数日後、父方の叔母であるビュリュリー伯爵夫人の計らいにより、アンダルスと彼の実父・ユーリスは夕食を共に取ることになった。
「何から話したらいいんだろうか・・」
「叔母から聞きましたが、母はあなたと身分違いの恋に落ち俺を産んだと。その経緯を教えてくださいませんか?」
「ああ、構わないさ。少し気分が悪くなると思うが・・」
ユーリスはシャルロッテとの出会いから、彼女と駆け落ちするまでの経緯をアンダルスに話した。
「彼女とは本気だった。それは間違いじゃない。」
「そうでしょうね。遊びだったら俺は生まれなかった。母があなたを愛していたから、本気だったから彼女は俺を産んだ。そのことについて、あなたには感謝しています。けれど、あなたには父親とは思っておりません。」
「そうか・・」
ユーリスはそっとアンダルスの手を握ろうとしたが、彼はそれをさせなかった。
「これで、失礼致します。」
アンダルスはさっと椅子から立ち上がると、ダイニングから出て行った。
ビュリュリー伯爵邸から出たアンダルスは、その足でガブリエルが居る兵舎へと向った。
だが、そこには彼は居なかった。
「あの、すいません・・」
「アンダルス様、ガブリエル様でしたらご実家にいらっしゃられますよ。」
「彼が実家に?」
顔見知りの兵士からガブリエルが実家に居ると聞いたアンダルスは、彼の実家へと向おうとした。
「こんな時間に何処へ行くつもりだい?」
馬に鞍をつけていると、闇の中からシルバーブロンドを靡かせた司祭がアンダルスの前に現れた。
「あんたには関係ないだろう?」
「おおありさ。わたしはビュリュリー伯爵家に仕えているからね。」
ダリヤはそう言うと、エメラルドグリーンの双眸でアンダルスを見た。
「ビュリュリー伯爵家に仕えているって、どういうこと?」
「そんな事をいちいち君に教えてあげないよ。それよりも今は、ガブリエルの実家には行かない方がいいよ。」
「ご忠告どうも。」
アンダルスはダリヤの忠告を無視してガブリエルの実家へと向かった。
「全く、愚かなガキだ・・」
ダリヤは溜息を吐くと、ある場所へと向かった。
「ダリヤ、待ちくたびれたぞ。」
「お久しぶりです、旦那様。」
顎鬚(あごひげ)を撫でながら、男はダリヤに向かって好色な視線を送った。
「間諜の仕事はどうだ?」
「うまくいっておりますよ。長年生死不明とされていたシャルロッテ様の遺児を発見いたしましたし・・」
「そうか・・確か名前は、アンダルスといったな?宮廷お抱えの舞姫が由緒正しき高貴なるビュリュリー伯爵家の人間だとは、事実は小説より奇なりとはよく言ったものだ。」
「ええ、本当に。」
ダリヤはそう言うと、エメラルドグリーンの瞳を輝かせた。
数日後、ダリヤはエルムントを自室に呼び出した。
「なんでしょう、お話とは?」
「あなたはアンダルスがビュリュリー伯爵家の人間であることはとうにご存知ですよね?その事について、あなたに話があるのです。」
「話とは、一体・・」
「つまり、こういうことですよ。」
ダリヤが口端をゆがめて笑ったかと思うと、隠し持っていた短剣をエルムントの腹部に突き立てた。
「な・・ぜ・・」
「あなたが居ては邪魔なのですよ、エルムント殿。あなたが居る以上、アンダルス様に里心がついてしまう。厄介な問題がさらにややこしくなるのは御免被りたいですからねぇ。」
飄々とした口調でそう話しながら、ダリヤはそのまま短剣の刃でエルムントの腹部を深く抉った。
「エルムント、何処に行ったのかしら?アンダルス、あなた知らない?」
「いいえ。」
「そうだ、ダリヤにクッキーを味見させると約束したのよ。一緒に彼の部屋へ行きましょう。」
「そうですね。」
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