琥珀の血脈 第117話
「奥様、宮廷の方がいらっしゃいました。」「お客様をお通しして。」 ダイニングルームに軍服を着た男が入って来るのを見た凛は、緊張のあまり顔が強張ってしまった。「そちらの方が、リン様ですか?」「はい。本日からお世話になります、リンと申します。」「すぐに荷物をまとめて、玄関ホールに来るように。」 ダイニングルームを出た凛は、自分の部屋に入って荷物を纏めた。この十年間肌身離さず持ち歩いていたトランクの中には、母との思い出の品が詰まっている。(お母さん、僕は必ずお父さんに会います。だから、天国で見守っていてください。)「ルシウス様、アイリス様、行って参ります。」「気を付けてね。」「はい。」 玄関ホールでルシウスとアイリスに別れを告げた凛は、軍服の男が運転する車に乗り、王宮へと向かった。「お母様、どうしても今日王宮に行かなくては駄目?」「アンジュ、あなたまだそんなことを言っているの?」「だって・・」 カイゼル公爵邸では、奇しくも凛と同じ日に宮廷に上がることになっているアンジュがそう言ってエミリーに対して幼子のように駄々をこねていた。「あなたはもう子供じゃないんだから、しっかりなさい。」「わかったわ。」「エミリーも寂しいんだよ、わかっておやり。」「あなたはすぐにアンジュを甘やかすんだから。」エミリーが隣で自分を睨んでいることに気づきながらも、エリオットは娘の頭を優しく撫でた。「何も離れ離れになるわけではないのだから、安心して行っておいで。」「わかったわ。」アンジュはハンカチで涙を拭うと、鏡台の前から立ち上がった。「お祖父様、行って参ります。」「アンジュ、陛下には失礼のないようにしろよ。」「わかりました。」 先に王宮へと上がった凛は、軍服の男とともに広い廊下を歩き、ある部屋に入った。「女官長様、皇太子妃付きの女官を連れて参りました。」「ご苦労様。あなたはもうさがっていいわよ。」 部屋の中には、シャンパンゴールドのドレスを着て、頭に頭巾を被った女が立っていた。「初めまして、わたくしは女官長を務めているエカテリーナです。あなた、お名前は?」「リンと申します。」「あなた、王宮暮らしは初めてでしょう? わたくしが、あなたに王宮暮らしの厳しさを教えて差し上げるわ。」 そう言って凛に微笑んだエカテリーナの目は、笑っていなかった。「そうねぇ、まずは着ている物を全て脱ぎなさい。」「え?」「何をグズグズしているの? 女官長様の命令は絶対ですよ。」エカテリーナの隣に居た若い女官が、そう言って凛を睨んだ。(どうしよう・・)素材提供:Little Eden様にほんブログ村