「新宿2丁目でレズバー」
「地下鉄A子ちゃん」が、 まだ、魔法のカードの所有を、 許されていたころ、 きっぷのいい「お姉さん」である、 「地下鉄A子ちゃん」は、 何かと、酒をおごってくれていた。 現在は、私がおごる方が、 多くなってしまったが。 時として、私にとっての 「リアル」は、 いたって「チープ」に、 襲いかかってくる。 この夜の出来事も、 私の中では、 ベスト10に余裕で、 ランクインできる 最上級な「激安感」に彩られている。 (戸梶圭太の影響) 私と「地下鉄A子ちゃん」は、 ゲイバーで、飲んでいたのだが、 ゲイバーにいる女性は、 無条件に、モテるのだ。 しかも、「観光バー」と呼ばれる、 ゲイのトバグチにもいたらない フモトレベルでは、 女装してる男の半分は、 女好きなのだ。 女が好きだから、女装している。 中には、もちろん、男好きもいるけど。 その中で、「プリンちゃん」という 女装マニアのおじさんと、 「地下鉄A子ちゃん」と「私」は、意気投合し、 「プリンちゃん」行き着けの「レズバー」へと、 繰り出すことになった。 しかも、そこは、本物の「レズバー」で、 基本的に、男は、入れない。 だが、「プリンちゃん」の顔で、 私も入れることなった。 「プリンちゃん」は、麿赤児が、 女装しているときのようなグロさがあるが、 かわいらしさも同居している。 しかも、ロリータファッションだ。 フリルのついた、 白いレースのスカートを穿いている。 可憐なオカマなのだ。 中に入ると、マスターは、 宝塚の男役のようなカッコイイ女だった。 少女マンガの世界だ。 そして、カップルは、二組。 両方とも、女だ。 女が、二人、無言で、 愛のささやきを交わしている。 「地下鉄A子ちゃん」は、 アングラエロに、貪欲な人で、 自分の「芸術」のためには、 アンダーワールドに触れることが、 必要だと考えている人だった。 本当に、糧になるのか、 どうかは、不明だが。 「地下鉄A子ちゃん」の目が、 輝いている。 前から、レズに興味があった、と語っている。 私には、その心境が、わからない。 少女マンガの影響だろうか。 マスターは、女でも、美形の方だろう。 ジャニーズ系だ。 マスターと、喋ってるうちに、 私も、何故だか、 興奮してしまう。 相手は、男のつもりだが、 どう見ても、女だからだ。 その強がってる姿に、 そそられてしまう。 ふと、見ると「プリンちゃん」と、 「地下鉄A子ちゃん」が、 乳繰りあい始めた。 こういうときは、 自分も、女装しておけば良かったと、 勘違いな後悔をしてしまう。 「地下鉄A子ちゃん」は、友達だから、 別にいいのだが、妙な疎外感を、感じる。 このころ、まだ「A子ちゃん」は、 私を「地下鉄」に、 引きずりこもうとはしておらず、 「A子ちゃん」のままで、 「転移禁止教育」が、完全に、 完成していなかったのかもしれない。 見ると、「プリンちゃん」の乳を揉む姿が、 男に戻っている。 そして、私に、妙に、 なめきった視線を送ってくるのだった。 別に、女友達が、どうしようと、 私には、関係ないが、たまに、 なめた視線を送られることがある。 ジェラシーを感じるのも、 変なので、私は、マスターと、 エロ話で、盛り上がることにした。 内容は、忘れたが、 卑猥の極地だった。 オトコオンナのマスターが、 顔を赤らめている。 コトバによるセクハラは、私の悪い癖だ。 最近は、だいぶ治っている。 「地下鉄A子ちゃん」が、トイレで席を立つと、 「プリンちゃん」は、完全に、男に戻り、 べランメー調で、「表に出ろ!」と、 私に向かって、叫んでいる。 えー! あなた、女じゃなかったの!? こえー! 仕方ないので、外に出た。 ここは、2丁目、ゲイタウン。 しかも、端っこ。 「プリンちゃん」は、怖い人だった。 喋りが、怖い。 身のこなしが、怖い。 別人だ。 私の、喉仏を、こりこりと、さすりながら、 「ここ折ると、死んじゃうんだよねー」などと、 ほざいている。 何が、悲しくて、オカマに、 ケンカ売られなきゃいけないのだろう。 私は、物心ついたときから、 年に、一回は、 必ず、ケンカを売られる悲しい星の下に、 生まれついている。 おそらく、顔がぼうっとしてるからだろう。 しかも、そのころ、 私は、20代が、終わりの年で、 すでに、三十路が、近づいていた。 三十路を前にして、 路上で、 オカマとストリートファイトなんて、 カッコ悪すぎる。 しかも、負けた場合は、 1年間、その悔しさを、 引きずることになるのだ。 やだ、そんなの、やだ。 ただ、最近、私は、引き分けに、 持っていく方法を、 心得だしていた。 20代後半から、 負けも、勝ちもなく、 最後は、握手して、別れるという、 スポーツマンシップにまで、 のっとている。 緊張に、弱いので、 修羅場に陥ると、 身体が、ガクガクに、震えだす。 殴ったって、当たった試しがない。 そもそも、いい年した大人が、 殴り合いすること自体が、 みっともないのだ。 「プリンちゃん」の顔は、至近距離。 私の喉仏を、コリコリしている。 「新宿鮫」のゲイな犯罪者 「内田裕也」のように、 迫力をかもしだしている。 そこで、油断させて、隙をつくという、 卑劣な手を使うことにした。 身体の力を抜いて、 やる気のなさを、アピールしつつ、 「プリンちゃん」に、抱きついた。 太ももをがっちり掴み、 足を引っ張り上げ、ちょんと、払うと、 コロンと転がった。 びびりまくっていた私は、 すぐに、押さえ込み、ナイフで、刺されないように、 腕の動きを封じ、早くギブアップしてくれるように、 「プリンちゃん」の呼吸を、おなかで、さえぎった。 「プリンちゃん」が、脚をバタバタさせている。 「プリンちゃん」は、一応、女の子だから、 スカートを穿いていたのだ。 セクシーなストッキングが、むき出しになる。 しかも、ノーパンだ。 陰毛が、透けて見えている。 男女のカップルが、それを見て、 笑いながら、通り過ぎていく。 「プリンちゃん」は、まだ、ばたついている。 また、カップルが、通る。 ゲイタウンで、ノーパンストッキングのオカマが、 路上で、押さえ込まれて、もがいているのだ。 痴情のもつれにしか見えなかったかもしれない。 断言できるのだが、客観的に見て、 とても、微笑ましい光景だったに違いない。 ただし、当事者、2名は、いたって、真剣だった。 ようやく、「プリンちゃん」が、もがくのをやめた。 反撃されないように、気をつけて、起すと、 「プリンちゃん」は、完璧に、怒っていた。 握手しようと、手を差し出しても、知らんぷりだ。 仕方ないので、無理やり、手を握り、仲直りした。 しかし、このときの絶頂感は、半端でなく、 ヴァイオレンスって、SEXで、 2回射精するより、気持ちいいかも、などと、 生まれて、初めての白星に、全身の細胞が、 小躍りしていた。 ただし、今に至っては、いや、前から、 私は、温厚で、善良で、平凡な、ただの一般人だ。 そして、店にあがると、 私は、永久的に「レズバー」を、出禁にされてしまった。 もちろん、「地下鉄A子ちゃん」は、激怒するのだった。