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碁法の谷の庵にて

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2012年11月13日
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テーマ:ニュース(99428)

 陸山会事件絡みのこのニュースについて一言。

 私が気になるのは、ラストの吉田繁實弁護士のコメントです(記事には「吉田繁実」とありますが、日弁連の弁護士検索には「吉田繁實」で登録されています)。



 先に前提となる知識を。

 検察審査会法上、検察官の不起訴の当否の審査をするにあたっては、法律のプロという訳ではない一般市民の人たちが参加することになります。

 しかしながら、一般市民が参加するに当たっても、最低限度の刑法(刑事特別法)や刑事訴訟法の知識は必要になります。
 市民感覚なら実体法も手続法もすっ飛ばせる、と言うほど市民感覚も万能ではありません。
 処罰できる行為は何かと言う知識すらない検察審査員に審査されて起訴では、市民感覚の反映どころか罪刑法定主義や疑わしきは罰せずと言った刑事訴訟法のぶち壊しにならざるをえません。


 しかしながら、いきなり検察審査会に放り込まれた人たちに、基本的な法律の知識があることは多くないでしょう。
 「殺人未遂とは」なんて、刑法の何条を見ればいいか、いやそれ以前に見るべき法律が刑法か刑事訴訟法かその他の法律かだってわからない人も少なくないでしょう。
 知っていたとしても、「実行の着手って何?」「故意って何?認識ある過失って何?」ということになるでしょう。



 流石にそれでは困ってしまいます。
 裁判員裁判ならば、裁判官がその点については知識を伝達してくれますが、検察審査会においては裁判官は関与しません。

 そこで、検察審査会の会議では、必要な法律の知識を伝達し、争点や証拠を整理するために審査補助員として弁護士が選任される場合があります。その弁護士が検察審査員に必要な知識を説明し、証拠を整理することができます。検察審査会法39条の2
 起訴相当議決でも再度不起訴処分になって審査する起訴議決の場合には、特に知識も必要になる可能性が高いので、審査補助員弁護士の選任は必ず行わなければならないものとされています。(検察審査会法41条の4
 ちなみに、吉田弁護士は二度目の起訴相当議決の時の審査補助員でした。



 しかし、です。
 
 弁護士が誘導してあれこれ判断しなさい、と誘導していくようでは、「市民感覚を反映する」検察審査会の趣旨が台無し、と言うことにもなりかねません。例え弁護士が検察の判断はおかしい、起訴すべきだと考えたとしても、弁護士vs検察官でバトルするために検察審査会があるのではありません。
 審査補助員弁護士は、中立的な知識伝達者としての行動を越えて、裁判員の判断をああしなさいこうしなさい、と言うことは許されていません。裁判員の自主的な判断を妨げるような言動をしてはならない旨は、検察審査会法にも記載があります。検察審査会法39条の2第5項


 吉田弁護士の言動で気になるのはこの点なのです。

 吉田弁護士は、判断は不当と言う発言をしています。
 しかしながら、極端な話吉田弁護士が起訴すべきであろうと思うが思うまいが、それが検察審査会での審理に影響を及ぼすようなことは避けなければいけません。また、補助弁護士は、別に検察審査会の代理人でもありません。
 検察審査会の意思を代表して決定書を作ることはありますが、検察審査会の意思形成には、知識の伝達、主張や証拠の整理以外では全く関われない、関わってはならない立場の人物です。(逆に言えば、どれだけこんな議決は不当だと思ったとしても、決定書を作ることを拒否したりしてはいけない)

 それなのに、なぜに補助員としての立場を越えて、判決に口出しをするのでしょうか。

 内心で判決に対してどのような評価を抱こうとも、それは仕方ないことでしょうし、咎め立てすることはできません。検察審査員の議論が高度だったので説得されたんだ、と言うこともあり得るでしょう。

 問題なのは、これによって審査補助員の公正中立に疑いが生じてしまうことです。
 検察審査会の会議は非公開で守秘義務があります(検察審査会法44条など)から、実際にどのような評議が行われたのかはわかりません。
 検察審査会の判断結果が、検察審査会の民意反映によって行われたのではなく、審査補助員弁護士が暴走し、検察審査員を説得して出した結果ではないのか、と言う疑いが発生します。

 検察審査会の判断を尊重せよ!と抽象論で主張しているうちであれば、検察審査員の判断を尊重しているだけだ、内容には踏み入っていない、説得したというのは疑い過ぎだと弁解をする余地はあったと思うのですが、記事には

 「結局、会計処理を秘書任せにしておけば『故意がない』として罰せられないということ。もはや政治資金規正法で政治家を立件することはできない」

と、明らかに内容に踏み入ったことまで言ってしまっては、もう弁護不能です。
 しかも、議決書の文面を改めてみましたが、「これでは政治家を立件できない」などと言う趣旨の内容は、2通の起訴相当の議決書に一言もありませんでした。


 市民感覚が反映されたんだと言えればこそ、まだしも起訴に伴う小沢氏の苦痛その他も仕方ないのだと言えるのかもしれませんが、審査補助員弁護士の暴走で起訴されました、では正当化不能です。




 ただでさえ、今回の件で検察審査会の強制起訴制度は極めて難しい立場に追い込まれました。
  
 犯罪被害者や遺族の中には、検察審査会による強制起訴制度が最後の頼みの綱、と言う人たちも少なくはないでしょう。
 元々検察が起訴できなかった以上、無理筋の案件が増えやすいということはある程度までは想定の範囲内でしょうが、それでも箸にも棒にもかからないような案件を起訴した、市民感覚ではなく、実際には審査補助員弁護士が起訴させていたのと同じだったということが連発すれば、起訴議決について廃止、あるいは制限が加わる法改正がされることも考えられます。
 つまり、被害者や遺族にとっての希望の綱の一本は切れてしまうのです。



 その意味でも、吉田弁護士のこうしたコメントは、問題があるのではないかと指摘したい所です。

 仮に、実際に吉田弁護士がそうはいっていないのであるとするならば、今度はそんな捻じ曲げた事実を報道する報道に大きな問題があるという他ありません。
 







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最終更新日  2012年11月13日 17時54分38秒
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