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テーマ:辛口映画批評(354)
カテゴリ:ブロガー試写会
今回はyahoo!映画ユーザーレビュアーとして試写会に招かれました。客入りは女性客を中心に9割くらい。
![]() 【送料無料】久石譲 / 悪人 【CD】 映画の話 若い女性保険外交員の殺人事件。ある金持ちの大学生に疑いがかけられるが、捜査を進めるうちに土木作業員、清水祐一(妻夫木聡)が真犯人として浮上してくる。しかし、祐一はたまたま出会った光代(深津絵里)を車に乗せ、警察の目から逃れるように転々とする。そして、次第に二人は強く惹(ひ)かれ合うようになり……。 映画の感想 これは酷い。犯罪加害者と被害者を平等に描かず、映画は完全に加害者側に肩入れをして、加害者を美化し、被害者を悪者にする構図を作り出す倫理観が許せない。論点も犯罪を愛にすり替え犯罪と向き合おうとしない姿勢が気に入らない。題材も非常によく、出演者の演技も皆上手い、何でこんな映画になってしまったのだろうか?2時間19分の上映時間がここまで居心地の悪い作品も珍しい。私は原作を未読の為に、映画が原作のどの部分をピックアップして、どの部分を切り捨てたのかが不明であるが、映画を見るだけだと加害者と被害者の描写バランスが非常に悪い。 映画の幕開けは非常に良い。闇夜に獲物を物色するかのごとく車の運転者目線の車載カメラが不気味であり、低いエンジン音をうならせ闇夜に白く浮かび上がるスポーツタイプのスカイラインを見ていると、古い東宝映画「ヘアピンサーカス」(72年)に登場するトヨタ2000GTを思い出してしまう。映画はしばし加害者と被害者の日常が描かれ、映画の軸となる事件へと向かう。 以下ネタばれ注意 まず、本作のスタートラインが出会い系サイトで出会った男女と言う、実も蓋も無い登場人物に感情移入出来ないのが駄目だ。その為に満島ひかり演じる被害者が自業自得の様に描かれているのに違和感を持った。事件の趣旨としては70年代に起こった“大久保清事件”を思い出してしまった。スポーツカーを乗り回し、芸術家を装いナンパした女性をレイプした後に殺害遺棄した事件と似ている。特に被害者が加害者に向けて「私の知り合いには弁護士がいる、レイプされたと訴えてやる」と言う発言に加害者が激高して殺害に至る辺りは大久保清事件とよく似ている。しかし、本作は殺害した被害者を遺棄するシーンが無い。とても重要なシーンであり、加害者の心理を掘り下げるのには絶好のシーンであると思うのだが、本作は一環して加害者を美化しているので、この手の汚れ演技を妻夫木聡に演じさせていないのは致命傷だろう。 本作は加害者を美化する為に悪者を用意する必要があった。その悪者が岡田将生演じる金持ち大学生だ。女を物の様に扱い気に入らなければ山道に捨ててしまう極悪男に仕立て上げ、自分が事件の発端を作ったのに被害者家族を笑い飛ばす、今時の若者像代表の様に描かれているのにも違和感を持った。大体、本作の警察も何をやっているのだろう?被害者の父親にも叱咤されていたが、逃亡した指名手配犯を捕まえようとしている気配も見えない。警察がどの様にして加害者にたどり着いたのかも描かれず、たまたま加害者の自宅に掛かってきた電話で犯人と確信したという描写だけでは納得できない。ちゃんと事件を追う警察の動きも克明に描く必要があったと思う。 事件にたかる報道の描き方も釈然としない。何故か報道は加害者側だけに集まっていたが、本来ワイドショーを見ていると必ず被害者側にもマスコミが殺到しているはずである。しかし本作は加害者側だけに集まり、さも、罪の無い加害者祖母をマスコミがいじめているように描き、マスコミを悪者にして加害者家族を良い者にしようとしてる構図が透けて見えてくる。仕舞いにはバスの運転手までも「ばぁちゃんは悪くない」なんて言い出す始末である。完全に映画が加害者家族側を美化しているようにしか見えない。更に映画は「祖母も被害者だ」と言わんばかりに、松尾スズキ演じる詐欺師が行う催眠商法詐欺被害者として取って付けたようなエピソードを挿入してるが話の顛末は無い。 映画は徹底して加害者と出会い系サイトで知りあった深津絵里演じる光代の逃避行に焦点が絞られる訳であるが、光代と言う女もかなりヤバイキャラである。自首しようとする加害者を引き止めたり、一度は警察に保護されたのに脱走して加害者の元に戻ったりで、事件をドンドン悪い方向に導いた張本人なのに「愛の力がそうさせたんだ」と言う美化演出も気に入らない。大体、光代が一度妹の元に電話を掛けると、妹が「お姉ちゃんが失踪して大変な事になっている」と電話口で発言しているが、そのシーン描写が必要である。同じように加害者の母も実家に戻り祖母に「息子のせいで迷惑している」見たいな台詞があったが、加害者の母が迷惑と思ったシーンも描くべきである。本作は台詞で言って誤魔化すシーンが多く、台詞が絵空事の様になってしまっているのが駄目だ。加害者と光代の濃厚なSEXシーンに時間を費やすのであれば、こういった細かいディティールを描けば映画として深みが出ると思う。 まぁ、散々駄目だしをしたが、ひとつだけ好きなシーンがある。加害者が光代に犯行を打ち明けるシーンで、活きたままさばかれテーブルに出されたイカの刺身の目玉にカメラが寄り、事件当夜の回想に移るシーンは秀逸だ。刺身になっても動いていてるイカの姿を見た加害者が生への執着を感じたのだろう。私はたまたま本作を見る前日に、犯罪被害者家族の加害者に対する終わり無き憎しみを描いた力作「ヘヴンズストーリー」を見てしまったのがまずかったのだろう。本作の加害者と光代の愛だの恋だの訳の判らない理由をつけた逃避行にはウンザリしてしまった。良い題材だけに着眼点を変える事で力作になったテーマだっただけに、真摯に事件と向き合わない本作の姿勢には異論を唱えたい。 映画「悪人」関連商品
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