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碁法の谷の庵にて

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2016年08月26日
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テーマ:ニュース(99464)
カテゴリ:その他雑考
「○○の逮捕状請求へ」というニュースは、大きな事件があると報道でもたまに流れます。
しかし、こういった報道をみると、私はいつも警察関係者や報道関係者に頭にきています。
被疑者・被告人の人権的な点からも問題があると思います。
逮捕状が請求されると言うだけでも関係者の名誉は手ひどく害されてしまいます。
刑事訴訟法上捜査に関係する警察官や検察官・弁護人には関係者(被疑者本人含む)の名誉を害さないよう努める義務があります(刑訴法196条。なお、報道関係者はこの条文の対象外だとされます)。
例え事後的に無罪になろうが嫌疑不十分になろうが、真犯人が登場して大々的に報じられる事態にでもならない限り、失われた名誉は戻らないことが多いのです。
意図的に逮捕状を流したというような情報を流す行為は刑訴法196条からして極めて問題が大きいと考えられます。
それだけではありません。
「犯人を検挙する」という視点からしても、やっぱりこうした報道は問題だらけなのです。
逮捕は人権侵害ですから、逮捕をするならば当然逮捕に何らかの必要性がなければいけません。
裁判所の逮捕状が言われるがままに発付されていないか、という批判はあるところですが、この記事ではその批判については触れません。
裁判所の逮捕状発付自体は正当に行われ、逮捕状の請求も正当に行われていることを前提に考えます。
では、逮捕の必要性について、どのように考えるべきでしょうか。
刑事訴訟規則には、次のような条文があります。
  • 第143条 逮捕状を請求するには、逮捕の理由(中略)及び逮捕の必要があることを認めるべき資料を提供しなければならない。
  • 第143条の3  逮捕状の請求を受けた裁判官は、逮捕の理由があると認める場合においても、被疑者の年齢及び境遇並びに犯罪の軽重及び態様その他諸般の事情に照らし、被疑者が逃亡する虞がなく、かつ、罪証を隠滅する虞がない等明らかに逮捕の必要がないと認めるときは、逮捕状の請求を却下しなければならない。
逮捕の必要性があることは、裁判所が逮捕状を発付するにあたっては当然審査すべきことが前提とされています。
事前の令状を前提としない現行犯逮捕・緊急逮捕の場合もある訳ですが、これらの逮捕の場合であれ事後的な裁判所の審査は行われます。
どうしても緊急を要するために緩い審査で逮捕の必要性を判断する外なく、必要性を認めるハードルが低くなること自体はやむをえません。
しかし、だからと言って逮捕の必要性がないことが明らかになっているような場合にまで、逮捕することが許されるというわけではありません。また審査が緩い分身柄拘束期間を最大72時間に絞る手当がある訳です。
では、この「逮捕の必要性」の具体的な中身は何でしょうか。
実は逮捕の必要性の具体的内容については刑事訴訟法には明文がありません。
ただし、前記の刑事訴訟規則143条の3には、逮捕の必要性がない場合について「逃亡の恐れがなくかつ罪証隠滅の恐れがない等」とありますから、逆に逃亡の恐れ・罪証隠滅の恐れは逮捕の必要性の内容として含みうるでしょう。



また、参考になる法令として、逮捕した後、被疑者の身柄拘束を続ける場合には、「勾留」という身柄拘束形態に移ります。
勾留の要件については、刑事訴訟法に明文があります。(他にも犯したと疑われる罪の内容なども要件になりますが、ここでは割愛します)
①住所が定まっていない。
②自由の身にしておくと逃亡してしまい、裁判に出てこないおそれがある。(病気などでの一時的な不出頭は含まないと考えます)
③自由の身にしておくと罪証隠滅(関係者に口裏合わせの圧力をかけることなども含む)のおそれがある。
このどれかを満たさないと、勾留はしてはいけないことになっています。



逮捕の必要性についても、原則としてはこれとパラレルに考えてよく、ただ求められる証拠などのレベルが低くなってくるものと考えます。
そして、住所不定のみを理由に勾留された例はこれまで身柄刑事事件を何十件もやっていますが見たことがありません。
逮捕をする・逮捕状を請求するということは、警察としては9割9分「この人物は捜査しなければならないが、自宅にいさせたら逃げちゃう・証拠隠滅をされちゃうよ!!」という主張を含んでいると考えられます。



これを前提に、「××事件の被疑者の逮捕状請求!!」という情報が報道に流れたとしましょう。
逮捕状請求の情報が報道されるならば、その情報は犯人にも流れてしまいます。少なくともその危険性は極めて高いと言えます。



それを見た被疑者はどう考えるでしょうか。
ハナから逃げる気も証拠隠滅する気も全くない、どんな情報を突きつけられても微動だにしない人物だったら、報道をみても特に何もしないかもしれません。
しかし、実際にはそうではない可能性も高い、というより逮捕状を請求する時点で「逃げる、証拠隠滅する危険があると主張している」わけです。
追われていると気づかない間はこれまで通り暮らしていても、「追われている」という現実を突きつけられれば、それ逃げろ!!となる危険はかなり高くなるでしょう。
警察にわざわざ自首してきた犯人を逮捕・勾留するのも、後から処罰されるという現実が迫ってくるにつれてやっぱり逃げたい、となった時に備えてのことだと考えられます。
計算高い犯人がそうするとは限らず、パニックを起こした小心者があてもなく遠くへ行ってしまったり、時には自殺してしまうと言う危険性さえあるわけです(自殺防止自体は勾留の理由になりませんが、そうだとしても自殺で真相解明が困難になることは不可避です)。
証拠隠滅だって、実は決して難しい話ではありません。燃やすとかトイレに流すだけで簡単に隠滅できてしまう証拠も多いのです。




逃亡させず、証拠隠滅もさせずに身柄を確保するなら、犯人の情報や捜査情報を意図的に公開するなど愚の骨頂以外の何物でもありません。
情報を隠しておき、「犯人が気付いた時にはもう逃げも隠れもできません」というように攻めるのが、逃げる危険のある被疑者の身柄を拘束するの基本だと考えられます。
仮に自分に捜査の手が及んでいると気づいても逃げも罪証隠滅もしないと高をくくって問題がないような犯人ならば、最初から逃亡や罪証隠滅の恐れ自体がないでしょう。




あるいは、任意同行などで身柄を半分確保できているようなケースもあるかもしれません。
しかし、任意同行は所詮は任意であり、断固帰りたいと言われたらそれまでです。逮捕状来るまで待って・・・には限界があります。
また、被疑者を特定して任意同行させると言うことはそれ相応に被疑者が疑わしい根拠をつかんでいるはずです。それで逮捕状を請求すれば済むことです。
証拠がつかめてもいないけどとりあえず任意同行で身柄を確保して令状請求・・・というのはちょっと考えられないでしょう。




また、情報を流すことで、万一目をつけていた被疑者が冤罪であった場合の再捜査にも支障をきたすことだって考えられるのです。





刑事訴訟法196条は、私個人的に一番守っていないのは警察だと思う条文です。
ただでさえ裁判員裁判が行われるようになり、報道が飛びつきやすい重大事件においては事件への予断を気にしなければならないはずのご時世です。
それなのに、未だに警察関係者が報道との関係を見直さず、一方的な情報をだらだらと流し、人権保障どころか真実発見への足までも自ら引っ張る状況には呆れてしまいます。
ただし、そういった報道を欲しがる報道関係者、ひいては読者がいることも、警察の報道対応の原因とも思われ、そう考えると暗澹たる気分になってきます。





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最終更新日  2016年08月26日 17時38分29秒
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