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テーマ:イタリアの美味しい話(703)
カテゴリ:料理
今日は、「料理のイタリア語」の話です。
イタリア語のレシピを訳していると、日本語にするとうまくニュアンスが伝わらないなあ、と思う言葉が時々出てきます。 たとえば、「アル・デンテ」。 この他にもいろいろあるのですが、先日見た「ためしてガッテン」のオリーブオイルの回で、偶然、そんな言葉がいくつか説明されているのを見ました。 番組では、スパゲッティ・アーリオ・オーリオ・エ・ペペロンチーノを例にとって、オリーブオイルの上手な使い方を解説していました。 イタリアのHPの中から、一般的なレシピを1つ、選んでみました。 1) Far cuocere la pasta in abbondante acqua salata e nel contempo procedere alla soffrittura in olio di aglio e peperoncino. ・・・たっぷりの熱湯(塩を加える)でパスタをゆでる。その間に、オリーブオイルににんにくと赤唐辛子を入れてソッフリットにする。 2) Raggiunta un'ottima rosolatura sfumare con vino ed unire una manciatina di prezzemolo. ・・・にんにくが適切な状態(焦げない程度に火が通って油に香りが移る)になったら、ワインをかけてアルコール分を飛ばし、イタリアンパセリのみじん切りを加える。 3) Quando la pasta avra' raggiunto il giusto punto di cottura "al dente" scolarla e, leggermente colante, versarla in padella. ・・・スパゲッティがアルデンテになったら取り出してざっと水気をきり、フライパンに入れる。 4) Saltare e mantecare. ・・・パスタと油をなじませてマンテカーレする。 さて、訳文の中で、なじみのない言葉が2か所出てきました。 あなたは、このままでも、どんなことを言おうとしているのか、だいたい想像できますか? 実は、この答えは、翻訳者としてとても知りたいことです。 1)のソッフリットという言葉と、これを動詞にした「ソッフリッジェレ」という言葉は、イタリアの基本の調理用語です。 でも、「アル・デンテ」と同じで、ピンとくる日本語が思いつきません。 「フリット」 は“揚げる”で、「ソ」は「ソット」=「下」「足りない」というような意味です。 つまり、揚げる作業の一種なのですが、もっと軽い調理で、「揚げる」と「炒める」の中間なんです。 「炒める」というと、中華料理のように熱した油に材料を入れて、混ぜながら材料の水分を飛ばしていくイメージがあります。 それに対して「ソッフリット」は、多めの低温の油の中に材料を入れて、材料の水分を油の中にしみ出させて(フランス料理のシュエ=“汗をかく”という表現は分かりやすいですね)、油自体をソースとして使う調理法です。 オリーブオイルが、種子ではなく、果実を搾った唯一の油(番組ではジュースだと言ってました)だからこそ活きる調理技術です。 イタリア料理は、香味素材をオリーブオイルでソッフリットにすることから始まる場合がとてもたくさんあります。 そして調理の最後は、4)のように、「マンテカーレ」して仕上げることがよくあります。 番組では、素人と「アルポルト」の片岡シェフが同じ材料で作った料理を比べて、その味の違いは、最後の仕上げにある、と分析していました。 仕上げのテクニックとして使われていたのは、「乳化」という言葉です。 パスタのゆで汁を少量ずつ数回に分けてパスタに加え、麺全体に油をしっかりからめるテクニックでした。 ゆで汁を一度にかけると、麺にからまっていた油が全部落ちてしまって、もさっとした食感になるそうです。 料理をする人の間では常識なのかもしれませんが、ゆで湯を少量ずつ数回に分けて加えるという技は、私は初めて知りました。 イタリアの本で、「ゆで湯を少しずつ加える」と書かれたレシピは、見た記憶がありません。乳化という言葉も滅多に使いません。 でも、仕上げの「マンテカーレ」という作業には、まさに「乳化」と同じ効果があります。 「マンテカーレ」は、「和える」よりもっと強く混ぜる調理法です。フライパンをあおったりするのも「マンテカーレ」です。 干ダラを使った「バッカラ・マンテカート」というヴェネチア料理がありますが、これは、ゆでて細かくほぐした干ダラに油を少しずつ加えながらホイップして、油を乳化させる料理です。 ただ、普通は「マンテカーレ」は乳化よりもっと軽い意味で使われます。 左の写真はスパゲッティ・アーリオ・オーリオ・エ・ペペロンチーノ。 放送の翌日には、日本中でこの料理を作る人が続出したはず。 右はバッカラ・マンテカート。レストランで食べるともう少し油が多いかも。 ↓ 「ソッフリッジェレ soffriggere」も「マンテカーレ mantecare」も、イタリアの基本の調理用語です。 「焼く」や「炒める」という作業も、「アッロスティーレ」、「ロゾラーレ」、「サルターレ」など、日本語では微妙に言い表しきれない調理用語を使います。 料理用語からイタリア語を勉強するというのも、楽しいかもしれません。 ちなみに、スパゲッティ・アーリオ・エ・オーリオはカンパーニア料理で、これに唐辛子が入ったアーリオ・オーリオ・エ・ペペロンチーノはアブルッツォ料理です。 「ためしてガッテン」★これが正解!オリーブオイル新調理術:の詳細はこちら お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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