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犯罪被害者(本記事では遺族含む)が、刑事裁判に参加する制度ができてもう12年ほどになります。
犯罪被害者の皆さんは,参加することで自らの意見を裁判に反映させてもらう可能性が生まれるという訳です。 今時、被害者のある犯罪なら、捜査機関側も被害者の処罰に関する事情は聞いた上で調書に録取し、処罰感情は裁判所に伝えられるようにしています。 私は基本的に刑事弁護人側ですが、被害者の調書にはほぼ100%処罰感情に関する記述が出てきます。 ただ、処罰感情に関する記述は捜査機関を介した伝聞という形にならざるを得ません。 また、事件にもよりますが処罰感情を伝えると言っても調書の中で数行書くくらいがせいぜいのことが多いです。 その意味でも、そういった捜査機関の運用と別にして,被害者の方々が直接参加する制度には被害者保護の視点から一定の意味を見出すことができます(刑事弁護人的な視点からの懸念は相応にあれど、本記事での主眼ではありません)。 被害者参加制度の対象犯罪としては、「故意の犯罪行為による被害者死傷事件」「強制性〇等の性犯罪」「逮捕監禁罪」「略取・誘拐の罪」「過失運転致死傷罪」などがあります。(刑事訴訟法316条の33以下参照。〇は制限に引っかかるため伏字) ところが、この被害者参加制度を骨抜きにしてしまう事態が生じています。 それが略式裁判制度です。 略式裁判制度の概略は以前こちらの記事にも書いていますが、要は被疑者の同意の下、裁判官が検察から送付された書類を見ただけで審理する裁判形式になります。公判(公開法廷で当事者・検察官・弁護人が出頭しての裁判)が開かれず、裁判官が検察から送付された書類を見ただけで、罰金刑(罰金・科料以外は言い渡せない)を言い渡して終わることになります。 略式裁判制度そのものは、特に争いのない軽微な事件に、裁判のためのソースを割かせないと言う見地から私は良いことととらえています。 本当に罰金刑が相当であるのか、という問題点もあるのですが、そこについては本記事では検察・裁判実務を信用します。 しかし、被害者参加制度が認められている状況下で略式裁判が用いられた場合、「被害者として見れば自動的に被害者参加をすることができなくなってしまう」という問題が生じます。 略式裁判において被害者参加ができるかについて法律の規定に明文は見当たらないものの、私は被害者参加は認められないものと考えています。 また、仮に認められると解釈したところで、略式裁判は起訴されてから1日程度で略式命令まで出てしまうのが通例のため、参加の意思を表明した時点ではもう裁判自体終わっている可能性が高くなります(起訴前に参加しますとあらかじめ通知しても有効な意思表示にならない)。 仮に終わっていなかったとしても略式裁判の場合は公判自体が開かれません。 従って、被害者参加人は公判に出席できず、証人・被告人質問もできず、処罰について意見陳述もできずということになり参加にほとんど意味がなくなってしまう可能性が高いでしょう。 裁判所が「略式裁判を使うのは不相当なので略式ではなく正式裁判にする」という決定をすることは許されている(刑訴法463条1項。電通の労基法違反の事件などで使われました)ので、そこが一応の歯止めにはなりえます。 しかし、検察も被告人もそれでいいと言ってるなら…という視点からこのあたりのチェックは甘いと言わざるを得ないのが実情です。 平成30年司法統計だと略式裁判は22万6000件ほどが係属しているのに対して、正式裁判を相当としたのは僅か34件。6500件に1件くらいです。 もちろん、被害者参加対象事件においても同様で、過失運転致死傷事件は41000件ほどあるのに対し、略式不相当で正式裁判に回した事件はわずかに9件、4500件に1件でした。 令状自動発券機だと揶揄されることも多い裁判所による逮捕令状ですが、それすら平成30年で請求9万件に対して却下57件で、およそ1500件に1件です。(しかも却下以前に前裁きしていると言われそれを入れるともっと率は上がる) むろん、被害者・遺族全員がせめて法律の許す限りの厳罰希望、被害者参加でも何でもする!!という訳ではないにせよ、流石にこの率になると「被害者側の意向が考慮されて略式不相当・正式裁判になっている例はないか、あったとしても非常に少ないのでは」という疑念は生じます。 私自身、そういった被害者側からの意向が無視されてしまったと思われる件に接しています。 (その件に接するまで検察は被害者の意向が強い件は略式にしない運用をしていると勝手に推測していました) しかし、本当に罰金が適正な処罰なら正式裁判にした上で罰金を求刑すると言う方法もあるにもかかわらず、裁判のスムーズ化という都合で被害者から参加する権利を事実上奪うことは果たして適切でしょうか。 被害者参加制度の導入は、参加に伴う負担はある程度はやむを得ないという考え方が前提ではないでしょうか。被告人の略式裁判への期待は、そこまで保護すべきものでしょうか? 参加させるために裁判をすると本来不要な被告人の身柄拘束が必要になるまたは長期化する、と言うことなら略式でやらざるを得ない(流石に刑事弁護人としてそこは譲り難い)かと思いますが、元々罰金求刑の件なら、被告人を釈放した上、自宅から裁判所に出頭してもらう在宅事件として扱うことも問題なく可能なはずです。 そんな訳で、私としては、被害者参加対象事件については, ・罰金相当事案であっても略式裁判にはせず正式裁判で罰金を求刑する。 というような実務を定着させるべきではないかと考えています。 ちなみに、「略式裁判されるくらいなら不起訴になった方がまだいい」、という考え方もあります。 もちろん不起訴も問題ですが、この場合には被害者は検察審査会に申立てをし,その中で被害者は検察審査会に見解を求めることができます。 検察審査会は検察の「不起訴処分」について審査する組織であるため,検察審査会は略式裁判の場合「検察が略式であっても起訴している=不起訴処分に当たらない」ということになってしまい、審査する権限を持っていないのです。 つまり、略式裁判に納得できないからということで検察審査会にもっていっても、検察審査会は法律上門前払いしかできず、被害者側の不服は行き場を失ってしまうことになるのです。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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