|
カテゴリ:創作文集・夢のはなし
仕事で、亡くなった祖母のいる町に行くことになり、バスを途中下車して立ち寄った。
そんなことになっているとは知らなかったが、誰もいないはずの家には本家のおばさんが家守のように暮らしていた。気むずかしい性格で誰からも好かれてはいなかったようだから、唯一の話し相手になってくれるのが祖母だったのだろう。自分と同じ歳頃のお年寄り達は次々に亡くなって心細くもなっているはずだ。「あんたのお母さんはどうしたの。自分の母親が亡くなったというのに、葬式以降まったく連絡も取らないで」。開口一番、責めるようにおばさんが言う。「たぶんあんまり口出しちゃいけないと思って遠慮してるはず。でも、一応そのことを伝えておきますね」。母には3人の姉妹と1人兄がいて、きっと長男としての顔を立てて自分の実家のことには首をつっこまないようにしているのだ。 おばさんが「自分の家なんだから遠慮する必要なんかないのに…」と思いやりたっぷりにつぶやいたのは少し意外だった。あ、そうだ。仕事。そんなにゆっくりしていけないと私が言うと、これを持って帰りなさいよと紙袋になにやら入れて持たせてくれ、ありがとうございますとお礼を述べて外に出た。 祖母の町は随分田舎だったけれど、駅もでき、スーパーもコンビニも増えて随分暮らしやすくなっていた。それにしても、今日の私の打ち合わせ先は大手ホテルとは。ディレクターとはロビーで待ち合わせることになっている。ホテルが要るほどの場所ではないのに一体どこにそんなものができたんだろう。 バス停近くでタクシーを拾うと、私より年輩の女性ドライバーだった。 「○○ホテルに行ってください」「ええ?そんなところは知らないわ」「私も名前しか知らないんです。でも、来た道にはなかったから西に進めばいいとは思うんですけど」。 彼女の運転というのが驚くほどのノロノロで、車はボロボロ。こんなタクシーに乗ったのは間違いだったかなと悔やんでも遅い。こんな田舎では次にいつタクシーが拾えるかわからないし、もう約束の時間は迫っている。心の中で「早く早く」と祈るような気持ちでいると、道はアスファルトではなく工事途中の土の道になった。「本当に合っている?」とノロノロ運転のままドライバーが聞く。不安になった私が先方に電話で問い合わせると「ぼくもどこにホテルがあるのか迷ったけど、その道で大丈夫だったよ」とのこと。 土埃が立つガタガタ道に揺られながら前方を見る。遥か向こうに、まるで蜃気楼のように高層ビル群だ。それが空中に浮かぶ特別な空間のようにも映って、まるで子どもの頃読んだシンデレラの、お城に続く道みたいだなと思う。きっとあの中のひとつが目的のホテルだ。 ―――そんな不思議な夢を見て、気持ちよく起きた今朝。夢に出てきた母は、祖母より先に亡くなっているわけだからあり得ないシチュエーションだけれど、祖母の家のレイアウトはリアルだったし、打ち合わせ相手のディレクターは実際にいる方だ。 一昨日のこと、「明日ぐらいにあの人から電話があるんじゃないかな」と急に閃いた人から本当に電話があったばかり(随分ご無沙汰なのにその内容はとても他愛ないもので)。若い頃はぽろぽろとこんなこともあったから今さら驚かないけど、この夢もそういう類のものだろうか。 さて、この夢の暗示することは? お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2008年05月16日 09時53分09秒
|