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JEWEL

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連載小説:蒼き天使の子守唄

2013年06月17日
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伊東達が入隊してから数日後、大広間に隊士達を集めた歳三は開口一番、彼らにこう告げた。

「最近隊士数が増え、今の屯所が手狭になった。そこで、屯所を移転しようと思う。」
「屯所を移転って、こんな大所帯を引き受けてくれるところがあるわけねぇだろう。どうすんだよ土方さん?」
永倉新八がそう言うと、歳三はニヤリと笑って間を少し置いた後、次の言葉を継いだ。
「移転先ならもう見当がついている。」
「何処だよ、それは?」
「それは、西本願寺だ。」
「本気なのか、土方君?西本願寺へ屯所を移転するだなんて、それがどんなに危険な事なのか承知の上で言っているのかい!?」
普段温厚な山南が突然大声を上げたので、隊士達は何事かと彼を見ながらザワザワと騒ぎ始めた。
「ああ、本気だ。あんたは反対か?」
「反対に決まってるだろう!あそこは・・」
「長州贔屓で有名だっつってんだろ?別にいいんじゃねぇか、屯所を移しても俺らには何の支障もねぇぜ、なぁ?」
「ああ。歳が決めたんなら俺もそう思う。」
勇は歳三の意見に賛同し、その姿を見た山南は、苦虫を噛み潰したかのような表情を浮かべた。
彼ら二人が屯所移転を西本願寺に決めた以上、その決定を覆すことはできない。
「伊東さん、あなたはどう思われる?」
歳三は剣呑な視線を伊東に送りながら彼に水を向けると、彼は飄々(ひょうひょう)とした口調でこう言った。
「土方君の意見に賛成ですよ。長州贔屓の西本願寺に屯所を移転するとなると、長州の動きも監視できますし、洛中に屯所を移すことによって黒谷への移動時間も短縮できますしね。」
尤もらしい伊東の意見が癪にさわった歳三は、彼の意見に噛みついた。
「ほう、それは異なこと。確か伊東殿は勤王倒幕の思考がおありとか?それならば今回の屯所移転の件、反対すべきことでは?」
「いいえ、わたしはそんなことは言っておりませんよ。」
「ではどのような・・」
「いい加減にしないか、歳。少し頭を冷やして来い!」
勇は歳三を諌めると、彼は憮然とした表情を浮かべていた。
「歳、どうしたんだ?お前らしくないぞ?」
「何だよ、あんただって伊東さんになびこうとしてるじゃねぇか。」
局長室に呼び出された歳三は、そう言うと勇を睨んだ。
「お願いだから邪推せんでくれ。」
「わかったよ。」
局長室から出て行った歳三の姿を、中庭で素振りをしていた斎藤と総司が見ていた。
「あ~あ、土方さん最近荒れちゃってるね。」
「何処か楽しそうだな、総司。」
「そう?僕もさぁ、ムカついてるんだよね。伊東さん、近藤さんに馴れ馴れしいんだもん。今あの人が目の前に現れたら斬っちゃいたいなぁ。」
総司はそう言うと、愛刀を力強く振り下ろした。
一方長崎では、龍馬に連れられ真紀とあいりは初めて砲術の稽古を受けることになった。
「これが、西洋の銃どすか?何や火縄銃とはえらい違いどすなぁ。」
「これだと雨の日でも火薬が湿らんでも撃てるぜよ。ほれ、いっちょう撃ってみ。」
「へぇ・・」
龍馬に教えられた通り、あいりは銃を構え引き金に手を引いて発砲すると、銃声と撃った反動で彼女は地面に尻餅をついてしまった。
「いやぁ、偉い音がするんどすなぁ。」
「最初は慣れんが、練習すれば慣れてくるぜよ。さ、もいっちょ。」
「へぇ。」
その日、あいりは日が暮れるまで砲術の稽古に励んだ。
「真紀、あいり、これからの時代は刀だけではいかん、銃も自由自在に操れんと、戦には勝てんぜよ。」
「はい、肝に銘じます。」

風に乗って、天主堂の鐘の音が彼らの元にまで聞こえた。
それは、新しい時代の始まりを告げる音のようだった。

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最終更新日  2013年06月21日 21時21分24秒
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「近藤さん、お帰りなさい!」
「おお総司、ただいま。」

勇の姿が見えるなり抱きついて来た総司を、彼の隣で歳三はじろりと睨みつけた。

「総司、よさねぇか。他の隊士達に示しがつかねぇだろう?」
「はいはい、わかりましたよ。あれ、近藤さんそっちの人は?」
総司の視線が、勇から伊東へと移った。
「今回入隊される伊東甲子太郎殿だ。伊東さん、これがうちの新選組一番隊組長の、総司です。俺の試衛館の師範代も務めております。」
「ほう、君が近藤君の愛弟子か。」
「近藤君?」
総司の翡翠の双眸が、剣呑な光を宿した。
「近藤さん、ここじゃ何だから色々と後で話そうか?」
「ああ、そうだな。」
気を利かした歳三は、そう言うと総司の手を掴んで中へと入っていった。
「あの人、一体何様のつもりなの?馴れ馴れしく近藤さんを呼ぶだなんて・・」
「俺だって気に食わねぇさ。だがな、こんなところで争いを起こしても何もなんぇねよ、堪えてくれねぇか。」
「わかりましたよ。土方さんだって、あの人の事気に食わないんでしょう?」
「ああ。」
歳三は伊東を新選組に入隊したのは間違いではないかと思い始めるようになっていた。

そしてその思いは、日頃強くなっていった。

「わたしを新選組参謀に取り立てていただき、ありがとうございます。」
伊東の歓迎の宴が島原で開かれ、彼は酒を飲んで少し赤くなった頬を勇に向けるとそう言って彼に微笑んだ。
元々美しい顔立ちをした彼は、笑うとまるで天女のように美しく見えた。
「いやぁ、わたしとしては、伊東さんの力を是非お借りしたくて・・」
「それは頼もしい事です。」
盛りあがる二人の傍らで、歳三はいかにも面白くないような顔をしていた。
「何あれ、近藤さんに馴れ馴れしくしちゃってさ。」
「総司・・」
「一体何様のつもりなんだろ、あの人?しかも参謀だなんて、山南さんの立場がないじゃない。」
「総司、わたしは大丈夫だからやめなさい、そんなことを言うのは。」
山南敬助はそう言って総司を窘(たしな)めると、歳三の前に腰を下ろした。
「うかない顔だね、土方君。」
「ああ。それよりも山南さん、本当にいいのか?」
「別にわたしは地位などに固執したりはしないよ。それよりもそんな仏頂面じゃ、折角の宴が台無しになるだろう?」
「わかったよ。」
普段意見が合わず対立している山南と歳三だったが、試衛館の貧乏時代に苦楽を共にした仲なので、互いの事を認め合っていた。
「歳、どうしたんだ?機嫌が悪そうだな?」
「何でもねぇよ。」
局長室に入った歳三は、そう言って勇にそっぽを向いて部屋から出ようとした時、彼に抱き締められた。
「何だよ、急に・・」
「お前が欲しい。」
勇はそう言うと、歳三の唇を荒々しく塞いだ。
「んん!」
息が出来ぬ程の激しい口付けに、歳三は腰砕けになりそうになった。
「土方君、居るかい?」
その時、廊下から伊東の声が聞こえ、二人は慌てて離れた。
「伊東さん、どうしたんです?」
「いえ、今後の隊の方針についてお話があって。」
「そうですか・・」

勇はちらりと歳三を見たが、彼は部屋から出て行った後だった。

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最終更新日  2013年06月17日 17時44分00秒
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「おう、来たかえ!」

『亀山社中』と書かれた門の前に真紀とあいりが立つと、中から浅黒い肌をした男が二人を出迎えた。

「坂本殿、お久しぶりです。」
「お~、お前、真紀じゃなかか?暫く見ん間に、大きゅうなったのう!」
龍馬は骨張った大きな手で真紀の頭を乱暴に撫でた。
「お前の隣に居る女子は誰じゃ?」
「初めまして、あいりと申します。」
「ほう、可愛いのう。それよりも、桂さんから何かを預かってきたがか?」
「はい。ここでは人目がありますので・・」
「わかった。中で茶でも飲んで話そうかのう。」
三人は、ゆっくりと建物の中へと入っていった。
「長州が馬関で列強の艦隊と戦をしたがか・・そんで、勝ったかが?」
「いいえ。圧倒的な軍事力で、我が藩は大敗を喫しました。」
長州藩は、馬関海峡に於いてイギリス・フランス・オランダ・アメリカの4ヶ国に砲撃を受け、惨敗した。
その原因は、前年長州藩がフランス艦を馬関で砲撃したことにあった。
「今回のことで、桂さんは尊王攘夷から開国勤皇へと藩は大きく考え方を変えるべきだとおっしゃっておりました。そこで、坂本殿のお考えをお聞きしたいと・・」
「わしゃぁ、このままでいっては日本はいかんと思うぜよ。」
「では、どうすればよいと?」
「メリケンちゅー国は、日本のように血筋で選ばれた将軍が国を治めんと、国民一人一人が選んだ大統領が治めるがじゃ。身分も何も関係ない者が国を動かす。面白い事だとは思わんかえ?」
「そうですね・・ですがそれを日本でしようとするとなると、至難の業でしょう。徳川家が容易に将軍職を手放すかどうか・・」
「なぁ真紀、外国人らにはこん国が面妖なもんに見えて仕方がないと言われたがじゃ。それぞれの国に王様がおって、西と東にも王様がおる。国中がバラバラな動きをしとる。」
「確かに、エゲレスでは女王が一国を治めておりますし、オロシヤでもあの広大な国を皇帝が一人で治めています。日本でもそれが出来る筈・・」
「そうぜよ。それがわしの目指している未来の日本の在り方じゃ。共和国ちゅーもんを作りたいんじゃ。」
「共和国?」
「これからこの国の王は、血筋でなくて国民一人一人が選んだ者がなるんじゃ。」
「それはいいですね。しかし、それが実現するまでどれほど時間がかかるか・・」
真紀はそう言って溜息を吐くと、茶で乾いた喉を潤した。
「すいまへん、ちょっと坂本はんに聞いてもよろしいどすやろうか?」
先程まで真紀と龍馬の会話を聞いていたあいりが、そう言って龍馬を見た。
「何か言いたい事があるがかえ?」
「坂本様が目指す新しい国には、キリシタンが居てもいいんどすやろか?」
「おんし、確かキリシタンやったのう。」
「へぇ。うちは悪い事を何もしてへんのに、どうしてあないな目に遭わされるんかわからへんのどす。」
「わしは、キリシタンもそうでない者も、みな同じ人間じゃ思うちょる。」
龍馬の言葉に、あいりはパッと顔を輝かせた。
「そうどすか。ほんなら、うちも坂本はんの新しい国づくりの手伝いをしてもよろしおすか?」
「ありがたいぜよ、これから宜しゅう頼む!」
龍馬は屈託のない笑みを浮かべて、あいりに骨張った手を差し出した。
「あの、これは?」
「シェイクハンド言うて、西洋の挨拶じゃ。」
「ほな、宜しゅうお頼申します。」

あいりはにっこりと龍馬に微笑んだ。

「ねぇ、土方さん達江戸から戻って来るのは、今日だっけ?」
「ああ。何でも、向こうで伊東甲子太郎なる人物が入隊をしたらしい。」
「ふぅん、どんな人なんだろうねぇ、その人。」

総司がチラリと屯所の門の方を見ると、丁度近藤達がやって来るところだった。

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最終更新日  2013年06月17日 17時42分57秒
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「平助がお前に会わせたい奴が居るんだとさ、歳。」
「平助が?」
勇と身体を重ねた翌朝、歳三は彼とともに江戸市中にある道場へと向かっていた。
「何でもその方は、平助と山南さんと同じ流派の者だそうだ。」
「北辰一刀流か。それで、どんな奴なんだよ?」
「さぁ・・詳しいことはよくわからないが、和歌に精通していてかなりの切れ者だという噂があるそうだ。」
「へぇ、そうかい。」
少し歳三が嫉妬を滲ませた口調で言うと、勇が怪訝そうな表情を浮かべて彼を見た。
「もしかして歳、嫉妬してるのか?」
「馬鹿、嫉妬なんかしてねぇよ!」
歳三は顔を赤くすると勇にそっぽを向いた。
「あ、土方さん、近藤さん!」
「平助、俺達に会わせたい奴って誰なんだ?」
道場へと着くと、その入り口では平助が二人に手を振りながら彼らの方へと駆け寄ってきた。
「伊東先生なら、道場の中に居るぜ?」
「伊東っていうのか。」
「藤堂君、お客様かい?」
道場の中で玲瓏な声が聞こえたかと思うと、一人の男が二人の前に姿を現した。

その余りの美貌に、勇と歳三は思わず絶句してしまった。

端正な美貌と、透き通るような白い肌、華奢な身体―歳三と似たような美貌を伊東は持っていたが、ひとつ歳三と違うのは、瞳の色が紫紺だということだろうか。

「僕の顔に何か?」
「いえ・・平助から聞いた話だと、かなり剣の腕が立つとか・・それで、どんな猛者なのかを想像していましたら・・」
「これは失礼、近藤君の想像とは違ったようだ。」
伊東甲子太郎(いとうかしたろう)は、そういうと勇に微笑みかけた。
初対面の相手に向かって“君”づけで伊東が勇を呼んだことに、歳三は一種の不快感を覚えた。

(何だこの野郎・・勝っちゃんに対して馴れ馴れしくねぇか?)

「そちらの方は?」
「ああ、こいつは俺の道場の門下生で、新選組副長の、土方歳三といいます。ほら歳、そんなに仏頂面を浮かべてないで挨拶せんか。」
「初めまして、土方です。」
「君が、噂の土方君か。話は藤堂君から聞かせて貰ったよ。何でも、隊内の規律を乱す者には容赦なく切腹を命じるとか。」
「ええ。新選組は今後ますます規模が大きくなりますからね。隊士達をまとめるには、厳しい規則が必要です。いけませんか?」
「おや、まるで僕が君のやり方を批判しているようじゃないか?まぁ、そう思ってくれても結構だがね。」
「ほう、そうですか・・」
両者の間に、見えない火花が散った。
「歳、一体どうしたんだ?伊東さんにあんな言い方をして・・」
「どうしたもこうしたもねぇよ。俺はあいつが気に入らねぇ。」
「歳、そんなことを言うなよ。伊東さんは必ず新選組を支えてくれる存在になるさ。」
「そうか?俺にとっちゃぁあいつはぁ新選組の疫病神にしかならねぇと思うけどな!」
歳三はそう吐き捨てると、伊東の道場を後にした。
「疫病神、か・・かなり酷い言い草だね。」
「兄上、気になさらないでください。」
歳三たちが去っていった方向を眺めている伊東の背後に、彼の弟の三木三郎が立ち、そう言って兄を慰めた。
「わたしは彼の言うことなど気にしていないよ。ただ・・土方君という男は、少し厄介だね。」

伊東甲子太郎と、土方歳三―二人にとって互いの第一印象は最悪なものとなった。

「あいり、見えてきたぞ。」
「あれが長崎やろか、兄上?」
「ああ、そうだ。」
一方、萩から一組の兄妹―真紀とあいりが、桂からある用事を言いつけられて長崎の土を踏んだ。
「ここはほんまに日本どすか?何や偉い京や江戸とは違いますなぁ。」
「長崎は鎖国中の日本で唯一の貿易港だ。あれを見てみろ、あいり。」
そう言って真紀が指したのは、ゴシック様式の教会だった。
「あれは、教会?」
「長崎ではエゲレス人やフランス人が多いからな。キリシタンも江戸や京よりも多いだろう。」
「そうどすか・・」
「さてと、ぐずぐずしている暇はないぞ。急がねばな。」
「へぇ・・」

あいりは天高く聳(そび)え立つ教会の尖塔を見つめると、真紀と共に歩き始めた。

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最終更新日  2013年06月17日 17時41分53秒
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「またあんたのことだから、仕事ばかりして碌にご飯も食べてないんじゃないの?」
「うるせぇな!」

試衛館道場に隣接する母屋の中で、のぶはぐちぐちと歳三に向かって小言を言いながらも、彼の茶碗の中に白いご飯をよそった。

「飯なんていつでも食えんだよ。」
「あんたって子は・・いつまで経っても変わらないんだから!」
「まぁまぁ二人とも・・歳、おのぶさんはお前の事を心配してるんだから、そんなに怒らなくたっていいだろう?おのぶさん、歳も今は大変な時期なんです、わかってやってください。」
勇が二人の間に割って仲裁に入ると、二人はバツの悪そうな顔をしてそっぽを向いた。
「全く、歳は昔から口が減らないねぇ。京でもそんなふうにやってると、敵を作っちまうぞ?」
勇の養父・周斎は赤ら顔でそう言うなり、歳三の肩をバシンと叩いた。
「周斎先生までそんなことを・・」
「まぁ、歳は完璧主義なところがあるから、色々と衝突しているな。特に総司とは顔が合えば喧嘩ばかりしていて困るよ。」
勇が朗らかな笑みとともに歳三を見ると、歳三は照れ臭そうな顔をして俯いた。
「勝っちゃん、さっきはありがとな。」
「なぁに、どうってことねぇよ。それよりも歳、お前なんか俺に隠してることないか?」
「え・・」
歳三が勇とともに道場へと向かう途中、勇がそう歳三に尋ねると、彼は激しく狼狽した様子で自分と目を合わせようとはしなかった。
(やっぱり、何かを隠している。)
そう確信した勇は、更に畳掛けるように歳三にこう言った。
「実はなぁ、江戸に発つ前に総司から歳の様子がおかしいと言われてな。だから気になって聞いてみたんだが・・」
「総司の野郎、余計なことを・・」
歳三は舌打ちすると、そう小さな声で毒づいた。
彼の脳裏には、小憎たらしい笑みを浮かべている総司の顔が浮かんだ。
総司は何処まで自分を苦しめようとするのだろう。
「勝っちゃん、俺はあんたに言いたい事がある。」
「ここじゃ人目につく。道場の中で聞こう。」
「ああ。」
道場の中へと入り、歳三は勇の方へと向き直った。
そして深呼吸した後、彼にこう告げた。
「勝っちゃん・・俺は、キリシタンなんだ。」
勇の岩のように厳つい顔が驚愕でひきつるさまが、歳三の瞳に映った。
「俺は多摩に居た頃・・ガキの頃から、キリシタンだったんだ。この事は、姉貴や義兄さんにも言ってねぇ。周斎先生にも・・ただ、総司にはあっさりとバレちまったがな。」
わざとらしく笑いながら、歳三はそう言って頭を掻いた。
勇の顔を見るのが、怖かった。
彼は自分を軽蔑しているのか、それとも―
「何だ、そんなことか。」
勇はそう言うと、歳三の肩に両手を置いた。
「あんたには悪いと思ってる。酷い奴だって・・」
「そんなこと、俺は一度も思っちゃいないよ。歳がキリシタンでも、俺はお前を愛してる。だから、俺のことをずっと支えていてくれ。」
「勝っちゃん・・」
勇の言葉に驚きながらも、歳三は涙を流した。
涙とともに、長年勇にキリシタンだと隠していた重荷や、後ろめたさといったものが流れていった。

やはり、彼の事を愛している―一人の男として。

「俺も、あんたのことを愛しているよ、勝っちゃん。」
「歳・・」

月に照らされた勇と歳三は、互いの唇を吸い合った。

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最終更新日  2013年06月17日 17時40分51秒
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「久しぶりの江戸だな、歳。」
「ああ・・」
隊士募集のため江戸へとやって来た歳三と勇は、約半月ぶりに故郷の空気を吸い、少し安堵したかのような表情を浮かべていた。
「さてと、俺はたまこに会いに行くよ。お前は?」
「俺は別に寄る所がある。」
「じゃぁ、試衛館で落ち合おう。」
勇と品川宿の前で別れると、歳三はある場所へと向かった。
そこは、歳三がキリシタンになった11歳の頃、足しげく通っていたキリシタンの集会所だった。
「マリア様、来てくださったんですね!」
「おい、その呼び名はやめろっつただろうが!」
集会所へと入った歳三は、そう言って一人の少年を睨みつけた。
「申し訳ありません、つい・・」
「マリア様、お久しぶりでございます。」
少年の背後から、一人の老人が現れた。
「喜八、お願いだからマリア様って呼ぶのはやめてくれねぇか?むず痒くならぁ。」
「何をおっしゃいますか。あなたはわたし達にとって慈悲深き父なるキリストの母、マリア様です。」
喜八と呼ばれた老人はそう言って歳三を見つめると、胸の前で十字を切った。
「さてと、どうぞ中へ。皆が待ってます。」
「ああ。」

歳三は喜八達とともに、集会所の中へと入った。

「マリア様!」
「マリア様がいらっしゃった!」
「おお、マリア様が我々の御前に!」

集会所に歳三が入ると、信者達が口々に歳三の姿を見てそう叫びながら、胸の前で一斉に十字を切った。
彼らは、歳三の仲間で、幕府の目から逃れてキリスト教を信仰している者達だった。
(ったく、何だよみんなしてマリア様って・・俺は男だぞ!)
男だというのに、“マリア様”と呼ばれ、心中複雑な歳三であった。
ふと視線を感じた彼が集会所の隅へと目を向けると、そこには鳶色の瞳をした青年が自分を見つめていた。
「喜八、あいつはぁ誰だ?見ねぇ顔だな?」
「ああ、あのお方は桂小五郎というお方です。江戸で道場を開いています。」
「桂って・・」

歳三の蒼い瞳が、鋭く光った。

「喜八、向こうで待っててくれねぇか?俺はあいつと話がある。」
「わかりました。」
歳三からただならぬ気配を感じたのか、喜八はそそくさと彼の元から去っていった。
彼がゆっくりと桂の前に立つと、桂はにっこりと歳三に微笑んできた。
「あなたが、お噂の“マリア様”ですか?」
「俺ぁそんな風に呼ばれちゃいねぇよ。あんたが、“逃げの小五郎”か?」
「それは不名誉なあだ名だね。言っておくが、ここに来たのは君と戦うために来たわけではない。」
「じゃぁ、何しに来たんだよ?」
「それは後で説明する。少し時間あるかい?」
「ああ・・」
桂と連れ立って集会所から出て行く歳三の姿を、喜八は不安げに見ていた。
「喜八様、マリア様は・・」
「心配することはないよ。」
集会所から出た桂と歳三は、日本橋近くの茶店に落ち着いた。
「それで?俺に話ってなんだ?」
「君は、この国をどう考えているんだい?」
「あんたの言ってる意味がわからねぇな。」
歳三は茶を一口飲むと、桂を睨んだ。
「君はわたしのことを誤解しているよ、土方君。ただ単にわたしは倒幕を叫ぶ危険人物だと思ってはいないかい?」
「ああ、その通りだよ。あんたは御所に発砲した長州の奴らと同じで、天子様と上様に弓ひく逆賊だ。それ以上でも、それ以下でもねぇ。」
「そうか・・どうやら、わたし達は永遠に分かり合えないようだね。」
「あんたと仲良くするつもりなんざ、はなからねぇよ。」

歳三は吐き捨てるようにそう言うと、茶店から出て行った。

「歳、遅かったじゃないか!」
「済まねぇな勝っちゃん。ちょっと用事があってよ。」
「そうか。さぁ、中へ入ろう!みんなお前を待ってるぞ!」
「あぁ、わかったよ・・」

半月ぶりに試衛館の門をくぐると、そこには姉・のぶと勇の妻・つねが立っていた。

「歳、あんた見ない内に少し痩せたんじゃない?」
「ああ。忙しくてな。」

のぶはそっと歳三の頬を撫でると、母屋の中へと彼を引っ張っていった。

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最終更新日  2013年06月17日 17時39分49秒
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歳三が河原で轟音を聞いた時、山本覚馬をはじめとする会津藩兵達が警護している蛤御門に、長州藩兵が攻め込んできた。

「御所を通ることは罷りならん!」
「鉄砲隊、前へ!」
馬上に居る指揮官と思しき藩士の指示で、長州藩兵達が洋式銃を構えた。
「あいつら、御所に鉄砲向ける気だ・・」
「全く恐れを知らねぇ奴らだ、俺らで迎え撃つべ!」
もはや御所に対して発砲する事もいとわぬ長州藩の狼藉ぶりに山本達は怒り、広沢も宙周藩兵達を睨みつけた。
「槍隊、前へ~!」
「放て、撃てぇ!」
会津藩兵達が長州藩勢の方へと突進してきたが、彼らの槍の穂先が向こうへと届く前に、彼は長州藩の鉄砲隊の前に悉(ことごと)く倒れ伏した。
「これじゃぁ埒が明かねぇ、鉄砲隊、前へ!」
山本が率いる鉄砲隊が槍隊と入れ替わるようにして前に進み、一斉に長州藩勢に向かって射撃した。
「怯むな、撃てぇ!」
山本は敵の銃弾を素早く避けながら、指揮官の男の足を撃った。
「今だ、突っ込めぇ!」
指揮官が倒れ、敵が相好を崩したのを見計らった会津藩兵が長州藩勢を押すと、彼らは逃げるように退却していった。
「一旦中へ入るべ。」
会津藩兵は一旦門の中へと退くことにした。
「ねぇ土方さん、あそこに居るの、長州の奴らじゃないですか?」
総司が走りながら向こうの角に見える鎧姿の男達を指すと、歳三はゆっくりと彼らの方へと近づいていった。
「てめぇら、何もんだ!?」
「会津中将様お預かり、新選組である!」
「新選組じゃと?」
「池田屋の仇、ここで討っちゃる!」
会津藩・桑名藩、そして新選組と激戦の末、長州藩は大敗を喫して京から退却していった。
その際鷹司邸に放たれた火が強風に乗り、千年王城の都を一瞬にして灰燼(かいじん)と化した。
煤で顔を汚した町民たちは、都を焼いた会津藩と新選組に対して憎悪の視線と怨嗟の言葉をぶつけてきた。

「鬼め、この人殺し!」
「早う京から去ね!」
「この人殺し!」

都を長州から守ったとはいえ、その代償は余りにも大きかったのである。

「なぁ総司、一体俺達は何の為に戦っているんだろうな。」
「何を言ってるんですか、土方さんらしくないですよ。」
辺り一面灰燼と化した都を歩きながら歳三が弱音を吐くと、すかさず総司が憎まれ口を叩いてきた。
「あ~あ、折角好き放題に暴れたっていうのに、土方さんがそんなんじゃぁ戦った甲斐がないなぁ。」
「てめぇ・・」
「あはは、怒ったぁ。それでこそ鬼副長ですよぉ。」
「うるせぇ!」

歳三は総司の挑発にいとも簡単に乗ってしまい、拳を振り回しながら彼を追いかけ回した。

「それじゃぁ、行って来る。」
「気を付けてくださいねぇ。あ、もう戻って来なくてもいいですよ?」

禁門の変からいくばくか経たぬ内に、歳三は勇達とともに隊士を募る為江戸へと向かった。

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最終更新日  2013年06月17日 17時38分25秒
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池田屋で喀血した総司は、念の為暫く自室で療養する事となった。

「あ~あ、つまんないな。みんな稽古やら巡察やらしてるのに、僕だけ横になってばかりだなんて。」
総司はそう言うと、素振りをしている斎藤を恨めしそうな目で見た。
「そう言うな。土方さんの命令は絶対だ。」
「わかってるよ、そんなこと。でもやっぱり納得いかないよ!」
まるで幼子のように拗ねる総司に、斎藤は溜息を吐いた。
「総司の様子はどうだ?」
「変わりません。どうやら身体を動かせないのが辛いみたいです。」
「そうだろうと思ったよ。余り症状が酷くないのなら隊務に戻らせよう。」
歳三は文机に置いてある書物に再び目を通した。
「今回は、新選組にしてやられた・・」
長州藩邸では、桂が池田屋事件で宮部や吉田という優秀な人材を失ったことに自責の念を感じていた。
「先生、お気を落とさないでください。挽回する機会はまだいくらでもあります。」
「そうだな・・どちらが正しいかは、いずれ歴史が証明してくれることだろう。」
桂はそう言うと、窓の外から京の街を眺めた。
「暫くは何処かに身を潜めるべきかと。」
「一度荻に戻った方がいいだろう。」
「お供いたします。」
真紀が桂に頭を下げると、桂は彼を見た。
「お前がそう言ってくれるのはありがたいが・・あいり君はどうする?」
「彼女も新選組に顔が知られています。暫く京を離れた方が得策かと。」
「そうだな・・」

こうして、真紀とあいりは桂とともに京から離れることとなった。

池田屋事件から一ヶ月後、会津藩本陣に長州が挙兵し街道沿いに京へと向かっているという報せが入った。

「殿、如何されますか?」
「長州が上洛するまで、まだ時間はある。余り下手な動きをすれば、我らの命取りとなろう。」
会津藩主・松平容保は、手に持っていた扇を膝に当てながらどのような策を練ろうかと考えていた。
「殿、はやまってはなりません。」
「わかっておる・・」
報せを受けた翌日、容保は二条城で一橋慶喜と謁見した。
「京都守護職は一体何をしておる。速やかに長州勢を追討せぬか!」
「しかしながら、まだ長州の動きを抑えるのは時期尚早かと・・」
「甘いわ!武芸に長けておると名高い会津藩が、腑抜けになったか!」
慶喜は言葉を濁す容保に対して苛立った口調でそう叫ぶと、彼をジロリと睨みつけた。
「長州は帝に弓引く逆賊じゃ!早う追討せよ!」
「ははぁっ!」
一方、長州勢は徐々に伏見街道を北上し、京へと迫りつつあった。
天王山に拠点を置いた彼らは、大砲や洋式銃を調達して陣を構えた。
「会津に今度は煮え湯を飲ます番じゃ。」
「負けたままでは終わらんぞ!」
真木和泉は、怒りに滾らせた目で京を見た。
その後、会津藩兵たちは伏見街道沿いと御所の蛤御門の警護を任され、会津藩士・山本覚馬は獲物を狙う鷹のような鋭い目で通りを見渡していた。

「ここは絶対に通さねぇ。」

一方、新選組にも会津藩から出動要請が出た。

「暫しここで待機しておれ。」
「くそ、池田屋の時といい、事が起こるまで待てってか・・いつまで俺らを虚仮にするつもりだ!」

歳三は歯噛みしながらそう吐き捨てるように呟いたその時、御所の方から轟音が轟(とどろ)いた。

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最終更新日  2013年06月17日 17時37分32秒
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※BGMとともにお楽しみください。

1864(元治元)年6月5日。

「遅ぇな・・」

長州の目的を会津藩に報告した歳三達だったが、新選組は会津藩側から待機を命じられた。

「この非常事態にじっと待ってろっていうのか?」
「仕方ないだろう、歳。俺らは会津藩お預かりの身なんだ。勝手に動くわけには・・」
「甘ぇよ近藤さん!ここで指を咥えて待っている間にも、京が燃えるかもしれねぇんだぞ!出陣するなら今だろうが!」
会津藩の指示に従おうとする勇に対し、歳三はカッと目を見開きながらそう怒鳴った。
「そうか・・では、出陣するか!」
「それでこそ新選組の大将だ!」
こうして、新選組は独断で長州の目的を阻止するため、彼らの会合場所に討ち入りする事を決めたのである。
「二手に分かれるぞ。歳は四条河原沿いの四国屋、俺達は三条小橋の池田屋を調べろ。」
「わかった。」
「武運を祈るぞ、歳!」
「あんたもな!」
黒谷の前で別れた勇と歳三は、それぞれ会合場所と思しき旅籠へと向かった。
「御用改めである、神妙にいたせ!」
歳三が四国屋へと踏み込むと、そこに長州藩士らの姿はなかった。
「ちっ、外れか・・」
「伝令、伝令!」
四国屋を後にした歳三達の前に、伝令役の隊士が現れた。
「本命は、三条小橋、池田屋!」

(畜生、今から行っても間に合うかどうか・・)

歳三は歯噛みしながら、部下を率いて池田屋へと駆けていった。

「御用改めである、神妙に致せ!」
「お客様、早う逃げとくれやす!」
池田屋の主は二階の浪士達に向かってそう叫んだが、階段を上がる途中で沖田総司によって気絶させられた。
「こん幕府の犬が!」
「どこまで俺らの邪魔をする気か!?」
いきり立った数人の浪士達が総司に斬りかかったが、彼の鋭い突きを喰らい階段から転げ落ちていった。
「手向かい致せば容赦なく斬り捨てる!」
勇がそう叫んだ瞬間、全ての灯りが消えた。
「曲者!」
「そこを退けっ!」
一方、池田屋の裏口へと入った真紀とあいりは、そこを守っていた奥沢栄助に咎められ、真紀は彼の槍をかわして彼を一撃で斬り伏せた。
「あいり、済まぬがお前を守ってはやれぬ。」
「承知してます。」
「行くぞ!」
二人が池田屋へと踏み込むと、辺りは血の臭いで充満していた。
(宮部さんは何処に・・)
あいりが二階へと駆けあがると、奥の部屋から人の声が聞こえた。
「あ、君この前の・・」
背後から声を掛けられて彼女が振り向くと、そこには返り血を浴びた総司が立っていた。
「二度目は逃がさないって、言ったよね?ここで死んでくれるかな?」
「嫌どす!」
「ふぅん、女の癖に逆らうの?」
総司は口端を歪めると、あいりに刀を向けた。
あいりは素早く鯉口を切ると、正眼に構えた。

暫く二人は睨み合った後、同時に互いに向けて突進した。

「ふぅん、なかなかやるじゃない。でもいつまで続くかな?」
「黙りよし!」

あいりはそう言うと、総司の肩を切り裂いた。

「いつの間に剣を振るえるようになったの?まぁ、君みたいな子、すぐに斬り伏せて・・」
「余所見をするな!」
真紀は怒声を上げると、総司の前髪を切り落とした。
「ああ、君も居たんだ?今度は逃げないの?」
「抜かせ!」
総司と真紀は互いに一歩も退かずに刃を交えた。
「君もなかなかやるじゃない。でもこれで終わり・・」
総司はそう叫んだ途端、喀血した。
「お前・・」
総司が真紀を見ると、彼は何処か自分を憐れむような顔で見ていた。
「憐れみは要らないよ!」
総司が鋭い突きを真紀に喰らわそうとしたその時、外が騒がしくなった。
「退くぞ。応援が来たようだ。」
「へぇ。」
真紀とあいりは懐紙で刀の血を拭うと、裏口から逃げていった。
「逃げるな!」
総司は二人の後を追おうとしたが、思うように身体が動かず、うつ伏せに床に倒れたまま意識を失った。
「副長、宮部は奥で腹を切っていました!」
「そうか。まだ息がある者は補縛しろ。」
「はい!」
歳三は激しい戦闘の痕跡が残る室内を見ながら、二階へと上がった。
「総司、何処に居る!?」
歳三が総司を探すと、彼は二階の廊下で倒れていた。

「誰か戸板を持ってこい!」

(しっかりしろ総司、死ぬんじゃねぇ!)

総司とは仲違いしてしまったが、彼の死を歳三が願ったことは一度もなかった。

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最終更新日  2013年08月29日 23時06分06秒
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「何も知らん癖に、軽口ばっかり叩くな!」
「何やとぉ!」
「女子の癖に、生意気を言うちょるか!」

突然あいりから冷水を浴びせられた藩士達は呆然としていたが、瞬時に怒りで顔を赤くして彼女の胸倉を掴んだ。

「女子に手を上げるとは、感心せんのう。」
「けんど、こいつが・・」
「お前らには他にやることがあるがなかか?そげな者に構っちょらんで、向こう行け。」
宮部はそう言って藩士達を睨み付けると、彼らは舌打ちして廊下の角へと消えていった。
「助けてくださって、おおきに。」
「おんしは出来過ぎた女子や。けど、それを快く思わん奴も居る。それを覚えておけ。」
「へぇ・・」
宮部はあいりの肩を叩くと、元来た道へと戻って行った。
「兄上、お加減はどうどすか?」
「だいぶ良くなった。それよりももうすぐ祇園会だな?」
「へぇ。兄上は、祇園会は初めてどすか?」
「ああ。まだ上洛して間もないからな。良かったら案内してくれないか?」
「喜んで。」

真紀の笑顔を、あいりは初めて見た。

二人が穏やかな時間を過ごしているとは対照的に、新選組内では長州の過激派浪士の補縛・取り締まりを強化しているので、緊迫とした空気が流れていた。

「枡屋が武器・弾薬を隠し持っているとの報告が。」
「そうか。じゃぁすぐに向かうぞ!」
「御意。」
新選組は、枡屋喜兵衛―長州藩士・古高俊太郎の存在を会津藩に報告した後、彼を補縛し、蔵へと連行した。
「吐け、吐かぬか!」
前川邸の暗くて蒸し暑い蔵の天井から逆さづりにされて鞭うたれながらも、古高俊太郎は長州の目的を一向に吐こうとはしなかった。
「ったく、あいつちっとも吐きやしねぇ。こうなりゃぁ持久戦に持ち込むしか・・」
「俺が奴を吐かせる。」
歳三はそう言うと、蔵の中へと入った。
「誰か五寸釘と八目蝋燭を持ってこい。」
「はい!」
蔵の中から古高の呻き声を聞いた隊士達は、中で何が起こっているのか気になった。
足の裏を五寸釘で貫かれ、その上に八目蝋燭を垂らされた古高は、とうとう長州の目的を白状した。
「風の強い日を狙って御所に火をつけ・・帝を長州へとお連れあそばす・・」
「よかったな。足が少し痛んだだけで済んで。」
歳三はそう言うと、蔵から出て行った。
「そうか・・では会津藩に報告しよう!」
「ああ。」

こうして、新選組と長州―それぞれにとって長い夜が始まろうとしていた。

「みんな、集まったか?」
「ああ。」

三条小橋の旅籠・池田屋には、長州・肥後・土佐の過激派藩士達が次々と集まって来た。]

その頃、あいりと真紀は祇園会の宵山見物をしていた。
伝統ある祭りとあってか、往来は人の波が出来る程混雑していた。

「おお~い、真紀!大変だ!」
「山下様、どないしはったんどす?そないに息を切らして・・」
「新選組が・・三条小橋の池田屋に!」
「行くぞ、あいり。」
「へぇ。」

あいりは腰に帯びた刀をそっと指先で触れると、真紀とともに雑踏の中を走りだした。

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最終更新日  2013年06月17日 17時34分27秒
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