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青函航路異状なし!

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2017/07/30
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カテゴリ:小説
読み切り「征途×艦これ」二次創作小説



 「誓約」



 呉軍港 広島県 一九四五年七月一七日 深夜


 軍港はひっそりと静まり返っていた。かつて柱島泊地を埋めつくしていた艨艟達は、開戦以来の消耗により、すっかりと数を減らしていた。

 戦艦としては〈伊勢〉と〈日向〉や、金剛級戦艦唯一の生き残りの〈榛名〉が残存していたし、巡洋艦も重巡〈青葉〉、または軽巡〈大淀〉や〈北上〉も停泊していた。少し見渡せば防空砲台と化した空母〈天城〉が所在なげにたたずんでいる。未だそれなりの数はあるものの、打ち続く敗戦による絶望感がかもしだすのか、うら寂しい情景は全くもって衰亡の国には似合いの有様だった。

 ただ一つだけ例外があった。帝国海軍が建造した最後の戦艦〈大和〉級の二隻だ。レイテ沖海戦の過程で合衆国の旧式戦艦六隻を屠った彼女達の意気は、なおも軒昂だった。


 「こうして姉さんと呑むのもひさしぶりだな」

 〈武蔵〉はウィスキーのロックを傾けてつぶやいた。

 「そうね、ブルネイ以来かしら?」

 〈大和〉も日本酒のお猪口を〈武蔵〉のグラスに合わせて応えた。

 本来彼女達が会う事は叶わぬはずであったが、翌朝には〈武蔵〉を旗艦とする第二艦隊が沖縄救援の準備として徳山港へ移動するため、出港前日のこの夜、海軍呉工廠第四船渠にいた〈大和〉がこっそりと〈武蔵〉の元を訪ねたのだ。

 「全く、シブヤン海でお陀仏かと思ったが、まさか私がレイテ湾に突っ込めるとは思わなかったよ」

 「そうね、長門さんには感謝しなければいけないかもね」

 「ああ、そうだ。本来私が被害担任艦のはずだった。なのに長門から発光信号が送られてきたときには驚いたよ。突然『そこを代われ』って、当初の陣形を無視する話だったからな。
 今ならその意味がわかるような気がする。私は射撃は得意だが、くやしいけど回避運動はあまり得意ではなかった。長門はそれをわかった上で横紙破りをしたんだろうな」

 〈武蔵〉は少し寂しそうな横顔でロックを呷った。無理もない。その戦いで〈長門〉は多数の爆弾や魚雷を巧みに避けたのだが、結局被弾をして・・・沈んでいったからだ。

 「ただ、あのとき姉さんが三式弾を撃ってくれたおかげで、一人でも多くの長門の乗組員を助ける事ができた。感謝するよ」

 「私も長門さんにできたのはそれだけよ。それにその後無事にレイテ湾までたどり着いて長門さんの仇は討てたじゃない」

 「そうだな、亡き戦友達に献杯しよう」

 二人は再び盃を重ねた。


 どれほど時間が経っただろうか、杯を重ねつつ二人はトラックでの想い出や進水カッコカリの頃の話をした。二人の建造自体が軍事機密だったので〈大和〉は〈鳳翔〉が、〈武蔵〉は〈春日丸(大鷹)〉が彼女らをそれぞれ隠していた。が、巨大な二人を隠すには全くもって役者不足であった事に可笑しみを感じ、コロコロと笑い合ったりしていた。

 ふと〈大和〉の耳に、遠くからの声が聞こえたような気がした。もしかしたら他の呉居残り組もどこかで第二艦隊の娘達とささやかな宴をしているのかもしれない。

 「ほんとは今夜は酒保明けじゃないのにね」

 「今夜は特別だ。なんせ・・・」

 〈武蔵〉は途中まで話して黙り込んだ。無理もない。第二艦隊の任務は事実上の片道切符だ。〈大和〉とこうして語り合えるのもおそらく最後となるであろう。

 「ねぇ、武蔵」

 「なんだい、姉さん?」

 「煙草持ってる?私入渠中に取り上げられちゃったからさ」

 〈武蔵〉は懐から「敷島」を取り出し〈大和〉に一本渡した。彼女は煙草を咥えるとオイルライターで火を付け、〈大和〉にも火を貸そうとしたが、

 「ううん、こっちで火をつけるわ」

 と、〈大和〉は紫煙を上げ始めた〈武蔵〉の煙草に自分のを近づけた。自然と二人は身を寄せ合う形となる。その時〈大和〉は〈武蔵〉の体臭を感じた。女性特有の香り、鉄の香り、そして染みついた硝煙の香り、戦う者の香りだった。

 薄暗がりの中で二つの小さな炎が灯る、その光は数分間チカチカと点滅し、やがて消えた・・・


 沈黙を破るように〈武蔵〉が言った。
 
 「そうだ、姉さん知ってるか?明日着任する艦長は・・・」

 「ええ、あの人でしょ。私に乗艦していた時は砲術長だった」

 〈武蔵〉は嬉しそうな表情を浮かべた。

 「知っていたか、楽しみだな。我々大和級二隻に乗る艦長なんて中々いないぞ」

 「そうね、あの人ならきっと貴女を十分に使いこなせると思うわ」

 二人はささやかな笑みを浮かべた・・・


 やがて夜が明けてきた。

 「じゃあ、そろそろ行くよ」

 〈武蔵〉が腰を上げようとする。

 「ちょっと待って」

 〈大和〉は持参してきたかばんから櫛を取り出した。

 「貴女はほんとに武人の風格があるけど、ちゃんと身だしなみも整えないと駄目よ」

 「すまない、姉さん」

 〈大和〉は〈武蔵〉の髪に櫛を入れ、彼女の銀髪を整えはじめた。後ろから見える〈武蔵〉のうなじから首元にかけてのぞいている肌は、色白な〈大和〉とは異なり、彼女を「武人」と評するに相応しく、褐色のつやを放っていた。二人の間に会話はなく、ただ髪をすく音だけが流れていた。

 ほどなく少し乱れ気味だった〈武蔵〉のツインテールがきれいにまとめあがる。

 「これでよし、と」

 〈大和〉は満足そうにうなずいた。

 「ありがとう、姉さん」

 「どういたしまして」

 立ち上がった二人は所在なげに黙り込む。やがて真剣な眼差しになった〈武蔵〉が言った。

 「姉さん」

 「なあに?」

 「日本を頼む」

 間髪をいれずに〈大和〉が応えた。

 「安心していってらっしゃいな」

 〈武蔵〉は微笑みを浮かべた。


 そして二人は見事な海軍式敬礼を交わし、振り返る事なく互いの魂の居場所へと戻った。



 ・・・



 函館港 北海道 一九九四年七月二八日 午後


 (こんなところで魚雷を受けるなんて)

 「向こう側」の政変、川宮首相の死からほどなく、日本民主主義人民共和国はオホーツク海と北方領土に展開する合衆国軍に対し無差別反応弾攻撃を加えた。

 事態に対応するため戦艦〈大和〉、いや海上自衛隊・超大型護衛艦〈やまと〉は、日本海を北上する航空護衛艦〈ほうしょう〉を旗艦とする第二機動任務群に合流するため、津軽海峡を通過していたが、そこで赤衛艦隊の潜水艦に引っかかったのだ。


 今は修復のために緊急的に函館港に入港している。

 函館、そこはかつての戦いで反応弾を受けた被爆都市となっていたのだが、その後の北海道戦争では最後の根拠地として、そして南北日本が相対する北海道においても重要な拠点となることから、急速な復興をとげていた。

 本来なら彼女が接岸できる埠頭など存在しないのだが、軍港としての役割を求められた結果、かつての青函連絡船をはるかに上回る〈やまと〉の巨体でも接岸可能なように拡張されていたのだった。


 午後一時。〈やまと〉のヘリ甲板にFV-2D垂直離着陸戦闘攻撃機が降り立った。そこから降りた人影は二人、一人は〈やまと〉まで操縦してきたパイロットだったが、もう一人は将官のようだった。

 (どなたがきたのでしょう?)

 〈やまと〉は訝りながら観察していたが、その人物が耐Gスーツを脱ぐと、

 (まぁ、また会えるなんて)

 その将官は湾岸戦争時に彼女の艦長を務めた人物だった、そして

 (あの人のご子息でもある)

 今や伝説となっている沖縄沖海戦、その主役となった〈武蔵〉艦長の次男だった。

 (また一緒に戦えるのね)


 かつての戦いの末期、〈大和〉は北海道に侵攻してきたソ連軍と勇敢に戦い、石狩湾海戦では戦艦三隻を沈めた。それでも北海道分割は避けられず、戦後日本は分断国家として歩む事になった。

 北海道戦争、ヴェトナム戦争、そして湾岸戦争で直接・間接的に南北日本は干戈を交える事となった。そして・・・


 披雷した箇所の復旧も終わり、函館港から出撃可能となった。目標は樺太強襲・・・「向こう側」のIRBM基地の破壊だった。これが失敗すると

 (私たちの)

 日本が反応弾攻撃を受ける事になる。絶対に失敗の許されない作戦だった。

 やがて函館基地隊より発光信号が届いた。「貴隊ノ武運ヲ祈ル」

 ほどなく〈やまと〉から返信が送られた。「誓ッテ戦果ヲ掲グ」

 近年まれにみるやりとりに、艦橋では注目を集めたが、〈やまと〉はそれを見て思った。

 (かつての戦いで、私は武蔵との誓約を守る事ができなかった。そのせいで日本は南北に分断され、五〇年近くもの時間が経ってしまった。

 本来ならとっくに退役してもおかしくない私も無理やり改造を重ね、イージスシステムなんて武蔵が思いもしないような兵器を積んで、いまだに現役として生き延びている。

 なんのために今ここに私はいるの?

 今こそ武蔵との誓約を果たすときが来た)


 やがて函館港から出撃した〈やまと〉は沖合で僚艦と会合した。打撃護衛艦〈あきづき〉、ミサイル護衛艦〈はたかぜ〉、護衛艦〈あさぎり〉、〈はつゆき〉の四隻だ。名前こそ帝国海軍時代のものを引き継いでいるが、彼女らは皆戦後生まれの娘たちだ。


 出迎えられた〈やまと〉は一呼吸をし、そして厳かに宣言した。

 「やまと、推して参ります」


 こうして、最後の戦いが始まった。



 了



 原典:佐藤大輔著「征途」各巻および「艦隊これくしょん~艦これ~」



 一気呵成に書きあげました。その後継続的に推敲を進めています。第一・九稿としてお楽しみください。



 感想やご意見、アドバイスなどがございましたら、コメントしていただけると幸いです。

 ありがとうございました。



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Last updated  2017/08/03 01:28:37 PM
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