土方さんが両性具有です、苦手な方はお読みにならないでください。
「副長、朝餉をお持ち致しました。」
「ありがとう。」
斎藤に礼を言った後、歳三は椀の蓋を取り、数月振りに炊き立ての米の匂いを嗅いだ。
その匂いを嗅いだだけで食欲が失せてしまった日々は、今となっては懐かしい。
箸を持つ手が震えている事に気づき、歳三は自嘲めいた笑みを口元に浮かべた。
たかが食事で、こんなに感傷的になる事はないのに。
塞いだ気持ちを晴らそうと、歳三が襖を開けると、遠くから幼子のはしゃぐ声が聞こえて来た。
恐らく、近所の子供達が総司と遊んでいるのだろう。
総司は子供好きで、壬生村の屯所に居た時も八木家の子供達と良く遊んでいた。
もし腹の子が無事に産まれていたら、総司はまるで自分の子のように甲斐甲斐しく世話をしてくれただろうか―そんな事を思っていると、歳三は自分が泣いている事に気づいた。
(何で、涙が・・)
「トシ、入るぞ。どうしたんだ、トシ!?」
勇は歳三の様子を見に副長室に入ると、そで涙を流している彼の姿を見て慌てた。
「いや、何でもない・・」
「俺は、何も出来ない・・こんなにお前が苦しんでいるのに、お前の傍に寄り添って手を握る事しか出来ない。」
「今の俺には、それだけで充分だよ、勝っちゃん。」
「・・そうか。」
総司は、そんな二人の会話を聞いた後、厨へと戻った。
「総司、副長の膳はどうした?」
「まだ副長室にあると思うよ。でも、後で土方さんが持って来るから、今はそっとしておこう。」
「あぁ、そうだな。」
歳三は流産してから一月後に、仕事を再開した。
「余り無理をするなよ、トシ。」
「大丈夫だ。今まで休んでいた分を取り戻さないとな。」
「そうか・・」
「心配性なんだよ、あんたは。」
歳三はそう言うと、いつもの日常が戻って来た事を感じた。
そんな中、歳三に江戸に居る姉・信から文が届いた。
「トシ、どうした?江戸で何かあったのか?」
「信姉が、縁談を持って来た。相手は、大店の若旦那だそうだ。」
「良かったじゃないか。」
「良くねぇよ!俺は勝っちゃんの以外の男とは所帯を持つ気がねぇんだ!」
「トシ、これからどうするんだ?」
「どうするもこうするも、信姉にはその縁談を断るよう返事を・・」
「トシさ~ん、居るかい?」
歳三が信の文への返事を書こうと筆を手に取ろうとした時、何故か江戸に居る筈の八郎の声が聞こえた。
はじめは気の所為かと歳三は思ったが、何処か慌ただしい足音が聞こえた直後、副長室の襖が勢い良く開き、伊庭八郎が歳三に抱きついた。
「トシさん、久しぶり!」
「八郎、てめぇ何で京に・・」
「俺も京に仕事で来る事になったんだ。あれ、トシさん、暫く会わない内に少し痩せたかい?」
「あぁ、色々あってな・・」
「そう。ねぇトシさん、積もる話も色々とあるからさ、今夜一杯どうだい?」
「わかった、わかったから、もう離れてくれ・・苦しい。」
「あぁ、ごめん。久しぶりにトシさんに会えたから、興奮しちゃって、つい・・」
八郎はそう言うと、慌てて歳三から離れた。
「あれぇ、誰かと思ったら八郎さんじゃない。久しぶり。」
「総司、久しぶり!」
八郎はそう言うと、今度は総司に抱きついた。
「なぁに、どうしたの八郎さん、急に甘えん坊になって?」
「いやぁ、こうしていると、昔の事を思い出すなぁって。」
「へぇ。」
「なぁ総司、今夜飲みに行かないか?」
「いいねぇ!」
その日の夜、歳三と総司、八郎は祇園の茶屋で酒を酌み交わした。
「てっきり島原辺りに繰り出すのかと思ったら、こんな高級な所なんて・・流石、旗本のお坊ちゃんは違うなぁ。」
「よしてくれよ、総司。こうして酒を酌み交わしていると、トシさんとよく吉原で遊んだ事を思い出すなぁ。」
「そんな昔の話なんざ、忘れたよ。」
「はは、トシさんは覚えちゃいねぇが、酔っ払ったトシさんが吉原の遊女達に恋の句を作って、三味線でそれを・・」
「やめろ、思い出させんな!」
「はは、やっぱり思い出したんじゃないか。」
八郎はそう言うと、腹を抱えて笑った。
「さてと、そろそろ行こうか。」
「そうだな。」
三人が茶屋から出ようとした時、隣の部屋から客と思しき男と、舞妓が出て来た。
「こんな時間にお座敷遊びなんて、優雅なものですね。」
「あぁ、そうだな。」
歳三が総司とそんな話をしながら廊下を歩いていると、男と話していた舞妓と目が合った。
その舞妓は、美しい翡翠の瞳をしていた。
「土方さん、何しているんです、早く来て下さいよ。」
「おう、わかったよ。」
歳三はそう言うと、慌てて総司の方へと向かった。
「どうした?」
「どうやら、会ってはいけない人に会ってしまったようです。」
「そうか・・それは少し厄介な事になったな。それよりも真紀、お前にこれを。」
「何ですか、この包みは?」
「堕胎薬だ。万一の時にはこれを使え。」
「わかりました。」
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