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碁法の谷の庵にて

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2005年09月03日
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カテゴリ:法律いろいろ
国民審査の期日前投票は明日開始、期日は8日後である。

ちなみに、冒頭に予定しておいたプログラム5つのうち既に3つをこなしてきたが、最終回に「最高裁裁判官のアンケート」について追加して、少々触れてみることにする。
というのも今日国民審査の対象となる裁判官について、時事通信が一定の質問をしてそれに各裁判官が答えたのであるが、これの読み方について一言してみようかと思う。


今日扱うテーマは、憲法判断論である。かなり端折っているが、それでも読みにくいかも。


国民審査をするには、当然裁判官が出す判決の中身を知っておかなければならないが、判決も非常に膨大で、全容を把握することはできないし、おそらく判決を出している裁判官とて覚えてはいないと思う。
そこで、裁判所の職務の中で特に重要な憲法判断について、個別に判決を読む前に多少の知識を踏まえて欲しいと考えたので、これを話題にする。


まず、基本的な知識の第一に、

日本では、事件の当事者によって裁判が起こされない限り裁判所は法律などを憲法違反ということができない

ということを踏まえて欲しい。

前回にも触れたが、裁判所の仕事は司法としての裁判であり、違憲審査もそれに付随して行われるというのが現在の日本の通説・判例である。そして、具体的な事件がないのに「この法律は違憲」などと裁判所が裁判することはできない。

なぜならドイツのように裁判所が法律がある場合に事件の前に審査することができるという制度を採っている国と異なり、日本ではこうした制度について憲法の明文がなく、「許されない」あるいは「許すにしても法律で特別に裁判所に権限を与える必要がある」と考えられているためである。後者の見解でも、今の日本の法律にそんな権限を認めた法律はない。



そして第二に、
「裁判所は違憲審査を基本的にしない」「裁判所は違憲判決を基本的に出さない」
という二点が重要である。

これを職務放棄であると感じる人は多いようだ。

だが、法律に問題があると裁判所が感じているとしても、基本的に「民主国家における国権の最高機関」「唯一の立法機関」としての国会が合憲であると判断し、立法したわけであるから、憲法に違反することがはっきりしている場合や民主国家として、国会が機能する大前提の部分に関する事を除けば違憲判決には消極的になろう、という発想である。
国会が機能する大前提の部分としては、選挙の適正や国民が支持を集めるための表現の自由などが挙げられる。

前者については、以前靖国憲法判断を前提にずらっと長文を書いたので、こちらを参照して欲しい。

後者についても、裁判所は基本的に違憲判決を出していない。戦後に入って法律を憲法違反としたのは

一、尊属殺人罪重罰規定違憲判決 (最高裁大法廷昭和48・4・4)
二、薬事法薬局配置規制違憲判決 (最高裁大法廷昭和50・4・30)
三、議員定数不均衡違憲判決   (最高裁大法廷昭和51・4・14 と 最高裁大法廷昭和60・7・17)
四、森林法共有林分割制限違憲判決(最高裁大法廷昭和62・4・22)
五、郵便法違憲判決       (最高裁大法廷平成14・9・11)

これだけしかない。

また、例え憲法違反でありうるとしても、
一、具体的な事件にこの法律を適用するのは憲法違反だが法律を一般的に憲法違反とはしない
二、法律の解釈によっては憲法違反となるが合憲になるように解釈する
三、議員定数不均衡違憲判決では憲法に違反しているが選挙を無効にすることはできないとして選挙の違法を宣言するにとどめる手法もとられた。

こうした手法も、憲法違反とすることによって国会の判断を安易に反故にするような行動を慎むことにその主眼があるというわけである。
こうした手法を支持するか、しないかは各人の判断に任せるほかないが、こうした手法の思想的バックボーンはこんなところにある。



では、次回はいよいよ判例の解説に移ろうかと思っている。
ただし、実際のところ審査されている6人の多くは就任から1年も経っておらず、はっきり言って有名な憲法判例はほとんどない。というか、あんなに少ないとは今日に至るまで私も思わなかった。

よってかなり簡略なものとなるかもしれない。





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最終更新日  2005年09月04日 07時45分53秒
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