『二郎は鮨の夢を見る』
15分で3万円。ぼったくりバーの話だろうか。とんでもない。これは、一流料理店の話なのだ。それも寿司屋。これは、銀座の数寄屋橋地下に店を構える、「すきやばし次郎」の物語である。登場する重鎮の名は、小野二郎。撮影当時85歳の最高齢寿司職人、いや、世界最高齢の三ツ星(それを味わうために旅行する価値がある卓越した料理)シェフだ。真面目で、向上心があり、清潔で、妥協せず、自分のスタイルを持っている。映画によれば9歳の時に寿司屋の道に入って以来、75年間その道を貫いてきた。スタイリッシュである。映画を見れば分かるが、手さばきが、カッコいい。食材の下ごしらえ、包丁さばき、握り…すべてが職人技であり、芸術的だ。夢の中でさえ、寿司のことを考えている。若い職人が「寿司屋ってカッコイイ」と言っていたのもうなずける。最高の寿司には、最高の食材。「すきやばし次郎」を支える築地魚市場のプロの仲買人たち。彼らとの信頼関係あっての名店でもある。懸念は、二代目だと別の名店の店主は言う。いないわけではない。放蕩息子というわけでもない。跡継ぎもいれば、独立させた次男もいる。独立させるときは、「帰ってきても居場所はないよ」と言ったそうだが、それも親心だろう。親父が、偉すぎる。こういう店は、跡継ぎがよほど頑張らないと、つぶれるという。常に先代と比べられるのである。その重圧やいかに。だが心配は杞憂のようだ。ミシュランが三ツ星をつけた時、厨房に立っていたのは長男だったという。子どもは親の背中を見て育つ。映像からは、息子が父を限りなく尊敬している幸福な「父と子」の関係が見て取れる。いや、スタッフ全員が御年85歳の「シェフ」に最大級の敬意を払っている。懸念は別のところにある。乱獲による食材の枯渇だ。昔はなかった回転ずしが普及して、寿司が大衆料理になったことも大きい。「すきやばし次郎」とて、その渦から逃れられる例外ではない。まず二枚貝が獲れなくなった。他の魚も。代替魚はある。だがマグロは?資源管理と環境問題について、現場の立場から語られる言葉には説得力がある。それでも、「すきやばし次郎」は健在だ。御年90歳を超えた今も、バリバリの現役「シェフ」だそうである。二郎は鮨の夢を見る【動画配信】【中古】 二郎は鮨の夢を見る /小野二郎,小野禎一,小野隆士,デヴィッド・ゲルブ(製作、監督、撮影) 【中古】afb