カテゴリ:「本」の紹介
◎◎『森の時間』 ・前 登志夫 ・新潮社 ~最近どなたかが推奨していたのだろう、2008年に逝去されているから、新刊の筈はない と思ったが、借入予約。やはり1991年発行であり、ふた昔前に読んだ記憶も戻ってきた・・・ 吉野から飛鳥に抜ける「国原」に棲み、「山」への畏怖と暮らしを綴る12篇は、再読しても その静謐で高邁な知識と知恵と歌ごころは、新鮮であり深遠な語彙におそれおののくほど! ・霜ふる山 ・鷹 ・沈められた熊 ・燃える石 ・夢ちがえ ・霧の中の羚羊 ・蟇 ・虹 ・さ ゆりの花は人死なしめむ ・虻と夕立 ・野分の後に ・月夜茸 。 山でさえ起こる「大人の演じる童話のような事件」・不倫・三角関係・出奔・神隠・開発などを を綴るも、すべてが異界と原始とエロスが混在し、時代も神代から現代へと混沌するが、文章 の巧みさから、招かれ惹きこまれてしまうのだった・・・「男女の神々が交合している道祖神 が、花野にあったり、森からは澄んだ小川がながれてきて、魚がきらきらひかりを反して遡る の・・・・」と、「細君のたどたどしい断片的な夢語り」でさえ、美しい、アニミズムの世界が広がり 物語が生まれ、縄文のエネルギーに満ちているのだった・・・・この時代、「これ」を書く人は、も う出てこないであろう・・・・「村人に伝承されているたわいもない昔話や出来事などに、その 土地に人間が生きるという根本の意味がみえてくるのではないか。人間の生きるということ の真意が、ぱっと照らしだされることも稀ではないらしい。」「人は、死にかわり、生きかわり しながら、妖しい夜のひかりを億万年の宇宙へ放ったりする。」 【夕映える森のくらみちかへり来し三人子寄ればひかる草茸】 (みたりご・くさびら) 「 【三人子はときのま黙し山畑に地蔵となりて並びゐるかも】 (もだし) そう歌ってから、も う千年ほどの歳月を閲してしまったような気がする・・・・。」【朴落葉この上に前登志夫住む】 著者の「山家」に寄った、右城暮石(うしろぼせき)の句。・・・このような本が遺る日本であれ! お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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