源氏物語〔29帖 行幸 2〕
源氏物語〔29帖 行幸 2〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語〔29帖 行幸〕 (みゆき) の研鑽」を公開してます。左右の近衛、衛門、兵衛に属する鷹匠たちは、大柄で目立つ摺衣を着ていた。ふだん見慣れないこのような壮観な行列に、都中の女性たちはだれもが見たくてたまらず、競って見物に出かけた。けれども、粗末な造りの車は人混みに押されて車輪が壊れるようなこともあり、無残な姿で立ち往生していた。行列を見るには、桂川の船橋のあたりが最もよい場所とされていて、立派な車が多く集まっていた。六条院の玉鬘も、この場所に見物に出ていた。彼女は多くの朝臣たちを目にした。皆が美しい衣装をまとい、化粧も施していて立派に見えた。天皇が鳳輦にお乗りになった姿のように、真に端麗で気品ある存在に比肩できるような人は、そこには一人もいなかった。玉鬘は、自分の父である内大臣のことを人知れず注意して見つめていた。評判どおりに華やかな雰囲気と貫禄のある、人生の盛りにある男には見えたが、だからといって誰にも圧倒的に勝っているほどの完璧さは感じられず、ただ周囲の臣下たちの中ではひときわ目立つ、優れた人物だと思える程度だった。周囲では、身なりの整った中将や少将、殿上の役人たちが、美男だの、格好いいだのと若い女房たちの間で噂になって騒がれていた。玉鬘にとってはそのような人々は特に心を引かれる存在ではなく、むしろ目にも入らず自然と関心の外に置かれてしまっていた。一方、天皇の姿は源氏とよく似ていたが、不思議とさらに一段と気高く、神々しいほどの美しさが感じられた。玉鬘はそれを見て、これこそが人間の世界で最も優れた美と呼ぶべきものだと感じた。もともと玉鬘は、源氏や頭中将など日常的に見慣れた美しい貴族の男性たちを基準としていたため、今日のような正装姿の朝臣たちはかえって平常よりも見劣りして映り、同じような顔立ちであるはずなのに、どれもこれも似たような印象の顔ばかりに思えてしまった。その中には兵部卿の宮もいた。