ハーレクイン小説と日本
ハーレクインは基本的に女性向けの恋愛小説で、作者はみんな外国人。だから日本で読めるものはそれらを翻訳したものになる。小説の舞台の多くはイギリス、アメリカ、ヨーロッパ、アラブやオーストラリアなど。架空の国もあるけれど。日本も日本人もハーレクインでは滅多に出てこない。たまに、主人公の取引相手が日本企業だったり、東京に出張していたするけど、話にはほとんどかかわらない。でも今回読んだハーレクイン・スポットライトプラスの「華麗なる暗殺者」は主人公たちと敵対する敵が日本人。それも日系人というのではなくて、日本から移住した姉と弟と言う設定。しかもその動機が第二次世界大戦で家族を失った二人がアメリカ人にたいして復讐するというもの。姉と命の恩人の不可解な死の真相を探っていた主人公たちが、クライマックスにそのことを知るのだけど、その過程が少し興味を引いた。主人公たちがその謎を探すために、二人のアジトに侵入してそこでアルバムを見つける。幸せな家族の様子から、父親が帝国海軍に入隊したあと、大きな町に出て、そして次の一枚の写真は、原形をとどめない町と、やけどを負った女性や子供たちの写真。それを見て主人公たちはそこが広島か長崎の原爆投下後の姿であることを知る。「ぼくたちは“二度の原爆投下が日本本土上陸作戦で失われたであろう多数のアメリカ人の命を救った”と習ったけど――」「ええ。連合国側は必要悪と見なしていたわ。でも原爆を落とされた場所にいたら、おそらく違う意見を持つでしょうね」「そうだな。家を焼かれ、家族や友人を一瞬にして失うんだからな。焼けただれて苦しみながら死んでいくのを見たり、生き延びても原爆症で苦しむ姿を見たら、きっと心がすさんで仕方がないだろうな」この言葉は主人公たちがアルバムを見た直後のもので、意訳されている部分もあるのだろうけど、全体の流れから見ても、ここは重要なところで、著者は広島と長崎の原爆投下後の写真を見ているのではないかと思う。そしてまた、主人公たちがその二人と対決するところも戦後の日本の状況を調べていたのではないかと思われる。それがこの、家族を失った二人がアメリカに渡り成功するためのお金をどうやって手に入れたかと言うことを説明する台詞。「(略)わたしがどうやってお金をかき集めて母の化粧品を復活させたと思う? アメリカ兵に体を売ったのよ。若くて美しい日本娘に彼らは喜んでお金を払ったわ。今でもあの屈辱は忘れない――(略)」よく勉強しているなぁという感じがする。でもその反面こういう台詞も。「あれは彼(弟)がすべてを決めて、ジェイド(姉)が従っただけ。日本では姉でも男のきょうだいに従うものなの。男性が絶対的な権力を持っているのね」これはちょっと違うけどね。弟の名前がアキオ・ニシザキで姉の名前がジェイド・ニシザキ。弟はそのまま日本人だけど、姉の名前はアメリカに来て改名したんだろうなと善意に解釈した。この本自体は、ぜひ手元に置いておきたいと言うほどのものではないけれど、外国の小説の中で日本の歴史がしっかりと出てきた珍しい本かもしれない。ちなみに日本で発売されたのは、2008年5月20日だけど、原作は1992年に発行されたもののよう。16年前の本と言うことか……。