アメリカで日本人であることのアイデンティティを問う
学期が始まる前に米国人の恩師にカフェに連れて行ってもらう機会に恵まれた。久々の再会を楽しんでいるといつの間にか話題は仏教思想の話になっていた。彼女は中国に数年住んでいた経験があり、日本のみならずアジアの文化や風習に精通している。彼女は仏教の「諸行無常」の考え方がとても気に入っていると話してくれた。まさかアメリカのカフェで仏教思想について語り合うとは誰が想像できただろうか。仏教思想の話をしている時にどうしても聞き取れなかった単語があったので、帰り際に「さっき言っていた引用をここに書いてもらってもいいですか。あとでちょっと調べてみたいんです。」と打ち明けると彼女は快く私の手帳に綺麗な筆記体で書いてくれた。その手帳にはこう書かれていた。“Thanks to impermanence, everything is possible.”その時はimpermanenceの意味がど忘れで抜けており、何のおかげで全てが可能になっているのかわからなかった。3時間ほどみっちり会話をしてカフェを後にした。恩師との会話は非常に楽しく3時間英語で会話をしていても一瞬のように感じる。IELTSやTOEFLのような時間の制約もなく肩肘張らずありのまま思うことを英語で表現できる環境があるのは有難いことだ。心地よい夕日を浴びながら歩いてアパートに戻り、手帳に書かれた引用をインターネットで検索してみるとすぐに以下の引用がヒットした。“We are often sad and suffer a lot when things change, but change and impermanence have a positive side. Thanks to impermanence, everything is possible.” –Thick Nhat HanhThick Nhat Hanh???日本人の名前のようには思えないし、全くピンとこない。さらにネットで検索してみるとベトナム生まれの有名な仏教者であることがわかった。ダライ・ラマ14世と並んで20世紀から平和活動に従事する有名な平和活動家でもあるらしい。ティク・ナット・ハン(Thick Nhat Hanh)氏はベトナム戦争を経験後、渡米してマインドフルネスを西洋に持ち込んだ人物として知られているだ。プラムビレッジというサイトに彼の半生を紹介するページがあった。ご興味がある方はどうぞそちらを参照されたい。どうやら市民運動を指揮したキング牧師も交流があったらしい。↓リンク↓こちら先ほど登場したimpermanenceだが辞書によると"The state of fact of lasting for only a limited period of time”(Oxford Languages)と定義されていた。日本語に訳すと「儚さ」が一番近いだろうか。どこかで出会ったephemeralityは脳内に蓄えてあったが、impermanenceは抜け落ちてしまっていた。“Thanks to impermanence, everything is possible.”「儚いおかげで全てが可能となる」そう、我々は命を含め有限であるからこそそれらに有り難みを感じ愛おしく感じることができるのだ。恩師が”Nothing stays the same”と会話中に繰り返していたが、この引用は見事に諸行無常の概念をズバッと表現していたのだ。筆記体で美しく書かれた言の葉が胸に焼き付いてしばらく離れなかった。この手帳は一生捨てられる気がしない。アメリカに来てアメリカの言葉や文化を吸収しに来ているのに自分の日本の文化の無知さに気付かされる。長年日本でいながら自分は日本を知らなすぎである。いや、きっと長年住んでいて自分は日本のことを熟知していると思い込んでいたのだ。日本に興味があるアメリカ人に日本のことを質問されてうまく回答できていない自分がいる。英語力ではなく自分には日本に関する基本的な知識が不足しているのだ。日本で生まれ育って築かれてきた日本人としてのアイデンティティが揺らぎ始めていることを感じている。私は長年日本に住んできたことを根拠に日本人であることに一種の「奢(おご)り」があったのではないだろうか。アメリカから「日本」を見つめることで私の価値観に大きな変化が起きている気がする。さて、そろそろパソコンを閉じて明日の授業に備えたい。写真:恩師が書いてくれた言葉追伸、本記事が記念すべき100本目となる。心の中で静かな祝福を味わっている。まさか飽きやすく長続きしない自分がここまでブログを続けられていることに大変驚きを隠せない。日々の気づきや雑念を綴っているどうしようもない独り言のはけ口を読んでくださっている読者の方に感謝したい。気づけばカウンターも14000手前まで回っている。(2024年2月7日現在)インターネットを介して母国と唯一繋がっているのがこのブログである。私の留学の足跡が次に留学する人への道標や指標になれば幸いである。(お分かりの通り失敗だらけの道なので私を反面教師だと思っていただきたい。)※学期期間は研究に専念するため更新頻度を下げています。ご理解のほどお願いします。それでは今日も良い1日を。きたろう