う疲労が一番心配だ。とはいえ、この修羅場をくぐり抜けて初めてサッカー界を代表する選手に成長していくわけで、その意味でマンチェスターユナイテッドの動向は騒がしいものになるのだろう。
さて新聞を読んでいたら、そのマンチェスターユナイテッドが描く世界戦略が記載されていた。世界サッカークラブの収入トップ20など興味深い資料が掲載さて折り、実に貴重だ。スペイン2強が突出しているが、ユベントスが思っていたよりも低かったのが気になる。お金が全てではないとはいうものの、上位10チームの順位はそのまま現在の実力差をほぼ反映している。
●マンU、世界市場拓く~収入と強さ、貪欲に追求
サッカーの日本代表MF香川真司が加入したことで、イングランド・プレミアリーグの雄、マンチェスター・ユナイテッドの存在が改めてクローズアップされている。いつの時代もスター選手をずらりとそろえ、国内リーグで19度の優勝を誇る名門はビジネス面でも大きな成功を収めている。しかし、クラブは選手の人気に寄りかかっているわけではない。確たる哲学と戦略を持って市場を拓(ひら)き、世界随一のグローバル・クラブへの成長を遂げている。(マンチェスター〈英国〉=吉田誠一)
米経済誌「フォーブス」によると2012年のマンチェスターUの資産価値は22億3000万ドル(約1784億円)に上り、「資産価値の高い世界のスポーツチーム・ランキング」のトップに位置付けられている。ちなみに2位は18億8000万ドルのレアル・マドリード(スペイン)で、3位には野球のニューヨーク・ヤンキースとアメリカンフットボールのダラス・カウボーイズ(ともに米国)が18億5000万ドルで続いている。マンチェスターUの計算では、世界のマンUファンは6億5900万人(うちアジアに1億800万人)を数え、40億人がテレビなどで試合を観戦しているという。
すでに世界有数のトップクラブのステータスを得ているが、営業部門の世界戦略を統括するコマーシャル・ディレクターのリチャード・アーノルド氏はこう話す。「我々の目標はピッチ上だけでなく、ビジネス面でも世界一のサッカークラブになることです」
11/12年のシーズンはマンチェスターUは欧州チャンピオンズリーグで1次リーグ敗退を喫したため、総収入が前年に比べ3.3%ダウンした。しかし、それでも3億2030万ポンド(約407億円)を稼ぎ出し、純利益は同79.2%増の2330万ポンドに上った。
なかでもコマーシャル収入(スポンサー料と商品化権料)は1億1760万ポンドと、前年比で13%も伸ばした。この部門の収入が放送権料収入(1億400万ポンド)と入場料収入(9870万ポンド)を上回っている。7月、ユニホームの胸のスポンサーとしてゼネラル・モーターズ(シボレーのブランドを表示)と14年からの7年契約を結んだが、そのスポンサー料は総額3億4400万ポンドと莫大だ。世界中にファンを抱えることを強みにして、高額契約を結んでいる。
05年に米国の富豪であるグレイザー家がクラブを買収してから、マンチェスターUはビジネス面での世界戦略を推し進めてきた。クラブは75人のマーケティング担当、200人のセールス担当をそろえ、昨季は35カ国の65都市を回ったという。各国の有力企業の実績や戦略、将来性をつぶさに調査し、スポンサーを独力で見つける。
アーノルド氏によるとスポンサーの選定基準は3つあるという。「まずは、業界でナンバーワンになろうという野心があるかどうか。その野心がないとマンチェスターUのイメージに合わない」「2つ目は、他社と違ったものを生み出そうという革新性があるかどうか。そして、マンチェスターUのファンを大切にしてくれるかどうか。実は、この点が最も重要なポイントになる」
クラブには、すべてのスポンサーと長く、近い関係を維持するのが理想的という考えがあり、かつての胸のスポンサーだったシャープとは18年も関係を保ち、ナイキとの契約も10年になる。
香川真司を取ったことでヤンマー、東芝メディカルシステムズなどの日本企業とスポンサー契約に至った。「香川の獲得でビジネス面でも利益を得ている。しかし、誤解しないでほしい」とアーノルド氏はクギを刺す。
選手と契約するのは、その選手が世界で最も優れた選手の一人だから。獲得候補選手のリストを見ながら、ファーガソン監督が『この選手と契約したらクラブはいくら稼げる』などと尋ねたことはない。問題にするのは、その選手がピッチ上で何ができるかだけ」
トップ選手の獲得で戦績をあげ、ファンを魅了し、収入を伸ばす。それによって、また有力選手を集めることができる。単にスポンサー目当てで力の劣る選手を取っていたのでは、そのサイクルは築けない。選手の顔ぶれは多国籍化しているが、スポンサーも同様だ。オフィシャルスポンサーにはドイツがベースのDHL、トルコ航空、シンハービール、エプソンなどが並び、英国企業はトーマスクックのみ。
「マンチェスターUにとって欧州の市場は非常に小さなもので、だからユーロ危機の影響がない。ワールドワイドなクラブであることが幸いしている」とアーノルド氏は話す。とうの昔に総収入を増やすには、いかに海外で稼ぐかが重要かに気づき、その準備を推し進めてきた。世界に散らばるファンをどうやってクラブと直接、つなげるかが新しいテーマだという。
現在、270万人がフェイスブックでマンチェスターUとつながっている。「しかし、コミュニケーションツールは急速に進化している。20~30年先にどういう形になっているのかは想像できない。そんな状況下で、何億人というファンとクラブを直接つなげるのが、我々のタスクになる」。世界屈指のビッグクラブは壮大なビジョンを描いている。
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