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カテゴリ:読書
昨日、古書店で購入して即読了。明治四十四年生まれの挿絵画家が自身の人生を語る。
背表紙をみた時にはその名にぴんとこなかったが、ぱらぱらと中をみると、そうそうたる時代小説家の名が。副題が「日本の時代小説を描いた男」なのだが、この方、直木三十五、山手樹一郎、野村胡堂、海音寺潮五郎、池波正太郎、村上元三、司馬遼太郎などそうそうたる作家と仕事をしている。自分は雑誌ではなく、文庫が主なのでそんなに挿絵と接しているわけではないけれども、池波正太郎『剣客商売』の文庫表紙の絵がこの人。となると高校生時代から名は覚えてなくとも作品は目にしていたことになります。三男が作家・逢坂剛とも初めて知る。 明治生まれの方の話ということで、随所にへー、という点が。子供の頃は尾上松之助ファンでその似顔ばかり書いていて、映画館ではちゃんばらのシーンでそこ斬れとか突いてしまえと怒鳴って、姉たちが映画館へ連れていくのを嫌がったなんて、松之助映画の大流行なんて映画史の知識としては頭にあってもそれを実際に楽しんだ体験談なんてそうは読めない。そして最初は映画館の看板屋になりたいと看板屋で十五歳で働きはじめるも、映画館の看板が日本画風から油絵風に変わり、これまでは日本画家になれなかった人が転身したのが、洋画家になれなかった人が転身するようになったというのも初耳でした。 そして看板屋に見切りをつけて挿絵画家・小田富弥に入門。この人の師が北野恒富、その師が稲野年恒、さらにその師が月岡芳年、その師匠が歌川国芳というのにもびっくり。どうしても江戸と明治、大正って頭の中できっちり、時代区分しちゃうけど、当然、人と人のつながりは途絶えぬわけで、浮世絵の直系が時代小説の挿絵に流れ込んでいるとは思わなんだ。 もちろん、作家達とのちょっとしたエピソード、作画上のあれこれなども興味深く拝読。中にはちょっとした味のある怪談話まで三つほどあったりで実話怪談好きとしても収穫でした。 そして何よりびっくりしたのがこの方の最新の仕事。新書に収録された数々の絵を眺めるうちに、あれ、最近もこの人の作品、観てない?と確認すると、現在、朝日新聞朝刊に連載中の乙川優三郎『麗しき花実』の画がこの中一弥さんなのでした!御年九十八歳で新聞連載に挿絵。脱帽であります。集英社新書。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2009年04月10日 16時23分20秒
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