つれづれなるままに―日本一学歴の高い掃除夫だった不具のブログ―
その他182
洋画(欧米系)974
不具の言葉695
邦画・アジア映画521
「先生」日記507
徒然日記488
時事放談397
百人一詩295
テレビドラマその他261
漫画252
SF237
ミステリー171
健康・病気・怪我など165
児童文学・絵本164
創作・パロディ148
伝記・歴史・地理147
ノンフィクション・現代社会134
夢何夜126
軽文学/大衆・ユーモア小説119
川柳その他定型詩120
障害のことなど110
アニメ95
食べ物94
怪奇幻想小説89
詩論・文学論88
海外文学84
スポーツ82
教育・思想・哲学72
シャーロック・ホームズ68
現代日本文学65
SF(ジュブナイル)64
数学・サイエンス64
源氏物語55
自閉症・発達障害51
星新一46
その他読書日記44
イチロー44
近代日本文学39
エドガー・ライス・バロウズ37
デュマレスト・サーガ31
マネー・経済30
自己防衛28
ユートピア・反ユートピア小説25
古典/日本文学研究・国内外(比較)文学論25
随筆・評論・エッセイ21
ウェルズ&ヴェルヌ19
D・キーン&E・サイデンステッカー18
日本人論・日本語論・日本文化論17
全148件 (148件中 1-50件目)
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戦いが終わり戦友が降りてきた疲れ果てた足どりでうなだれて指すそのゆびの先を見れば地平線からかがやく光黄色い台地くろぐろとした海がのぼってくるむかしながらの切っても切れぬわれらが月だただその皹(ひび)はかつてないほどおおきく深く天然痘のあばた面に無数の十字架を刻んでいるとうとうその日が来てしまったか同じく無数の十字架が刻まれたあばただらけの大地の上で声にもならぬ声とともにくろぐろとわれらは哭いたいつまでもいつまでも------------------20世紀にはやった破滅ものSFの詩バージョンです。
2019.07.25
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蝿はうなるうなるのをやめない光の屈折など彼には見えぬ彼はとてつもない近眼だだが近眼だからこそ羽ばたいている 羽ばたいて…… 羽ばた……凝固した大気の壁に向かって蝿はまだうなるのをやめない-----------------メモ帳にありました。いつ頃書いたのか、不明です。
2018.11.08
おめでとうはるかな昔 先生も養護学校から普通高校に進学したものだよ君はこれから おそらくやむことのないさざなみのような喧騒のただなかに自らの意思で飛び込んでいくその結果どうなるか 君はまだ知らないだからいいのだ知らないことに慣れる 少なくとも耐えられるようになってほしい君のことだ勉強にはついていけるだろう おお試験の世界は美しい 世の中もそのようであってくれればどんなにかいいだろうつくづくそう思ったこともある だが先生はそんな世界を愛した 今も愛している挫折をしろ 挫折に負けるな なんでも人の言うことを信じるな 信じられる人を見つけろ手記を読め自分を信じろ君をこれまで生かしめてきた奇蹟を思え昨日に今日を支配させるな今日に明日を支配させるな君は 唯一無二の存在なのだから
2018.03.14
さっと終わらせるぞと意気込んだ確定申告の日曜日早寝早起きは僕だけではなかったらしく会場前の非常階段にはとぐろを巻いた蛇のように人々がならんで待っていた 還付金しめて約1万円のためにおよそ4時間強とんだ時間の無駄遣いだが時給2500円と思えばありがたくもあるそれもこれもマイナンバーカードを作らせようとするお上の魂胆が気に食わないからでほとんど年中行事と化しているのだが次からはID・パスワード方式でも申告可能だというあくまでカードが普及するまでの暫定措置ということだがそうそううまくいくもんか嘘の申告はプライドが許さないがプライベートカードで管理されるのもごめんだドルトン・トランボも言っているじゃないか「何にでもイエスかノーで答えるのは馬鹿か奴隷だけだ」と俺は馬鹿でも奴隷でもないということを証明するためにこれからも年に一度は税務署の君たちをてんてこ舞いさせるその一翼を担ってやるのだ国家に忠実なハチ公たちの群よ諸君もたまには公金を横領して貧しい人たちに分けてあげたまえ君たちの遠い先祖 徴税人のあのマタイこそキリストの忠実な弟子ではなかったか貧しき人たちの味方ではなかったか少なくとも俺は安楽な奴隷になるよりも耐え忍ぶ人間である道を選ぶ徴税人マタイの末裔たちまたな
2018.02.25
白いものが解けたというのに道脈にでるといきなりの大渋滞だちっとも前に進まない赤血球の行列のように前にも後ろにも未来永劫続いている黒いタイヤ反対車線のナンバーの四つの数字を四則演算して十にする飽きた色や形から乗り手の性別を予想するあきた次は普通車か軽かトラックか予想するアキタ非常用の文庫本を百頁ちょっと読んだところでようやくのこと辻に出たためらうことなく右折するすいてる方へすいてる方へ神のご加護を祈りながらぐるりぐるりと大まわりようやく職場に着いたのが午前十時をすぎていたそれでもビリではなかったと嘘のような本当の話
2018.02.03
1、Right 君 右手を挙げることを懼れるな人の意見はそれぞれに正しくかつ間違っているその鬩ぎ合いの中で現在が生まれ少し先の未来が決定する君 右手を挙げることを懼れるな君のもつ生来の権利を放棄することの方を畏れよ2、Left見捨てられたのではない見捨てたのだ いな訣別したのだその左手を昂然と挙げてさあ 出かけよう君がきみ自身でありつづけるためにあの地平線の彼方へ!-----------------right=右、正しい、権利。left=左、leaveの過去形。から思いついた詩です。書いてる時は気がつきませんでしたが、後半は『天空の城ラピュタ』が入ってますね。【中古】◆天空の城ラピュタ◆監督:宮崎駿 出演:田中真弓 、 寺田農 、 常田富士男 ◆DVD◆0059[楽譜] コンサート器楽 君をのせて/スタジオジブリ映画「天空の城ラピュタ」主題歌 CD付【DM便送料無料】(コンサートキガクキミヲノセテ スタジオジブリエイガテンクウノシロラピュタシュダイカ CDツキ)天空の城 ラピュタ 2枚組 DVD (125分収録 北米版) ジブリ【輸入品】[楽譜 スコア] ピアノ曲集 天空の城ラピュタ【ポイント10倍】【映画ポスター】 天空の城ラピュタ ジブリ グッズ /アニメ インテリア おしゃれ フレームなし /フランス版 大判 片
2017.12.21
その男は首だけを残して全身肥壺に漬けられていた。顔も頭も糞まみれだった。無理やり口をこじ開けられて、下痢便を飲まされる。「やめろ! やめてくれ!」の声に一瞬手が止まるが、より一層流し込まれる量が増えた。身もだえする男。不意に黄金にまみれた体が長くなり、膨れ上がり、天に昇る。黄金色の雲が空を覆い、この世のものとも思えない叫び声とともに体が破裂し、国中が糞まみれになった。夢の内容をもとにした創作です。夢そのものではありません。開運うんこ!かるた / サトシン 【絵本】うんこちゃん石鹸 ソープ せっけん パーティーグッズ 景品 ジョークグッズ いたずら うんち ウンチ ウンコ
2017.11.25
不定期に頭部が溶けてはまた元に戻るという奇病に罹った。友人二人は不幸にして人前でその発作を起こし、社会的地位を失った。それを見た私は症状が出そうになるとトイレの個室に駆け込み、治まるまで待つようになった。もしやあなたもそうではないか。
2016.08.30
Hi,I am VERY SLEEPY.So, call me SLEEPY,please.快眠塩まくら 塩まくら 快眠 健康 頭痛 肩こり 不眠 高血圧 塩 マイナスイオン 血行不良 改善塩まくら 海眠 マクラ 塩枕 蒸れない 一年中使える 枕 氷枕 の代用に♪ ひんやり 気持ちいい ヒエヒエ 枕 肩こり 寝具 枕 睡眠グッズ 寝具 ベッド 寝室 クッション
2016.07.14
--Do you love me?--Yes,of course.--So,you can do anything for me,can't you?--No,of course not.--Why not?--For example, I can't kill or steal....because...--I see.--Because I'm not a baseball player.頭で走る盗塁論 駆け引きという名の心理戦【電子書籍】[ 赤星憲広 ]
2016.07.11
ひとりはそれを空想と考えた。もうひとりは事実の叙述と受け取った。二人の会話は最後まで平行線だった。最期まで。
2016.03.07
将来の夢はプロ野球選手になることです将来の夢は盗塁王になって 足で勝利に貢献することですわかっていますそんなの夢だってことくらいこの身長 この鈍足なによりもこの不自由なからだではけれども今日は 学習発表会舞台の上で 僕は本物のプロ野球選手でした観客のみなさんあたたかい拍手 どうもありがとうございました生まれて十五年 最高の瞬間でしたまた月曜日からがんばります---------------四年前に書いた未発表の作品です。拙作ですが、愛着があるので、ここに「発表」することにしました(苦笑)。
2015.11.11
「その島は、悪夢の島でした。人間の姿をした化け物どもが、村人を次々に襲い、生き血を吸ったり、頭から食べたり…生き残った人びとは協力して奴らを撃退しようとしましたが、倒しても倒しても、奴らは何事もなかったように平然と立ち上がり、われわれに向かってくるのです。とうとう、絶望のあまり自殺する者まで出てきました。私も海に身を投げようとしたのですが、ある少年に腹を蹴られ、いつの間にか気を失い…気がついたらここの海岸に打ち上げられていたのです。その少年がどうなったか、私にはわかりません。けれども、彼は私の命の恩人です…」と、食料が言った。--------------------実はこれは先ほど見た夢です。ただし、最後の部分は超短編らしくするためのつけたしです。夢そのものも、目が覚めたとたんに掌から砂がこぼれるように細部が崩壊し、文字にしたときにはその夢のかけらがかろうじて残像のように、あるいは遺体のようにそこに在るだけにすぎません。今回の夢はあまり飛躍がないので、創作にしてみました。いわば見た夢を素材にしたパロディ(?)です。【メール便送料無料】【中古】 吸血鬼ドラキュラ / ブラム ストーカー / 東京創元社 [文庫]【メール便送料無料】【あす楽対応】【中古訳ありコミック】【5000円以上送料無料】【8冊セット】寄生獣 完全版/1巻-8巻/完結/岩明均/大判コミックセット【中古】[☆2]
2015.11.09
幼子のようになって病院から帰ってきたある日「雨が降ってきたろう」母が尋ねるあわてて外に出てみるとやっぱり雨は降ってない母の目の前で片手を振る が「今日はもう出かけないだろう」などというのだ僕はもうそれ以上相手にしなかったところがおう小半時のちほんとうに雨が降ってきたぱらぱらとその音を聞きながら僕はようやく思い出す雨になると母は頭が痛くなるのだった目も耳もそうして頭もいくらか不自由になった母は幻聴を聞いたのではない「頭が痛くなった雨が降ってきたろう」そう 訴えていたのだ人間としての本能で
2015.06.05
むかしむかし、あるところに、ふたりぐらしの母親と息子がいました。息子が大きくなったある朝、母親がたずねました。「お前、最近つらいことがあったのかい」「べつに。どうして?」「だって、夜な夜なお前の部屋から泣き声が聞こえるからさ」「耳がおかしいんじゃない? 耳鼻科へ行って来たら」母親は黙って息子の顔を見ていましたが、やがてついと横を向きました。それから毎日のように、玄関に塩をまく母親の姿がありました。息子はそれを複雑な顔で見ていました。こっそりア×ルトビデオを観ているなんて、言えなかったのです。
2013.06.16
風の散りやがておとずれるしずけさに花びらの落ちるあおのうえ広げられた食卓にうぐいすの集う----------------これも古いメモ帳から。最近の作品なら、ああ、戸外で行われる歌会か何かの風景を想像で書いたものだろう、と見当がつくのですが、何分昔の走り書きですから、よくわかりません。
2012.02.02
垂直な板のおもてに石の貨幣が貼られそのうえにひとりの男が浮き彫りになっている「ウイリアム・レニー先生之碑」見あげれば髪の毛 額目じりから流れる二筋の糸もみどりいろに老いて久しく(なるほどこれは異人の貌にちがいない)無理にもそう思おうとしたのである「教え子及び有志」によって再現されたその似姿はあまりにも そう日本人的であったから。-------------古いメモ帳から。詩というより覚書です。これは、いつ書いたのかわかります。函館に行ったのは、院生の時、教員採用試験を受けるために行った時だけですから。とすると、他の走り書きもそのころのものでしょうか。もしそうなら、もうかれこれ20年になります。…
2012.01.30
その一片(ピース)を分析してはならない分類するのだ即座にもし君が本当にこころの平安(ピース)を欲しているのなら-------------やはり古いメモ帳から。言葉遊びの思いつきでしょうか。それとも…
2012.01.29
昂まりが消えてしびれが残る生き続けるのだ骸よいのちあるかぎりしなやかにわが対ならざる臓器を食もうとも---------------------やはり古いメモ帳の走り書きです。見つけたときは「ブルックだ~」と思ってしまいましたが、これを書いたときは相当、精神的に追い詰められていたのだろうと思います。
2012.01.28
栗鼠が暗闇をつつきだす夜は真露のように澄んで濃い-------------やはりメモ帳にあったなぐり書き。
2012.01.23
洗練された腕が宙を舞い終わるときが始まりである潮ひとつ吹かずさながら幽鬼のように静止するたえずこころのみ離脱せんとこころみるが容れず眼を閉じてのみこまれるまで待つ-------------------古いメモ帳から出てきた一篇。書いたときはわけが分かっていたのでしょうが、歳月が経ってみると何じゃらほいという感じです。
2012.01.22
ある事件(事故)で女の人を助けた。「ごめんなさい、私のせいでこんな目に…」「いや、いいんですよ」「お礼はどうしたらいいでしょう」「それなら…僕の子どもを産んでくれませんか?」するとその人は困ったように言う。「ごめんなさい…私、男なんです」
2011.12.10
師走の月は残酷な月、今年もまたひとつ齢をとる。*T・S・エリオット「荒地」の一節より。《新潮社》エリオット 西脇順三郎/上田保訳世界詩人全集16 エリオット詩集 【中古】afb
2011.12.01
病院で、例の診断書をお願いしてきました。それはいいのですが…病室に行くと寝たきりの父がななめ上の方をじっと見ていた。視線の先を追ってはみたがどこにでもある普通の天井である。「いったい何を見ているの?」声はとうとうかけなかった。父はいったいどれくらい天井を見つめているのだろう。もういちど 視線の先を追ってみたがやはり どこにでもある天井である。とうとう声をかけぬまま僕はしずかに退室した。父はあれからどれくらい天井を見つめていただろう。
2011.07.29
施設から街へ。山を捨てよ、街に出よう。ああその理念だけは買ってあげてもいい、むかしはここも「ぜつぼうの山」とひそかに言われたものだ、姨捨ならぬ子捨て山だ。ああ親だってそのうち姨になる、そんなことはわかっているさ。親よりほかに愛する者のない、そんな俺たちだから山に来たんじゃないか。それに街に出て待っているのは冷たい目、好奇の目、無関心を装った白癬菌のような目だ。だから俺たちはお前らに会いに山を下りるんじゃない。映画や食事、世間でいうレジャーのために出かけるのだ。勘違いするな、俺はお前らに会いに山を下りるんじゃない。
2011.06.03
障碍者を施設に追いやるな、健常者とともに生かしめよ それこそがノーマルな社会のあり方だ、有識者とおっしゃる方はそうのたまう。問題は健常者と共生したってちっとも楽しくないことだ、連中は宇宙人を見るような目で俺たちを見る。どう接したらいいのか量りかねている御面相だ、悪意はないのかもしれぬが始末に負えぬ。日本の世間体だとか高邁な理念だとかは糞くらえ、俺たちが欲しいのは世間並みの楽しみだ、ゲーム、パソコン、カラオケ、外食、エトセトラ。そりゃいつの日か本当にノーマルな社会が来るのかもしれんが、俺たちがその踏み台になるのは、まっぴらごめん と言っておく。施設の職員だって立派な健常者だ、なら普段彼らと接するだけで何が悪い?---------------詩としての体裁もなしていない無茶苦茶なソネットですが、言いたいのは、障碍者には障碍者の文化がある、ということです。とくに『刑事ジョン・ブック 目撃者』を観た後こういうことを考えるようになりました。まあメモ程度の覚書として。
2011.05.24
裏庭を散歩しているとリヤカーの屋台が停まっていた。屋根はキタノ・ブルーの段ボールだ。なかを覘くと安さんと襤褸である。安さんがつくったラーメンをくっさい襤褸がすすっている。はてどうしてこんなところに、首をかしげていると襤褸が言った。――登よ どうして 父さんと一緒に散歩してくれないんだ。放浪の父の声だった。そばで話をするだけでダニがうつりそうだったが哀れな声に応えて一息に叫んだ。――理由その一、 お風呂に入らなくて臭いから。するとその場で理由二も聞かず襤褸を脱ぎ始めたのであわてて安さんがとめた。――おいよせ、こんなところで。そうして父を連れて行った、おそらくドラム缶に入れるのだろう、うしろ姿を見送りながらぼくは安さんにふかぶかと頭を下げていた。――すみません、 父をよろしくお願いします。------------------これは創作であり現実の父は入院しています。ホームレスだったこともありませんし、屋台を引いたこともありません。舞台はすべて象徴の風景だと考えてください。あしからず。
2011.04.16
うららかな散歩日和生徒たちを率れて外に出かける疲れたのか チューリップ畑についても花々に背をむけてすわりこむ 面々そこへ 昔の顔がやってきた久闊を叙したあと そのひとが言った――大変ですね。大変なことがあるものか と思ったがむこうは好意で言っている 世間とはそんなものだ瞬時に検索して適当な言葉をみつけた――いやいや、かわいいですよ。実際そうなのだ この子たちは高校生だけれどもまるで小学生のようなのだかといってどこかはやっぱり高校生で子ども扱いするとしっぺ返しを食らうその切先が快感なのだ前の職場から来たおじさんよ教えてくれてありがとう自分には不向きの職場だけれどそれでもここに宣言します――どんなに居心地が良くても 前の職場にもどる気はもう ないのです。――どんなに居心地が悪くても この仕事を辞める気は ないのです。 少なくとも今のところは。
2011.04.13
チリでニュージーランドでニッポンで地震は起きたスリーマイルでチェルノブイリでフクシマで事故は起きた原発は人災かもしれぬだが震災は天災だみよ泥だらけのアルバムの束を3時36分で止まったままの校舎の時計を積み重なった色とりどりのランドセルの墓標をそれでも神は天にましますのか死ぬことなぞ夢にも思わなかった 小さな命たちいくたびか死にそこなってこんにちに至った わたくし「いっそ神などいないのだ」宣言できるものならとうにしているおくびょうな小さなわたくしにできることはただひとつみえない不発弾をいくつもいくつもかかえながらせめて真摯に生きつづけること死者のたましいのために
2011.03.25
「養護学校?施設といっしょじゃろうもん」ははよ。あなたに悪意がないことは息子の不具が保証する。だがそれこそが鉤の刃なのだ、ははよ。身体がおおよその成長を終えるころひとがここを巣立っていくのは ただのしきたり なのだろうか。ももの花のさく季節にむすこやむすめの年ごろの生徒たちがこころもおおきく育ったようにみえるのは ただのまぼろし なのだろうか、ははよ。身体の不自由なあなたの息子がつかれたようにみえるのは生徒がたいへんだから ではない。 むすこかわいい。 むすめかわいい。そういうおもいに いまだじゅうぶん応えていないわが身の丈をいたいほど よくわかっているからなのだ。――ははよ。
2011.02.25
会うたびに あなたは とうめいな存在になっていく。きょうひさかたぶりに僕が来た。とたんにたまごのように見ひらかれた ひとみ、はばたくように話しはじめた うで と あし、それはこれまでになかったこと なのに、ベッドの手すりをつかんでいる 右手をとおしてそのたしかな波紋は 確実に僕にとどいていたはず なのに。ふるえるくちびるで ひとりひとり血族の安否を たずねはじめるまであなたが なにを懼れていたのか うかつにも僕は 悟れなかった…さいごのひとりの 今について訊き終わると それきりなんと話しかけても あなたは僕に声をかけようとはしなかった、ただのひとことも。
2010.07.03
ついさきほどの話です。いつものように病院に行った僕はいつものように父の居る病室に入りました。ちょうどオムツの交換をしているところでした。その時思わず僕は言ってしまったのです。「ああ、ずいぶん足が細くなりましたね」と。のみならず「寝たきりだからカルシウムが溶けてしまったんですかねぇ」などと。僕は父親に言ったのではありませんでした。父の世話をしていただいている看護師さんにほんの雑談のつもりで言ったのでした。ああ、その賢しらさ。案の定、父の顔色が変わりました。看護師さんたちはそそくさと病室を去りました。残されたのは父と二人。夏至の空は窓の外からあかあかと部屋の内側を照らしています。それから僕がどんな思いでもの言わぬ父親と対峙しつづけたか、夕焼けだけが知っています。責められた方がむしろどんなに楽だったか。いつものように「馬鹿、馬鹿、死ね」とののしられた方がどんなによかったか。放蕩の果て故郷に錦を飾ることなく無一文で帰ってきた父の静かな静かなその沈黙に僕はそのとき返す言葉もありませんでした。
2010.06.21
コメント(2)
山口先生はやさしい嵯峨山先生はおこりんぼだけど授業はいつも嵯峨山先生ため息が出ちゃうな………………生徒が作った詩ではありません。目的があって作った「詩」です。授業で笑いをとるために。嬉しい、とか悲しい、とか退屈だ、とか自分の気持ちを直接書かないのが「詩」の基本だということを生徒にわかってほしいので。実際に使うかどうかはまだわかりませんがとりあえず覚書程度のメモでございます。
2010.06.12
大掃除をしていたら、出てきた昔の原稿用紙。中央に「◎◎県立○○高等学校」と印刷してありますから、高校生のときに書いたものでしょう。とりあえず、紙を捨てるためにメモしておきます。人生を切り開こうとする努力も結局は虚しいものに過ぎないのだろうか?人間も結局は運命のされるがままに身をゆだねるしかないのだろうか?――いや そんなことはない次の瞬間 己が一体どう出るか己以外の誰にも決して分かる者はいないはずだ――人生はただ一度きりその瞬間も一度きり瞬間の連続が「時」を生み己が道を己が力で彩ったように見えるものの――そこには見えざる手の力が依然として働いているのだ推測ですが、当時はたぶん、O・ヘンリーの「運命の道」か何かにインスパイアされたのでしょう。本人は対話形式で書いているつもりなのだと思います。本来なら今日のブログのタイトルは「今日の入選句」のはずでしたが、初の全没になりましたのでこんなものでお茶を濁すことにしました。来月は都合により句会を休む予定です。
2010.01.10
前略 ハム先生先日は娘の命を救っていただき、ありがとうございました。他のどの医者も一様に暗い顔をしておっしゃることも同じだったのに、ただ先生だけが、……本当に何と御礼申し上げたらよいのか、大袈裟ではなく、まこと先生は生き神さまでございます。それにしても、一体どうやってあれだけの量の血液を一晩で調達されたのでしょうか。不思議です。何しろ特殊な血液型で、血液銀行にもないと聞きましたから……いえ、出所の方は分かっております。いや確かめたわけではありませんが、だいたいの推測はついております。まるで見当がつかないのはその方法でして……習慣でしょうな、考えまい考えまいとしてもつい、……こうして書きながらも因果な性でございます。ところで最近、ネズミが何びきか先生の周りを嗅ぎ回っているようです。私のところにも報告がありましたが、この件からは手を引くように上司としてガツンと言っておきましたから、どうぞご安心ください。乱文乱筆ながらそのことだけは先生にお伝えいたしたく、慣れない毛筆を執った次第です。本当にありがとうございました。草々
2009.09.23
死因ですか? 失血死ですな。間違いありません。問題はどうして血を失ったかということで…それが皆目わからんのです。いや、面目ありませんが、警察のほうでもわからなかったからうちの大学に来られたのでしょうが。実際、奇奇怪怪ですな。そうとしか申し上げようがありません。何しろ、傷口もなければ血を吸われた痕もないのに、体中の血がそっくりなくなって、萎びて…さよう、しなびて、という表現が適当でしょうかの。吸血鬼? ご冗談を。どこに牙の痕がありますかな? 首筋? それどころか全身くまなく調べましたわい。あんまり気持ちのよいながめではありませんでしたが、な。第一、伝説によれば吸血鬼に血を吸われた者は吸血鬼として復活する、と言われておりますが、いまだにその気配はありません。警察の方があまり迷信深いのでそのままにしておきましたが、ほら、もう腐敗臭さえ漂いはじめておる。その線はもう、諦められてはいかがですかな。ルビー? そういえば真っ赤な宝石を身につけとったとは聞いておりますが…ははあ、これがそうですか。なるほど、鮮血のような緋色でございますな。しかし宝石がヒルのように人間の血を吸うなどという話は、聞いたことがありませんな。そもそも、鉱物と血液では、光の屈折率が違います。警察の方も、あまり手がかりがないので、オカルトに頼りはじめられましたかな?***「どう思う?」「常識的な答えでしたね」「そんなことはわかっている。シロかどうかと聞いてるんだ」「わかりませんね。クロだという確証でも?」「それはない。証拠もない。ただ奴さん、大昔ガイシャに振られたということは聞いている」「あのハム先生がですか」「そうだ」「しかしそれぐらいで…第一、ガイシャをよく思っていない人物は、他にもいるんじゃありませんか」「そうだ。だから考えられる線をしらみつぶしに当たってみなければならん。しかしそれにしてもミステリーだ」「そうですね」「馬鹿。ミステリーにはトリックがつきものだ。そのトリックを見破るのが俺たちの仕事なんだ」「すみません」「まあいい。あの医者に目立った動きがないかよく見張っておけ。真犯人じゃないかもしれんが、ホシに近いところにいるのかもしれん」「わかりました」
2009.09.11
コメント(3)
これは、事件の30年以上前、二人の青年の間に交わされた会話である。「やあ、しばらく」「しばらく」「よく来たな。まあかけろや。一杯飲もう。乾杯!」「乾杯!」「ところでおまえ、こないだお見合いしたんだって?」「まあな」「で、どうだった?」「全然。手ごたえなしさ」「ふられたのか?」「多分ね」「話したくない?」「そうでもないけど…」「美人か?」「きれいな人だったよ。俺にはもったいないかな、と正直言って思った」「気後れしたのか? だめだよそんなんじゃ。男はどーんといかなきゃ、どーんと」「俺はおまえとは違うよ」「話は弾んだのか?」「どうだろう…向こうの付き添いの人と、こちらの付き添いの人と、四人でいろいろ話をしたから…礼儀正しく、しっかりした人だったよ。自分を磨き上げるのを怠らない、という感じだった」「ふうん…そんなに華やかな人なのか?」「そうでもないな。どちらかといえば地味だと思う。きれいな人ではあるけれど、派手じゃない。バッハとか、ショパンとか、音楽に造詣が深かった。ピアノを弾くんだって」「お嬢様か?」「上流階級というわけじゃないんだ。親は庶民だよ」「ならおまえと同じじゃないか。誘わなかったのか?」「連絡先を聞こうとしたら、こちらから連絡しますって断られた」「親と同居してるのか?」「いや、一人暮らしさ」「電話くらい引いてあるだろうに」「束縛されたくないんだって」「で、それから音沙汰なし、と」「そういうわけ」「…馬鹿な女だな。おまえのように前途有望な医者の卵をふるなんて」「噂だけどね」「うん?」「今度、皇太子殿下とお見合いするんだって」「…なるほどな。そういうことか」「そういうこと」「遅くなったな」「ううん、いいんだ」「飲みなおそうか?」「いや、よすよ。今日はありがとう」「元気出せよ。またな、ハム」「元気出すよ。またね、レット」
2009.08.20
うるさいわね。ええそうよ、あれはアタシが盗ったのよ、刑事さん。だけどすぐにモトのトコロに戻しといたでしょう? アハハ…いいえ、わたしがヤッたんじゃないわ。もう死んでたのよ、アノ人。アノ人でいいでしょう? 別に…敬語遣うなんてかったるいし、死人に口なしって言うじゃないの。どうせアタシはアバズレよ。口のききかただってなっちゃいないわ。だけど、今までヒト様の持ち物に手をつけたことはないのよ。男の持ちモノは別だけどね。アレだって好きでクワえてんじゃない、ただクスリ買うカネがほしいだけ。おとなしくついてきたでしょう、アタシ? だってパクられんの、コレが初めてじゃないもんね。だめよダメ、あんたの上司だってアタシのお得意様なんだから。アンダーレイクのヒルダといえば、ここいらではチョイとした顔なんだから。あんたもアタシと寝てみない? 自分で言うのもナンだけど、名器ナンだってさ、アタシ。わかったわよ、わかったからそう怒鳴んないでよ、耳が破れちゃうわ。とにかくヤッたのはアタシじゃない。アタシはただ役にもたたない死体からカネメのモノを拝借しただけ。死人が持ってたって猫に小判でしょ?猫というより、化け物だね、人間もああなっちゃあ、おしまいさ。ああこれ、太宰治の『人間失格』の中のセリフね。難しいコト知ってんでしょ? おリュウさんに教えてもらったんだけどね、ああ今ブチこまれてんだっけ、アハハハハハ…ブチこみたきゃいいよ、ブチこんでも。どうせ何もでてきゃしないんだ。第一死体には傷ひとつついちゃいなかった。ただ干からびたブドウみたいにシワシワになっていただけさ。アタシが精を吸い取ったとでも言うのかい? ジョウダンじゃない、ソッチの趣味はないんだから、アハハハハハ…ハハア…
2009.08.11
はい、はい、さようでございます。確かにそのお客様は先日お見えになりました。ええ、この写真の顔に間違いありません。名前も思い出そうとしたって忘れられるものですか。なに日本語が違う? この人の名前ほどじゃありませんや。こんな女フランケンみたいな御面相で、わらわはオフェーリアなるぞ、とこうですからね。まったくこの面ァみたらハムレット様の方が気がふれて川に身を投げかねませんや、そうでしょうが。何余計なことを言うな? すみませんねえ、何しろあたしもこんな魔女みたいな鷲鼻でしょう? よそさまのご尊顔をこっそり拝するのが慣わしのようになってしまいましてねえ…すみませんすみません。ええ確かに、あの血のように真っ赤な特大のルビーを購入されたのはこの方でした…そうそう新聞にも載っておりましたが、最近変死されたそうでございますね。何でも宝石がかき消すようになくなったばかりか、ホトケ様の体中の血液が全部しぼりとられてミイラのようになってしまっていたとか。巷では宝石に吸い取られてしまったのだろうともっぱらの噂でございますが。どうぞそんなに睨まないでくださいまし。あたしはただ、世間の声を代表して正直に申し上げただけのことでございまして。え、あれでございますか? 実は、つい最近ある女の方が預けに来られましたルビーでして。大きいでしょう?ほら質札もございます。ヒルダ、とありますね。え、偽名ですか? するとこの身分証明書のコピーも…いえとんでもない、あたしは赤の他人でございます。たまたま親からいただいた苗字が蛭田というだけでして、看板にも堂々と掲げてあるじゃございませんか。第一あたしは宝石をただお預かりしている商売人でして、所有者のことまで…
2009.08.10
街を自転車でぶらついていた。駅の裏道に差し掛かったとき、突然、鼻を突くような異臭に襲われた。サリンではない。ホームレスの臭いだった。彼がどんな姿をしていたか、説明するのはよそう。読者はただ、おのおのに不潔で汚らしい初老の男性を自由に想像してほしい。問題は不具の方だ。生きている人間に対して、久しぶりに吐き気を覚えたのである。不具は肢体不自由養護学校で教育を受けた。昔は、重度の障害者は学校に行かなくてもよかった。義務化された昭和54年ごろから、ぼちぼち重度の身障者が学校に来るようになった。中には重い知的障害を併せ持つ子供もいた。そういう児童に対して、小学生だった不具は素朴な嫌悪感を持ったのである。自分は違う、あの子達とは違う。自己防衛の心理が働いていた。何より苦痛だったのは給食の時間だった。同じ学校の後輩たちがのこす残飯が、駅の吐瀉物のように見えた。吐き気を催し、後輩たちに対しても吐き気を覚えた。その不具は今、養護学校の先生である。罪滅ぼしのようなものである。自分がアスペルガーだと自覚して以来、昔の嫌悪感は雲霧消散してしまった。歌の文句ではないが、「人は悲しみが多いほど/人にはやさしくできるのだから」という感じだ。気が付かない人間なので、人にやさしくなったという感じはしないが、人のつらさはわかるようになった。生徒たちに対しても、ひそやかな仲間意識をもって接してきた。肢体不自由の生徒たちの摂食を見ても苦にならない。それよりも、教えることより、教わることの多い毎日である。ありがたくもあり、これでいいのかとも思う。だがあのホームレスのおじさんに対しては――あの人は不具の仲間ではないのだろうか。あの人もまた発達障害者のなれの果てではないのだろうか。それなのに反射的に拒否反応を起こした。不具の本質は昔とちっとも変わっていないのではないだろうか。先日、不具を創価学会に誘ってくれた先生の顔をふと思い出す。身障者仲間の学会員は多い。だが浄土真宗の他力本願とイエス・キリストの生涯の間を揺れ動く不具は学会に限らず、いかなる宗教的お誘いも拒否してきた。善人なおもて往生をとぐ。いわんや悪人をや。不具は善人ではない。そのことは自分が一番よく知っている。かつまた人智を超えた神がこの世界に遍在されるのなら、その方の眼にあまねく人類は皆平等であろう、とも思う。いささか旧い表現をするなら、われわれは皆天皇の赤子なのである。兄弟同士仲良くせずば、親はどんなに悲しむか。天皇という言葉が嫌いなら、キリストでもいい。神でもいい。不具という人間はどうやらそういうものに救いを求めなければ、生来の自我を矯めることができない存在らしい。考えながら自転車をこいでいるうちに、いつの間にか穹には一番星が出ていた。
2009.07.25
「ごらん、涼子」狩の帰りだった。ロビンソン・J・クルーソー13世は、自らしとめた獲物を肩にかけ、光線銃を片手に、大空を見上げながらかたわらの連れ合いに向かって言った。ついに…ついに、待ちに待った日がきたのだ。地球から迎えのやってくる日が。宇宙船は音もなく静かに海岸に降り立った。ハッチが開いて、人影が疾風のように近づいてくる。女の姿をしていた。「マリリン!」「ジェイ!」しかと抱き合った最初の興奮が過ぎると、金髪碧眼のグラマラスな女性がいぶかしげにたずねる。「ジェイ?」「ん?」「この方、どなたですの?」ジェイは口篭もった。もと婚約者相手に何と説明すべきか迷ったのだ。「この人かい? それはそのう…」どうも彼女は昔から苦手だ。「同志」だったときも、いつも尻に敷かれてばかりいた。「何というか…つ、妻みたいなもので…」涼子に二人の言葉はわからない。だが何となく雰囲気で状況を察していた。ジェイに教えてもらった片言の英語、ワイフという響きが嬉しい。「ああ、現地妻みたいなものですわね? どうせ正式な結婚式は挙げていないんでしょう?」「いや、実を言うとこの世界でのしきたりと儀式にのっとって…」「そんなもの!」はきすてるようにマリリンは言った。「神前での厳かな誓いに比べれば…」もし涼子に二人の言葉が話せたなら、私たちの結婚も神の前で誓ったのよ、と反論したことだろう。もっともマリリンは鼻であしらったことだろうが。黒曜石の瞳と流れるような黒髪の女性を一瞥すると、空から降りてきた女性の甲高い声の調子が少しやさしくなった。「ねえ、それよりジェイ、私たち、とうとう勝ったのよ!」ジェイも思わず感無量になって叫んだ。「そうか!」ジェイは政治犯だった。革命軍に参加して、マリリンら同志とともに反体制側に立って戦ったのだ。だが時の政府に逮捕され、流刑星に送られた。死刑を免れたのは、ジェイが体制側の有力者の息子だったからに過ぎない。「そうか!」「そうよ! 私たちは勝ったのよ! 帰りましょう、ジェイ! ここまで長い道のりだったけど、私たちまだ若いわ、いくらでもやり直せるわ、そうでしょう?」「やり直せる…」「そうよ! そんな黄色いサルみたいな小娘なんかほっといて、帰るのよ! 私たちの…」わずかなためらいがあった。「ホームへ」「ホームか…」いい響きだ。なつかしい言葉だ。ジェイは冗談半分に聞いてみた。「マリリン、地球はまだ青く見えるのかい?」宇宙服の奥の顔が少し曇ったように感じたのは、光線の加減だったろうか?気まずい沈黙が流れ、やがて、マリリンは、一語一語、区切るように答えた。「ジェイ…地球はもう、ないのよ」「地球がない? しかし今君はホームと…」発した声は、自分でも驚くほどうつろだった。「ホームはあるわ。革命政府は火星に新しい植民地を作ったの」マリリンは立て板に水のようにしゃべりつづける。革命政府を代表して、自らの行為を正当化しようとするかのごとく。「私たちは勝ったのよ、ジェイ。だけど、地球はもう生物の住めない星になってしまったの。何があったのか…わかるでしょう?」最後は、哀願するような口調だった。「地球がない…」ロビンソン・J・クルーソー13世はつぶやいた。何の感情もなかった。機械のような声だった。「ジェイ、お願い、そんな顔しないで…私たちが勝利するには、ほかに方法がなかったのよ…それに、あんなブタみたいな野郎どもをのさばらせておいて、私たちが火星で平和に暮らせると思う?」「地球がない…」ロビンソン・J・クルーソー13世は繰り返した。何の感情もなかった。機械のような声だった。「行きましょう!」しびれを切らして金髪の美女が13世の手を引っ張る。「こんな小娘なんかほっといて」突然、ジェイの光線銃が火を噴いた。今まで女の形をしていたスーツが黒焦げになる。出力を最大にすると、今度は宇宙船に照準を定めた。「これでまた、反逆者(traitor)にもどってしまったな、涼子」一仕事が終わってせいせいしたという顔で、ロビンソン・J・クルーソー13世はかたわらの妻に語りかける。トライターという未知の単語の意味はわからなかったが、涼子と呼ばれた美しい女性は黒曜石の瞳を輝かせて、静かにうなずいた。森に帰っていった二人の行方は、誰も知らない。
2009.07.24
ある街角に、新しく宝石店ができました。看板には「どんな宝石でもお売りします――お金がなければ、あなたの魂と引き換えに」と書いてあります。早速警察がやってきて調査にきましたが、書類に不備はなく、事件性もないということで、看板の文句を書き換える指導がなされただけでした。指導後の文句はこうです――「どんな宝石でもお売りします――適正な価格と引き換えに」。けれども、魂云々の噂はすぐに街の有閑階級の女性たちの間に口コミで広まり、冷やかし・野次馬の類も含めて、宝石店は小さな街にしてはよく繁盛しました。そんなある日、とても恰幅のよい中年の婦人が店に入っていきました。まるで、自分の女性としての価値は、身に付けている宝石の値段の総計に等しいと言わんばかりのきらびやかさで、100メートル先の犬も近寄らないような強烈な香水のにおいをぷんぷんさせて。ところが、入っていったその婦人はものの五分と経たぬうちに扉を乱暴に開け、鼻息荒く、牛のようにのしのしと歩み去っていきました。自宅の窓の奥や物陰から様子を見守っていたマダム連は、その後姿が消え去るのをを見守ると、三々五々と集まって、井戸端会議を始めました。やがて、引っ越してきたばかりの若い主婦が引っ張り出されてきました。代表して、何があったか店主に聞いて来いというのです。気が進みませんでしたが、今後の付き合いもあり、断りきれません。意を決して店の中に入ると、まだ若い30代にしか見えない男が座っています。「いらっしゃいませ。何かアクセサリーでもお探しですか?」商売人の技術とわかっていても蕩けるような笑顔です。いったいどうしてあの女性は、あんなに憤って帰っていったのでしょう。「あのう」おずおずと最前線の女性は尋ねました。「あの、さっき出て行った女の人が買い損なったもの、ありますか?」店主は一瞬、悪魔のように淫蕩な目つきをしたように見えましたが、気のせいだったのかもしれません。いずれにせよ、ほんの瞬きする間のことでした。「ああ、さっきの方のことですか。失礼ですが、もしやお知りあいで?」「ええ…まあ、実は私、引越してきたばかりでよく知らないんですけれど、どうしてあんな風に…」「怒って店を出て行ったかと聞きたいんでしょう。いいですよ。奥さんにならお答えしてもよさそうです。その代わり、魂をいただきますが、よろしいですか?」冗談だと思った女性は、声を立てて笑いました。「笑い事ではありませんぞ。私は本気で申し上げているのです」店主はあくまで真剣な表情です。「いいかげんになさらないと怒りますわよ。おおかた、さっきの女の人にも同じようなことを言ったんでしょう。いいですわ、私、もう帰ります」「残念ですが、マダム」男はいつの間にか獣を思わせるだみ声になっていました。「違います。彼女は自分の魂で払うから店ごと宝石を買い取りたいと言われたのです。私はそれに対して答えました――残念ですが、マダム、貴女は引き換えとなる魂をお持ちでないようです、と」突然、店中の電気が消えました。
2009.06.30
きょうも あなたのいる町のどうぶつ園の 柵のうち ぞうは どうしているでしょう。…むかし むかしの おはなしです。 たぬきに きつねに なまけもの くじゃく いのしし さる ひつじ みんな なかよく やっていました ここは みんなの どうぶつ園 そこへ あるとき きみょうなものが やってきました ――いったい何だ あの鼻は。 ――なんでも ぞう とかいうらしい。 みんなで 目くばせ してました「ぞうさん ぞうさん おはなが ながいのね」「そうよ かあさんも ながいのよ」 ――憎たらしいわね あのこぞう。「ぞうさん ぞうさん だあれが すきなあの」「あのね かあさんが すきなのよ」 ここは みんなの どうぶつ園 みんな なかよく やっていました くじゃく いのしし さる ひつじ たぬきに きつねに なまけもの……むかし むかしの おはなしです。ぞうは どうしているでしょうどうぶつ園の 柵のうちきょうも あなたのいる町で。----------------以前の日記にあんなことを書いておきながら、すっかり忘れておりました。遅ればせながらここに公開します。「ぞうさん」の詩人とは、もちろんまど・みちおさんのことです。ではでは。まど・みちお詩集
2009.04.25
朝、目が覚めると、男の体は消えていた。魂だけはあったから、甲冑の中に隠れて、妻が二階から降りてくるのを食卓で待った。彼女は驚いた。しかしいつもの冗談だと思って受け流した。真相を知ったときは泣き崩れたが、夫への愛情はいささかも変わらなかった。甲冑の男もまた妻の愛に応えた。甲冑の男とその妻は、屋敷の中のみならず、近隣一帯の有名人になった。歳月が過ぎ、尽くし尽くされた夫婦にも別れのときがきた。妻のなきがらの前で、男は手紙を遺した。「私は永い旅に出る。甲冑は妻の墓のそばに立てておいてほしい」だから、彼女の墓のそばには、今でも錆びくれた真鍮の甲冑がじっと立っている。…
2009.03.22
僕はとても仲のいい老夫婦を知っていた。毎日二人して手をつないで川沿いの並木道を散歩している姿を、夕暮れ時になるとよく見かけたものだ。その頃僕はラブラドールのラブと一緒に暮らしていた。とても人なつこい雌で、向こうから老夫婦がやってくると必ずおすわりをして一声挨拶する。おかげで僕らはすぐに顔見知りになってしまった。一幅の絵のような二人の名前は、今朝男さんと絹さんといった。今朝男さんはいつもにこにこしている好々爺で、若い頃はさぞや美男子だったろうと思われた。どこかで見たような気もしたけれど、会ったはずはなかった。絹さんはいつも夫の手を引いて歩いていた。蜜柑のような女性だった。田舎には必ず事情通と呼ばれる残酷な人種が棲んでいる。言葉巧みに他人の秘め事をつついてまわり、しかもそれをさも天変地異かこの世の終わりであるかのように大げさにふれまわる真っ黒い烏の類だ。絹さんは何も言わなかったが、僕は知っていた。二人が地元の人間ではないこと、今朝雄さんが昔は名を知られた遊び人だったこと、絹さんが妊娠したと嘘をついて二人して駆け落ち同然に結婚したこと、真相を知った今朝雄さんが激怒しながらそれでも別れなかったこと、女遊びは一向にやまなかったこと、死産の後とうとう子どもが生まれなかったこと、そしてつい最近今朝雄さんが心筋梗塞と脳卒中を同時に起こし、奇跡的に一命は取り留めたものの、それから認知症になってしまったらしいことなど、多少の尾ひれはついていたろうが、通りがかりに聞くともなしに聞いていた。それでも僕はそんなことはおくびにも出さず、ラブと立ちどまっては絹さんと世間話に興じるのが常だった。女の人の気持ちは、正直言ってこの歳になっても僕にはよくわからない。わからないせいか、いまだに独り身である。絹さんはよっぽど今朝雄さんを愛していたのだろうか。それとも嘘をついた罪悪感に縛られつづけていたのだろうか。あるいはその両方だったのかもしれないが、しかしいかにも古風だ。自分には到底ついていけない…そう思っていた。二三日二人を見かけない日が続いたある日曜日のことだった。寝ぼけ眼で朝刊をゆっくりめくっていると、こんな見出しが目に飛び込んできた。「老婦人、後追い自殺か」。ベタ記事だったが、読むと間違いない、あの老夫婦のことである。どうやら今朝雄さんは畳の上で眠るように逝ったようで、朝になって冷たくなっているのに気がついた絹さんが、救急車も呼ばずに首をくくったものらしい。布団のそばにはきちんと折りたたまれた遺書があったという。考え込んでいると、玄関の戸をどんどんと叩く音がした。どうせ宗教の勧誘かなんかだろうと魚眼レンズ越しに覗いてみると、満月のようにまんまるに太った初老の女性である。ただその顔立ちが絹さんに似ていたので、僕はいつのまにか扉を開けていた。絹さんの妹だと自己紹介したその人は、宛名が僕になっている故人からの手紙を預かってきたのだという。遺書だから本当は軽軽しく封を切ってはいけないのだけれど、好奇心に負けて開けてしまいましたの、ごめんなさいね、などとつんざくような甲高い声でまくしたてる。どうやらここに持ってきたのは、遺産に何の関係もなかったかららしい。引きとめてお茶をすすめる気にもならず、僕は早々に山のような後姿を見送った。手紙は和紙に墨でくろぐろと書かれていた。始めはしっかりした楷書だったが、だんだん行書のようになり、終わりの方は草書とも言えないような字体で判読するのに骨が折れた。ともかくも最後まで読み終えた後、僕は深く嘆息して天を仰いだ。「登さん。宅の生前はいろいろありがとうございました。ご近所では、登さんだけが、私たち夫婦を変な目で見ないでくださいましたね。事情はご存知でしたろうに、何も聞かずに屈託なくおつきあいいただきまして、本当に感謝しております。けれども若さは隠せないものでございますね。口は平静をよそおっていても、目は時々もの問いたげにしておりましたことよ。ようございます、今朝雄さんの若い頃に面差しの似たあなたにお話するのも、また一興でありましょう。別にたいした秘密はありませんの。私は今朝雄さんをたいそう愛しておりました。またたいそう憎んでもおりました。それがなぜだが、登さん、今更私がお話しなくても、とうにご存知のことと思います。私は今朝雄さんを独占したかった。独占しようとしてできなかった(このあたりから少し字が震えてきた)。けれどあの人は脳卒中になって、私の元に帰ってきたのでございます。正直言って私はやったと思いました。これであの人に復讐ができる、じわりじわりと真綿で首を絞めるようにあの人の命を毎日少しずつ奪うことができると思いました。けれども私にはとうとう、できませんでした。それがなぜだか、なぜだが私にもよくわかりません。こうして冷たくなった今朝男さんの前に正座していても、何も答えは返ってはきません。けれど私は思うのです。思ってしまうのです。この人は私と知っていて毎朝目が覚めるたびに言ったのでしょうか、それともたまたま目の前にいた女性だったから私にこう言ったのでしょうか。『すみませんがそこのお方、わしとつきあってはいただけませんかな?』と」
2009.02.01
昼間死んだように眠っていて夜になるとあざやかに蠢きだすそんな街があったひる日中残暑はまぶしくまたきびしいひとっ子一人 犬一匹すらいないそんな街をひとり 自転車で駆けてゆくふと目の前にどこからあらわれたのかロールシャッハから抜け出てきたような巨大な昆虫が飛び出してきた蛾だ蛾の鱗粉が飛び散りその蚊のような口先がふところの血を吸おうとしたので借りてきたばかりの本の角口で二重丸の目ん玉を叩き落し僕は一目散に逃げ帰ってきた
2008.09.19
ほかに いったいどういう言葉であらわすことができるだろうほかの子ども達と同じように教室で学び 友達と語らうきみたちのたまたま「先生」と呼ばれているだけのこのぼくの気持ちを高校生のようで 小学生のようで 小学生のようで でもやっぱり高校生のきみたちに日々 教えられ 支えられてどうにかこうにかやっているこのふがいない中年男をそれでも「先生」と呼んでくれるきみたちにきみたちのいないところで「ありがとう」手を合わせるよりほかに いったい どういう言葉であらわすことができるだろうこのぼくのいまの気持ちを。
2008.04.24
師走の夕方会社帰りのサラリーマンでいっぱいの街中をランドセル背負った体の不自由な子がたった一人で家路に向かっていた。この辺で この時間よく見かける顔だ。いつも一人でこの道をあるいているあの子だ。この辺りに特別支援学校はない。近くの小学校に通っている特別支援学級の子どもだろうか。――こんにちは。――ボク、一人? えらいねえ。――いつもこの道を通っているの?たずねかけるのはやめにした。ボク、なんてなれなれしいし失礼だ。キミ、でもネエ、でも同じこと。だいいち それじゃあまるっきり変質者じゃあないか。だからたずねるのはやめにした。師走の暮れは早い。すっかり暗くなった歩道を自転車でとばしながら僕はみちみちあの子の姿を思い浮かべていた。マリリン・モンローのように腰をふり脳卒中後のリハビリのおじいさんの歩行訓練のように片方の足をエビ反らせながら晴の日も雨の日も雪の日も今までもこれからもあの子はいつも一人で学校に行きいつも一人でお母さんの待つお家に帰っていくのだろうか。家に着いた頃は真っ暗だった。
2007.12.06
母親「そうだったねえ。ええい、しかたない。これもクリスマスの余興だ。つきあってやるとするか。(ドアを開ける)どうぞ―」サンタ・ルドルフ・医者「♪わたしからあなたへ とどけようこの医者を広い世界にたった一人の わたしの好きなあなたへ♪」クララ「♪ありがとうおじいさん お医者さまもありがとうだれも治せませんと さじをなげられたお家へ♪」医者「(手をとって診ながら)どれどれ、ふうむ。これは筋肉が骨に変わっていく奇病ですね。難しい病いですが、原理は簡単です。間違って骨になった筋肉をもとにもどしてあげればいいんです」母親「あきれた! 何たわごと言ってんだろうねこのご仁は。そんな『簡単』なことができないから難病なんじゃないか」医者「(母親を無視して)クララ、信じられないかもしれないが、私は、きみを治すためにはるばる遠いところからやってきたんだよ」母親「(観客の正面を向いてあざけるように)せいぜい、10分のところからね」医者「さあ、クララ、私を信じて。このお薬を飲んでごらん。(と水筒と粉薬をとりだす。水筒のフタをコップ代わりにして粉薬を溶かしてさしだす。粉末ジュース等で可)」母親「そんなもの飲んじゃだめよ、クララ!」(飛びだして行こうとするがルドルフがやさしく押さえてとめている)クララ「大丈夫よ、お母さま。なぜだかわからないけれど、この人たちが嘘を言っているんじゃないって信じられるの。わたし、飲んでみる」(飲む)母親「クララ!」雷に撃たれたように、ベッドにたおれるクララ。母親「(ルドルフの手を振りほどきベッドのそばに行く。ふり向くと)人殺し! おまえたちみんな人殺しだ!(一人ずつ指さし)おまえも、おまえも、おまえもだ! 貧乏人だからってなめんじゃないよ! 出るとこ出ていってカタをつけてやるから! 覚悟しな!」クララ「その必要はないわ、お母さま」母親「クララ! おまえ、生きていたのかい」(へたへたとすわりこむ)クララ「それだけじゃないわ。ほら。(と起きあがる)足も軽いの。なんだか杖なしで立てそうだわ。(ベッドからおりて立つ)ほら、できた!」一同「クララが立った! クララが立った! クララが立った!」(驚き、喜び、満足などそれぞれの感情が微妙に違うので役によって使いわけるのがのぞましい)医者「さあ…こわがらないで、クララ。ゆっくり歩いてごらん、痛くないから」クララ「本当に? …あら、本当にわたし普通に歩けるわ! 普通に歩けるわ! こんなのって何年ぶりかしら…(はげしく両手で握手)先生ありがとう、トナカイさんありがとう、おじいさんもありがとう! 本当に、本当にサンタクロースさんだったのね?」サンタ「そうじゃとも――ひどいなあ、信じていなかったのかね?」(笑う。つられて一同も笑いだす)ルドルフ「サンタクロース様、よかったですね、今度のことは」サンタ「なあに、毎度のことじゃ。いつもどこかでやっているよ、新入り君。それより、おまえさんがかわいいクララのために勇気を出してくれたことの方がわしはうれしいね」ルドルフ、苦笑い。それをみて一同笑う。BGMに「サンタが街にやってきた」が流れ、全員で合唱しながら幕がおりる。
2007.11.17
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サンタ「そうかい、それは…」母親「(みなまで言わせず)さあさあ、もう気がすんだだろう、おまえさんたち。何にもできやしないんなら、さっさと出ていっておくれ。あたしたちは見世物じゃないんだからね。(ほうきをふりあげて)さあ、早く!」ルドルフ「(サンタの背中をつつきながら)サンタ様、ちょっと」サンタ「なんじゃ?」ルドルフ「ちょっとこちらへ…」(ベッドから離れてドアのそばにつれていく)暗転。このとき、舞台上でサンタとトナカイだけがスポットライトを浴びている状態。ルドルフ「サンタ様って、おいくつでしたっけ」サンタ「だしぬけに何を言っておる。さよう、かれこれ2千年近くになるが、年中こども達のプレゼントの材料を手に入れたり運んだりして時間と空間を光の速さ以上で飛びまわっておるから、もう長いことほとんど年をとっとらんな」ルドルフ「それです! それですよサンタ様。時間と空間を飛びこえるんです。今はだめでも、未来からお医者さまをつれてくるんですよ!」サンタ「なるほど、それはいい考えじゃ。しかしのう…」ルドルフ「しかし、何ですか」サンタ「そうなると、わしとおまえさんの二人きりではどうにもならぬ。時間と空間をこえてソリを未来に動かすためには、たくさんのトナカイが必要じゃ。そのなかには、当然、おまえさんをいじめた奴も大勢おろう。…はたして大丈夫かのう?」ルドルフ「大丈夫ですとも! あのかわいいクララちゃんのためなら、たとえ火の中水の中、どこだって行きます、何だってできます!」舞台が明るくなる。母親「ええい、いつまで二人でごちゃごちゃ言ってるの! 役立たずはさっさと出ておいき! 出ておいきったら!」サンタ「事情はよくわかりました。どうぞ、そのほうきをお収めくだされ。とりあえず今は出てゆきますが、すぐもどります。そのときは、必ずお医者さまをつれてきますからの」母親「ふん! おとといおいで!」(二人を追いだしてバタンとドアを閉めると同時に幕)第三幕(サンタクロース、ルドルフ、医者、クララ、母親)先ほどと同じ舞台。幕がまだ下りたままの状態で、舞台右手からサンタとルドルフと医者が登場。サンタ「いいですか、先生。くれぐれも未来からやって来たなんて、この時代の人に言っちゃいけませんぞ。歴史が変わってしまいますからの」医者「わかっていますとも。お芝居には慣れております。心配いりませんよ」幕が上がる。と、左手にさっきと同じ家がある。ルドルフ「(ドアをノックして)トントントン、もどってきましたよ」母親「(鍵穴からのぞきながら)あらまあ、本当にもどってきたよ。まだ10分も経っていないのにさ…おまけに増えてるよ! あれがお医者さまかしら…ご近所じゃ見たこともない顔だけど…新手の詐欺師集団かしらね。どう思う、クララ?」クララ「いいじゃないの、お母さま。どうせ盗られるようなものは何もないんだし」
2007.11.15