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碁法の谷の庵にて

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2008年11月28日
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私は、司法試験で労働法を選択しましたし、学部でも労働法の講義を受けたのでちょっとくらいは労働法も知っています。まあ、ちょっとですけどね。
3年半もやっていますが、ここで労働法の話をするのは、実は初めてかも知れません。



昨今、リーマンの倒産などによる金融危機で、採用内定の取消しが増えているとテレビでやっていました。
ちなみに、BGMで流れた曲は「悪夢」(「ローゼンメイデン」のBGM)。文字通り悪夢でしょうね。


企業は、誰を雇う雇わないは、原則として自由に設定することができます。
こいつは保守的なやつだからいやだとか、社長と意見が合わないからいやだというのも原則として企業の自由です。(例外として男女雇用機会均等法5条など)もっとも、裁判例によっては思想を直接決定的な理由とする不採用は違法とする例もあるようですが。

そして、日本では、採用内定、つまり本格的に労働に入ることを一定期間はさせないでおいて、時期が来たら本格的に労働契約に入りますよというやり方がよく使われます。

最判昭和54・7・20、いわゆる大日本印刷事件において、最高裁判所は採用内定については、採用内定によって労働契約は成立する、ただし契約が始まる時期は労働が始まる時期であり、また採用内定の通知書に記載されている採用内定取消しの理由が出てきた場合には解約できる・・・と判断されています。
しかし、じゃあ内定通知に書いてある理由が発生すれば解約し放題か、というとそういうことはありません。大日本印刷事件では、「解約権留保の趣旨。目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られる」としています。例えば、提出した書類に嘘が書いてあったとしても、それなりに重大な事項を偽ったというのでなければ認められないことになります。
逆に、内定通知に書いてなくても、客観的に合理的と認められて社会通念上是認できるということであれば採用内定は取り消すことができます。


私の手元の書籍では、内定取り消しについて、裁判所は概して厳しい態度を使用者側にとっていると書いてあります。
特に、日本の新卒大学生採用では、採用内定は実質的には採用・労働契約そのものとして機能していますから、それで採用内定を一方的に取り消すのは、それこそ解雇に匹敵する必要性が要求されることが十分に考えられます。

ちなみに、経営が厳しくなったことによる解雇が適法と認められる要件として一般に言われているのは、
一、人員削減が企業経営上十分に必要あるいはやむを得ないこと
二、整理解雇を選択する必要があり、解雇回避の努力がなされていること。配転・任意退職募集などをせず一気に整理解雇に出るとほぼアウト
三、解雇される人間の選び方が妥当であること
四、解雇される人間に対してきちんと説明がなされていること

・・・とのこと。内定取消しの場合も、これと比べれば緩いでしょうが、似たような判断がなされるのではないかと私は考えます。


そんな訳で、仮に企業が内定取消しを主張したとしても、認めてもらうのは厳しいですし、もし認められなければ、採用内定を取り消された側としては債務不履行ないしは不法行為ということで労働者は損害賠償を請求できます。また、たとえ採用内定取消し自体はやむを得ないとしても、内定から取り消しの過程で企業がきちんと説明をしなかったことを理由に損害賠償ということもあり得ます。




ここで、ちょっと実際的な話をします。


就職内定を取り消すというのは、企業にとってははっきり言って相当危ないことです。
企業としては、上述したように、訴えられても文句は言えません。訴えて負けようものなら、労働を受けてもいない相手に金銭的賠償を支払わなければならないはもちろんのこと、世間の評判までもガタ落ちです。よっっっっっぽど魅力的な会社でなければ、優秀な人材がその企業に当分は集まらないという事態さえ考えられます。日本において、こうした労働事件の判例は勝訴敗訴問わず被告となった企業の名前がでっかく付けられるという謎の習慣があったりもします。
さらに、企業業績の悪化を理由に採用内定取り消しなどということをしたということがよそに漏れてしまったら最後、「この会社は危ない」ということが世間にバレバレです。


おそらく、会社もそんなことは百も承知で、顧問弁護士や、弁護士級に詳しい人事部や法務部と検討したうえで採用内定を取り消すはずです。たとえ裁判に勝てるかどうか怪しいとしても、会社としてもそれなりに苦渋の決断をしたことは事実だと思われるのです。あーちょっと苦しいね、とりあえず内定消しますかというようなノリで気安くぽいっとやったとすれば、そんな企業は放っておいても遅かれ早かれつぶれるでしょう。


採用されてから倒産したということでは文字通り取り返しがつかないことも考えられるので、内定取り消しという形をとってもらったことは、個人にとっては良かったということも可能性としてあり得ない訳ではありません。
ともあれ、採用内定取り消しという事態に立ち至ってしまった学生の皆さんには同情いたしますし、新たな、きちんとした採用先が見つかることをお祈りいたします。






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最終更新日  2008年11月28日 18時59分49秒
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