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JEWEL

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連載小説:蒼き天使の子守唄

2020.08.14
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※BGMと共にお楽しみください。

土方さんが両性具有です、苦手な方はお読みにならないでください。

「ねぇ、君が新月の夜に出没する鬼?成程、その姿は・・」
「お前、土方の仲間か?」
「そうだけど、それが君に何か関係あるの?」
「お前の首を、土方への土産にしてやる!」
お優はそう言って総司の胴を薙ぎ払おうとしたが、その前に総司が彼女の胴を峰打ちにして気絶させた。
「あんまり僕を軽く見ない方がいいよ。」
「沖田先生、ご無事ですか?」
「屯所に戻って、この子に色々と聞かないとね。」
総司はそう言うと、気絶したお優を肩に担いで屯所へと戻った。
「トシ、少し痩せたか?」
「そうか?」
「今夜の会合で、余り食べていなかったな?」
「俺はあんな豪華な料理は好きじゃねぇんだ。沢庵と茶漬けだけありゃぁいい。」
「トシは少食だからなぁ・・少し肉をつけた方がいいんじゃないか?」
勇はそう言うと、歳三の胸に顔を埋めた。
「やめろよ、くすぐったい・・」
「いいだろう、別に・・」

副長室で歳三と勇がそんな事を言いながら裸でじゃれあっていると、廊下から総司の声が聞こえて来た。

「土方さ~ん!」
「いけねぇ、総司が巡察から帰って来やがった!」
「もうそんな時か・・」

慌てて互いに服を着た勇と歳三は、呼吸を少し整えた後、副長室の襖を開けた。

「どうした、総司?」
「新月の夜に出没する鬼を捕えたんですけれど、どうします?」

総司はそう言うと、肩に担いでいたお優をそっと畳の上に寝かせた。

「こいつは・・」
「土方さん、こいつを知っているんですか?」
「あぁ。昔、江戸で会った事がある。」
「そうなんですか。じゃぁ話が早いや。」
「総司、そいつをどうする気だ?」
「それは土方さん次第ですよ。」

総司はそう言うと、口端を歪めて笑った。

「ん・・」

お優が目を開けると、そこには長年追い続けてきた“仇”の姿があった。

「土方さん、さっきからこいつが言っている、“先生”って誰なんですか?」
「江戸に居た頃、俺はキリシタンとして洗礼を受けた。その時に俺は、”先生“―松本安斎に出会ったんだ。」

歳三はそう言いながら、“先生”こと松本安斎(まつもとあんざい)と初めて会った時の事を話した。

安斎は、亜麻色の髪に琥珀の瞳という、日本人にしては珍しい容姿をしていた。

それ故に、近隣の村人達からは「鬼」と呼ばれ、恐れられていた。
だがそんな大人達とは違って、子供達は読み書きや算盤、剣術などを教えてくれる彼によく懐き、慕った。

歳三も、その中の一人だった。

「なぁ、“先生”がこの前、仔鬼を連れているのを俺の父ちゃんが見たんだと。」
「仔鬼?」
「あぁ、何でも銀色の髪と、血のように紅い瞳をしていたんだと。」
「へぇ・・」

寺子屋でそんな噂を聞いた歳三は、その真偽を確かめる為、安斎が暮らす家へと向かった。
そこには、確かに鬼と見紛うかのような、銀髪紅眼という何処か不気味な容姿をした二人の子供が居た。

「そこで何をしているんです?」
「先生、俺は・・」
「良かったら君も、お団子食べませんか?丁度四つありますし。」
「は、はい・・」

その二人の子供―巽とお優の姉弟は、歳三と目が合った瞬間、まるで威嚇するかのように唸った。

「すいませんね、この子達は今まで、この容姿の所為で周囲の大人達から散々ひどい目に遭わされてきたんです。だから君だけは、この子達と仲良くしてあげて下さいね。」

安斎はそう言うと、歳三に優しく微笑んだ。

それから歳三は、時折安斎の家を訪ねては、彼らと共に楽しい時間を過ごした。

だが、そんな幸せは長く続かなかった。

「先生、大変です!近々大規模なキリシタン狩りがあると・・」
「そうですか。」
「逃げないのですか、先生?」
「わたしは何も悪い事はしていません。わたしはただ、自分の信じる神を信じただけです。」

そう言った安斎の顔は、何処か安らかなものだった。

数日後、大規模なキリシタン狩りが行われ、礼拝の最中に役人達によって惨殺された村人達の遺体を発見した歳三は、胸騒ぎがして安斎の家へと向かうと、そこは既に灰燼(かいじん)に帰していた。

「先生、何処ですか~!」

歳三が安斎の姿を探すと、彼は袈裟斬りにされ、血の海の中で喘いでいた。


「先生!」
「どうか・・彼らを・・守ってあげて下さいね。」

歳三が頷くと、安斎は微笑みながら安らかに逝った。

「・・それが、俺が見た“先生”の最期だ。」
「じゃぁ、“先生”を殺したんは誰なん?」
「それは、俺にもわからねぇ。だが、俺は先生を殺してねぇ!」

歳三の言葉を聞いたお優の真紅の瞳が大きく揺らいだ。

「あれが、鬼の片割れか・・」







最終更新日  2020.08.14 22:24:35
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2020.07.28

※BGMと共にお楽しみください。

「土方様!」

突然背後からあいりの声が聞こえたかと思うと、何かが男に向かって飛んで来た。
それは、苦無だった。
男は苦悶の叫びを上げ、苦無が刺さった右目をそのままにして、歳三達の元から去っていった。
「大丈夫どすか、お怪我は?」
「あぁ、大丈夫だ。あいり、苦無の扱い方を何処で習った?」
「兄上からどす。それにしても、あの男は一体何者なんやろうか?」
「さぁな・・」
歳三があいりと西本願寺の屯所の前で別れた後、中に入ると大広間の方が騒がしい事に気づいた。
「おい、どうしたんだ?」
「土方さん、いい所に!お願いだ、あの二人を止めてくれ!」
そう言って原田が指したのは、激しい喧嘩をしている総司と斎藤の姿があった。
「おいお前ら、やめろ!」
「土方さん、止めないで下さい、これは僕とはじめの男同士の戦いなんです!」
「男同士の戦いだぁ!?」
「副長、手出しは無用です。」
総司と斎藤は互いに睨み合いながら、中庭へと躍り出た。
「土方さんに愛されているのは僕だ!」
「いや、この俺だ!」
 二人の下らない喧嘩を、歳三は何処かさめた目で見ていた。
「土方さん、あの二人、止めなくてもいいのか?」
「放っておけ。」
「そ、そうか・・」
「俺は暫く部屋で休んでいるから、二人にはそう伝えておけ。」
「わかった・・」
「いや、二人には伝えなくていい。」
「土方さん、少し顔色悪いぜ?余り無理すんなよ?」
「わかった。」

(本当にわかっているのかねぇ、土方さんは。)

歳三が副長室で仮眠を取っている頃、彼を襲った総髪姿の男は、あいりに投げつけられた苦無が刺さった右目を町医者に治療して貰っていた。
「どうだ?」
「幸い、眼球は傷ついていないようですな。暫くこちらで休んで、傷を治しなはれ。」
「かたじけない。」

男は目を閉じ、眠り始めた。

「ごめん下さい。」
「あぁ、ええ所に来てくれはりましたなぁ、お優はん。」
「あの子はどこなん?」
「奥の部屋で休んではります。」
「おおきに・・」

診療所に入って来た女は、そう言って町医者に頭を下げると、総髪姿の男が寝ている奥の部屋へと向かった。

「かわいらしい顔で寝てはるなぁ。」

女は男と同じ真紅の瞳を細めると、そう言って笑った。

「姉・・上・・?」
「よう寝てたなぁ、巽。右目の怪我、誰にやられたんや?」
「女や、女にやられた。土方をあと少しで殺れると思うてたのに、女が苦無を俺に投げて来た。」
「苦無やて?その女は忍なんか?」
「いいや、普通の町娘や。姉上、土方は“先生”の事は覚えてた・・」
「そうか。後はうちが上手くやるさかい、あんたは休んどき。」
「姉上、俺は・・」
「あいつは・・土方は、“先生”の仇や。うちらが必ず仇を討たなあかん。それまで体力を蓄えておき。」
「はい・・」

女―お優はそう言うと、弟の頭を優しく撫でた。

お優と巽の姉弟は、銀髪紅眼という容姿の所為で生まれてすぐに捨てられ、寺の和尚に育てられた。
だが、優しかった和尚は流行病で亡くなり、二人は廃墟と化した寺の中でただ朽ちるのを待っているだけだった。

そんな中、自分達を救ってくれたのが、“先生”だった。

『こんな所に居ないで、わたしの元へおいでなさい。今日からわたしが、あなた達の養い親になってあげますよ。』

そう言って優しく自分達に向かって差し伸べた手を、二人はしっかりと握った。

その日から、“先生”は二人にとってかけがえのない存在となっていった。
だが―

「姉上、大変だ!“先生”が・・」

“先生”との別れは、突然やって来た。

「嘘や、先生がそんな・・」
「姉上、あいつや・・石田村の土方が先生を殺したんや!」
「それはほんまか、巽。」
「ほんまや、姉上。俺、見たんや。」
「何をや?」
「土方が、先生を斬ったんや!」
「そうか・・」

“先生”はもう居ない。

お優と巽は、“先生”を殺した仇である“土方”を探し回った。

そして二人は漸く、土方を見つめたのだ。

(必ず、“先生”の仇は討つ!その為にうちはまだ立ち止まる訳にはいかへんのや!)

お優は、“先生”から親子の証として渡されたロザリオを握り締めた。


「今夜は新月かぁ・・何だかこんな夜には、鬼が出てきそうで嫌だなぁ。」
「鬼、ですか?」
「あぁ、君は知っているかな、新月の夜に出没する鬼。何でもそいつらの髪は銀色で、瞳は血のように赤いんだって・・て、もう聞いていないか。」

総司はそう言うと、隊士を斬り伏せた“鬼”を睨んだ。

「へぇ・・本物の鬼って、随分華奢なんだね?」
「抜かせ!」

そう叫んだ鬼―お優は総司と斬り結んだ。

「なかなかやるね。」







最終更新日  2020.07.29 18:16:14
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2020.07.18

※BGMと共にお楽しみください。

土方さんが両性具有です、苦手な方はお読みにならないでください。

「土方様、この度は兄を助けて頂き、ありがとうございました。」
「礼なんて要らねぇ。それよりもあいり、お前これからどうするんだ?」
「うちは宿に戻ります。」
「そうか。夜道を女子一人で歩かせる訳にはいかねぇから、宿まで送ってやるよ。」」
「おおきに。」

歳三があいりを宿まで送っている頃、桂は真紀を診察した町医者から信じられない言葉を聞かされた。

「それは、確かなのですか?」
「はい。まだ母体の状態が不安定なので、くれぐれも無理をさせないようにしてください。」
「わかりました・・」

町医者が去った後、桂は真紀が寝ている部屋へと向かった。

「真紀、起きているか?」
「はい・・」

真紀は少し疲れた様子で布団からゆっくりと起き上がった。

「俺は、どこか悪いのですか?」
「真紀、落ち着いて聞いてくれ・・」

桂が真紀に妊娠を告げると、彼は突然涙を流した。

「どうした、真紀?」
「本当に、俺が・・」

真紀はそう言うと、そっとまだ膨らんでいない下腹に触れた。

「産むか、産まないかはお前が決める事だ。」
「わかりました・・暫く時間を下さい。」
「・・そうか。わたしは、出来る事なら産んで欲しい。」

桂はそう言うと、真紀を抱き締めた。

「俺に、“女”になれとおっしゃるのですか、桂さん?」
「そうではない・・」
「では、俺はこの子を諦めても良いのですね?」
「真紀・・」
「今まで俺があの廓の中でどんな思いで暮らしていたのか、わからないでしょう。あの時、俺が廓に火をつけていなかったら・・」
「真紀、落ち着け。」
「俺は、廓でただ死を待つだけの女を沢山この目で見てきました。俺は、彼女達のようにはなりたくありません!」
「わかった。真紀、落ち着いてくれ。お前は少し疲れているんだ。」
桂がそう言って真紀を抱き締めると、彼は小刻みに震えた。
「今はゆっくりと休むと良い・・」
「はい・・」

真紀の震えが治まった後、桂はそっと彼を布団に寝かせた。

「桂さん、おるかえ!?」
「大きな声を出さないでくれ。真紀が隣の部屋で寝ているんだ。」
「ほうかえ。じゃぁ、ちぃと何処かで一杯飲みながら話そうかのぅ。」
「・・そうだな。」

「ま、真紀が妊娠!?それは、本当かえ!?」
「わたしが今まで君に嘘を吐いた事があるかい?」
「まっこと、めでたい事ぜよ!赤飯を炊かないかんのう!」
「そんなに手放しで喜ぶ事が出来るのならいいのだが・・」
桂はそう言うと、猪口から酒を一口飲んだ。
「真紀は、わたしと出会う前に廓で暮らしていた。廓での暮らしは酷かったらしい・・真紀は左利きで三味線の撥を左手で持っていたというだけで、女将に左腕に火箸を押し当てられたんだ。」
「惨いのぅ・・」
「真紀は、廓に火をつけて逃げ出した。そうする事でしか生きる事が出来なかったんだ。」
「ほうか・・」
「真紀の母親は、彼を産んですぐに亡くなったそうだ。母親の愛と温もりを知らない真紀はこれからどうするのかがわからないんだろうな・・」
「何じゃぁ、わしにはとんとわからんが、母親ちゅうもんは、すぐになれるもんじゃないぜよ。まぁ、わしらには一生わからん事じゃき、桂さんは真紀の事を見守ってやればええがじゃ。」
「・・君と話せて良かったよ。」

桂はそう言うと、穏やかな笑みを浮かべた。

「送って下さって、おおきに。」
「いや、俺も少し歩きたかっただけだ。それじゃぁ、俺はもう行くぜ。」
「お気をつけて。」

宿の前であいりと別れた歳三は、朝日に包まれながら屯所への道を歩いた。
数歩歩いたところで、彼は背後から殺気を感じて振り向くと、そこには誰も居なかった。

(気の所為か・・)

歳三は安堵の溜息を吐いた後、再び歩き出そうとしたが、その時彼の前に一人の男が立ちはだかった。

「・・やっと見つけたぞ、土方歳三。」
「誰だ、てめぇ。」

総髪姿の男は、今にも漲らんばかりの殺気を真紅の瞳に宿らせながら、次の言葉を継いだ。

「お前は・・あの方を、“先生”を裏切ったのだ!今まであの方から受けてきた恩を、お前は全て仇で返したのだ!」
「話がわからねぇ・・俺は“先生”を裏切ってなんかいねぇ・・」
「問答無用!」

総髪姿の男はそう叫ぶと、歳三に斬りかかって来た。

男の殺気を感じたところで兼定の鯉口へと手を伸ばしていた歳三は素早く抜刀し、男の攻撃を受け止めた。

「てめぇは何者だ?」
「今から死ぬ奴になど、名乗りは不要!」

(こいつ、強ぇ・・)

歳三は男と刃を交わしながら、はじめて死への恐怖を感じた。

「貰ったぁ!」







最終更新日  2020.08.09 18:22:15
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2020.07.11

※BGMと共にお楽しみください。

土方さんが両性具有です、苦手な方はお読みにならないでください。

「何だと・・まだ百合乃がお座敷から戻って来ていない!?それは、確かなのか!?」
「へぇ、昼過ぎにここを出てから、こないな時間になっても帰ってけぇへんのどす。いつもお座敷が終わったらまっすぐうちに帰って来る子が・・」
久はそう言うと、不安そうな顔をして桂を見た。
「今朝、百合乃ちゃん宛に脅迫状が届いたんどす。」
「脅迫状が?」
「へぇ、“必ずお前を殺す”と書かれてました。桂様、どうか・・」
「心配しないでくれ、必ずわたしが百合乃を見つけてみせる。」
「おおきに。」

久はそう言うと、桂に向かって頭を下げた。

(何処に行ってしまったんだ、真紀!?)

久蔵から出た桂は、そう思いながら闇の中へと駆けていった。

桂と入れ違いに、歳三とあいりが久蔵へと向かうと、そこの女将が彼らの顔を見るなり、二人の方へと駆け寄って来た。
「新選組の土方様、どうか百合乃ちゃんを助けておくれやす!」
「あぁ、わかった。女将さん、百合乃に脅迫状を出した人間に心当たりはねぇか?」
「そういえば、前にお座敷でお客様にしつこく言い寄られていたと、百合乃ちゃんが珍しく愚痴をこぼしてはったわ。」
「その客の名前は?」
「確か、榎本様という方どしたなぁ・・」

(榎本・・確か、前に一度会合で顔を合わせたような気がするな・・)

「土方様?」
「女将、ありがとうよ。」

桂と歳三達が真紀を探している頃、当の本人は、人里離れた屋敷に囚われていた。

「う・・」
「目が覚めたか?」

真紀が目を開けると、そこには下卑た笑みを浮かべながら自分を見つめている数人の男達の姿があった。
「俺の事を覚えているか、百合乃?」
「あぁ・・確かわたしにしつこく付きまとって、女将さんに塩を撒かれた方ですね?」
「あれは、お前が悪いのだ、俺に・・」
「それで、こうしてわたしをこんな所に閉じ込めて手籠めにでもするつもりですか?」
真紀がそう言って男を見ると、彼は真紀の頬を殴った。
「何だその目は、俺を馬鹿にしているのか!?」
「榎本、こんな女、少し痛い目に遭わせてやれば、黙って言う事を聞くさ。」
「そうだ!」
男達の言葉を聞いた真紀は、口元に薄笑いを浮かべた。
「何がおかしい!」
「わたしは誰の支配も受けない。わたしを支配できるのはわたしだけ。」
「おのれ!」
「殴りたければ殴ればいい。」

榎本は真紀の言葉に激昂し、何度も拳を真紀の顔に振り下ろした。

「お前など、滅茶苦茶にしてやる!」

榎本の言葉を聞いた後、真紀は意識を失った。

「あそこだ。」

 歳三が漸く真紀の監禁場所を突き止めたのは、もうすぐ夜が開けようとしている頃だった。
「本当に、あそこに兄上が?」
「待て、暫く様子を見てから踏み込んだ方がいい。」
急いで屋敷の中に入ろうするあいりを制し、歳三は彼女と共に近くの茂みに身を隠し、敵の様子を探る事にした。
「何だ、こいつ、死んだのか?」
「まぁ、あんなに可愛がってやった後だ、当然だろ。」
「その辺に捨てておくのは惜しいし、何処かの遊郭にでも売り飛ばすか?」
「そりゃぁいい・・」
男達の一人がそう言いながら部屋の隅に倒れたまま動かない真紀に近づくと、彼は両目を押さえながら悲鳴を上げた。
「こいつ!」
「あの程度で、わたしが殺せるとでも?」
真紀はそう言うと、倒れた男を足蹴にした。
彼の顔は赤紫色に痛々しく腫れ上がり、唇は切れて血が滲んでいた。
屋敷の中では、暫く男達の怒号や悲鳴が聞こえた。
「兄上、ご無事ですか?」
「あいり、どうしてこんな所に・・」
「兄上、どうしてこんな・・」

あいりは真紀の顔に残る痛々しい痣を見た途端、涙が止まらなくなった。

「あいり、俺は大丈夫だから泣くな。」
「兄上~!」

真紀が子供のように泣きじゃくるあいりの頭を撫でてなだめる姿を歳三が見ていると、そこへ桂がやって来た。

「真紀、無事か!?」
「桂さん・・」
「お前をこんな風にした奴らは誰だ?」
「安心して下さい、そいつらは皆俺が殺しました。それよりも、どうして桂さんがここに?」
「君達の後をつけたのさ。」
桂はそう言うと、歳三達を見た後、真紀を抱き締めた。
「本当に、無事で良かった。」
「桂さん・・」
真紀は桂の姿を見て安心したのか、そのまま気を失った。
「兄上!」
「大丈夫、彼は気を失っているだけだ。」
桂はそう言うと、気絶している真紀を優しく横抱きにした。
「君達はもう帰りたまえ。真紀はわたしが連れて帰る。」
「そうか・・」
「土方様、うちらはもう・・」

あいりに促され、歳三は屋敷から出た。

(真紀、これらかはわたしがお前を守る。)

「桂はん、この子は?」
「あぁ・・この子はわたしの恋人だ。彼女は怪我をしているから、医者を呼んでくれないか?」
「へ、へぇ・・」

宿の女将はそう言うと、町医者を呼びに行った。

「う・・」
「真紀、大丈夫だ、わたしがついている。」

桂はそう言うと、真紀の髪を優しく梳いた。







最終更新日  2020.07.11 00:00:15
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2020.07.04
土方さんが両性具有です、苦手な方はお読みにならないでください。

「どうします、土方さん?」
「宮下は暫く泳がせておけ。」
「わかりました。」
総司はそう言った後、歳三の顔色が少し悪い事に気づいた。
「余り無理しないでくださいね。」
「あぁ、わかっているよ。」
「それじゃぁ、僕はこれで失礼します、巡察があるので。」

総司が副長室から出て行った後、歳三は首に提げているロザリオを取り出した。
このロザリオは、あの時キリシタン狩りに遭い、瀕死の重傷を負った恩人から譲り受けたものだった。
両親を幼い頃に亡くし、上の兄姉達に大切に育てられていた歳三だったが、心のどこかで何とも言えぬ寂しさを抱えていた。
そんな時に歳三が会ったのが、“彼”だった。
“彼”は、自分と同じキリシタンでありながら、寺子屋を開いて村の子供達に読み書きを教えていた。

“彼”は、時折寺子屋に顔を出す歳三に対して優しかった。

―君は、いつか後世にその名を残す事になるだろう。

“彼”は、キリシタン狩りに遭う前夜、そう言って歳三に微笑んだ。

―先生!

キリシタン狩りから辛くも逃れた歳三は、袈裟斬りにされ血の海の中で喘いでいる“彼”の姿を見つけた。

―これを・・

“彼”は、歳三に自分のロザリオを手渡すと、息絶えた。
あれからもう、10年以上の月日が経とうとしていたが、あの時の光景は未だに脳裏に焼き付いて離れなかった。
「副長、今よろしいでしょうか?」
「入れ。」
「失礼致します。」

副長室に入って来たのは、何やら深刻そうな表情を浮かべた斎藤だった。

「何かあったのか、斎藤?」
「副長にお会いしたいと申す者が、屯所の前で門番と揉めております。」
「俺に会いてぇ奴だと?どんな奴だ?」
「若い娘です。年の頃は・・」
「わかった。」

斎藤からそのような報告を受けた歳三は、自分に会いたがっている娘の顔を見に、屯所の正門へと向かった。

「離しておくれやす!」
「大人しくしろ!」
「おい、何の騒ぎだ?」

門番と揉めている娘との間に割って入った歳三は、その娘があの時蔵で見かけたキリシタンの一人である事に気づいた。

「お前は、あの時の・・」
「マリア様、どうかお助けを・・」
「副長、その娘は・・」
「俺の知り合いだ、お前達は持ち場に戻れ。」
「はい・・」

歳三はそう言って隊士達を娘―あいりから遠ざけると、彼女と共に屯所の中へと戻った。

「どうして、俺に会いに来た?」
「兄上の事で、あなたにお願いしたい事があるんどす。」
「兄上?」
「宮下真紀様の事どす。兄上は、今命を狙われているんどす。」
「誰に命を狙われているんだ?」
「それはわかりまへん。けど、兄上が居る置屋に、こんな文が届きました。」

あいりはそう言うと、懐から一通の文を取り出した。
そこには血文字で、“必ず、お前を殺す”とだけ書かれてあった。

「どうか、兄上を助けて下さいませ!」

あいりはそう叫ぶと、額を畳に擦り付けんばかりに土下座した。

「お座敷、ですか?」
「そうや。何でも、あんたをご指名やそうや。」
「そうどすか。」

“百合乃”に変身した真紀は、客から指定された料亭へと向かった。

「こんにちはぁ、百合乃どす。」

襖を閉めた後、真紀は何者かに口を塞がれた。
真紀は抵抗したが、鳩尾を殴られて気絶した。







最終更新日  2020.07.04 17:16:41
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2020.06.19
土方さんが両性具有です、苦手な方はお読みにならないでください。

真紀は祇園の茶屋で桂と別れると、世話になっている置屋「久蔵」へと向かった。

「真紀ちゃん、お帰りやす。」
「ただいま帰りました。」
「桂はんとは会えたん?」
「へぇ、おかあさん、うちは部屋で休みます。」
「今夜は立て続けにお座敷が入ったさかい、疲れたやろ。」

 女将・久にねぎらいの言葉を掛けられた後、真紀は舞妓姿のまま自分の部屋へと向かった。
白粉を塗った顔を懐紙で丁寧に拭い、化粧を落とした真紀は、鏡台の前で溜息を吐いた。
いつまで、こんな生活を続けなければならないのだろう。
新選組への潜入作業に加え、真紀はこの置屋で桂と連絡を取る為に舞妓として暮らしていた。
置屋での生活は、否応なしに廓での苦い記憶を想起させた。

桂と出会う前の、絶望と闇に満ちたあの日々は、真紀にとっては悪夢以外の何物でもなかった。

左腕の古傷が、ヒリヒリと痛んだ。

―全く、あんな男の子を孕んで、こっちに押し付けて死んぢまうなんて、とんだ疫病神だよ、お前の母親は!

廓での生活が嫌で、真紀は何度も足抜けしてはその都度連れ戻され、女将から激しい折檻を受けた。

―お前など、生まれてくるんじゃなかったよ!

女将はいつも、真紀に対して憎悪と怨嗟の言葉をぶつけた。
真紀は只管、女将の折檻に耐えるしかなかった。

そんなある日、真紀が三味線の稽古をしていると、偶々(たまたま)そこへ通りかかった女将は、左利きの真紀が撥(ばち)を左手で持っている事に激昂した。
そして彼女は、熱した火箸を真紀の左腕に押し当てた。
真紀の悲鳴を聞いていた楼主がすぐさま医者を呼んで手当てをさせたが、真紀の左腕には醜い痕が残った。
真紀はもうこれ以上廓に居たら女将に殺されてしまうと思い、楼主が留守の夜を狙って眠り薬入りの酒を女将に飲ませ、彼女の部屋に火をつけた。
遠くで紅蓮の炎に包まれる廓を見ながら、真紀は漸く自由になれた気がした。

飢えをしのぐためなら何でもやった。

そんなその日暮らしを送っていた中で、真紀は桂と出会ったのだった。

“わたしの元へ来なさい。”

そう言って自分に救いの手を差し伸べてくれた桂の手を、真紀は迷いなく掴んだ。

(俺は、桂さんの為なら何でも出来る。)

真紀と別れた桂は、その足で定宿「いさき屋」へと向かった。
「桂様、才谷様がお見えです。」
「そうか。」
桂が奥の部屋へと向かうと、そこには一足先に晩酌をしている才谷梅太郎こと坂本龍馬の姿があった。

「桂さん、久しぶりじゃのう!」
「坂本君、元気そうで良かった。」
「真紀は元気にしとるかえ?」
「あぁ、元気にしている。まさか、君が京に居るなんて思いもしなかったよ。」
「ほうかえ?」
「・・それで、こうして君がわたしに会いに来たのは、何か提案があるのだろう?」
「鋭いのぉ・・」
「話によっては、聞いてあげようか?」

桂はそう言うと、渇いた喉を潤す為、猪口に注がれた酒を飲んだ。

「このままやと、わたしはいかんと思うんじゃ。」
「何がだい?」
「このまま長州と薩摩がいがみ合うても、西洋の列強諸国から狙われるだけぜよ。長崎でわたしは日本ちゅう国が西洋から奇妙に見られちゅう事がようわかったぜよ。」
「それで?」
「わしゃぁ、薩摩と長州が手を組んだらええと思っちゅう・・」
「それは、出来ないな。」
「桂さん・・」
「久しぶりに会えて、どんな話を聞けるのかと思ったら、無駄だったな。」
「桂さん、わしはおまんに会いに来たがは、それだけではないがじゃ。」

龍馬はそう言うと、懐から一通の文を取り出した。

「それは?」
「真紀に絶対に渡してくれと、あいりから頼まれたんじゃ。」
「あいり・・長崎で見かけた娘か。」
「桂さん、わしゃぁ真紀を自分の弟のように思っとる。だから、真紀を大事にしてくれんかのう?」
「・・君にそう言われなくても、真紀は大事にするさ。」
桂はそう言うと、あいりの文を龍馬から受け取った。
「そいじゃ、わしはこれで失礼するぜよ。」
「ああ。」

桂は龍馬が部屋から出て行った後、溜息を吐いた。

(あの男は、一体何を考えているのかがわからないな・・)

ひょうひょうとしていて、風のようにとらえようがない男。
そんな彼が、何故真紀の事が気になっているのかがわからなかった。
それに―

(宿敵である薩摩と手を組めだと!?坂本は一体何を考えているのかわからん!)

桂が龍馬の言動に混乱している頃、あいりは龍馬の帰りを宿の玄関先で待っていた。

「おうあいり、わざわざ起きて待ってくれたんかえ!?」
「坂本様が心配で・・京は最近物騒やと聞いたので・・」
「確かに、最近の京は何かと騒がしいのう。あいり、桂さんにはちゃんとおまんの文を渡しに来たぜよ。」
「おおきに。」
「おまんは、いつも真紀の事を心配しちゅうが、さてはあいつに惚れたかえ?」
「そないな事・・」

あいりはそう言って頬を赤く染めたが、龍馬はその反応を見て笑った。

「おまんは真紀とは赤の他人でも、実の兄妹のように仲がええのう。羨ましい限りじゃ。」
「それなら、坂本様と兄上の仲がうちには羨ましいと思うてます。何や女のうちにはわからへん、男同士の絆いうもんを感じるんどす。」
「そうかえ。」
「兄上、元気にしているとええんどすけど・・」
「わしもそう思っとる。まぁ、便りがないがは元気の証拠じゃ!」

龍馬はそう言うと、あいりの背を強く叩いた。


「大丈夫じゃ、何も心配はいらん!」
「へぇ。」

(何だか、胸が何故か苦しいのは、嫌な予感がするからやろうか?)

「土方さん、総司です。」
「入れ。」
「僕達が祇園で見かけたあの舞妓、百合乃っていうんですって。」
「それがどうした?」
「その百合乃の馴染みは、あの桂小五郎だそうですよ。」
「へぇ・・」







最終更新日  2020.06.19 13:28:44
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2020.06.14
土方さんが両性具有です、苦手な方はお読みにならないでください。

「副長、朝餉をお持ち致しました。」
「ありがとう。」

斎藤に礼を言った後、歳三は椀の蓋を取り、数月振りに炊き立ての米の匂いを嗅いだ。
その匂いを嗅いだだけで食欲が失せてしまった日々は、今となっては懐かしい。
箸を持つ手が震えている事に気づき、歳三は自嘲めいた笑みを口元に浮かべた。

 たかが食事で、こんなに感傷的になる事はないのに。

塞いだ気持ちを晴らそうと、歳三が襖を開けると、遠くから幼子のはしゃぐ声が聞こえて来た。
恐らく、近所の子供達が総司と遊んでいるのだろう。
総司は子供好きで、壬生村の屯所に居た時も八木家の子供達と良く遊んでいた。
もし腹の子が無事に産まれていたら、総司はまるで自分の子のように甲斐甲斐しく世話をしてくれただろうか―そんな事を思っていると、歳三は自分が泣いている事に気づいた。

(何で、涙が・・)

「トシ、入るぞ。どうしたんだ、トシ!?」

勇は歳三の様子を見に副長室に入ると、そで涙を流している彼の姿を見て慌てた。

「いや、何でもない・・」
「俺は、何も出来ない・・こんなにお前が苦しんでいるのに、お前の傍に寄り添って手を握る事しか出来ない。」
「今の俺には、それだけで充分だよ、勝っちゃん。」
「・・そうか。」

総司は、そんな二人の会話を聞いた後、厨へと戻った。

「総司、副長の膳はどうした?」
「まだ副長室にあると思うよ。でも、後で土方さんが持って来るから、今はそっとしておこう。」
「あぁ、そうだな。」

歳三は流産してから一月後に、仕事を再開した。

「余り無理をするなよ、トシ。」
「大丈夫だ。今まで休んでいた分を取り戻さないとな。」
「そうか・・」
「心配性なんだよ、あんたは。」

歳三はそう言うと、いつもの日常が戻って来た事を感じた。
そんな中、歳三に江戸に居る姉・信から文が届いた。

「トシ、どうした?江戸で何かあったのか?」
「信姉が、縁談を持って来た。相手は、大店の若旦那だそうだ。」
「良かったじゃないか。」
「良くねぇよ!俺は勝っちゃんの以外の男とは所帯を持つ気がねぇんだ!」
「トシ、これからどうするんだ?」
「どうするもこうするも、信姉にはその縁談を断るよう返事を・・」
「トシさ~ん、居るかい?」

歳三が信の文への返事を書こうと筆を手に取ろうとした時、何故か江戸に居る筈の八郎の声が聞こえた。

はじめは気の所為かと歳三は思ったが、何処か慌ただしい足音が聞こえた直後、副長室の襖が勢い良く開き、伊庭八郎が歳三に抱きついた。

「トシさん、久しぶり!」
「八郎、てめぇ何で京に・・」
「俺も京に仕事で来る事になったんだ。あれ、トシさん、暫く会わない内に少し痩せたかい?」
「あぁ、色々あってな・・」
「そう。ねぇトシさん、積もる話も色々とあるからさ、今夜一杯どうだい?」
「わかった、わかったから、もう離れてくれ・・苦しい。」
「あぁ、ごめん。久しぶりにトシさんに会えたから、興奮しちゃって、つい・・」

八郎はそう言うと、慌てて歳三から離れた。

「あれぇ、誰かと思ったら八郎さんじゃない。久しぶり。」
「総司、久しぶり!」

八郎はそう言うと、今度は総司に抱きついた。

「なぁに、どうしたの八郎さん、急に甘えん坊になって?」
「いやぁ、こうしていると、昔の事を思い出すなぁって。」
「へぇ。」
「なぁ総司、今夜飲みに行かないか?」
「いいねぇ!」

その日の夜、歳三と総司、八郎は祇園の茶屋で酒を酌み交わした。

「てっきり島原辺りに繰り出すのかと思ったら、こんな高級な所なんて・・流石、旗本のお坊ちゃんは違うなぁ。」
「よしてくれよ、総司。こうして酒を酌み交わしていると、トシさんとよく吉原で遊んだ事を思い出すなぁ。」
「そんな昔の話なんざ、忘れたよ。」
「はは、トシさんは覚えちゃいねぇが、酔っ払ったトシさんが吉原の遊女達に恋の句を作って、三味線でそれを・・」
「やめろ、思い出させんな!」
「はは、やっぱり思い出したんじゃないか。」
八郎はそう言うと、腹を抱えて笑った。

「さてと、そろそろ行こうか。」
「そうだな。」

三人が茶屋から出ようとした時、隣の部屋から客と思しき男と、舞妓が出て来た。

「こんな時間にお座敷遊びなんて、優雅なものですね。」
「あぁ、そうだな。」

歳三が総司とそんな話をしながら廊下を歩いていると、男と話していた舞妓と目が合った。
その舞妓は、美しい翡翠の瞳をしていた。

「土方さん、何しているんです、早く来て下さいよ。」
「おう、わかったよ。」

歳三はそう言うと、慌てて総司の方へと向かった。

「どうした?」
「どうやら、会ってはいけない人に会ってしまったようです。」
「そうか・・それは少し厄介な事になったな。それよりも真紀、お前にこれを。」
「何ですか、この包みは?」
「堕胎薬だ。万一の時にはこれを使え。」
「わかりました。」







最終更新日  2020.06.14 22:24:32
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土方さんが両性具有です、苦手な方はお読みにならないでください。

「宮下君、君は何者なんだい?」
「それは、秘密です。」
「まるで君の身体は、甘い毒のようだな。」
「伊東先生、俺の事をお気に召しましたか?」
「あぁ。」

―陥落(おち)た。

伊東に抱かれながら、真紀は口端を歪めて笑った。

 歳三は夏を迎えた途端、急に悪阻が酷くなり、寝込む事が多くなった。

「トシ、大丈夫か?」
「畜生、自分の身体だってのに何でこんなに辛いんだ・・」
「薬は飲んだのか?」
「あんなの、全然効かねぇよ。」
「何か欲しい物はないか?」
「土方さん、お粥出来ましたよ。」
「悪いな、総司。」
「あ~あ、こんなにやつれちゃって・・鬼副長が台無しですよ。」
「うるせぇよ・・」
そう総司に憎まれ口を叩きながらも、歳三は粥を平らげた。
「俺が代わってやれたらなぁ・・」
「大丈夫だ、寝ていれば少しはマシになる。」
「そうか・・」

副長室から出た勇と総司は、中から聞こえてくる歳三の咳を聞きながら、同時に溜息を吐いた。

「近藤さん、どうしたんですか?」
「いや、こういう事に関して何も出来ないのは歯痒いと思ってなぁ。」
「こればかりは、何も出来ないですからねぇ。」
二人がそんな事を話していると、そこへ原田が通りかかった。
「二人共、溜息なんて吐いてどうしたんだ?」
「土方さんの体調が良くなくてね。どうすればいいのかなって話していたところなんだよね。」
「そうか。まぁ、こういう所だと、そういう話は疎くなるのは当然だよなぁ。」
原田はそう言うと、少し唸った。
「そういや、八百屋の店先でこんなものを見つけてよ。夏みかんっていってな、これだったら土方さんが食べられるんじゃないかと思って買って来たんだが・・」
「左之さん、ありがとう!今からこれを厨で切って来るよ!」
「役に立って良かったよ。それにしても、土方さんどこが悪いんだ?」
「いやぁ・・トシの体調が悪いのは悪いんだが、病じゃないのが・・」
「・・そうか、あんたが言いたい事はわかったよ、近藤さん。」

原田はそう言うと、巡察に向かった。

朝からうだるような暑さは、夜になると少し和らいだ。

「土方さん、どうぞ。」
「おぅ、済まねぇな。」
「どうです、今日は左之さんが夏みかんってやつを買って来てくれたんで、お粥にすりおろして入れてみました。」
「うめぇな、これなら食べられる。」
「そうですか、それは良かった。」

穏やかな日々をこのまま出産まで過ごせると、歳三は普通に思っていた。

だが―

「メース(※オランダ語で師匠のこと)、早く来てください!」
「そんなに急かすな!」

夏の暑さも少し和らぎ始めた頃、総司から歳三が突然喀血したという文を受け取り、松本法眼とその弟子である南部医師は大坂から京の新選組屯所へとやって来た。

「土方、大丈夫か!?」
「松本法眼・・よく来て下さいました。」

歳三はそう言った後、激しく咳込んだ。

「いつからそんな咳が出るようになった?」
「七日前からです。」
「そうか。じゃぁちょっと診るぜ。」
「お願い致します・・」

副長室で診察を終えた松本法眼は、暗い表情を浮かべていた。

「松本殿、トシは・・」
「残念だが、腹の子は諦めた方がいい。」
「そんなに深刻な病なのですか、トシは?」
「あいつの病は軽いが、腹の子は助からねぇ。」
「トシは、その事を聞いて・・」
「腹の子と己の命、どちらかを選べと言って来た。」

松本法眼は、そう言って勇の肩を叩いた後、屯所から去っていった。

「トシ、しっかりしろ!」
「勝っちゃん、俺はまだ、死なねぇよ・・」
「トシ、トシ~!」

勇の手を握った後、歳三は意識を失った。

 どこからか、赤子の泣き声が聞こえた。

―何処だ、何処に居る?

歳三は薄闇の中、必死に赤子の姿を探したが、声はすれども、赤子の姿は一向に見えなかった。
やがて歳三の前に、赤子を抱く一人の女の姿が現れた。

『あなたの子は、あなたと会えるその日まで、わたしがこの子を預かっています。』

青い着物姿の女は、歳三が五歳の時に死別した母だった。

―俺はこいつを・・

『あなたにはまだ、やるべき事が、なすべき事があります。さぁ、戻りなさい、あなたが居るべき所へ。』

―母上・・

『わたしはあなたと一緒に居られる時間は長くなかったけれど、わたしはいつも、あなたの事を見守っていますよ。』

歳三の母・恵津は、そう言って歳三に優しく微笑むと、そっと彼の背を押した。

「・・トシ、良かった!目が覚めたんだな!?」
「勝っちゃん、ただいま・・」

歳三はそっと、何も宿っていない下腹を擦った。







最終更新日  2020.06.14 00:00:16
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2020.06.07

※BGMと共にお楽しみください。


土方さんが両性具有です、苦手な方はお読みにならないでください。

「内海、数日前に新しく入隊した隊士が居るとか・・」
「あぁ、宮下真紀君の事ですね。」
「知っているのか、内海!?」
「えぇ。何でも彼は、桂小五郎と深い繋がりがあるとか・・」
「ほぉ、それは興味深い噂だね。」

伊東はそう言うと、開いていた扇をパチンと閉じた。

「一度会ってみたいね、その子に。」

(やっぱりね・・)

内海は伊東に男色の気がある事に薄々気づいてはいたが、新入り隊士に手を出そうとするとは―

「内海、聞いているのか!?」
「えぇ、聞いていますよ。」

新選組に入隊してから七日が過ぎた時、真紀は自分が周りから好色な目で見られている事に気づいた。
そんな視線を向けられたのは、一度や二度ではない。

―真紀、お前にはどこか華がある。

桂は真紀を抱いた後、そう自分に言った。

―お前には人を惹きつけるものがある。

(人を惹きつける力、か・・)

真紀が桂の言葉を思い出しながら廊下を歩いていると、向こうから内海がやって来た。

「宮下君、伊東さんが君に会いたいそうだ。」
「・・わかりました。」

真紀がそう言って内海を見ると、彼は真紀の懐に文を入れた。

「今宵、その場所に来て欲しい。」
「・・わかりました。」

そんな二人の姿を、総司は遠くから見ていた。

「ねぇ土方さん、あいつ何だか怪しいですよ。」
「あいつって?」
「やだなぁ、この前話したじゃないですか。ほら、池田屋で僕が会った・・」
「あぁあいつか。そいつがどうかしたのか?」
「そいつ、入隊早々伊東さんに目をつけられたみたいなんですけれど、気になるんですよね。」
「何がだ?」
「上手く言えないんですけど、気になるんですよね。」
「総司、そんな事を言いに来たのか?」
「違いますよ。土方さん、近藤さんから言伝です。“仕事熱心なのはいいが、余り根詰めるな。”」
「そうは言ってもなぁ・・」
「土方さん、貴方はもう一人だけの身体じゃないんですから・・」
「わかっているがなぁ・・まだ実感が湧かねぇんだよ。」

歳三は溜息を吐きながら、まだ目立たない下腹を撫でた。

「これ、松本法眼からいつもの薬です。ちゃんと毎日飲んで下さいね?」
「あぁ、わかったよ。」

歳三はそう言うと、悪阻止めの薬を飲んだ。

勇の子を妊娠してから、今まで以上に勇が過保護になっているのを、歳三は薄々と感じていた。
いや、勇はここひと月程、歳三に対してかなり過保護になっていた。
自分が座る座布団だけがやけに分厚いし、風邪をひいてはいけないからと、厚着させようとする。
そんな勇の気遣いに対してありがたいと思ったのは最初だけで、最近は彼に気遣われ過ぎて歳三は少し彼を疎ましく思うようになってしまった。
「近藤さん、土方さんの事余り構い過ぎない方がいいですよ。」
「総司、どうして急にそんな事を言うんだ?」
「土方さん、最近イライラしているの、妊娠の事もありますけれど、色々と土方さんの事を構い過ぎですよ。病気じゃないんですから。」
「そうは言ってもなぁ・・」
「土方さん、イライラし過ぎて稽古で隊士達に当たり散らして大変なんですから。」
「わ、わかった・・」
総司の忠告をお陰なのかどうかはわからないが、その日から勇は余り歳三に対して過保護になる事はなくなった。
「土方さん、近藤さんにはちゃんと釘を刺しておきましたからね。」
「ありがとうな、総司。」
「お礼なら最近出来た茶店に連れて行って下さいよ。」
「あぁ、わかったよ。」

 そんな話を歳三が総司と話している頃、真紀は伊東と会う為に身支度をしていた。

「おい、あれ・・」
「あんな綺麗な女、新選組に居たか?」

真紀は女子姿のまま屯所を出ると、伊東が指定した場所へと向かった。

「やぁ、待っていたよ。」

伊東はそう言うと、女子姿の真紀を見て目を細めた。

「ほぉ、これは艶やかだな・・」
「お気に召してくれたようで、何よりです。」
「さぁ、あそこに座ってくれ。」
「はい。」
伊東と酒を酌み交わした後、真紀は彼が新選組への不満を吐いているのを、ただ黙って聞いていた。

「済まない、僕ばかり話してしまって・・」
「いいえ。」

真紀はそう言うと、伊東にしなだれかかった。

「伊東先生、伊東先生は副長の事をどうお思いになられていますか?」
「僕は彼が嫌いだよ。まぁ、向こうも僕を嫌っているから、気にしないけどね。それよりも、僕は君の事がもって知りたいなぁ。その胸は詰め物かい?」
「いいえ、本物です?」

真紀はそう言うと、伊東に微笑んだ。

―いいか真紀、新選組に潜入したら、伊東甲子太郎に接触しろ。

「伊東先生、わたしも伊東先生の事、もっと知りたいです。」
「本当かい?」
「えぇ。」

―伊東と接触したら、必ず陥落(おと)せ。







最終更新日  2020.06.07 16:04:57
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2020.06.03

※BGMと共にお楽しみください。

土方さんが両性具有です、苦手な方はお読みにならないでください。

第二部

江戸で隠れ見たキリシタンの集会で初めて“マリア様”と会った時、雷に打たれたかのような衝撃を受けた。
絹糸のような美しく艶やかな黒髪、雪のような白い肌、そして宝石を嵌め込んだかのような蒼い瞳―桂は一目で“マリア様”に心を奪われた。
その“マリア様”の正体を知った時、桂は呆然としてしまったが、ますます彼は“マリア様”―歳三に心を奪われ、彼の虜になってしまった。
そんな中、桂は知人から“マリア様”に関する噂を聞いた。

―“マリア様”は男女両方の性を持っている。

 その噂の真偽を確かめてみたいが、その前に敵の動きを探るのが先だと考えた桂は、真紀を新選組に潜入させる事にした。

「また、“マリア様”の事を考えていらしたのですか?」

背中に突然鋭い痛みが走り、桂が我に返ると、そこにば仏頂面を浮かべた真紀の姿があった。

「済まない・・」
「暫く桂さんとは会えなくなるというので、俺はこうして桂さんに抱かれているだけでも嬉しいのに、つれないですね。」
「嫉妬か?」
「いいえ。少し桂さんに腹が立っただけです。」

真紀はそう言って身体を反転させると、桂の上に跨った。

「今宵は、俺だけを見て下さいませ。」
「あぁ、わかったよ・・」

桂はくすくすと笑いながら、真紀の唇を塞いだ。


同じ頃、西村の屋敷に監禁された歳三は、喉が渇いて水を飲もうと厨へと向かおうとした時、中庭を挟んだ向かいの部屋からくぐもった男の呻き声と女の嬌声が聞こえて来た。

(なんだあいつら、俺の事放っておいて盛ってんじゃねぇか。)

 歳三がそう思いながら部屋の前を通り過ぎて厨へと向かおうとした時、不意に部屋の襖が開かれ、あっという間に彼は部屋の中へと引き摺り込まれた。

部屋の中は薄暗く、何処か咽せ返るかのような甘い香りが漂っていた。

「さぁ、あなた様も快楽を味わって下さいませ。」
「やめろ・・」
「恥ずかしがらないで、快楽に身を委ねるのです。」
「俺に触るな!」

歳三は自分の着物を脱がそうとするしずの手を乱暴に払い除け、自分の部屋へと戻って愛刀と脇差を握り締めて屋敷から飛び出した。

「旦那様、逃げられてしまいましたわ。」
「追わずともよい。“マリア様”とはまた会う事になるだろう。」

西村はそう言うと、口端を歪めて笑った。

「では真紀、ここでお別れだ。」
「はい。桂さん、どうかお元気で。」
「お前も、元気でな。」
宿の前で桂と別れた真紀は、その足で新選組屯所がある西本願寺へと向かった。
「何だ、貴様は?」
「新選組に入隊したいのですが・・」
「ここで暫く待っておれ。」
「はい・・」
真紀が暫く屯所の正門前で待っていると、そこへ巡察を終えた一番隊がやって来た。
「あれぇ、君、確か池田屋で会ったよね?もしかして僕に殺されに来たの?」
「沖田先生、この者は入隊希望者です。」
「ふぅん、そうなの。じゃぁ、僕が直々に入隊試験をさせてあげるよ。」
「ありがとう・・ございます。」
「お礼なんていいって・・まぁ、君が生きて帰れるかどうかはわからないけれど。」

 総司はそう言うと、口端を歪めて笑った。

「何だ、道場がいつもより賑やかだな。」
「局長、お帰りなさいませ。先程入隊希望者が屯所に来て、沖田先生が今その者に試験を・・」

大坂出張から戻った勇に隊士がそんな話をしていると、突然道場の方からどよめきが起こった。

「今のは何だ!?」
「行ってみましょう!」

二人が道場へと向かうと、その中では入隊希望者の若者と総司が対峙していた。

「どうしました、もう終いですか?」
「・・うるさい!」

総司はそう叫ぶと、木刀を構え直した。

「そうですか。」
「次は、殺してやる!」
「総司、やめないか!」

殺気立った二人の間に勇が慌てて入ると、総司は正気を取り戻した。

「近藤さん、お帰りなさい。」
「彼が、入隊希望者かな?」
「はい。確か、名前は・・」
「宮下真紀と申します。」
「宮下君か。年は幾つだ?」
「17です。(※数え年、満年齢は16歳)」
「総司、彼の剣の腕前はどうだ?」
「そんな事、僕に聞かないで下さいよ。」
総司はそう言って額の汗を拭った後、溜息を吐いた。
「総司、宮下君の入隊を認めるか?」
「えぇ。」
「では宮下真紀君、よろしく頼む。」
「こちらこそ、よろしくお願い致します。」

こうして真紀は、新選組への潜入に成功した。

「どういう目的で入隊したのかは知らないけど、下手な動きを少しでもすれば、僕が君を斬るよ。」

(これから用心しないといけないな。)







最終更新日  2020.06.03 00:00:09
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