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碁法の谷の庵にて

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2008年11月01日
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カテゴリ:その他雑考
「侵略戦争は濡れ衣」と論文に書いて、航空自衛隊の幕僚長が更迭されたようです。


「侵略戦争」である旨の言説の当否については、ここで言及することはしません。私自身あまり詳しい領域ではないので、何を言っても上っ面をなぞっただけの所感の域を出ず、突っ込みに全く対応できそうにないからです。

 私が今日問題にしたいのは、幕僚長が自分の立場を弁えていないという点に対する批判と、自戒です。


 軍隊(ここでは自衛隊も含めて考えてください)と言うのは、一旦暴走を始めたら警察や他の行政機関、裁判機関、そういった他の何と比べても危険度第一位の国家機関です。どう考えたって日本においては警察より自衛隊の方が実力が上です。それでいて、兆円単位の予算を毎年割かなければいけません。
 そういった機関の存続には、国民の幅広い信頼が絶対的に不可欠であるというべきです。

 軍人というのは盲目でよいのだ、というわけではないにしても、彼らが一定の志向を持っているということを表明することには、極めて慎重な姿勢が要求されます。いざと言うときに、こいつは軍隊の規則や文民統制ではなく、自分の考えに勝手に従ってしまうのではと思われることは、それ自体あってはならないことなのです。
 


 裁判の世界では、寺西判事補事件(最大判平10・12・1)というのが有名です。
 寺西和史判事補が、組織犯罪対策法、今は通信傍受法として施行されていますが、それに対して反対の趣旨の集会で発言したことが、積極的な政治活動に当たり、裁判官として非行にあたるとして処分された事件です。ちなみに、判決文にあった発言の内容を見ると、

「当初、この集会において、盗聴法と令状主義というテーマのシンポジウムにパネリストとして参加する予定であったが、事前に所長から集会に参加すれば懲戒処分もあり得るとの警告を受けたことから、パネリストとしての参加は取りやめた。自分としては、仮に法案に反対の立場で発言しても、裁判所法に定める積極的な政治運動に当たるとは考えないが、パネリストとしての発言は辞退する。」

本当に積極的かなあという気もしないことはない(実際そういう趣旨の反対意見もついている)のですが、その点を一旦脇に置いたとしても、最高裁判所は、判事補と言う立場にある人間が、政治活動に参加することは良くないということを、以下のような判決文で示しました。

裁判官は、独立して中立・公正な立場に立ってその職務を行わなければならないのであるが、外見上も中立・公正を害さないように自律、自制すべきことが要請される。司法に対する国民の信頼は、具体的な裁判の内容の公正、裁判運営の適正はもとより当然のこととして、外見的にも中立・公正な裁判官の態度によって支えられるからである。したがって、裁判官は、いかなる勢力からも影響を受けることがあってはならず、とりわけ政治的な勢力との間には一線を画さなければならない。そのような要請は、司法の使命、本質から当然に導かれるところであり、現行憲法下における我が国の裁判官は、違憲立法審査権を有し、法令や処分の憲法適合性を審査することができ、また、行政事件や国家賠償請求事件などを取扱い、立法府や行政府の行為の適否を判断する権限を有しているのであるから、特にその要請が強いというべきである。職務を離れた私人としての行為であっても、裁判官が政治的な勢力にくみする行動に及ぶときは、当該裁判官に中立・公正な裁判を期待することはできないと国民から見られるのは、避けられないところである。身分を保障され政治的責任を負わない裁判官が政治の方向に影響を与えるような行動に及ぶことは、右のような意味において裁判の存立する基礎を崩し、裁判官の中立・公正に対する国民の信頼を揺るがすばかりでなく、立法権や行政権に対する不当な干渉、侵害にもつながることになるということができる。


平たく言ってしまえば、「裁判官と言うのは公正中立でなければならないし、外からも公正中立に見えるようにしなければいけない。いくら個人レベルで思想信条の自由や表現の自由があっても、裁判官と言う地位に立ってしまったら、そういった自由を盾にとってその公正中立に対する信頼を揺るがしてはいけない」と言う趣旨があるわけです。
私はいざ職務となれば私心の一切を捨て、公正中立にやりますよ、などといったって通用しないわけです。


自衛隊もこれと同様でしょう。先述したように自衛隊はいざと言うときに私心ではなく文民統制に従うという絶対の信頼がなければ、憲法下において存在を許されるかどうかといった存在です。いくら憲法その他を振りかざしたって、彼らが最新兵器の砲口をこちらに向ければ市民も行政官も警察もお手上げするしかないのですから、そのデリケートさは裁判官に勝るとも劣らないというべきです。
上官から命令を受ければ、一切の私心は捨てて命令に従います・・・なんてことが外に向かって通用する世界ではあるとは考えられません。自衛官である時点で、そういう立場になっているのです。
どれほど彼の論文が見識が深いものか論評することは私には避けなければなりませんが、自分の立場と言うものが分かっていない自衛官、それも幕僚長と言う立場にありながらこうでは、せっかくその点に関して見識があったとしても、全て台無しです。自衛隊の朝礼か何かで、いきなり自衛隊が憲法違反であるとぶち上げるかのごとき、立場を弁えない発言だったというべきでしょう。




一定の立場(特に公務員系)になれば、たとえその内容が客観的に見て正当であると自分で思ったとしても、言っていいことといけないことがある。このことは、常に肝に銘じておく必要があります。
本音ばかりをぶちまけて建前論をむしろ忌避する傾向が強くなっている(思い込みか?)昨今において、この幕僚長のしでかしたことの何がまずかったのか、かみ締めておく必要があるかと思います。







さて、明日はどーしよっかな~♪






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最終更新日  2008年11月01日 22時34分36秒
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